コーセーアンニュアージュトーク

at 恵比寿ガーデンホール in Feb. 25, 2003

PART 4(完結編)

【日本の文化、戦争、夢】

石:でね、これをキダムの美術監督に見せたんですよ。
假:へぇ〜。あ、出てらした、ちょっと。(客、笑い)
石:ピエールって言うんですけど、その人に見せたんですよ。そしたらやたら乗り気になっちゃって、「おまえ次、衣装デザインしてみないか?」って(客、大歓声)。…わかんないですよ。これ(手で”うそぶく”アクション)かもしんないですからね。でもね、ほんっとに感動してくれたの。俺、涙出るほどうれしかった。
 だってある意味努力が報われた瞬間じゃないですか。衣装からセットからデザインして、あの世界観を作り上げた人に、認められたってことは。殻が破れたっていうか、「いいんだ。俺このままいっていいんだ」って自信になったんですよ。それも一線を退いて昔すごかったっていう人じゃない、今まさに戦っている人に言われたっていうのは、ほんっとうれしかったですねぇ。
假:でもおもしろいですよね。日本のいろんな文化が組合わさったもので、「おもしろい、じゃ石井さんに次を」って向こうの方がおっしゃってくださるっていうのが。
石:俺、日本に対してもものすごい自信が出たんですよ。こういうシルエットっていうのは外国の人が見てもかっこいいって思うんだ。逆に日本人の方が色眼鏡で見るかもしれないね。「え?カマーベルト?袴?その帽子?絶対おかしいじゃん」って。
假:日本人はそういうふうにしか見ないわね。文化っていうものをないがしろにしてるから。
石:みなさんね、いろんなものに捕らわれない見方というものを自分の中で意識した方がいいですよ。意識しないとできないと思うんですよ、そういう教育を受けて来ちゃったから。例えば今の北朝鮮のこととかどうなるかわかんないからね。向こうには向こうの常識があるから、こっちの常識で「ちがう」と言っても通用しないんですよ。
 世界の常識って全然違うところにあると思って見ると、世の中おもしろいですよ。例えば、これは机だけど椅子にしたっていいじゃん、ほかに机つくって。発想ってそういうものだと思う。だから今そういう人をほんとにさがしてるんですよ。先生もその一人ですからね。この人はほんとにこだわらない人ですからね。
假:日本人は頭の固い人が多いんですよ。頭が固いと進歩がないですよ。
石:答えがあることにすっきりしてしまう人は、答え以上のものを見いだそうとしないんですよ。隣が買ったからうちもあれを買う、っていう人はあんまりおもしろくない人生を送ると思いますね。
假:受験勉強をやりすぎるとね、それに全エネルギーを使っちゃうわけですよ。だから……
石:(さえぎって)俺ね、受験勉強で言いたいことあるんですよ。みなさんも一児の母になってる方もいらっしゃると思うんですけど、「この子にはいい学校入れて」って思ってるかも知れませんけど、時代はもう学閥じゃないですよ。その子がなにができるか、っていうことが大事になってきますよ。一つのことが深くできる方がよっぽど飯が食える時代に、これからどんどんなっていきますよ。これを見いだせるかどうかは親の責任ですよ。
假:そうですよ、親の責任は大事ですよ。
石:これ、どうしてこうなってきたか俺考えたんですよ。学校で教えることは、その国の常識・その国の文化ですよ。ところが、その国の常識が世界で通用するかっていったら、通用しないんですよ。その国の常識で70点80点取っても、それは世界には通用しないんですよ。この繰り返しをやっちゃったんですよ。
 だからひとつのことだけでいいから、このことだけはできるっていうのを見つけてあげないといけないんですよ。なのにそれしかできないと劣等者のように言う…
假:それにみんな「右へならえ」で、同じ事させようとするでしょう。
石:いまそれがすごい顕著ですよ。若い人たちを見てても「これでいいのかなぁ」って思う節もいっぱいありますよ。例えばガングロが流行ったらみんなガングロになっちゃう、ケータイがはやったらみんなケータイになっちゃう…。
假:でもね、それってマスコミがいけないんですよ。ほとんどの子はいい子なんですよ。だけどマスコミが変わったした子をどんどん出して、繰り返し見せるから、みんな「そうかな?」ってなっていくんですよ。大多数はいい子なんですよ。自分は自分、ひとはひとっていうポリシーが大事なんだと思いますけどね。
石:俺、軍事国家がいいとは思わないし戦争がいいとは思わないけど、自分で自分の国が守れなきゃしかたないんじゃないかなと思うときありますよ。日本が戦争に負けて、アメリカと安保を結んで守ってもらってるわけだけど、自分の安全を人にゆだねて本当にいいのかどうか、っておそらく日本中の人が今思っていると思いますよ。
 こういう危ない、考え方の違う国が隣にあって、そこで俺たちは生きてゆくしかないわけじゃないですか。そこで自分の命を人に預けてしまって、ほんとにいいのかな。その精神が今の日本の現状をつくっているんじゃないか。最低限自分たちで自分たちのみを守れないと、女子供を守れないんじゃないかって思うわけ。
假:でもね、そういうものを決めている政治家を、我々が選んじゃっているわけでね。
石:俺、親父におもしろいこと言われたんですよ。「おまえ、戦争は政治家がやると思ってるのか?」って言われたわけ。「そりゃ政治家がはんこついてミサイル撃つんだよ」って俺、答えたわけ。そしたら親父が「それは違う。第一次世界大戦も第二次世界大戦も、戦争は国民がやりたいと言うから、政治家が『だったらやりましょう』ってなるんだ。それでなくて一億総火の玉なんてならないよ。人間はそれほどバカじゃない」って言ったんですよ。そうなのかって思ってね。
