TATUYA ISHII 2000 ART PERFORMANCE ART NUDE in Zepp Tokyo

12月24日(最終日)

−アートパフォーマンス編−(第二部)

 今夜は今までの公演と違って、ボディ(女性像)が前進しているだけではなく、上手下手の端それぞれにマイクと椅子が用意されている。どうやら特別ゲストがいるらしい。ミュージシャンが登場すると、上手席には黒い表紙の本(ファイル?)を持ったマリーザが、下手席には胡弓奏者チェンミンが座る。今夜はインプロビゼーションに胡弓朗読が加わるのだ。
 登場した石井は黒のジップアップジャケット&エプロン姿。エプロンにも、上着にも点々と絵の具が付着している。とくに上着の右裾のところは青やら白やら赤やら何種類もの色がなすりつけられている。ここに至るまでの各地での絵の具が染みついたその姿に、あらためて『描き続けてきた』重みを感じる。
 せかせかと絵の具のところに行く石井、カップにをとると刷毛で左肩(客席から見て右)から塗り始める。
 バックではつまびくようなギターソロが始まる。
 あっというまに腕を塗りつぶし、左の腰から尻にかけてもで塗ってゆく。ボディを左に回転させると左の肩胛骨を塗りさらに右へ広がったは右肩胛骨の下の部分をも覆った。そして右尻、右太ももの後ろ側までが赤く彩られた。これで背中の三分の二が赤く染まったことになる。
 右の太もも脇から前を塗り残したままボディを右回転させると先ほどは塗らなかった左の乳房を赤く染めてゆく。さらに刷毛は下へ、左尻へと進んでゆく。
 ギターに胡弓が加わり、さらにソプラノサックスが入る。どことなく『朝』を感じるすがすがしいメロディが紡ぎ出されてゆく。
 を塗り終えボディを回転させた石井は今度は緑色を手にする。そこへ水を混ぜると太筆をとった。筆での絵の具を混ぜつつボディに近づく石井、正面を向いたボディの下腹部から右の内股にかけてを緑色に塗る。そのまましゃがみこむとそのまま左太ももへと塗り進む。
 胡弓、ソプラノサックス、ギターに加えシンバルがインサート、柔らかくゆっくりした曲調に変化が訪れる。
 左太ももをで塗りつぶした石井は、左の乳房の下を塗る。そこから右脇、後ろ側へ塗り進む。腕の下(断面)から腕の後ろへ右腰から尻へ、の領域が広がってゆく。右脇のあたりから太ももの側面にかけても塗る、太もものむら塗りのところも全面で塗りつぶす。ただ右の乳房は白いままに残されている。
 ピアノと振りものの上にマリーザの朗読がかぶさる。Silent Night, Holy Night...『きよしこの夜』の朗読であることに気づく。
 丸筆に絵の具を浸しこねる石井、逆手で叩きつけるように塗る。というよりはピンクに近いマゼンタという感じだ。次いでいところに水をつけていく。マゼンタのついた筆で腰、太ももをたたく。
 フルートの長音がインサートしリズムがたゆたう。
 左側面から背中の中央部にかけてををとって水をつけて置いてゆく。背中は真っ赤に染まっている。たっぷり水をふくませた太筆を押しつけるようにして色を置いてゆく、筆からしみ出した絵の具が盛大に滴ってゆく。そうしておいてまた絵の具を足す石井。左脇から太ももを逆手で叩きつけるように塗る。その上からさらに筆で水をつける。滴る赤
 再びのカップを手にした石井、カップにをつぎ足す。丸筆でこね右尻の上部、右脇後ろ側、に叩いてなすりつける。筆で水をとりその上からさらに叩く。緑色が尻を伝わって滴ってゆく。
 ずっと聞こえていたピアノの音が止み、ギターの音がしはじめる。なんだかフラメンコのような感じである。
 カップにをとった石井、用意した水を垂らしこねる。
 ギターがどんどん力強くなる。まるでアルハンブラのようなかき鳴らす曲へと変貌してゆく。
 のカップにを足す、先ほどより少し明るい緑色ができあがる。
 トライアングルがリズムを刻み、テナーサックスの低音が腹に響く。そしてマリーザの声…。
