「探偵物語」のころ

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「大都会パート2」が終了すると、松田優作は映画に出演することが多くなった。テレビのレギュラーはしばらくなくなって、「最も危険な遊戯」とか「殺人遊戯」のダーティーな感じが強くなった。トクとはまたちがった路線で、これがまた子供にはすぐには受け入れられない世界にいた。ジーパンがあまりにもわかりやすかったので、その後私はずっと頭を悩ませながら、年をとるにつれ「なるほどね」と松田優作についていく繰り返しであった。

なぜかこの11歳のとき、沢田研二と菅原文太主演の「太陽を盗んだ男」を見にいった。このころの沢田研二は最も脂ののった時期で、歌でも芝居でものりまくってたころだ。同時上映が「殺人遊戯」でなんとなく暗い、いわゆる大人の映画で、今思えばデ・ニーロを意識したようなカットもあったのだが、共感するには程遠かった。どれが本当の松田優作なんだろ?、役者としてはすばらしいのだろうけど、しっくりこないときはこないよな、ととんだ検討違いな生意気な感想をもっていた。あっちの世界の人、って感じになった。

それから1年くらいたって始まったのが「探偵物語」である。たしかこれも水曜の9時からだったと思う。番組放送開始前の番組コマーシャルでは、「元はロスで刑事をしていた男が日本で探偵を始めた。アメリカ帰りでの探偵ライセンスももっている。アメリカ市民権ももっているため拳銃も合法的にもっている(?)」などというような内容だった。6年生の自分は、少し期待をもって番組に臨んだ。

でもまたそこは壁だった。松田優作はまた自分の前に課題をだした。軽い調子で、口数が多く、「あたしゃね、午前中と休日は仕事しないの」なんて横柄な態度をとったり、喧嘩に強そうで弱かったり、そうかと思えば仲間には信頼され情が暑く、きちんとしたポリシーをもって仕事をする。正義感をもつ実直なジーパンとも、あくまでいい加減で黒岩のために働くトクでもない、もっと言えば「遊戯」シリーズでもない、あらたな優作ワールドが創造されたのだ。それも松田優作が役者から脚本家、監督までを気心のしれた仲間で固めた、ドラマ自体が優作ワールドだった。これを理解するには私にはさらに4年の月日が必要だったが。

といわけで、初回の放送はほとんど見なかった。10センチの炎を上げるライターや、ベスパとか小道具や、挿入されていたギャグには反応できたがそれが限界だった。ついて行けなかったのである。

しかし私もめげなかった。しぶとい。高校生になったころ、今度はなんと毎週木曜日深夜あたりで再放送が始まった。そのころからだんだんと夜の方が頭がさえるようになってきていたので、もちろん欠かさず見るようになった。いたることろ面白かった。工藤ちゃんの生き方そのものは、ドラマのシリーズのなかで一貫していて、回ごとに都合良く微調整されることがなかった。丁寧に作られていたというより、作っている側の一体感が伝わってくるつくりだった。工藤ちゃんをやりたっかたんだろうな、と思えるほど松田優作の芝居というかこのドラマでの存在感というのは大きかった。ここにきて「探偵工藤」としての松田優作は、私の心のなかでのジーパンとならぶ憧れの対象となった。いや松田優作イコール工藤俊作となった。

というわけで、それ以来「探偵物語」は私の生涯のなかで最も重要なテレビドラマの一つとなり、いまでも見返すたびに新たな発見があって面白い。探偵物語は最近でも写真集やCD-ROMになったりして、人気は衰えていないようです。LDも再発されたようだ。まがいなりにも映画が好きで、芝居が好きで、なんていったりする大人になった私のベストの俳優の一人は松田優作である。それは優作のパフォーマンスももちろんだが、「探偵物語」で描かれていた優作の世界、そこにちりばめられたユーモアのセンス、そして映画、芝居への深い愛情がかいま見られたからだ。

「大都会パート2」からさらにスピードアップされたアドリブは、もちろん笑いもあったが、映画批評、役者批評などももりこみ、知れば知るほど笑えた。また映画のかっこいいシーンなどいれてみたり、松田優作自身が内幕をバラしながら予告編を読み上げるなど、松田優作の工夫が随所に盛り込まれている。

またゲストも多種多彩で、岸田森の回や石橋連司の回などは、優作とのからみは本当に面白い。清水健太郎、ジョー山中、岩城晃一、古尾耶正人、熊谷美由紀、根本季衣、ハナ肇、風間杜夫、今みるから笑えるというのもあるけれど、演技として優作との組かたには興味深い。

レギュラーでも成田美樹夫が、賄賂に弱く弱いもの苛めをしたがる刑事をさらりとやっているのもこのドラマの魅力の一つだ。工藤とこの服部刑事のやりとりも、優作と成田の関係を考えれば、おもしろい。

いちいち取り上げているとたいへんなので「探偵物語」の詳細な紹介については、ページをあらためてます。乞うご期待。

松田優作はこの「探偵物語」以降、アクションものから次第に演技を中心とした映画にその活躍の場を移して行く。そこには工藤ちゃんの世界はなく、映画という一本のプロットのなかでストーリー全体をいかに完成させるか、という視点からの演技になったような気がする。いわゆる遊びがなくなった。そのような意味においても、松田優作の短い役者人生のなかで、一つの絶頂を究めたのが「探偵物語」である。同時に優作にとどまらず日本のテレビドラマシーンにおいても一つの区切りになった。これ以降、学園もの、不倫もの、トレンディードラマ、と13回くらいで終わるものが多くなり、ドラマのなかにヒーローは必要となくなってゆく。「必殺」を除けば、どれも軽い役者が短期間で予定調和の様に話しをまとめてゆくものが多くなった。

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