コーセーアンニュアージュトーク

at 恵比寿ガーデンホール in Feb. 25, 2003

PART 3

【石井氏の心境からZERO CITYのコスチュームへ】

石:先生、「書」のほうはやられないんですか?
假:いえ、私は…
石:興味がない。
假:そういうわけじゃないんですけども。お手紙とか書きますでしょ、そのときには……
石:見てみたいなぁ、達筆なところで。あのよろし、とかでもいいですから(客、笑い)。
假:(消え入りそうな声で)はい、試みてみます。
石:日本の伝統芸をやってらっしゃる方は、だいたいたしなまれますよね。
假:大前提なんでしょうね。日本人なんだから書くのが当たり前みたいな。
石:京都に円通寺というお寺がありまして、ここのご住職がすごいんですよ。すごい太い朗々とした声で、借景について説明されるんですけど。廊下から見る比叡山の山並みを屏風に見立てて、朗々とした声で説明される、という方なんですけど。
假:はい
石:この方の書がね、すごいんですよ。実は僕、假屋崎先生の次に円通寺の和尚を狙っていたんですよ。漢字とのコラボレーション、これをやりたかった。だから僕が何かにばーっと絵を描いて、その後ろ側に大きな紙を用意して、そこに漢字を一文字書いてもらう。なんですかね、りっしんべんの性とかね(客、笑い)。そういうのを僕やりたかったんですよ。
假:ほぉ
石:でも丁寧にお断りされましたね。というのは「書というのは自分の中で勝負するもので、自分の外で勝負するものではない」って言われたんですよ。その意味がよくわかんなかった。
 でね、僕ここ2年ぐらいちょっとおかしいんです。おかしいっていうのはね、考えるところが実はあるんです。先生とご一緒させていただいたあたりから考えていたんですけど、それは「何のために自分は作品を作っているんだろう」ってことだったんです。
假:はい
石:最初は自分のためだ、家族のためだ、見てくれてる人のためだって理由を見つけていたんですけど、どうも違う。どうして俺はこんな必死になって作品を残しているんだろう、ってずーっと考えていたんですよ、2年間。
假:はい
石:で、一つの結論を出したんですよ。それは自分のためとか、家族のためとか、なにかのためにやってるうちは作品を作る価値ないんじゃないか、自分という人間はね。クリエーターってのはもっと無垢になんなきゃいけないんじゃないか。だれかのためと思ってるうちはまだまだなんじゃないかなって思ってきたんですよ。
 で、なんにも考えないで作っているものを、そこにたまたま居合わせた人たちがそれを見て感動して、自分の人生と照らし合わせて何かを感じてくれたらいい。理由はその人たちが考えりゃいい。自分で理由を考え出してどうするんだよ、って思ったんです。これはね、假屋崎先生のおかげですよ。
假:いえいえそんな。でも私もものを創る人でしょ? だから思うんですけど、欲をかいちゃいけないんですよ。欲が先に行っちゃうと作品ってよくないんですよ。
石:そう、誰かのためっていうのも『欲』なんですよね。それに気づいたんですよ。円通寺の和尚もそれを言ってたんですよ。俺の中にそれを見たんでしょうね。「おまえ誰かのためとか自分のためにやってないか?」って言ってたんでしょうね。
假:それとね、その人の才能とか個性があって、そのことはその人しかできないものじゃないですか。だから、その人しかできないもの、そういうものを…
石:でも俺ね、いろんなことやってきて、ZERO CITYとかMOONとかNYLON CLUBとか、今やってるISHYSTとか、いろんな事をやってきてますけど。よくよく考えたら、自分のやりたいことやってきてるんですよ。自分のためとか、ファンにうけようとかっていうのは、全部あとづけの理由なんですよ。俺は「鎧着てみてぇ」とか(客、笑い)、くっだらない理由なんですよ。すっごい子供っぽい理由でやってるわけいっつも。それを大人っぽくしたいために、理由をこじつけてやってただけなんですよ。
假:やっぱり子供の心って言うか無邪気な心ってね、やっぱりホントに素晴らしいと思うんですよ。子供ってこれをやれって言われたからやるとか、そういうのは全然なくてやりたいことをやってるわけじゃないですか。だから、そういう無心になってやるってのはほんとに大事だと思うんですよ
石:それはほんとに大事ですね。
假:それでね、天才って子供じみてるんですよ。子供心に満ちあふれてるの。私から見れば石井さんは天才なんですけど(客、笑い)。でもピカソだってそうですよ。(みなさん)笑ってらっしゃるけどピカソがそうなんですよ。それもピカソっていうのは作風が変わってゆくんですよ。これはもうクリアできたから、ってどんどん作風が変わっていくんですよ。それを私は石井さんから感じるんですよねぇ。
石:はあ。
假:これ褒めてるんですよ
石:そうですよね。…俺ですね、ほんとにくっだらないもの好きなんですよ。こんな丸っこちぃものとかね。それが20円だろうが500万円だろうが関係ないんですよ。口では言えないんですけど…