假:そうですよ。
石:しっかりしないとだめですよ。ほんとに今おれたちがしっかりしないとまずいですよ。だから、戦争を経験した人たちにもっともっと話を聞かないといけないと思いますね。俺たちはテレビでも何でも見てますけど、映画みたいに見てますよ。自分たちがそうなるって思ってみないですもん。
假:だから今平和でしょ。で欲しいものはなんでも手にはいるでしょ。今景気が停滞しているとはいえ、1400兆円からの預貯金があるわけなんですよ。それを出さないだけなんですよ。
石:俺にくれって言うんだよ(客、笑い)。俺いいものつくりますよ。今まで日本は機械だとか、その前は造船だとかすごかったわけ。でも今なにもないんですよ。コンピュータはアメリカに持っていかれソフトもだめ、そのうえカルチャーまで危うい。これからは『精神』の時代ですよ、アートが大切なんですよ。だから(強調)(客、大歓声!)
 もしかして戦争になったら、敵の軍隊の前にわけのわからないオブジェだすといいと思うんですよ。向こうからわーっときて「あれ?なんだろこれ?」って、もう戦争になんないんじゃないかとおもうわけ(客、笑い)。…でもね、深く自分たちのアイデンティティを保った方がいいと思いますよ。どうせやるんなら『アート戦争』、これだったら許してもらえるんじゃないかと思いますよ。
假:皆さんの家族が突然いなくなっちゃうんですよ。愛する人が突然に亡くなっちゃうんですよ。考えられないでしょう?戦争ってそういうことだと思います。
石:戦場で突然花とか生けだしたりして、そうすると向こうも出してくるわけですよ。フラワーアレンジメントとかいって一輪挿したりして(客、笑い)、これやると相当平和的な戦争になるはずですよ。
假:命を犠牲にしちゃいけませんよね。
石:そうですよね。…さて(客、笑い)
假:最後に1枚だけ画像が残っているはずなんですよ。
(スライドが映し出される。AN2000のときの男女のトルソーを模した花瓶、さらにペインティングが施された特別品。そこにはガーベラ(?)が生けられている)
石:これは僕のグッズですね。
假:作品集を作るにあたって、ぜひとお願いしていただいたものなんです。今は家宝として飾らせていただいております。
石:おありがとうございます(客、笑い)。でもうれしかったですよ。先生の本にのってて。さてあの。。。
(もう1枚スライドが。そこには白地にトラ柄のブチの入ったネコが2匹映っている)
假:これウチの子なんですよ。
石:これは…ダックスフントですか?(客、笑い)
假:野良猫なんです、捨て子になっていた5匹のうち2匹をいただいたんです。
石:名前は?…あ、当てます!…ぴ、ピロちゃん?…違います?…ポッポちゃん…
假:かわいいんです。ということは?
石:プ、プリちゃん。
假:そうです、あたりです。
石:こっちはりりしいからリリちゃん。
假:こっちは花の名前で、リラっていうんです。
石:プリちゃんとリラちゃん…
假:今度石井家のもね…
石:うちもね…あの…もってっちゃった(苦笑)。
(客、大爆笑)
石:ここで二人の夢を語っていただきたいということなんですよ。
假:現実問題として、今増築をしているんですよ。そこにピアノを置きたいと思ってるんです。昔ピアノをやっていたんです。
石:そう、ヴァイオリンとピアノをなさってたんですよね。なんか音楽的な感じがしたんですよ。ね?ほら。
假:ですから先日のISHYST、ものすごく感動しました。淡々とお歌いになっていたでしょ?
石:もう今は、正直に言いますけど、ファンのためにも自分のためにも歌ってないですね。
假:そこがいいんですよ。
石:もう歌うのが楽しくて、たくしこめるのが楽しくて仕方なくて、やってるんですよ。
假:うまく歌おうとかそういうのが全くない、石井竜也さんの素のままがでていて、だから感動するんですよ。
石:感動させようとは全く思ってないんですよ。歌いたい歌を歌いたいように歌ってる感じなんですよね。ショウビジネスをずっとやってると、スタッフは純粋なところだけではやっていけないから、このバジェットでいくらかかるとか、そういうのが僕らアーティストも聞こえて着ちゃうんですよ。そうするとビジネスマインドに傾いていっちゃう瞬間がどうしてもあるんですよ。そこから抜け出せたかな、という気はしているんですよね。
 僕の夢はですね、自分で企画したコンサートもやっていきたいんですけど、誰かのために、例えばチェンミンならチェンミンのために、セットを作って企画をして、その人のためにやってみたいですね。そんときはぜひ先生にもお花を生けていただいて。ただで。(客、笑い)とは言いませんけど。
 人間だんだん年をとっていくわけですから、自分の世界観を自分だけのために使うんじゃなくて、人のために自分の世界観をやっていきたくなるもんですよね。
假:私も残るものが作れないでしょう?ですから、作品集を6冊出していて今7冊目に取りかかっているんですけど、それは気合いを入れてやっていきたいですよねぇ。
石:さっき2人で話していたときにプレゼンテーションしたんですけど。コーセーさんのCMで、僕の企画したオブジェと假屋崎さんの生けたお花を15秒間ずーっと撮っているだけのを作れないかなぁ?って。音楽もなんにもなしで最後に假屋崎省吾と石井竜也って出るだけの。いいでしょ(客、拍手)。どうですか、みなさん。近ごろがちゃがちゃがちゃがちゃ、「ソースの精」とか(客、笑い)ばっか出てくるようなCMばっかりじゃないですか。そういうのがあったらいいですよねぇ。


