コーセーアンニュアージュトーク

at 恵比寿ガーデンホール in Feb. 25, 2003

PART 1

 恵比寿ガーデンプレイスの奧にある『ガーデンホール』は、800人を収容する小規模ホール、今日は石井竜也さんと華道家の假屋崎省吾さんとのトークショウ、副題が『美しきものの伝説』ということで、どんなお話が聞けるのか楽しみにされている客さんたちが、開場時間前からおホールの回りをぐるりと取り囲んでいます。

 会場に入ると舞台にはすでに椅子がセッティングされています。それも石井さんの作品『会話する渦巻』が2脚、中央奧には同じシリーズのテーブル、そしてその上には大きな花器、庭園にでも置かれていそうな苔むした感じがすてきです。盛られているのはオレンジのバラ、そして黄色いミモザ、とても春らしく華やかな印象のアレンジ、もちろんこれは假屋崎先生の手になるものに違いありません。

 このトークショウは今回が146回目ということで、まずは過去の出演者のスライドがギターロックな曲に載せて紹介されました。なかには見覚えのあるパーマ、総理大臣になる前の小泉さんの姿も映っていました。

 そして司会の女性(マークさんとおっしゃいました)が登場、肩からなにやらバッグが…なんと假屋崎先生のお顔がプリントされているトートバッグです! どうやら先生の持ち物らしい。場内から笑いが巻き起こります。そのまま「ゲスト、石井竜也さんです」と呼び入れます。

 上手から登場した石井さんは上から黒Tの上に黒革のジャケット(襟?に刺繍つき)、白地に黒の縦ストライプの入った細身のパンツ、黒ブーツといういでたち。でも妙に猫背なのが気になる。と思ったら背中から白いハンガーを取り出します!もう場内爆笑。「なんか変だと思って…1時間前から着てたんですけど」ってツカミはオッケー?

 なかなか假屋崎先生を呼び入れようとしないマークさんに、「俺、いつ座ればいいんですか?」(会場、笑い)
 ようやく呼び入れられた假屋崎省吾先生は、ロングヘアーをカチューシャで上げ、黒のスーツをお召しです。さらに、今日は黒のシルクオーガンジーのショールつき! 出てきた瞬間に会場で起こった笑いに「なんで笑うのかしら?」とおっしゃり、さらに笑いを誘う。だって、かわいらしいんだもん、なんだか。男性に言うのは失礼だけれど、假屋崎先生ってプリティなんですよね、物腰が。

 ようやく座れるとなった石井氏、「ぅぉあ〜っ」という声と共に着席。おやぢだよ、それじゃ。石井氏&假屋崎先生にマークさんが「まずはお二人のなれそめを」って結婚式じゃないんだから(笑)。

 なれそめという言葉に苦笑しながら石井氏が言うには
「僕のファンクラブの会報に載せるのに、『誰かお花をアレンジしてくださる方はいないですかね』ということで紹介していただいたのが假屋崎先生で、そのとき生けてもらったアンセリウムがとてもすごくて『オブジェみたいだな』と思って。で、この方と…したいな(会場、笑い)、ぜひ…やってみたい(会場、再び笑い)と思いまして、アートヌードという、2m2,30あるトルソーに僕が絵を描いて、そこへ先生がお花を生けるというコンサートをやったんですね。それが始まりです」

 それを合図にステージのホリゾンドにアートヌードのスライドが映し出されます。ところがスライドの切り替えが早すぎたり、トルソーの首から上が見切れて假屋崎先生のお花が映らなかったり、各工程を説明していった最後の仕上がりのスライド(12/24)が、制作中のスライド(とは別のオブジェだったりして、とってもぎくしゃく(笑)。おまけに一通り説明した後は「こういうお二人にお話ししていただきます。よろしくお願いします」とさっさとハケるマークさん…ありゃりゃ。

