町田のグラッパ

町田のグラッパ



 ローマへ行っていちばん印象的なのは、壮麗な遺跡とともに口腹に関することへの毎日が祝祭のような独特のセンスだ。立ち飲みのエスプレッソからはじまって、岩塩で締めてある生ハムやサラミを挟んだパニーニというスナック、そこらじゅうにあるピッツェリアに群がる人々、昼めしやディナーで大量に消費されるワイン……と、数え上げればきりがないが、なかでも極め付きは大食のあとのグラッパだろう。ありていに言えば、葡萄から造った焼酎にほかならないが、これが胃袋を燃やして消化を助ける役割を負っているという。きわめて個性的な芳香を持つこの酒は、しかしローマの下町やタクシーのなかに残留していた「芳香」から察するに、たんに消化を促すためだけのものとは思われない。
 旅行から帰って、小田急線町田駅近くのケトバシ屋に入って昼酒を酌んでいると女房が妙な顔をする。「これ、グラッパみたい」とつぶやいた酒は一杯百五十円の泡盛だった。

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