Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project Concert Tour 2002

MOON

−観劇録−(第一部)

 

 場内に流れるBGMはワルツのリズム、サーカスを思わせるようなな少し哀調を帯びたメロディが流れている。やがてそれはシンセサイザーの長音に変わりスネアドラムの2分音符、シンバルの16分音符がそれを区切る。次第に緊張感を増す。
 それが止むと今度はピアノの独奏で、なにやら聞いたことのあるフレーズが繰り返される。たしか♪夢の中まであこがれてた〜(by 砂漠へいこう)と同じフレーズだ。が、曲自体は”砂漠へ…”ではない。やがて『WALTS OF FOREST』(サァカス少年團)が流れてくる。またサァカス少年團で、少年の声のバックに流れていた曲も聞こえてくる。

 嵐を予感させる風の音、青いカーテン(幕)が揺れる。それが左右に引き上げられる。引き上げられた青い幕の後ろには、白い遮幕がもう1枚掛かっている。遮幕にはグレーのあばただらけの満月にMOONの文字が描かれている。その下側に映画の字幕のように文字が映し出される。
 …月が一年中怪しく輝く地の果ての場所。人はここを「月光の谷」と呼ぶ……物語への導入である。三拍子のテーマ曲をバックに英語のナレーションが始まる。観客が徐々に物語の世界へと引き込まれてゆく。世界の全てを手に入れられる石-Moon Stone-をめぐる物語が始まるのだ。
 次いでキャストのロールが始まる。
    Asato:Asato Shizuki
    Smile Gltimore:Haruhiko Joe
    Zeus Chabravich:James Onoda
    Petero Montana:Koichi Fujiura
    Higashi Tarajiro:UME
    Stone Angel:Tatuya Ishii…
 次々に表れては消えてゆく文字たち。音楽は次第に高まる。
 そしてミュージシャン
    Saxphone:Takahiro Kaneko
    Trumpet:Futoshi Kobayashi
    Percussion:Gen Oogimi
    Keyboards:Kenichi Mitsuda
    Guitar:Kiyoto Konda
    Violin:Etsuko Hara
    Chorus:Yoshie Shimizu。
 すべての文字が消えたときテーマは最高潮に。そして、幕が開く。
 
 しわがれた男の唄が聞こえ、それに導かれるように再びテーマが流れ始める。
 幕の向こうに広がる世界は、不可思議の一言に尽きる。上手上端に『(AN 1999より)』その隣には鳥かごに入った『妊婦のオブジェ(EGG)』、中央の階段を挟み、下手側には『(AN 2002より)』、さらに下手にゆくと、男性の上半身が尻を真ん中に4体繋がったものが風車のように回っている(人間風車?)。それらが薄暗いステージに白く浮かび上がっている。中央に配された階段の上には大きな満月が、徐々にその姿を現す。
 観客に場内を見渡す十分な時間をおいて、下手から台がスライドしてくる。
 台の上は左右にTONESのオブジェ、真ん中には大きな丸時計が配されている。時計の後ろには振り子を振る一人の男(石井)。身を乗り出し人形のように鎖のついた丸いライトを振っている。白黒縦縞の洋服に、鼻のとんがった半面のマスク(ベネチアのマスカレードのような)をつけ首には白のマラボー、同じく白黒のシルクハットをかぶっている。
 台がステージ中央に着く。台からひょこひょことした動作で降りて上手側へ歩いていく男。脚を大きく曲げた大げさな歩き方は、どことなくピエロを思い出させる。手を左右に振る大きなモーションで階段を上がり満月を振り仰ぐ。その動作はどこか人をあざけっているようでなんとなく小憎らしい。輝く満月をバックに鎖を振り回しポーズを決めたところで暗転。