 できあがった明るめの緑を、右半身のに塗った部分の上へ置いてゆく。大量に水を混ぜ濃度が低いためか盛大に滴ってゆく。絵の具をたっぷり含ませた筆を右腰へ、胸へ押しつけ押しつけ、の上に薄い緑の筋が幾本もできる。
 腰の後ろ側へ向かって筆を振り下ろす。の上にのしぶきが飛ぶ。回して左太ももに叩きつける。過激な行為である。
 コンガがインサートしてリズムをひっぱる。続いて胡弓も加わる。波のような流れを感じる。
 さらに筆を振ってしぶきを飛ばし続ける石井、後ろに左右に歩きながらあちこちで筆を振る。腰に1発、股間に2発…。今度は筆に水を含ませると背中の上からそっと垂らしてゆく。ゆっくり押しつけるようにしながら絵の具を滴らせる。それが背中の稜線を伝わって尻へと垂れてゆく。なんだか背中がむずがゆい。
 少し離れて左右に歩く石井、正面に立つことしばし。ボディを回しまた離れ、腕組みをして見る。ボディに向かって手をかざしつつ左右に歩く。全体のバランスを計っているようだ。
 ボディは大きくに塗り分けられている。左半身は、右半身は、しかし右乳房の上と、首の辺りにはまだ色が着けられていない。これからどうなるのか。
 石井がカップに絵の具をとった、そのまま水を混ぜている。丸筆で水をとってこねる。近づくと塗り残してあった右の乳房に色を置く。金色である。そのまま右肩へ筆をのばす。鎖骨のあたりに押しつけると大量の金色が脇を伝わって降りていった。同じようにして鎖骨の上に筆を押しつける。滴った金色がボディに幾筋ものラインを描く。
 右肩を後にして左肩へ。押しつけ滴り押しつけ滴り、しかし滴り具合に満足がいかなかったのであろう。一度ちょっと下がって具合を確認した石井は、再びボディに近づくと、左肩に絵の具をカップごと空けてしまった。その金色はボディに半分石井に半分降りかかる。彼のズボンの左脚、膝から下の部分に大量の金色が付着する。
 さらに金色をとると首の後ろ側部分に滴らせる。後ろ側も右から左側までをずっと滴らせ続ける。ボディは今や地色のの上に幾筋もの金色が滑り落ち、まるで唐三彩の釉薬の流れのように交ざり合っている。
 ソプラノサックスの旋律にギターが絡み、さらにマリーザの朗読が交差する。やはりクリスマスソングの歌詞のようである。
 ボディを回しつつ左右に歩く石井。あと塗り残したのは首の回りであるが、ここはどう装飾されるのであろうか。
 カップにをとった石井、丸筆につけると首の内側を塗る。そこから首の張りだし部分にかけて塗ってゆく。白いボディにの絵の具、遠目にはどう変化したのか定かでない。さらにカップに水を入れこねる。粘度の下がった絵の具を首筋からポタポタ滴らせてゆく。
 音楽はピアノソロへと収束し辺りは静まってゆく。
 首から肩のあたりにかけて先ほどの金色の上にを置いてゆく。乳房の脇を通ってが垂れてゆく。左肩に押しつけ、首の後ろを叩く。大量のがボディを伝わってゆく。
 いったん途切れたかに見えた音楽が力強く復活する。マリーザの朗読が加わる。
 絵の具のカップを降ろし左右に歩く石井。ボディを回して出来具合を確認する。
 バックには胡弓がインサートしてくる。
 金色を左脇のしたあたりに押しつけて垂らす、さらに後ろ側も垂らす。カップをに持ち替え今度は左太もものの部分に向かって筆を振る。の上にのしぶきが飛ぶ。のカップを持ったままボディを回す、右肩に押しつけ垂らす。さらに左右に回す。今度は右腕の下(断面)を下から筆でつつく。
 またカップを持ち替え金色を足してこねる。それを右腰の上部にあてて滴らせる。
 力強く聞こえた曲もいつのまにか木琴の音だけになっている。それもだんだん遅くなってゆく。
 金色で脚の後ろ上部、尻の上、右腰、左正面へと筆を振ってしぶきを散らす。さらに尻にももう一度垂らす。ボディの周りを回りながら下半身へ筆を振る石井。
 キーボードが加わりリズムを刻み始める。タータタータというシンコペーションである。
 細筆を手にした石井、左の尻側面に金色でサインをした。

