Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project Concert Tour 2002

MOON

−観劇録−(第二部)

(石井退場と同時に暗転、風の音がする。次第に明るくなる舞台前方へ下手から男4人登場。階段上では月が白く輝き、一人の男(アサート)のシルエットを浮かび上がらせる)
 スマイル、アサートに気づき「おまえは何者なんだ
 「夢を求める者、とでも言っておこうか」
 アサートは黒のミリタリーテイストの上着、上着の裾が後ろだけ長くなっている燕尾服タイプである。肩と袖口、ウエストに配されたベルトと、肩を強調したかっちりしたスタイルが美しい。登場シーンは申し分なく印象的だ。月をバックにセリで上がってきた姿に、一瞬にして目を奪われてしまった。
 スマイルの質問にはぐらかしで答えたアサートに、男たちはそれぞれバラバラな反応を見せる。
 「俺たちと一緒の泥棒じゃねぇか」とあざけるペテロ、「研究者と言え研究者と!」同列にされてはたまらんとばかりにくってかかる物理学者ゼウス。こんなところまでやってくるなんてMOON STONE目当て以外にあるはずもない、そうわかっているスマイルは「こいつはかなりのくわせものだぜ」と全員に注意を促す。
 「こいつもしかして国際警察かもしれねぇ。やっちまおうぜ」とナイフを振りかざすペテロに、唯一ヒガシだけが「この人の話をもう少し聞こうじゃねぇか」と良識的な反応を見せる。ヒガシを信用してか、アサートが口を開く。「さっきここに着いたばかりでここのことはあまりわからない。だから目下探索中ってわけだ」
 アサートに対してあくまで警戒を解く気配のないスマイル、アサートは「…どうやらあんたたちとは仲間になれそうもないみたいだな。それじゃ、せいぜい努力してMOON STONEを探すことだな」と階段上へ去っていく。
 去り際に残した「ちょっとしたアテもあるしな」の言葉に、アサートがMOON STONEの在処を知っているのでは?と疑いを抱くペテロ。プライドを傷つけられて怒り心頭のスマイル。先ほどスマイルに口を封じられてむっとしていたゼウスは、彼の怒りを種にくってかかる。
 またもやバラバラになりそうになる事態を、収拾に向かわせたのはヒガシ「俺たちの持ってる地図は半分しかねぇぞ。…ひょっとすると後のもう半分は!」(効果音:ベース、ズンズンズンズン)「あいつが(ゼウス)」「持ってるんだ(スマイル)」俄然元気を取り戻した4人はアサートを追いかけて階段上へ退場。

 (7月6日、ここでゼウス役の小野田さんのインカムマイクにトラブル発生。途中からきれぎれに入ったり入らなかったりし始め、ついには全く入らなくなってしまった。小野田さん自身気づいたのかどうか、かなりの大声での演技だったので、真ん中より前の席ではセリフは聞こえていたのではないだろうか。しかしこのトラブルも、役者さんの次の登場までには直されていた)

 暗転した舞台に光が戻ってくる。階段下より登場した姿月あさと、シルバーの長上着に着替えている。さっきの赤の衣装の時と違ってシャープな印象に変わっている。まさに『男役』といった風情だ。♪ずっと待っていた、確かな答えを、で始まるのは【月の雫】、姿月あさとの持ち歌だ。8ビートのベースが心地よい。サビではステージ前に一列に並んだフットライトが中央から左右へと流れ、5本のスポットライトが舞台狭しと駆けめぐる。「宝塚大劇場もかくや」と思われるライトマジックと姿月あさとの歌声に酔いしれる。間奏部はミュートトランペットとパーカッションソロ、姿月のダンスも披露される。ターンする姿が優雅でスローモーションのように感じられる。
 曲の後奏部、ぐっと絞られた照明の中、階段を上がってゆく姿月、入れ違いに石井が階段を降りてくる。中央ですれ違う2人、その光景になぜかどきどきする。石井の衣装は黒のつばの広い帽子(黒いサテンのリボンが後ろに下がっている)、ヘチマ襟で全体にゆったりしたシルエットの黒スーツ、左襟には大きな華の白いコサージュ、白のリボンタイのシャツ、白手袋をした手にはいつもの銀の握りのステッキをもっている(MOON記者会見の時の衣装である)。いつもながら、こんな衣装を着られ(そして似合う)る男性はこの人しかいない、と思う。
 立ち位置についたところでいったん暗転。若干の静寂の後イントロと同時に照明が戻ってくる。【フラストレーション】だ。バックの月はピンク・ライトブルー・白の3色がまだらに重なり合う。歌が始まると今度は5本のスポットライトが真上からステージへと落ちる。そのスポットも月と同じ3色のまだら模様になっている。
 1度目のサビから戻ってきたところの間奏部は金子のテナーサックスソロ、CDより8小節ほど長いソロではステージ全体が暗い紫に沈み、横から射す淡いオレンジのライトがソロを吹く金子を浮かび上がらせる。下手からは例の4人が疲れた風情で歩いてくる。途中へたり込んで休もうとするペテロをスマイルが後ろから突き飛ばす。そうして脚を引きずりながら上手へ退場。
 打ち込みの強いベース音とやり場のない気持ちを歌った歌詞に、胸がふさがれる思いがする。その気持ちを抱えたまま曲が終了。暗転したステージに左右からオレンジのライトが投げかけられる。同時に上からも客席へ向かって柔らかいオレンジのライトが放射される。月はいつのまにかピンクに染まり、アコースティックギターのカッティングが始まる。【MOMENT】である。暗転のうちに帽子を取った石井、それを左手のステッキと一緒に持っている。
 ミュージシャンのいる下手側のブースには淡いオレンジ色のライトが投げかけられ、ステージには5本のライトブルーの照明があたり、遠目にも暖かい感じにステージが和んだのが感じられる。アレンジもアコースティックギターとオルガンの和音で構成された、柔らかい感触になり、先ほどまでのぴりぴりした感じを和らげてくれる。
 1番と2番のあいだのコーラス(清水&原)♪Just a moment, hoo,hoo,hooも優しい。2番にはいるとバイオリンがインサートしてくる。歌を支えるかのようなバイオリンの長音がやさしくてじーんとしてしまう。さらに♪夕焼け空の歩道橋、からオルガンも入ってくると、心が全部温かいもので包み込まれるようで泣けてきそうになる。
 エンディングの♪Please momentで階段半ばへ移動、石井にピンスポットがあたる。ラスト♪Just a momentで一気に暗転。

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