引力圏★清水鱗造

引力圏
清水鱗造



(註:僕の朗読しているところの写真が撮れませんでしたので、ウチの犬の写真を入れておきます。いつか朗読しているところの写真が撮れましたら入れ替えます。)


朝の街路
カメラがふらふら傾くと
異国がある

そこでは枯れることが
すなわち実ることだった
簡単に越境できる
目の異国へ

骨という原点から
放射状に出る街
それが回収されるまでの
時効までの期日を
散策する

ガラスの破片が縞のように
道を覆い
素足で歩く人は
血を流している
ドール
日々のドール

骨の光はその先までいかない
確かなのは
「日々の」の淵にいくつかの魚影が認められることだ
「ドール」は単なる趣味の映像かもしれない
散策するのは
「ドール」

火事のなかで生きたらどうか
火事が日々である異国が在るのを
だれでも知っているが
手練れの人は
骨の回収地点を気にしない

僕のなかにも異国がある
それは空の一角に箱になって浮いている
複雑な形の耳郭から
針になって頭蓋に入り
生きたり聴いたりできる
越境によって
時効がほどけてくる
「ドール」は異国にいる

樹脂のように時が精製される部分から
「マリー」の星から
強い「日々」への引力が働く
マリー
その引力圏

箱形の異国が
街をゆく人の右前方に浮かび
異国の右前方に
異国の
異国


ほかに読んだ2編へのリンクです。
正方形の街(1997.4.1)
水面から ガラスの鯉のくち(1997.7.8)

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