Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project Concert Tour 2002
MOON
♪ハァ〜、というプリミティブな女性の歌声にキーボードの長音がかぶさる。暗転したステージは再びほの明るくなる。月は再び白く輝きだし、満天の星も現れる。階段下から現れたSTONE
ANGELは、さきほどと同じ赤の衣装にマスカレード姿である。(STONE ANGELには暗めだがスポットライトが当たっている。それが彼の動きを追いかけて移動してゆく)ピエロのような独特の歩き方で下手へ、倒れているペテロを手にしたステッキで、ツン♪とつつく。操り人形のように何かに引っ張られる動きですーっと立ち上がるペテロ、そのまま下手へ去る。同様に上手に倒れていたヒガシのところへ行きステッキでもツン♪、ヒガシも上手へと退場する。
そのまま階段を上がるSTONE ANGEL。階段半ばで、崇めるように背後の月を振り仰ぐ。暗転。
照明が戻ってくると、仮面を脱ぎステッキを捨てた石井がステージ前方に出てきている。ステージが一気に明るくなる。ライトが客席に向かって放射される。イントロが始まる。【浪漫飛行】である。オリジナルに近いアレンジ(CD”Komeguny”とほぼ同じ)の”元気”な浪漫飛行だ。金子がステップを踏んでいる(7日には、近田・小林も踊っていた)、なつかしい。
バックでは月が輝き、オブジェたち(EGGと人間風車)が回っている。5本のスポットライトが客席をぐるぐるとなめるように動きまわる。明るいブルーのライトが動き回り、ステージはさながらライトショウだ。
曲の後半、満月だった月が、次第に欠け下弦の月へと移り変わる。曲終了後、間髪おかずにイントロが、照明も(明るさは変わらないが)青みがかったものから黄みがかったものへと変化する。曲は【熱愛】。同時に左右からダンサー2人も登場(黒のてろんとしたカンフースーツのような衣装)し、客を煽る。即座に反応して席を立ったのは石井ファンか。階段上には姿月あさとも登場している。
ドラガジアで見た(踊った?)ときの振りと大きく変わっている。今回は姿月ファンもいるということで、踊りやすく変更したのであろう。見渡せばいつのまにか客席は総立ち、「やった!」と内心ほくそ笑む。
コンガ中心の3連ラテンのリズム、ナマのトランペット&サックス、今回のバンドのラインナップがこの曲のためにあるような気さえしてくる。バックにぐんぐん煽られながら踊り狂ってしまった。
♪チャンチャン、チャチャー! ホーンの高音&パーカッションのキメと同時に暗転。
ステージ暗転のまま、ミディアムテンポの8ビート、アコースティックギターの音に三連のコンガ、かぶさるボーカルは♪Moon Stone〜 Lalala〜、のリフレイン。さっきまでの熱狂はなりをひそめ、一気にMOONの物語へと地滑りしてゆく。
雷鳴が轟く。稲光が目を射る。階段中央あたりからもやのようなものが立ちのぼっている。バイオリンが怪しげな音を響かせる。
階段上からアサート、スマイル、続いて傘をさしたゼウスが降りてくる。全員ひどく疲れている様子である。背後には青く染まった月が三人を見下ろしている。
「はやいとこ地図を出してMOON STONEの在処を教えてもらおうか」と言うスマイルに、
「ここだよ、ここなんだよ!(効果音:ベース、♪ブーン)」
ここオールドマン・ロックスにMOON STONEが眠っているのだ。
「ほら、そこの石を押してみろ(上手の岩を示す。赤いレーザー光が不気味に脈打っている)。おまえの輝かしい未来が見えるぜ」
アサートの言葉に、身代わりにゼウスを行かせようとするスマイル、抵抗するゼウスを銃を突きつけて脅し、そのゼウスに警告を与えようとするアサートの口をも銃で封じる。♪Moon
Stone, Moon Soneと3人を誘うようなウィスパーボイス、脈打つ岩。
おそるおそる近づくゼウス、覚悟を決め岩に手をかけ満身の力で押す。とゼウス何かに驚く(MOON STONEが現れた)。その瞬間はげしい雷鳴と火花を伴いゼウスの背後から巨大な竜の頭が登場、彼を銜えて背後の巣へと消えてゆく。
