メン喰い事始

メン喰い事始



 外食を初めてするようになったとき、世の中にこんなにうまいものがあるのかと目を瞠ったのが、学校の立つ坂の下にあったメンテン(われわれはそう言っていた)のパーコーメンだ。今でこそ、排骨麺と表記する豚ロースの空揚げを載せたラーメンはファミリーレストランなどのメニューにもあるようだが、当時の金で百八十円出せばこれだけの肉が食えるというのがなんとも斬新で心から嬉しい気がした。ちなみに、脂身だらけの豚バラ肉を使った生姜焼き定食がこのとき百八十円で、ハイライトが八十円、いちばん安いウイスキーのオーシャン・ホワイトが三百二十円の時代である。次に先輩から教えてもらったのが渋谷のミンミンのジャージャーメンで、これは今のミンミンではなく、井の頭線のガードを隔てたところにあった、焼け跡時代から続いているような違法建築っぽいビル(?)にあった店のほうで、たしか百五十円くらいだったと記憶するが、その鹹水の瘴気がむせ返るような麺と、ゆでたニラとモヤシ、そこにかかった肉味噌の高貴とも下卑たとも形容しがたい匂いが、全精神が胃袋であるような高校生の食欲をあおり立てた。砂糖っ気の微塵もないこの肉味噌の味は、今では西神田の北京亭ぐらいでしか偲ぶことができない。


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