Tatuya Ishii Concert Tour 2002

"NYLON CLUB" -Live Report-

 
PART 1

 

 石井竜也のツアーは開演前から楽しみがある。会場に入った瞬間からその世界に浸らせる、ということなのだろう、ツアーごとにBGMが違うのだ。今回はなんと『笠置シヅ子ベストヒット』。戦後、一世を風靡した歌手だけに出るわ出るわ、知っている曲知らない曲がどんどん流れてくる。あの「わて、ほんまによぅいわんわ」というフレーズで超・有名な『買い物ブギ』なども流れて、場内はなんとなく昭和20年代の雰囲気に。

 今回は緞帳も凝っていて、白い布の幕に、縦縞様に透明のビニール(ナイロンのイメージ?)が被さっている意匠である。白地のところに黒のロゴでNYLON CLUB、下にTATUYA SHII CONCERT TOUR 2002とある。
 開演近くなると、深紅や黒、薔薇模様などのドレスに身を包んだ淑女方や、「それ、どこで買ったの?」と聞きたくなるような赤や白のスーツ&タキシード姿の紳士方も席に着き、いよいよグランドキャバレー『NYLON CLUB』が開店する!

 リズムは6/8、ちょっと重たいブルージーなジャズサウンドをバックに、遮幕に影絵が映し出される。左側にはバンドの影、ダブルベース、サックス、トランペットらしい姿も見える。中央には何人もの人影が重なったというか扇形に開いた形というか、そういうオブジェの影が見える。

 そしてその前には「3等身の」人物がリズムをとっている。頭部が異様に大きく丸っこい体つきで、でっかいアタマの横っちょに帽子がへばりついている。なんだか三匹の子豚ブーブーウーを思い出させるシルエットだ。この人物、なにやら英語でしゃべっている(川平慈英の声)。どうやらここナイロンクラブの説明をしているらしい。リズムにのって大きくなったり小さくなったりするその影を見ていると、いやがうえにも期待が増していく。
 キメのファンファーレとともに幕が開くと、燕尾服姿のかわいい(?)お面、この人物こそこのナイロンクラブの影の主役・総支配人のMr.シアトルだ。

 今回のステージはグランドキャバレーという設定だけあってなかなかおもしろい。まず上手から、大きく左にカーブした階段、中央上には先ほどの扇形のオブジェのついたお立ち台、というかミニステージがある。そして下手側はバンドボックス。船首のように前が三角になった箱形の譜面台を前に、一人ずつミュージシャンが並んでいる。上段にはサックス2人とトランペット2人、下段にベースとギター、往年のビッグバンドらしい並びである。そして、中央下にはグランドピアノ、その右はドラム(ここが正面)、上手階段脇にパーカッション、その上段にはコーラスの女性、という構成だ。
さらにステージ左右には赤い別珍のカーテンが下がり、金色のフリンジのついた組み紐で止められている。セットの前面は赤いレザーを鋲でとめたデザインの壁面になっており、まさに”キャバレー”なスタイルである。

 幕が開くとすかさずビブラフォンのイントロが始まる。【OPEN THE DOOR】だ。曲をバックにパフォーマンスが繰り広げられる。
 ベースとスネアの導入部(途中にかぶさる女性の吐息もなまめかしい)で、ステージ上手からライトブルーのタキシードを着た人物(HIDEBOH)が、ピーストルを手に登場する。Mr.シアトルに向かって引き金を引くが全く意に介さない様子。業を煮やしたHIDEBOH、すぐそばに寄り頭を直撃するが蚊に刺されたぐらいにしか感じないらしいMr.シアトル、何かに気づいたか下手に逃げる。それを追ってHIDEBOHも下手へ退場。

