Tatuya Ishii Concert Tour 2002
"NYLON CLUB" -Live Report-
舞台左右からダンサーの2人が酒瓶を手によろよろと登場、上手のHIDEBOHは黄色いTシャツの上に黒の革ジャン、ニッカポッカを思わせる幅広のズボン、アタマには黒い革のキャップをかぶり、足はコンビのタップシューズを履いている。下手のSUJIは黒い革製のテンガロンハットに黄色Tシャツ&黒革ジャン、スリムなブラックジーンズにタップシューズ、それも白いシューカバーつき、とすこぶるおしゃれ。
この2人が繰り広げるのはタップ&ラップのパフォーマンス。音楽に合わせてまずは小手試し。吹きまくるアルトサックスを「シー」と制して今度はソロパートへ。8拍ずつのソロダンスに客席から歓声があがる。
ラップに戻り今度はツインでのタップ。ツインで踊っているのにリズムがぶれないのがすごい。刻まれ続ける16ビートに客席からはやんやの歓声と拍手が上がる!
またもとの酔っぱらいに戻っておのおの退場。
暗転後ゆっくりと明かりの戻ってくるステージ、『蒲田行進曲』にのって階段上に登場ずる佐々木フランチェスカ、彼のナレーションが始まる。
ここは愛原探偵事務所。秘書の大我巻千鶴子が今朝も掃除をしている。(忘れました。すんまへん)
(この間、ステージにはテーブルと椅子が運び込まれる。テーブル上には黒電話、ガラスの一輪挿し、スポーツ新聞が載っている。神戸ではそのほかにイガグリがのっていた)
千鶴子:(コーラスの清水美恵さん、真っ赤なドレスの上にエプロン姿。モップを持って掃除中。背を伸ばして)あー、肩凝った。…二の腕、下腹、目の下のしわ。年はとりたくないわ。そうそう、チューリップ!(とエプロンのポケットからチューリップを一輪取り出す)あ、こんなところに花瓶が。とんとん、花瓶さん花瓶さん、はいはいどなたです。チューリップです。花瓶さん入ってもいいですか? いいですよ。ありがとう(と一輪挿しにチューリップを挿す)。
ケンシロウ(以下ケン):(ダンサーのHIDEBOH、下手から登場)いやぁまいっちゃった、すっげぇ事故でよ。脳みそなんかぱーっと飛び散っちゃって…車が動かない動かない…
(羽生ではタップなしだったが、国際フォーラムでは登場の際、タップが入ることに。それ以降、このタップのシーンはどんどん長くなっていった)
千鶴子:ケンシロウ、あんた毎日毎日事故に遭ってるんじゃないの。噂じゃ横断歩道でタップ踏んでるって言うじゃない。だいたいあんたがこの事務所に来てから3ヶ月、まともに来たのは初日の1回だけじゃないの。毎日毎日遅刻ばーっかりして。
ケン:暴走族の集会には遅刻したことないんだけどなぁ。
千鶴子:たいした肩書きだわねぇ。
ケン:そうかなぁ(照れる)。
千鶴子:あんた、長生きするよ。
ケン:そうかな。おれ、胃腸が丈夫だからなぁ。ところでアニキは?
千鶴子:まだに決まってんでしょ。『スターは昼前に起きねぇ』をかたくなに守っている人よ。来てるわけないじゃない。
ケン:ねぇ、このことはアニキには内緒にしといてくれよ。
千鶴子:やだね。
ケン:千鶴子ねぇさん、きれいだなぁ。二の腕とかぴっちぴちして…(よそ見をしながら言う)
千鶴子:ケンちゃん、どこ向いて言ってるのよ!(神戸では「誰が上沼恵美子よ」だった)
ケン:そういえばアニキ、昨日落ち込んでたなぁ。
千鶴子:なによ。
ケン:だって毎日毎日浮気調査の仕事ばっかりで、昨日だってラブホテルに潜入してさ。お掃除のおばちゃんに化けて、スケベイス200個も洗わされてさぁ。たまんないよまったく。
千鶴子:いいのよそれで。地味にやっていくのが一番いいの。
ケン;アニキのの口癖知ってんだろ?
千鶴子:『世界規模の仕事がしてぇ』…なぁにが世界規模の仕事よ。だったらこんな事務所やらなきゃいいのよ。ケンちゃん、あんたねぇ、私がこの事務所に来る前、何してるか知ってる? 駅前でティッシュ配ってから来てんのよ。
ケン:アニキはさぁ、こう『ロマン』があるよなぁ。『男のロマン』っていうかさぁ。
千鶴子:食えないね。
ケン:え?
