街のカラス(1997.2.17)

街のカラス(1997.2.17)
清水鱗造


 僕の部屋からは、屋根がいくつか続き、電柱、マンションの水道塔などが見えて、その向こうに空が広がる。だいたい空は3分の2ほど。昼間、時たま10羽前後のカラスが電柱や水道塔のあたりにとまり、激しく鳴くことがある。
 もともと僕はカラスが好きである。ベランダに出て眺めていると、数羽ずつ電柱から屋根へ、屋根から水道塔へ、というふうに鳴きながら移動する。もちろん、カラスはこちらを見ている。警戒しているのでもなく、「なにしてるんだよう」というようなのんびりした鳴き方をしている。
 ある日、僕は写真を撮ろうと思いたった。カラスが来るのは気まぐれだから、カメラを机の上に用意しておいた。先日チャンスが訪れた。さっそくカメラを持って、ベランダに出る。僕の1眼レフカメラはあまり望遠ができない。水道塔にとまる1羽にレンズを向けた。すると、カラスはぱっと逃げた。1羽ずつレンズを向けるたびに、あれほど警戒していなかったカラスが、すべて逃げていく。ついに撮影できなかった。
 朝、犬と散歩していると、ゴミの袋を破ってついばんでいるカラスにもよく出くわす。ゴミを集める人にはさぞ迷惑だろうが、僕はいつも呼びかけてみる。「変な人がきた」という感じで、2、3羽のカラスは、塀の上に並ぶ。
 カラスは凶々しい鳥だろうか? 僕はそうは思わない。幼いころ散弾銃で撃たれたカラスを見たことがある。猟者が戯れに撃ったにちがいない。カラスは僕の手の中で、冷たく黒く、柔らかく首を垂れた。
 いまだにカメラにカラスを納める試みをやめようと思っているわけではない。デジタルカメラはシャッター音がしないし、何よりも隠し撮りが簡単にできる。実は電車の中で女子高生のルーズソックスを撮ったことがある。まだ、望みがある。

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