「くそ、一体全体どんな仕掛けになってやがんだ!」いきり立つスマイル、「食われたのがおまえでなくて残念だよ」と憎しみを隠さないアサート。
「あれは4千年前の人間が作った仕掛けさ。どんなときでもこの仕掛けに一杯食わされる!……待てよ? おまえクローネン教授の一人娘アサトアだな。男のフリをしてもわかるぞ」
十年前、スマイルを伴ってMOON STONEを探しに来て命を落としたクローネン教授、アサートはその一人娘アサトアだというのだ。
「気の毒に、やつはちょっとした事故で死んじまったがな」
「うそだ!おまえの策略で父はこの仕掛けに殺されたんだ!」
「証拠があるのかよ」とうそぶくスマイル。
ベルトのところから地図を取り出すアサトア、「この余白のところにおまえの名前が書いてある。『私はスマイル・グルチモアに殺される』とな!」
「言っとくが、ありゃあほんとに事故だった…まぁ俺が地図を見間違って起こった事故だってのは確かだがな…さぁアサトア、今度はおまえの番だ。あそこにあるMOON
STONEをはずすんだよ」
「嫌なこった。はずしたいなら自分ではずせばいいだろう」
「(含み笑い)いまの見たろ? 俺はまだ死にたくねぇ。銃を持ってるのもあいにくと俺なんだ。こいつぁおまえにとっちゃ、ちょっと分が悪すぎやしねぇか?」
上手の岩はいよいよ赤く輝き、♪Ha〜という女のウィスパーボイスが見る者を誘っている。シンセ音がインサートしてきて♪ストトト、とコンガが囁く。高まる緊張感。
銃で脅されてもあくまで石をはずすことを拒否するアサトアだが、ふと気を変えたのか光る岩へと歩み寄る。そして一気にMOON STONEを持ち上げたかと思うと、「こんなもの、モラゴンにくれてやる!」とその巣に向かって投げつけようとする。仰天するスマイル、あわてて石を奪い返そうとする。その時、巣穴から出てきた竜がスマイルを連れ去る(雷鳴+稲光+花火)。
そのまま立ち去ろうとするアサトア。MOON STONEはいつの間にか階段のてっぺんに位置している(階段上にせりあがってきたスクリーンに、細長いオレンジ色の宝石のようなMOON
STONEが映し出され、回っている)。
立ちこめるもや、(卵から変化した)老人の顔にライトが当たっている。ピアノが強く弾かれフルートが怪しげに誘う。こっちを見よ、とばかりに鈴の音がアサトアを振り向かせる。
「MOON STONEよ、どんなにおまえが美しくとも、その魔力の罠にかからない人間もいるということを忘れるな! 人間には誘惑にうち勝つ強い心だってあるんだ。今の私にはおまえはただの石にしか見えない。せいぜいそうやって人間たちの心を誘惑し続けるがいい!」
下手から登場したSTONE ANGELが階段半ばでアサトアを待ちかまえる。誘うようなゆっくりとした動きでアサトアを見つめる。背後の月には髑髏が浮かんでいる。
スマイルの残した銃を拾い上げるアサトア、恐怖でたちすくむSTONE ANGEL。ゆっくりとMOON STONEに照準をあわせてゆくアサトア。腰を抜かし、いやいやをするように首を横に振りながら、階段をあとずさるSTONE
ANGEL、「やめてくれ」と命乞いをするかのように右手を突き出す。(くぐもった「やめろぉ」の声がした気も)
銃声、ガラスの割れる音、砕け散るMOON STONE、仰け反りそして沈み込むSTONE ANGEL。動かないアサトア。――暗転。
テーマ曲が強く流れ、幕が下りる。ワルツのテーマはもの悲しく宿命を感じさせる。英語のナレーションがかぶさり、字幕が現れては消えてゆく。
…人間の欲望そのものが悪いのではなく、
そのあまりの追究が悲劇を引き起こすのだ。
…今日も世界のどこかで、純粋な欲望を悪の色に変える
あの石の欠片が誰かを待っているかもしれない。
ナレーションの終わりと共にトランペットの高音が駆け上がってゆく。それにかぶさるような心臓の鼓動音、徐々に早くなる。幕が赤く染まり、そこに文字が。
after 3 minutes… (ドックンドックンドックン…)
劇中の台詞は『MOON』パンフレットを参考にさせていただきました。