TATUYA ISHII 2000 ART PERFORMANCE ART NUDE in Zepp Tokyo

12月20日

−アートパフォーマンス編−(第二部)

 今夜のボディは男性像である。広い肩幅、筋張った首筋、割れた腹筋、筋肉質の男性が立っている。
 石井はまずをとった。それをボディの下腹部から塗り始め左側(観客から見て右)へと塗り進める。左脇腹から下がって左内股へ、さらに左背中へ、ボディの左半身はに染まってゆく。筆を叩きつけるようにして塗る石井、ガスガスという音が聞こえてくるようだ。
 フルートが篠笛のような哀調を帯びた長音を響かせる。
 の攻撃は続く。筆跡も露わに胸の中心へと置かれてゆく。水を足すと踏み台に乗って首の中まで塗ってゆく。踏み台を降りボディを回す。左肩胛骨、そして太ももの後ろ側も緑色だ。
 静かに始まった音楽もコンガとギターがインサートしリズムが形作られる。さらにピアノがリズムをとりはじめる。
 カップに絵の具を注いだ石井、濃いめの灰色である。太筆をとり先ほどは塗り残した左肩から背中にかけてを塗り始める。さらに腹を塗り直し左太ももへ、どんどん灰色になってゆく。しかし左脇は白いまま塗り残されている。左太ももから後ろに回って背中から尻へ。後ろ太ももも灰色に塗り込められてゆく。だった左半身はもはやほとんどが灰色となっている。
 前から首、左肩、そして右側も喉から胸の一部にかけても灰色に塗りつぶされる。
 リズミカルだった音楽も激しくなり、ピアノがダンダンと荒いリズムを刻んでいる。コンガの音も高まりそれにギターのトレモロがのっかってちょっと不安定な景色を見せている。
 刷毛をとった石井、カップに絵の具を落とす。右半身から塗り始める、この色はオレンジ?黄色?…いや、金色だ!
 激しかったリズムもいまやシェイカー(?)のみとなる。豆が皮に当たるかん高い金属音が次第に間遠になってゆく。そして女の吐息…。
 右肩から背中、前に回って右太ももへとムラになるように金色を塗ってゆく石井。刷毛の表側と裏側を交互に使うその手先は蝶のようにひらひらと舞っている。
 いったん失速したかに見えた音楽が再びリズムを取り戻す。テナーサックスの低音が腹に響く。
 首の裏側から内側へ、刷毛を叩きつけるように塗っていく石井。その音が客席の中央まで聞こえてくる。丸筆に持ち替えた石井、右脇から背中、そして右尻、首、右脇腹、腹、全く立ち止まらずに点々と金色を置いてゆく。白いボディにむらに塗られた金色は少し赤みを帯び薄いオレンジ色に見える。
 リズムはいつの間にか静まりテナーサックスの低音だけになる。Missingと繰り返す女の声。
 金色を塗り終わり今度はをカップに落とす石井、混ぜ合わせながら少しの間ボディに視線を向けている。近づくと正面からいきなり逆手で襲いかかる(叩きつける)。右胸から首の辺りに縦に振り下ろす。今度は右側から肩胛骨へ。水を混ぜ右腰を叩く。今度は左に回る。
 テナーサックスからギターへ受け継がれた音をカウベルの優しいリズムが支える。女の声がSyncronicityと繰り返す。
 そんな音とは裏腹に激しい行為は続く。首の後ろのはりだし部から縁にかけてがに、さらに左後ろ側もに染まる。濃い灰色の上のが光っている。さらに逆手で叩きつける石井、胸に、首に、首の内側(壺の口)までも逆手で叩いてゆく。
 筆を振る石井、しぶきが飛ぶ。股間に太ももに。さらに水を混ぜて左尻を叩く。もう一度カップにを落とし左半身をどんどん塗ってゆく。左側はほとんどに染まっている。
 リズムはいつのまにかマーチになりシンセサイザーがゆったりとしたメロディを奏でる。
 段を降りて左右に歩く石井、持っていたのカップを段の下に捨てる。丸筆を持ち替えカップにをとり、こね回しながらボディを見る。まず右胸から始まり左半身のとの輪郭線をとりながら金色を封じ込めてゆく。しかしわずかに金色の縁が残っている部分もある。そのまま下までいくとカップに水を混ぜる。右鎖骨部分から上は塗らぬままボディを回す。肩胛骨から背中、尻へと塗ってゆく。さらに水を混ぜ絵の具をとる。
 右尻から太ももへとを塗り広げるが右脇部分は塗っていない。右前と後ろだけがで鎖骨から上、そして右肩から脇にかけては先ほどの金色が覗いている。
