石井竜也 SYMPHONY CONCERT D-DREAM
DRAGON DREAM ORCHESTRA 2001



12/17(月)、12/18(火)公演 一観客「身勝手」レポート part1
東京 Bunkamura オーチャードホール
   指揮者:稲田 康、オーケストラ:東京ユニバーサルフィルハーモニー管弦楽団
   ゲスト:17日--チェン・ミン(二胡) coba (アコーディオン)
     18日--チェン・ミン(二胡) 東儀秀樹(雅楽)


ご注意:
 東京公演は12月17,18日と2日間行われました。レポートは2日分をまとめて書いています。楽曲や編成が異なるところは、1日目、2日目と分けて表記、MCは基本的に17日分を、曲順もゲストによって若干違いましたが、17日を標準にしています。


開演前、会場にはいると小鳥の声と水の流れが出迎えてくれる。ステージの背後から楽器が音を出しているのが聞こえてくる。
ヨーロッパの教会の鐘楼群のように、組み合わされた鐘の音が開始の合図である。ほどなくオーケストラがしずしずと入場、団員たちに続いてコンサートマスター、そして指揮者が入ってきた。指揮者の合図でコンサートマスターが基準音を出す。チューニング(音合わせ)が始まった。

今回のコンサートがふつうのクラシックコンサートと違う点はいくつかある。まずはライティングである。通常クラシックコンサートでは、ステージのライトは終始明るくつけられているのがふつうである。しかし今回は薄暗く、オペラなどオーケストラピットで演奏するときのように、演奏者の譜面台にはライトが仕込まれている。

その代わり、背後の壁には細長い布が数本下がり、下からブルーにライトアップされている。ステージ後方左右には『Tone』のオブジェも見える。今回改めて気づいたのだが、あのオブジェは、石井本人が言うように『ト音記号』を模しているだけでなく、『四分休符』にもどことなく似ているのだ。

 もうひとつは編成。今回のオーケストラは、ヴァイオリンやビオラなどのストリングスと、フルートやオーボエといった木管楽器、それにパーカッションで成り立っている。トランペットやホルンなどといった金管楽器は編成には入っていない。それだけ静かな曲ばかりを演奏するということなのだろう。
 とはいえ50人近くの大所帯、ディナーショウで演奏するような十数人の小編成とは全く違って、堂々とした景色だ。これだけの奏者の音を感じられると思うと次第に胸が高鳴ってくる。




NOSTALGIE

秘やかな小川のせせらぎが続くなか、指揮者がポジションに着く。ヴァイオリンの奏でる低音が伝わってくる。【NOSTALGIE】の始まりである。
最初のテーマがビオラやチェロの中低音楽器ではなく、ヴァイオリンのユニゾンであることに驚く。2度目のテーマを二胡(チェンミン)が引き継ぎ、チェロが支える
音圧に背筋がぞくりと逆立つ。

手紙

観客の拍手が鳴りやまぬまま、指揮者が再び手を挙げる。ヴァイオリンと二胡の奏でるメロディで即座にわかる、『手紙』だと。
前奏のなか下手から石井が登場し一礼、ひときわ高い拍手が沸く。中央のマイクの前に立つ。ピアノの伴奏にのせて歌い出す。
秘やかにコンガがリズムをとっている
♪愛は自分のなかにある〜、の後半、シンバルのクレッシェンドでもう感極まりそうになる。
曲の高まりにつれて盛り上がってゆくストリングスが、♪片隅の記憶さえ、の直前ふっ、と息をひそめる。その瞬間、耳が惹きつけられる。
曲の緩急に合わせて揺すられる感覚は、本当に心地よい。