 舞台前面が明るくなると、下手から4人の男が登場する。黒革のテンガロンハットをかぶった小男(ペテロ)は身のこなしが軽い、ちんぴらやくざでもあろうか。アメフトのプロテクターをつけた大男(ヒガシ)は、猟銃を手に一番大きな荷物を担いでいる。次いで、「いかにも探検に来ています」風なゲートル眼鏡男(ゼウス)―虫眼鏡を手に一心に何かを探している― に、グレーのボルサリーノを目深にかぶりチャコールグレーのロングコートを着た”探検”の文字には最も不似合いな風体の男(スマイル)である。全員バックパックを担いでいる。どうやら旅の途中らしい様子である。
 「あっ!」と突然なにかを拾い上げ虫眼鏡を近づけるゲートル男、彼の声に引き寄せられた3人は、それが目的物でないことを知ると一気に興味を失う。と、上手が赤く光り出す。「見てこい」と言われたのは小男のペテロである。ボルサリーノ男に「こんなのどうってことないはずだよな勇気あるし」とおだてられ歩き出すが、途中に潜んでいたマスク男(=Stone Angel、どうやら彼の姿は4人には見えないらしい)に耳打ちされ戻ろうとする。もう一度おだてられたペテロは、再び赤い光に向かって歩き出すがStone Angelの脅しで臆病風に吹かれて戻ってくる。「後は頼んだよ」。
 ゼウスは言う「あの石が『悪魔の石』と呼ばれているのもあの石が起こしてきた災いに関係している。…聞くところによれば、その輝きは見た者の心を変えてしまうらしい。…MOON STONEは時の権力者たちも追い求めてきた。遠くはエジプトのラムセス王、シーザー、そして近くはヒトラーまで」
 ヒガシが言う「引き返した方がいい。…MOON STONEを持ち出すってことは、伝説の石の守護神『モラゴン』と渡り合わなくちゃならないってこと、考えたことがあるのか」
 三代続けて猟師の家系に育ったヒガシは、祖父に聞いた話を続ける「…たとえまんまと持ち出したとしてもムーンストーンを隠した土地は衰退し荒廃し、伝染病によって人は全て死に絶えてしまう、ってな」
 おじけづく三人の気持ちを引き立てるように、スマイルが「なんだなんだ、こんな迷信を信じるなんて我がムーンストーンズらしくねぇぞ。おい!」(スネアドラムとミュートトランペットの軽快なマーチが流れる)
 いつそんな名前が決まったのか?−そう言いたげな3人。
 ペテロ「結構いい名前じゃねぇか。組織には必ず名前ってもんが必要だぜ」
 ゼウス「悪いが、私のことはそのムーンストーンズやらには入れないでほしいものだな。君たちと違って、私がMOON STONEを求めるのはあくまで物理学者としての探求心のためだ」
 スマイル「先生様は自分がこのチームの名前をつけられなかったから怒ってんのさ、くだらねぇ」
 ゼウス「なんだと!」
 仲間割れをしそうになる3人に、ヒガシが忠告する「向こうの空に怪しげな雲が出てきたぞ」 先を急ぐ4人、上手に退場。彼らの後を追うように繰り返される♪moon stone〜の声、女のウィスパーボイスは男たちを誘うMOON STONEのため息か……。
 
 前の4人が退場すると同時に中央階段上に一人の人物(姿月あさと)が現れる。バックの月は青と緑のモザイク模様になり、ステージ全体が紫のライトで満たされる。芝居の間中回っていたオブジェがいつのまにか止まっている。
 階段を降りてきて歌うのは【ガラスの月】。五本のスポットライトステージに放射され、それが姿月あさとの上で収束する。白のスタンドカラーの上の赤い上着が美しい。存在そのものに『華』があるといった感じだ。サビの♪青く揺れる〜、が三声の和音になっている。ふと見るとバイオリンの原さんもコーラスに加わっていた。
 曲が終わり暗転。すると階段上には赤の燕尾服様の衣装(二日目、白のロングコートにインナーが黒に変更)の石井、ミラーのサングラスがシャープな印象だ。バックの月も白く輝いている。曲は【WHITE MOON IN THE BLUE SKY】
 ステージ前方は姿月に加えて2人のダンサー、ペテロ役とヒガシ役の2人である。イントロと間奏は4人揃ってのダンス、三角形なポジションでの揃いの振り付けは美しい。曲中、姿月のふわっ、と上がる脚がきれいで見惚れてしまう。すっと上がってゆっくり降りてくる、滞空時間が誰よりも長いのだ(そのぶん姿勢を維持するのは最も難しい)。
 いったんブレイクしたあとの♪ここでは〜、で石井にスポット、同時に5本のライトが客席に向かって放射される。客席の後方から見るとステージが広がっていくようで、ぞくぞくするほど美しい。
 曲のエンディングでは月が満月から三日月へと変化していく。前の3人は下手に退場する。沈んだブルーのライトのなか、ビートの利いたイントロが始まる。ちょっと耳障りなくらいのギターが印象的だ。曲は【神話】、石井本人が歌うのは初めてだが、実はアイフルのキャンペーンでプロデュースした藤沢潤子さんに提供した楽曲である。
 近田のギターソロもひずんだ感じ、曲のイメージも詩の内容も、時代の閉塞感を表しているようですこし苦しくなる。曲後半の♪いのちが消えた、での一瞬のブレイクに心臓がどきんと波打つ。エンディングの♪光を、光を、光を見せて、での石井のアクションに胸がしめつけられる。暗転後、石井は階段下から退場。



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