 ギターのトレモロに息混じりのテナーサックスが交ざり背中をかすめてゆく。さらに重なる女の吐息、とてもエロティックだ。
 塗り残した右脇のところを、今度は逆手で叩く。い筆の跡が生々しい。右の首の内側にもが置かれる。さらに絵の具をとり水を混ぜる。ボディに近づくと今度は右腰から右肩、右尻と叩きつけてゆく。水を混ぜ今度は筆を振る石井、腕の下側にしぶきが飛ぶ。右肩も叩く。そして背中も。
 ピアノとテナーサックスへと遷った音に交じる女の吐息。そしてギターがインサート。
 段を降りて汗を拭く石井、置かれていた飲み物に口をつけるがその目はボディから離れない。絵の具のボトルをとりあげる。である。そのまま筆につけると右肩の辺りから擦り付ける。彼の手はさらに肩から尻、首の内側へと伸びる。そのまま首、鎖骨の上まで塗り込めてゆく。
 ギターのトレモロにフルート、音が胸に響く。ちょっとスペイン調に思えるのはパーカッションのせいか。
 前掛けで手を拭く石井。丸筆をとり、水をつけ首の上を逆手で叩く。水だけでもみるみるくなってゆく。絵の具のしずくがボディの上を走って垂れてゆく。
 段を降りボディを見つめる、左右へ歩く。上着で手を拭く。見つめる。動く。戻ってきて腕組みをする。どう進むか悩んでいるようだ。
 フルート、ギター、パーカッションのアンサンブルはだんだんリズミカルになる。
 いカップをとり塗りつける石井、さらにを足す。ボディを回し後ろ側を向けると右脇から尻にかけて先に塗った金色が見える。また逆手でを塗る。前に戻し右腕の断面も塗る。
 いったん段を降りボディを見つめる石井。すっと近づくと今度はボディの右側へ。く塗られた左腕の断面部をく染める。そのまま腕の先の部分へと広げる。ボディの左側の赤のアクセントが施される。
 いつのまにか音楽が静まりギターソロへと戻っている。
 首の右張りだし部にが塗られ首の上部分も赤く染まる。そのままかがむと右太ももの下部分も塗る。立ち上がった石井のついた息をヘッドセットマイクが拾う。
 また絵の具をとりにゆく。そのまま手でとって右肩に塗ってゆく。の上に置かれたのは橙色(?)である。の上に擦りつけられたため下のが覗く、色が混ざり合ってもいるようだ。その手は右胸、右腹部と転々と撫でてゆく。ハイライトが加わり一色だった右半身に表情が現れる。擦りつけた右手は赤く染まっている。
 女の吐息にピアノ、シンバルが加わる。ゆっくりとしたリズムが流れる。
 段を降りた石井、右手をタオルで拭きつつずっとボディを見ている。近づいて右太ももをちょっと塗り、ボディを回転させて後ろ側を眺める。
 ソプラノサックスのメロディが加わり朝を感じさせるすがすがしい曲が流れる。
 石井はまだ見ている。絵の具のボトルを手にし、丸筆をとるがまだ描き始めない。少し離れまだ見ている。ちょっと右に首を傾げると宙にむかって筆を動かす。シミュレーションしているようだ。
 ようやく決心がついたのかボディに近づくと左腰の辺りに絵の具を置く。である。いボディにの点が鮮やかに浮かび上がる。次いで右へ動きボディの左胸のあたりに大きくドットを描いた。左胸から腰、尻へとどんどん増えてゆく斑点、大きなものは2,30cm、小さなものでも10cm程度、曲玉のように曲がっていたり縦長だったり丸だったりとひとつとして同じ表情のものはない。一点一点太筆で塗り込めるようにして進んでゆく。とうとう太ももから後ろへ、尻から右肩胛骨まで大小のドットが広がった。
 一通り斑点を描き終わった彼は、今度は筆に水をつけ先ほど描いたい斑点の上に置いてゆく。尻から前へ、胸までいってまた尻へ。斑点自体に流れができてゆく。
 いつのまにか音楽はやみ、静寂が訪れる。しばしの静寂のあとギターのつまびく音が聞こえ始める。弦の弾かれる音がする。
 背中の真ん中から始まり右腕の後ろ側へ、い斑点の上に逆手で叩きつけられる筆。その勢いにボディの上を絵の具が流れる。突く、垂れる、突く、垂れるの繰り返し。そしてその手は左胸から下腹部へと進んでゆく。一転して今度は首の裏側に点々と、そして左胸にひとつ、首の張りだし部分へ。一通り終わったのだろうか、ボディを回して正面を向かせる石井。