千鶴子:ロマンじゃ飯は食えない、っつってんの。それだったらマロンでも買ってきて栗ご飯でも炊いて私にごちそうしろ、っつーの。
ケン:ねぇさんうまいこと言うね。ロマンでマロンで栗ご飯か。ロマンでマロンで栗ご飯…
ジョー:(ステージ中央に登場。白のタキシード姿で手にはゴールドのスケベイス。バックミュージックに合わせてスケベイスをぐるぐる回して踊る。♪チャララララッ、チャーン、でキメ) (階段を降りてきながら)世界規模の仕事がしてぇ。なんだよなんだよなんだよ。しけたツラしやがってよぉ…。おぅ千鶴子、おまえ駅前でティッシュ配ってんだって? やめろよ、おめぇ、給料払ってんだからよぉ。
千鶴子:ボス、その格好…
ジョー:これか?いいだろう。
ケン:ウルトラセブンみたいっすね。
ジョー:それを言うなら007だろう! ったくよぉ、007も知らねぇ助手使ってんだもんなぁ。
千鶴子:あのぉ、もう少し地味な格好をしたほうが…探偵さんなんですから。
ジョー:おまえに言われたかねぇよ。なんだよ、派手なドレスの上に割烹着着やがって。今日のポイントはよ、この『西洋腹巻』よ。
千鶴子:うふ、ボス、それは『カマーベルト』っていうんですよ。
ジョー:だれがオカマだよ。まったくよぉ、しけた仕事ばっかりでたまんねぇな。スケベイス200個洗ったギャラがこれか(金のスケベイスを持ち上げる)、ってらんぇよ、まったく。俺はこれからでっかい仕事しかしねぇからな。(椅子に座って)今日はたまちゃんどこかなぁ?
(電話が鳴る)
ジョー:おぅ千鶴子、出ろ。ちっちぇ仕事だったら断れよ。
千鶴子:はい、ワールドワイドに活躍する愛原探偵事務所…はい、人捜し(ジョー:断れ断れ)…はい、神妙寺貿易?(ジョー:聞き耳を立てる)…神妙寺ゆりえ24歳!…いえ、私と同い年だったもので…
ジョー:代われよ!(受話器をもぎ取る)はい、代わりました。薔薇拳のジョーこと愛原ジョーでございます。はい、お嬢様が、は、誘拐?…は、トルコで。いや、私も好きでして。え?そのトルコじゃない、国のトルコ。はい、お任せください。ワタクシ膨張率15センチ、テクニックは抜群でございますから。ではお嬢さんの特徴を…は、乳首の横にほくろ。それは見えませんからなにか別の、うーん、ではスリーサイズを。はい、上から87−57−90!請けました、請けました。…ええ、それはみずほ銀行の方にお願いします。はい、それでは。(受話器を置く)
ケン:アニキ、どんな依頼だったんすか。
ジョー:(ケンに)おまえ、神妙寺貿易って知ってるか?
ケン:うん(うなずく)
ジョー:あの有名な神妙寺貿易の社長・神妙寺コウジロウの一人娘ゆりえ、俺たちみゆき族のあいだじゃリリーってあだ名なんだが、こいつがいい女なんだ。そのリリーがよ、トルコに旅行して誘拐されたってんだ。誘拐された先が外国だ。日本の警察じゃ手が出せねぇ。それでこの(ポーズ)愛原ジョーにおはちが回ってきたってわけだ。
ケン:アニキ、すげぇ。
ジョー:俺はこれから早速トルコへ飛ぶ。そんで聞き込みを開始する。2,3人に聞きゃあ十分だ。わかっちまうんだな、俺は頭がいいからよ。港に接岸しているタンカー、この中にリリーが捕らわれてるんだな。右手に拳銃を持って俺は潜入する(アクション)。ふつうならびびってこんなふう(へっぴり腰でおしっこちびったみたいな歩き方)になっちまうが、俺は違う。こうやって(ふんぞり返って歩く)堂々と入っていくんだ。ドアなんか蹴っぽって開けてよ。
ジョー:そんで船底に着く。向こうに小さなドアがある。俺はノブを回す。「カチャカチャ(回す振り)」開かねぇんだ。ってことはそこにいるってことだ。でも鍵がない。俺はポケットから鍵を出す。俺のアパートの鍵だ。この鍵とこの鍵は違うだろ? 開くはずがない。ところが「カチャ(回す振り)」開いちゃうんだ。向こうはいいかげんだからよ。俺はドアを開ける、そこにいるのは誰だ!