假:わかります。人が捨てたものとかそういうの関係ないんですよね。私なんかさびたドラム缶が美しいなぁと思って作品にしたことあったんですよ。それに全部土をつめて、百個ぐらい、そのときはある程度満足感があったんですけど。今だったらほかのことやっちゃうと思いますけど。
石:僕はZERO CITY -HAL-というのをやったときに、見てない方、ビデオが出てますんでご覧になっていただきたいんですけど(客、笑い)。このコスチュームがね、すごいんですよ。
 俺、あるときNHKの大河ドラマを見てたんですよ。そこに裃(かみしも)を着た侍が出てきたんです。これを見て「かっこいいなぁ」と思ったんです。これコスチュームにできないかなと思ったんですけど、着物となると暑苦しいし着るのも大変ってことで。それからチャンネルを変えたんですよ。そしたらアメリカンフットボールやってたんですよ。「大河ドラマとアメリカンフットボール、運命だぞこれは」って思って。
假:(笑い)
 アメリカンフットボールってこういうの、プロテクターっていうんですか?あれをつけるんですよ。それが裃のラインに似てるんですよ。そしたら、あれに袴って合うかもしれないな、って思ったんですよ。で、ほんとの袴、あのばーっと開く袴ですよね、あれをつけてみたら”おちゃめ”になっちゃったんですよ(客、笑い)。
 で、今度CMで弓矢を持った女の子が出てきて、あの弓道部の袴っていうのは、脚にフィットして、すとーんと落ちてるんですよ。これだったらプロテクターと合うかもしれない、ってこれ俺思ったんですよ。(客、笑い&拍手)
假:ええ(うなずく)
 で、これと黒いプロテクターと合わせてみたんですよ。これがね、すごい合ったんですよ。こっからがどんどん入っていくわけですよ。まてよ、プロテクターのここ(肩のところ)にメーカー名が入ってる、これって家紋だなと。じゃこれを家紋にしてみたら、もっと日本っぽくなるんじゃないかって思って、つけてみたらそれなりに見えるんですよ。
假:それは石井家の家紋?
石:いえ、それは売ってるものしかないんで。シールで売ってるんですよ。それをつけて。次は髪だな。とするとちょんまげ、ってところに行き着くじゃないですか。でもプロテクターで弓道の袴でちょんまげ、となると「俺はバカか」ってなるじゃないですか。だからちょんまげはやめようと。で、ちょんまげに替わるものとして考えたのが烏帽子ってやつ、これなら格好が付くんじゃないかっていろいろデザインしたんですけど、かっこわるいんです(客、笑い)。で、どーするか。ここで1回ZERO CITYのファッションは暗礁に乗り上げるんです。
假:(笑い)
 考えましたね、ずーっと考えた。あんなに考えたことこの人生にないんじゃないかってほど考えました(客、笑い)。で、あるときNHK特集に『大モンゴル』っていうのがあって、この大モンゴルっていうのが俺の耳に焼き付いた。この『大』っていうのと『モンゴル』っていうのが結びついたあたりがね、
假:ただのモンゴルじゃないんですね。大、がつくんですものね。小でもないんですね。
石:この響きがね、もう焼き付いた。それで僕はこの特集をDVDで買って、見てみたんですよ。そしたらね、いい帽子があったんですよ。まてよと、俺たち日本人のルーツはモンゴル人だったんだと。俺は、多少濃いメークではあるけれども、もしかしてあの帽子が似合うんじゃないかっていうんで、逆三角形っぽい、上に1本(棒が)立ってるんですけども、それを帽子屋さんに作ってもらいました。
 で、プロテクターつけました、袴もはいて、黒いTシャツぴちぴちのやつも着て、(帽子も)つけて、ばんっと鏡の前に立ってみました。…笑っちゃいましたよ(客、大笑い&拍手)。
假:笑っちゃったの?
石:笑っちゃったんですよ。まぁた考えたね石井は。1週間ねれなかったぐらい考えた。「なんでおかしいんだろう。袴もぴしっとしたの着て、プロテクターも着けて、帽子もおかしくないはずだ。じゃなんでなんだ」ってもう一度着てみるんだけど、「ぷっ」って感じなんですよ。
假:なんでだったんですか?
石:これはね、たったひとつのことだったんです。カマーベルト、要するに帯が必要だった。帯をつけることによって、全体が逆三角形に見えて、なおかつ結び目が見えなくなることですっきり見えるんですよ。で、最初は帯でやろうとしたんだけど、帯だとたいへんなんですよ。だからカマーベルトでぴしっと締めてやったというところからZERO CITY-HAL-のコスチュームはできあがったんですよ。(客、感心)
 あれはたぶん見た人には違和感なかったと思いますよ。あれは日本人にとっては時代劇とかで見た風景なんですよ、だから違和感なかったと思いますよ。それを俺は作り上げたんですよ。
假:ほぉ(感心)。(客、大拍手)
石:いや、先生、話はこれからなんですよ。こっからすごいよこっから。こっからだから。
假:はい、聞かせてください。
石:こっからこのストーリーを組み立てていくわけですよ。たったひとつのコスチュームがストーリーを作り上げていくわけですよ。そこからストーリー仕立てのコンサートはどうだろう?っていうんでZERO CITY-HAL-はできあがっていったわけですよ。

立ち上がって熱弁をふるう石井氏。この先はどうなる?


次のページへ / トップページに戻る