ひだまり

再び流れる水のささやきが聞こえ、ピアノの秘やかなつま弾き、頭の上をヴァイオリンのささやきがかすめてゆく。
それらは次第に大きくなり、ティンパニのロールが高まる。
一瞬の静寂ののち、それはピアノの低音へと引き継がれる。徐々にのぼるピアノ、そして秘やかに鳴らされる鐘
ここまででもう目が潤んでくる。鐘の鳴らし方あまりに優しいから。
歌い出しの声が優しい。それを支えるピアノの伴奏、うつくしくて震えてしまう。
ダ・カーポからの旋律はヴァイオリンが引き継ぐ。ストリングスに二胡が入り、優しいが力強さを感じる旋律を奏でてゆく。
バックはオレンジの光に満たされている。
2つ目のテーマ(♪もう一度)からは中低音(チェロ)が石井の歌声を支え高音(ヴァイオリン)が水の飛沫のようにはじける。ちょっとした遊びが感じられる。
そして再び最初のテーマ(♪もしも、いつか)からは石井の声をチェロとコントラバスがバックアップする。
ユニゾンで奏でられる低音の音圧に背筋が逆立つのがわかる。耳で聴くのではない、身体全体で聴いているのだ。
♪青い青い、からは二胡がインサートし激しく高まってゆく。ついにトップに上りつめた瞬間、波が砕けるようにふっと旋律は舞い降りてゆく
♪今も、いまも
、からは演奏はブレイク、ただ二胡だけが石井の声に寄り添う。その優しさにいつのまにか涙が伝う。

≪MC(メンバー紹介)≫

「今演奏した3曲は、僕が作った映画『河童』から『LEGEND』(実はNOSTALGIE)、『手紙』、『ひだまり』をお送りしました。
映画というのはさびしいもんで、最初はスタッフやキャスト、全部で120人ぐらいいるんですが、それぞれ自分の担当するシーンが終わるとどんどん消えてゆくんです。で、気がつくと最後は自分とフィルムを編集してくれるスタッフと2人きりになってしまうという。
中にはその寂しさに耐えきれなくて、その瞬間に会いたくて、また撮る人もいるんでしょう。
僕はACRIという映画も撮りまして、そのせいで莫大な借金を背負いまして(客:笑い)。今ここにいるのが奇跡に近いわけで、途中でどこかに消えていっても不思議はなかったというぐらいだったんですが。
そのACRIという映画は海をテーマにしたものなんですが。その七転八倒したACRI(客:笑い)から、【LEGEND】【水の星】そして僕がこのあいだ出したマキシシングルから【BELIEVE ME】の3曲をお送りしたいと思います。」

LEGEND

始めに聞こえるのは波の音、そのなかをチェロが旋律を奏でる。ストリングスの中音から下の音には、本当に揺さぶられる。
身体全体が共鳴器にでもなったようで、なにやらただならない感じがする。
そのテーマを今度はヴァイオリンの高音が引き継ぐ。『宿命』を感じさせるメロディである。対旋律をオーボエが奏で、フルートが速い6連符で上下する。
自分が大きなうねりの中に入っていくのがわかる。

水の星

ボートうち寄せる波の音、そして海鳥の声がする。ギターとコンガのみの伴奏で、静かに歌い出される。
旋律が、相似形をなして次第に高まっていく形のこの曲に、『寄せては退いてゆく波』のイメージを重ね合わせる。
1番を歌い終わっての間奏部分は、チェロのユニゾンによる旋律の繰り返しである。
中低音の『音』に、直接身体を触られているようで、肌がビリビリする。全身粟立つが、決して不快ではなく、ぞくぞくする快感である。

BELIEVE ME

波音の中つむぎだされるコンガのリズム、そのうえにチェロが刻むリズムが重なる。
旋律はあくまでゆったりと、伴奏はリズミカルに、ときにちょっとはじけながら歌声をリードする。
マキシシングルに納められているものでは、石井が裏声で歌っている部分(♪I love you, really love you...)を木管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット)がなぞる。CDでは、足許ではじける小波のように感じていた旋律が、もっと遠くから流れ着いてきて、砂の中に吸い込まれていく穏やかな波のように感じられて、その印象の違いに驚く。


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