「大都会パート2」のころ

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「大都会パート2」はたしか水曜日の9時からの枠だった。これを見始めたのは親父が見ていたので見ていたからである。たぶんそれがなければみなかったと思う。なにせまだ私は小学5年生くらいで、9時以降はなかなかテレビを自由に見ることができなかったのだ。「大都会パート2」は「太陽にほえろ」と同じ日テレでだったが、「太陽にほえろ」は違う爽快さがあった。銃は撃ち放題、犯人はあくまで悪くて死んでも仕方が無い。撃ったほうも撃たれて死んだほうも、「太陽にほえろ」のときとは全然違ってまったく感傷というものはない。その当時では珍しかった派手なカーチェイス、銃撃戦のシーンがふんだんにもりこまれ、「太陽にほえろ」はホームドラマの要素もあったのに対し、徹底的にアクションを全面にだしたものだった。とにかく徹底的にアクションを追及していたことと、警察をまるで正義感とは別世界においたことは小学生の私にはショッキングで、その後の人間形成に大きな影響を与えたといえる。

「大都会パート2」というからにはもちろん「大都会 闘いの日々」(確か)というのがあった。先に「パート2」を見てから「闘いの日々」の再放送を見たのだが、はっきりいって戸惑った。いつになっても黒岩部長刑事はショットガンも撃たないし、「犯人につながりそうな奴はしらみつぶしにしょっぴけ!」なんて檄もどばさず、石原裕次郎はなんとなくかったるそうにしている。いわゆる社会派ドラマで、アクションというより都会にありそうな人間関係の暗い部分を描いた暗いドラマで、ジメジメしていて見るのがつらかった。どうしてこんなに内容が違うのに同じタイトル使うんだ、と一人前に小学生は怒っていたりした。3回目位の再放送で、さすがに高校生になると「なるほどね、さすが倉本聰、深いね」と感心して、ドラマとして再評価したけど。

ところでここではわれらが松田優作は大学出の刑事の徳吉刑事として、黒岩部長刑事の片腕的な位置にいた。確か舞台は城西署捜査一課で別名黒岩軍団。課長がちゃんといるんだけれど、この人望のない課長のいうことに誰も従わない。「黒岩くん、私の立場は」なんて騒ぐ間抜けな役割だったけど、この課長がいたからこそ黒岩は中間管理職の重圧を渋く演じることになる。軍団には徳吉刑事ことトク、高品格の演じるマルさん、苅谷俊介の弁慶、小野武彦の坊主、その他(峰竜太もいたような)で構成されていて、マルさん除けばどれも刑事らしからぬ輩である。

トクはパーマはかけていないけど、いつもぼさぼさで一応黒岩と同じくスーツを着ている。態度はおおむね横柄で、容疑者、犯人、街のチンピラには手の方が早く出る、といった感じで、話し方もだらだらしていた。途中に「俺たちの勲章」での中野をはさんでいたとはいえ、アニキであったジーパンは変り果ててしまった、と最初のころは気に入らなかった。「俺勲」は火曜か水曜の8時で、いつみても野球やっていたのでほとんどみていなかったので、私の中では松田優作イコールジーパンの図式は強固なものだった。ぺらぺらのスーツ着ているし、黒岩みたいな渋がって人情のないやつとつるんでいるなんて、と最初は思っていた。だけど次第にそれはそれで格好良く見えてきたのは、「探偵物語」でさらにふくらんでゆく松田優作ワールドが随所にみられたからだ。

とにかくトクは無駄口が多くて、飄々とぶつぶつとぼやきとも洒落ともつかないことを言うのである。渋がって多くを口にしない黒岩、いわゆるドラマの台詞しか言わない他のメンバーと違って、トクのぶつぶつといつも見下したようなしらけているような目つきは、明かにドラマのなかで異質だった。。今となっては断片での記憶しかないので、具体的に再現できないが(パート2の再放送はもう10年くらいやっていない)、ジーパンから役者松田優作への興味をかきたてた。

後で知ったことだが、松田優作は「パート2」に出演するのを最初いやがっていたらしい。それを石原裕次郎みずから口説いたらしい。さらに村川透が監督する回もあって、松田優作のアドリブワールドが許される環境ができたようだ。記憶ではトクも車で派手に暴れ回ってたような印象があるけど、実は松田優作自身はそのころ免許もっていなかったということも後で知った。

しかしまっすぐなまま死んでいったジーパンからトクへの変身は、松田優作の人間的な魅力を私にもたらしてくれた。かつての手の届かないすっげーアニキは、チャランポランだけど飄々と自由を謳歌している現実に近いものに変わる、なんとなく大人になる過程のような気がするし、それを受け入れていくのも同じ様な気がする。

1年に1度くらい再放送されていたよう気がするけど、「パート2」は今でこそ隅々まで見たいドラマだ。でもこのドラマ、毎回最後に渡哲也の「ひとり」というムード歌謡みたいなのが流れるんだけど、小学生の私はいたくこの曲が気に入り、学校でも歌ったものである。最近カラオケになっているのを発見し歓喜のむせびながら熱唱して顰蹙を買ったが、やはり渡哲也なので明るい曲ではない。とにかく派手に車壊して、拳銃撃ちまくって、黒岩はショットガン撃ちまくって犯人と決着がつくと、毎回黒岩はしずかに煙草に火をつけ、みんなに背を向けてどこかに歩き始めるのである。そこでイントロが始まって1コーラスが流れる。「向かい裏窓 袋小路 夢を消された他人街 いっそ泣こうか笑おうか 胸のすき間に霧が降る ひとり ひとり 俺もひとり」

派手な本編とはちがう地味な終わりだが、どちらも渡哲也ひとりで仕切って、それも曲が「ひとり」では面白い洒落だ。でもこの曲で終わるところに、「闘いの日々」で黒岩が負った心の傷の深さを想像できて、これで「パート2」なのかとも思った。