 假屋崎氏紹介される。以下假屋崎氏と石井氏の会話。
假屋崎:みなさんメリークリスマス(拍手)。このアートヌードは12月5日札幌で始まったわけですが、このの感じ、あのときの大雪を思い出しました。
石井:いや、今日はどうしても首のところをにしたかったんですよ。で、こういうふうになったわけなんですが。では、よろしくお願いします。

 再び始まる音楽、今度は胡弓が旋律を奏でる。それにギターが伴奏している。
 まず高さが1.5mはあろうかという大きな白い枝(というよりは木)を取り出した假屋崎氏、右から挿して少々右側へ傾けて固定する。
 枝はたぶん枯れたものを白く着色しているのであろう、葉はなく雪が付着しそのまま凍った霧氷のような景色を見せている。根本の部分は直径10cm近くあるのではないだろうか、本当に大きなもので、先のほう3分の1のところが細かく枝分かれをして大きく広がっている。
 2本目は左側から前側へ若干倒して挿される。ものが大きいためかその衝撃で先ほど挿した木がさらに右に傾く。3本目は真ん中に挿し後ろ側に傾ける。4本目は左斜め後ろ方向に傾けられる。しかしなかなか良い角度が得られないのか、今度は後ろへと倒し回り込んで根本のところを針金で固定している。
 5本目は右側から左斜め後ろへ傾ける。しかし枝の先同士がぶつかりなかなかうまくゆかない。何度もやり直す假屋崎氏。
 胡弓からフルートへ旋律が遷る。フルートの高い音が響きわたる。
 5本目の枝は真ん中前方に傾ける形にする、だが本当に試行錯誤だ。
 音楽は銅鑼の音が入り、どことなくオリエンタルな感じになっている。それにギターのトレモロが加わり、次いで加わるマリーザの朗読。
 それぞれの枝を固定し、さらに根本を束ねるように固定する假屋崎氏、本当に力がいる作業のようだ。
 いつのまにか音楽がやみ、静寂が訪れる。と、銅鑼の音が聞こえピアノが始まる。
 6本目が用意される。これは中央部にまっすぐ挿されすぐに針金で固定される。題から降りた假屋崎氏、枝のうちの1本を手前右側に微妙に傾ける。
 次第に不協和音が高まりホラーっぽい感じになってゆく。
 右奥に1本、中央後ろに倒して1本、左奥に1本、微妙に角度が変わっているためどれもが別の表情を見せている。中央右寄りに低めの1本、手前右側に大きく張り出した1本、左前に1本。すべて別の方角を向いた木々、その1本1本が他の1本に対して不等辺三角形を成している。
 次いで假屋崎氏が取り出したのは金色に着色された丸い植物、なんと表現したらよいか…。まるでタンポポの綿毛のように中央から放射状に枝が伸びている形をしていてちょっと星のように見えなくもない。直径20センチくらいのそれを白の枝の入り組んだところに止めてゆく。1本の木に1つの植物、合計6個の金の星い枝の中で輝く。
 ピアノは速いリズムを刻み始める。そこにシンバルがインサートして緊張感が高まる。何かが起きそうで不安にさせられる。
 枝に金の星を止め終わった假屋崎氏、今度は同じものを段の左右に1個、右側の階段1段下に1個、そして最後の1個を絵筆やカップの置かれている台の上に置いた。さっきまで単なる台であったものが、金の星が置かれることでオブジェの一部になっている。すばらしい空間演出だ。
 これでお終いかと思いきや、今度はなんとポインセチアが登場した。これを首の中央部分にこれでもかというぐらいに挿す。中央部のビビッドな赤首の白い部分と対照して非常に美しい。
 音の緊張感はさらに増し、3、4、5とギターの跳ねるようなソロへと発展する。そこにシンセサイザーの音が入りいくつかの和音を奏でる。必ずしも心地よい和音ではない。そしてマリーザの声。
 さらにそのうえにガンガン、ガンガンと2拍ずつ入るシンバル、音の渦に巻き込まれる。まだそのうえに胡弓の強い音…。
その音は突如として止んだ。假屋崎氏の生け花が終わったのだ。

