ひと開き

ひと開き
阿ト理恵


女根の在庫がなくなり借りていたわたしは
女を破産宣告したが 
男になったわけではなく
すくなくとも見ためは女なので 
声を轢きながら 
中央自動車道下り笹子トンネルを抜けると
ピンクだらけな1997年4月12日

自分自身を溶かして飛んでゆくヘールボップ律義に輝く星をいくつも巻き込んで
エンディングへ向かって迷うことなく
まっすぐなその姿は眩しすぎて

固い肉に魅かれるので 
ももの肉は嫌いで

眠っている場合だったりしても 
ほっとけばやわらかくなるものではなく

標準バージョンでは型紙どおりゆえ
わたしを満たすことはできず

どこへ繋がってゆけばいいのやら 
繋がってはいけないのやら 
空気も引いて 
車は止まらないし 
泊まるわけにはゆかず

補助席に座ってばかりいたあなたは
直立心ゆえなのか
影響されやすく
わたしが好きだというから
ポール・ウェラーとポール・ボウルズが
好きになって
好きになるってそんなもので

みずをおくるように
排水溝にことばを流し
ひっかかってたまってつまって
いるものといらないものをわけることは
できないから
つまるばかりで
癌だと思ったら便だったなんて
運と度胸は確かで
月経血を栄養に育った植物は
明日どんな実を結ぶのでしょうか

浴心
あなたを開き
わたしを開き
わたしの肉はこっそり軽固くなってゆき 
いちじるしく垂直 
紙の上でのヒステリーは
肉市場に売るしかなく 
わたしとあなたの境界
わたしのなかの男と女
ひと開きしつつさまよいゆくのです

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