ケン:アニキです。
ジョー:(向こう側へ行ってひざまずき)ほっちぃほっちぃ…って違うだろ!なんで俺がここにいなきゃいけねぇんだよ。そこにいるのはリリーだろ。
(ここはその後各地でご当地ネタを盛り込みながら変遷した)
ジョー:(リリーの場所で)あなたはどなた? (戻ってきてケンに)ここでスポットライトがパーンと俺にあたるんだ。探偵・愛原ジョーです。お父様に言われてあなたを助けに来ました。お嬢さん、速く逃げましょう。っつって俺はリリーの縄を解く。これが白魚のようなきれいな指なんだ。そうすんとドアの向こうに悪漢が3人やってくる(ケン、悪漢役)。パンパンパーン、おれはすぐ撃っちゃうんだ、なんせ手が早えぇからよ。そうしてリリーを連れて日本へ帰ってくる。
ジョー:日本に帰るってぇとご帰還パーティだ。唐松だかトド松だかチョロ松だかがいーっぱい生えてるでっけぇ庭でよ。池には錦鯉やらサンシキ鯉やらヨンシキ鯉やらぽんぽん泳いでてよ、それを捕まえて刺身にして食っちゃうんだ。そんで高っけぇシャンパンかなんか抜いて乾杯よ。これが来てるヤツらもすげぇんだ。医者だろ?弁護士だろ?(指を折る)政治家だろ?…医者だろ?…内科医だろ?…外科医だろ?…小児科医だろ…とにかくすげぇ、そうそうたるメンバーだ。その中で探偵の俺がいるってわけだ。
ジョー:そこへリリーの父親・神妙寺コウジロウが現れる。(ケンに)おまえが俺で、俺が神妙寺コウジロウだ。(手を差し出す)君が愛原ジョー君だね(ケン:はい)。娘を頼む。…わかるか?娘を頼む、ってことは娘と結婚してくれってこった。ここでご帰還パーティが一転婚約パーティになるってわけだ。紅白の幕がばーんと下りてきてよ、俺とリリーの結婚がきまるんだ。…こりゃあ運が向いてきやがったぜ。おい千鶴子、火打ち石(しうちいし、と発音)
千鶴子:はいよ(カチカチッ)
ジョー:これがないと締まらなくていけねぇや。おっと、いい男にはやっぱ彩りってもんがねぇとな。胸に薔薇かなんかあるといいんだがな。薔薇はと、お、いいところに薔薇があった(と花瓶のチューリップを胸に挿す)。スポットライトがパーン、胸の薔薇にあたる。お嬢さん、ってぇと女はみんなよろめくっ…。
千鶴子:ボス、ボス。それは薔薇じゃありません。チューリップです。
ジョー:え?薔薇じゃねぇのか、なーんだ。こんなもん(と床に投げつける。効果音:バーン)。
千鶴子:(ショックを受け、よろめく)
ジョー:(千鶴子の様子に気づかず)よし、ケンシロウ、行くぞ。
ケン:お供します。トルコだってどこだって。
ジョー:ばかやろう、おまえは下のバス停までだよ。
ケン:やっぱりなぁ。
(2人下手へ去る)
(佐々木フランチェスカ、上手に登場)
ナレーション:女は男を待っていた。男はそれに気づかなかった。女の心情を切々と歌います。米米CLUBの名曲【迷路'97】
イントロ中にエプロンをはずし準備をする千鶴子、もとい美恵ねぇさん。ちょっとドスの利いた感じの歌い方、せり上がる声、本家カールスモーキー石井もたじたじの熱唱に会場内はヒューヒューコールが巻き起こる。間奏部分では台詞
「これはチューリップ、薔薇じゃないのよ。…こんないい女がお側にいるのに、なんで気づいてくれないの。ジョーのばかぁ!」も入り、やんやの喝采が渦巻く。
後半♪Wow Farawayを歌いながら階段を上がり踊り場へ。4回目の♪Wow、を歌ったところで、「私、これで職場に戻らせていただきます」とお辞儀、コーラスブースへ戻って最後の♪Faraway〜。消えてゆく歌声にシンクロしてすぼまってゆくスポットライトの残光は千鶴子の手にしたチューリップに向けられていた。