石井:もう何も言うことはないです、クリスマスということ以外は。作品名は『イヴの夜の夢』ということで。(客:拍手)
假屋崎:石井さんからのこの時間ですよ。
石井:今夜のこの時間を感じて欲しいですね。アートとフラワーアレンジメントと音楽という。もう、ひとつ終わってますからね、音楽は終わっていますから。みなさん、これ30分ぐらいしかこのままでいないんですよ。運び出さなきゃならないんで仕方ないんですね。だからこのままの形ではいない。こういう催しは日本初ですからね。…このの対比が美しいですよね。
假屋崎:日本初じゃなくて世界初、世界初ということは宇宙初といってもいいですよ。(客:拍手)
石井:普段絵を描いていると自分がイニシアチブをとっているじゃないですか。でもこういうコラボレーションというのはどうなるかわからない。だからいつも手捻りで壺をつくるつもりでやっているんですけれど。やっぱり生き物の力は強いですね。どうもありがとうございました。假屋崎省吾さんでした。(假屋崎氏退場)

 それではもう1曲ぐらいつきあっていただきましょうか。
 来年もいい年がくるといいですね。真剣になりすぎてもだめ、いいかげんになりすぎてもだめ、今の時代は生きるのが難しいですけど。でも僕たちは幸運な時代に生きているんですよ。千九百何年という19世紀、19世紀(第2千年期?)の名残ですからね。それによりかかってずーっときて、そして二千年になって21世紀を迎えられるという。僕たちの子供は22世紀は見られないですからね、僕たちの孫の世代になって初めて22世紀が見られるという、そういう幸運な時期を迎えられるんだということを考えたいですね。
 ソロになって4年間ずっとバックステージを撮ってもらってきまして、今度それがビデオになります。90分のものを3本出そうと思っています。この4年間で人生いろいろある、山あり谷ありということを思いました。だいたい人って「あれは2年前」とか言っちゃいますけど、細かいことは忘れちゃってるんですね。このビデオを見て「4年間と一口に言うけど、実は長い尊い時間なんだな」ということを感じました。

 ギターソロから始まる【愛してる】、途中から胡弓が入ってくる。そして鈴が、間奏ではフルートが、とだんだん増える伴奏が石井を支え、包み込んでいるように見えた。曲が終わって「ありがとうございました。良いお年を」と締める。
 しかし本日はクリスマスバージョン、「クリスマスですからもう1曲ぐらいやりましょうか」ということで假屋崎氏を呼び込む。どうしようかとうろうろする假屋崎氏に段の隅っこを指して「そこに座ったらいいんじゃないですか?」と置かれていた金色の植物をどかす。こぼれている絵の具に逡巡する假屋崎氏。「ついちゃってもいいでしょ?…いや乾いてますから大丈夫です、汚れませんよ」と声をかけ座らせる。  イントロで段に座る假屋崎氏に「とても手持ちぶさたでしょ?」と声をかけつつ「せっかくクリスマスなんだから」と歌うのは【White Cristmas】。客席中央の頭上にあるミラーボールがゆっくり回り会場全体に光をまき散らす。20世紀最後のクリスマスイヴは彼の美声によって締められた。

 カーテンコールには演奏陣を含め全員が登場。一通りメンバー紹介をすると全員礼。最後に「みんな、幸せになろうね」と声をかけ今度こそ本当に退場していった。

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