【客席の方からの質問コーナー】

司会:それでは皆さんからのご質問にいきたいと思います。その前に席替えをお願いしたいんですが。
假:(トークが一段落してお茶を飲んでいるところ、なのだが、そのお茶を持って移動)
石:(席を立って、ふーふー吹いている)さましとこうと思って(客、笑い)。
假:(その隙に、石井氏のお茶も移動してあげている)

司会:石井さんと假屋崎先生のお子さん時代のあだ名は?
石:僕は「パン屋」。うちはパン屋をやっていたんで。
司会:じゃロバのパン屋とかもやってらしたんですか?
石:(リアクションに困った様子)
假:假屋崎ってのは本名なんですよ。むずかしいでしょ?
司会:なんか「ひま」みたいな…
假:そう、子供の頃はひまだったんですけど。だから「カーリー」とか「カリさん」とか。

司会:假屋崎先生に質問、今度源氏物語をテーマにしたお仕事をされるようですが、源氏物語における「いい男」の定義を教えてください。
假:6月の末から7月の頭にかけて、京王プラザホテルでやるんですよ。瀬戸内寂聴さん、堀ヒロシさんと私とでやります。私の中で光源氏というのは石井竜也さんのイメージですよね。
司会:そうですよ。石井竜也さんのイメージぴったりですよ。光源氏ってすごいわがままなんですよ(客、爆笑)。
石:俺がそんなににくいんですか。俺、なんかしましたか。

司会:もし2人のために料理を作るとしたら、何を作って欲しいですか?
石:今だったらもう何でも作って欲しい(客、爆笑)。俺の今の弁当の食い語ったらすごいですよ。出た弁当一粒残らず食っていきますから。…でも好きなのは中華料理が好きなんですよ。でもねぇ中華料理ってカロリーすごいじゃないですか。だから最近ちょっと敬遠してますね。
假:でも中国人の方って毎日中華料理めしあがってるわけでしょ…
石:だってウーロン茶飲んでるもん、彼らは。(客、笑い)
司会:先生は?
假:自分で作る方が多いんですよ。小さい頃から「今日の料理」をずっと見て育ったんです(客、笑い)。再放送まで見て、1日2回見て育ったんですよ。
司会:先生のお得意の料理はなんですか?
假:なにからなにまで全部。50人100人の料理だってどんとこい、ですよ(客、感心)。それもね、作ってると台所に汚れ物がたまるでしょ ?私は作ってる間にどんどん片づけていくんですよ。もう整理整頓。
石:先生、俺と結婚しましょう。イヒヒ…。
假:もう、つくしてつくしてつくしてつくして、捨てられるんですよ。(客、爆笑)
石:(がっくり)
假:私がですよ。