 「紙くずのように捨てられたみたいに始まりましたけど」となんとかトークにつなげようとする石井氏です。

【まずはアートヌードの話】

石:あのときどうでしたか? 先生のなかでの、その、ショックというか…
假:ショックですか? うーん、これでいいのかな、こんなのでいいのかな?と思いました。
石:人の前でなにかをする、人に自分の内面を提示する職業の人というのは、すべからくそういう感覚ってあると思うんですよね。『どうだ!これ』ってやってる人はいないと思いますね。そういう人がいたらその人は「バカだ」と思いますね。
假:でも石井さんはそうじゃないんですか?
石:先生、それは間接的に俺をバカだって言ってるんですか。…いや僕はね、あのとき自分が絵を描いただけでは、あの作品はできあがってない、という感覚になったんですよ。俺の絵だけでは、まだ作品ができあがってないと思ったんですよね。
假:それは音楽があって、流れてましたでしょ?即興演奏が。そして石井さんの絵があって、私のお花があって、って3つがあって、その時間・空間を共有するものですから。
石:そうですよね。だから赤れんが倉庫で並べたときも「いいのかな、こんな中途半端なの並べちゃって」って思ったんですよ。自分の作品というには時間をかけて書いているわけじゃないし。
假:そんなことないですよ。あれはあれで今の石井さんを表している独立した作品なんですよ。それを皆さんがご覧になって、「あのときはああだった」とか思い出してできていくものなんですよ。
石:そうですか?
假:そぉうですよ。作っちゃうとあとは客観的に見るしかなくなるんですよ。
石:そこへいくと生け花というのは、瞬間の芸術だと僕は思うんですけど。お花っていうのはどんどん違うものになって行くじゃないですか。
假:そう、どんどん開いていって、これだって(と中央のお花を指す)どんどん開いて、明日には散っちゃうものもありますからね。
石:僕ね、あのときね、思ったんですよ。あの瞬間の命の爆発っていうのは、絵なんかよりよっぽどすごい。「今、命が生きているんだ」っていう感動があったんですよ。
假:お花は生ものなので、その時にしかないものなんですね。そして花それだけでは成立しないんです。このお花も別のものに生けたら全然別のものになってしまう。この花器があって、石井さんのテーブルがあって、私たち2人がいて、見に来てくださるお客さんがいて、っていう環境空間、出会いと組み合わせでできあがっているものだと、私は思っているんですけど。
石:なるほどねぇ。僕あんとき(NUDE展)、赤れんが倉庫の2号館で先生がやってらした展示をこっそり見に行ったんですよ。ぼくの作品も使ってくださるってこともあって。そんで見たら、なんか近寄れないな、なんかこわいな、っていう情念を感じたんですよ。今まで僕、先生の作品を見て「きれいだなぁ」と思うことはあっても、「近寄れないな」っていう情念までは感じたことがなかったんですよ。あれにはびっくりしました。
假:ここだけの話で申し上げますとね、あれ7時から始めまして11時に開店しますでしょ?それで、ぜんぶやらなきゃいけない(2号館全7カ所にクリスマスツリーをイメージしたアレンジを展示)ものですから、私、トリを飾ろうと思いまして、(あれを)最後にしましたの。そしたら30分しかなかったんですよ。それにそのときまだ石井さんの作品を見ておりませんでしたので。「赤い色で塗ります」とおっしゃっていたんでそれは知っていたんですけど。
石:そう、できたのがぎりぎりだったんでね。大きな女体(トルソー)を朱赤に塗って、そんで磨いてもらったんですよ、塗装してから。
假:そう、漆のような、漆器みたいなね。
石:朱塗りの漆器みたいな寝。あれ僕も挑戦だったんですよ。『假屋崎省吾、これをどう料理する』みたいな。
假:本当に時間がなくて申し訳なかったんですけど。
石:さっき30分って聞いてびっくりしたんですけど。結局、時間じゃないんですね。その人の考えてることとか全てを振り向けて集中する、そのことが人を感動させるんですね。
假:で、大きさでもないんですよ。みなさん大きい方がすごいとお思いになってらっしゃるでしょうけどそんなことない。この部屋いっぱいの大きさのものでも、こんなちっちゃいものでも、写真に撮って見開きにしたら同じですもの。
石:あ、ほんとーだ!(客、笑い) 確かにジュエリーなんてほんとすごい細工ですもんね。でも、なんであんなに高いんですかね。
假:でも値段じゃないんですよ。
石:ジュエリーと言えば、先生、その指輪は! 本物ですか? 20カラットぐらいあるんじゃないんですか?
假:今日はステージですので。これはね…やめときます。よけいなこというと怒られちゃう。石井さんこそ、このデザインがすばらしいわ(と立ち上がって石井氏の指輪を指す)。
石:先生、言えば言うほど惨めになるだけですから。(客、笑い)
假:でもね、ほんとに値段じゃないんですよ。うつくしいものはすばらしいんですよ。欲しいなと思うと、いつの間にかうちにあるんですよ。
石:先生、それは泥棒なんじゃないんですか?
假:そうじゃないんです。欲しい、って念を込めるといつのまにか自分のものになっちゃうんです。
石:だって、欲しいって思ったって買えないもんねぇ(客に振る)。
假:そうじゃないんですよ。欲しい欲しい、あれがやってみたいって思って思って思い過ぎちゃうぐらいに思ってると自分のものになるんです。そうならないのは皆さんの念が足りないんだと思いますよ。
石:念ですか。どうやってやるんですか?こう念を込めるっていうのは。
假:それは人に見せるもんじゃないんです。(客、笑い)
石;先生が「値段じゃない」っておっしゃるのは、俺わかるような気がするんですよ。っていうのはね、俺映画好きじゃないですか。そんで大画面で見たくって、プラズマディスプレーの出始めの頃、たしか250万ぐらいしたのかな? そんとき買ったんですよ。
假:あれは壁にもかけられるのよね。
石:いや、そんときはまだ壁に掛けられるものではなかったんですけど、重量がすごくって。今は軽いのが出てて壁にも掛けられるんですけど。出始めの頃なんでまだ高くて、今は1/3ぐらいじゃないですか?80万ぐらいで買えますから。で、いまだにローンを払ってるんです(客、笑い)。それをなんで買ったかというと、大画面でこう(画面に張り付くまね)して見たかったんです(客、笑い)。
假:すばらしいじゃないですか。私も欲しいけど未だに持っていませんもの。
石:先生、これ(ダイヤモンドの指輪を指す)を持っていてプラズマディスプレーもってないってことはないでしょう。
假:欲しいっていっても二番目にほしいからなんでしょうね。
石:そんな先生、知ってますよぉ(語尾上げ)。

と、ここからスライドによる假屋崎先生『お宅訪問』へと続くのであった。。。

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