 バス・タムのリズムが躍動的になり本格的に曲が動き出すところからは、両袖からダンサー2人(HIDEBOH & SUJI)が登場、ピーストルを構えてあたりを警戒している。キレのいいリズムに、直線的なダンスが似合う。やがてトランペットの♪チャッ、チャ〜〜〜〜ラ、というキメにあわせて車を走らせるパフォーマンスへ。キキーッ、というタイヤの音にあわせ急ハンドルを切るHIDEBOH、その隣で携帯電話に見立てたピーストルを耳に当てるSUJI、なんとなくスパイものの脱出劇を見ているような気分になる。

 エンディングで後ろを振り返り「アニキぃ〜!」、それにあわせて始まるイントロは【MY DREAM】。中央奧から現れミニステージに上がるのは石井竜也、本名・笠木健一、その人である。ブルーのタキシードに深紅の薔薇の花束を肩にかついだその姿、瞬間わき起こるワーキャーの嵐、キマリ過ぎだ。ステージ頭上では大きなミラーボールがくるくると回り、場内に光をまき散らす。『笠木健一オンステージ』とでも呼びたくなるほどのこの演出に場内ははうっとり。

 1回目の♪You are my dream〜をプチステージで歌い、続きを右側へ階段をゆっくりと降りつつ歌う。踊り場で♪春の風のように届けましょう、と歌い終わると、再び階段を降りてくる。階段を降りきり、上手側で愛想をふりまきステージ中央へ。センターにつくとちょうどサビにきていて、♪この愛だけは永遠に変わらない〜、と歌い上げる。
 後半の盛り上がり、再びの♪You are my dream〜、で手にした花束をぐるんぐるん振り回し、しっぽの♪タ、タ、ターンのリズムにあわせて左右上と体をひねる。♪抱きしめていーる、では花束を抱きしめるという「これでもか」な演出に場内は興奮の渦へと巻き込まれる。
 ここでのパフォーマンスは、その後どんどんエスカレートしていった。相模大野店あたりからは、手にした花束の花びらを噛みちぎるという演出も加わり、場内の期待度も鰻登りに上っていった。

 極めつけはビデオカメラの入っていたNHKホールだった。ブルーのタキシードの上に襟にシルバーフォックスファーの付いた白のコートをかけ、白のボルサリーノを目深にかぶるという姿で登場し、踊り場で肩にかけたコートを脱ぎ(正確に言うとブラックタイ姿(!)のスタッフに脱がせてもらい)、ステージ中央で花束を振り回し振り飛ばし(いや、外側のセロファンがすっぽ抜けたという話も…)、♪タ、タ、ターンのリズムにあわせて、1左手で帽子を掴む、2掴んだ帽子を胸の前へ、3そのまま後ろへ投げ捨てるという演出で観客を沸かせた。

 エンディングの♪愛の歌〜、でブレイクするところのタメもどんどん長くなり、観客の歓声に応えたりしてじらせる。あまりのタメの長さに、自ら吹き出すこともあったりなかったり(笑)。この1曲で会場内の観客の心を一気に惹きつけてしまう。

 続いては【DOROBOW】、このあたりまでアルバム『THEATER』と同じ曲並びである。イントロの♪タ、タ、タ、タタラ〜ンというリズムにあわせてのフリは泥棒の忍び歩きスタイル、左右からダンサーも加わり3人でする中腰歩きが笑える。踊りは歌詞に合わせたアテ振り状態で、♪OH NO,許してくれよ、は懇願するスタイル、HIDEBOHとSUJIではお願いポーズが違うのが楽しい。

 ♪君に優しくするから〜、では3人揃って人差し指で輪を描くという振り、どことなくオカマっぽいその動きに、つい笑ってしまう。♪君のココロを盗ませて〜、での笠木さん、腰の振りがアヤシイ。客席からはやんやの歓声。サビの♪DOROBOW〜はハンパチーフを使っての振り、場内のあっちこっちで同様に振り回す人が見える。共通の小道具があると参加している気分が盛り上がってうれしい。そうそう、サビではバンドさん4名(ホーン隊)がいっしょに手を振っていた。

 3曲終わってMCへ。


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