司会:假屋崎先生へ。石井竜也さんの『夢の迷い道』はもう買われましたか?明日発売ですがもう買えますよ。これって質問じゃないですよ。
石:あの、夢の迷い道じゃないんですよ。夢の迷い道”で”なんですよ。
假:はい、今日これから買います。(客、笑い)
石:こういう事を言うとプロモーションか?みたいになっちゃいますけど、「こういうのだったらイマドキっぽくなるよな」とか「こういうのは今の若いヤツらが聴いてくれるよな」とかそういうこと考えて作ってたときもあったんですよ。でも今はほんとギターでまじめに作ってるんですよ。ですからラジオとかで流れたら、ちょっと変えないで聴いて欲しいですね。
假:それとカバーとかもあるんですよね。
石:そうです。シルエットロマンスとかみずいろの雨とか歌ってるんですよ。近ごろカバーブームなんで、それに乗っかった…わけなんですけど。(客、笑い)
 福山くんのとか聴いているとやっぱり男言葉の歌を歌ってるんですけど、俺は女言葉を男が歌っても全然嫌らしくならない自信があるんですよ。だから女言葉の女性の歌を選んで歌ってるんですけど。そっちも聴いていただきたいです。…プロモーションみたいになっちゃいましたね。すいません。
 
司会:年をとったらどういうじいさんになりたいですか?
假:お名前を申し上げてよろしいんですか?…では私から。『美輪明宏さん』(客、やっぱり&拍手)
石:自分の生き方を貫いているじじいはかっこいいですよ。人間年をとるということはすごく偉大なことだと思うんですよ。昨日、和田アキ子さんと二人のビッグショーのトリをやったんですけど、その中に白髪の方とかいらっしゃるんですよ。その人の回りがね、すごい大人の空間になってるんですよ。
假:パリに行くとみんなおしゃれですよ。おじいちゃんもおばあちゃんも、きれいな色の服を着られるんですよね。
石:うちの親父とおふくろをみていると、女の人の方がエンジョイしていますよ。男の人の方がだらしない。電話するとおふくろは「ワインパーティをやるの」って言ったりしてるんですけど、おやじのほうは「のんでんだぁ」って。散歩でもして来いよって言うと「いいよ、脚いてぇから」とか言うんですよ。
假:男の人って仕事と野球とお酒ぐらいしかないんですよ。デートするときはコンサートとかいっぱい行くんだけど、結婚すると何もしなくなる。よくないですよね。
石:俺、こないだ泣いちゃった事件があるんです。あのね、親父とおふくろが俺の前でダンスしてくれたんですよ。親父ってああ見えてもシャイなんですよ。ワイドショートかでちゃいますけど、断り切れなくて出ちゃう感じなんですよ。そのシャイな親父がね、俺の前でおふくろの腰に手を回して踊ってくれたの。それも俺の歌で。あ「あ、いいなぁ」と思ってね。
司会:それは石井さんのどういう曲だったんですか?
石:WAVEって曲なんですけどね。で、今回のISHYSTで歌おうと思って、入れたんですけど。
假:とってもすばらしいですね。
石:ずっと一緒にいてね、そういうのもアリなんだなと。俺は別れちゃったけど、正直うらやましいと思った。
假:会場でお二人にお目にかかってご挨拶したりするんですけど、ほんと楽しそうでいらしてねぇ。石井さん、親孝行ですよねぇ。
石:そんなことないですよ。一緒に暮らしてる人の方がよっぽど親孝行ですよ。俺は一緒に暮らせないから、せめて自分が必死になってやってるのをみせるぐらいのことしかないですから。一緒に暮らしてる方の方がたいへんですよ。
司会:ということで、皆さんも安心して年を重ねていただきたいですよね。
石:そういうまとめ方をしますか。

ということで、この後お二人が抽選して、コーセーの化粧品や、香水(石井氏)、本(假屋崎先生)などのプレゼントがあり、トークショウは無事幕を下ろしたのでした。おわり。


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