 ピッコロが高い音を響かせシェイカーが歯裂音をだす。ギターのトレモロとシンセサイザーのサーというホワイトノイズが伴奏を務める。
 その間に細筆を手にとり左腕側面にサインをする石井。おじぎをすると汗を拭いた。
 ソデから登場した假屋崎氏、石井をねぎらう。
假屋崎:おつかれさまでした。
石井:びしょびしょになってしまいました。今回はという3色を使うということで、いつもソデで見せていただくんですけども。でも実際にどうなるのかはできあがってみないと分からないですから。それではお願いします。

 今度は假屋崎氏によるフラワーアレンジメントのパフォーマンスである。しかしステージに上がった假屋崎氏がまずしたことは、石井が捨てた絵の具のカップを台の上に片づけることであった(笑)。
 假屋崎氏がまず手にしたのは、長さが1mをゆうに超えようという赤い棒状の枝であった。長い枝を数本束にし根本を別の枝に縛ってある。まずは右側から左に傾けるように挿す。2本目は右側に傾けるように、3本目は真ん中へ。放射状に広がってゆく赤い枝たち。
 カカッカカッ、カッカッという拍子木のようなリズムにフルートのメロディ、それにギターが加わりリズミカルに転がる。
 4本目は左から後ろ側へ向かって挿され針金でまとめられた。さらに左の方に挿して下に傾かせる。これで首の周りを赤い棒が取り囲んだ感じになる。今度は同じ棒状の枝ではあるがに着色されたものを取り出すと、右側へ、そして右前方へと押す。2本目は左側へ。
 パーカッションは速いパッセージをつむぎだす。その上にのるゆったりとしたメロディ。
 どんどん挿されていくの枝、そしてどんどん挿しにくくなるようで、力を込めて突き刺している様子が見てとれる。挿そうとしてはやめ、別の方向からむりやり突き刺そうとする。その力強さにやはり男性ならではのパフォーマンスであることを感じる。やがて赤い枝黒い枝の交じったものが押し込まれ首から上は放射状に広がった枝たちで覆われる。ちょっと見針山のような感じもする。つい先ほどまで高さ2mのオブジェとばかり思っていたものが、突如として高さ3mの巨大な物体として認識され、その違いに驚くばかりだ。
 キーボードのリフレイン、ギターのトレモロ、さらにベースが加わりどんどんリズミカルになる音楽たち。
 次いで假屋崎氏は横が50cmはあろうかという赤い葉っぱのついた枝を取り出した。トンボの羽根のように葉のついた枝を中央やや右に傾けて挿す。首の回りに赤いアクセントが施される。
 リズミカルに突っ走っていた音楽も静まり、ピアノの独奏へと収束している。
 次に取り出されたのは白百合であった。いくつもの花のついた百合が首の回りの中央部へと挿されてゆく。1、2、3、その数はどんどん増えてゆく。
 ピアノの独奏の上に女の吐息がかぶさる。ゆったりしたメロディの上に波のようにゆらぐ吐息が静けさを強調する。
 右から左、中央から後ろ、百合は挿され続ける。6、7、8本。の針のような枝の根本に百合の林ができてゆく。前に回った假屋崎氏、今度は茎の短めの百合を数本まとめて喉のところに挿してゆく。
 ピアノの音にテナーサックスの低音が加わり妖しいにおいがしてくる。次いでシンバルの連打が入り音楽が高まっていく。まるで中国の宮廷で行われている儀式のようだ。
 その間も百合はどんどん増えてゆく。首の周りはもはや百合のジャングルである。こころなしか百合独特のむせかえるような芳香が感じられる気さえする。茎を折りとり短くした百合をさらに喉元に挿す。首の回りに密に植わった百合たちの、その上に八方に広がるの枝、1本だけ天を向くように立っている赤い葉、なぜか崇高なものを見た気がして体が震える。
 假屋崎氏のおじぎをきっかけに、石井とのトークが始まる。
石井:前へどうぞ。あのの枝はなんですか?
假屋崎:すすきや葦(よし)、葦(あし)などの茎の枯れたものの葉っぱを落としまして茎だけにして色を着けてあるんです。
石井:ということは廃物利用ですね(客:笑い)。あと、あの赤い葉っぱ、とんぼみたいな。あれはなんですか?
假屋崎:あれは今回のアートヌードのために特別に用意したんですよ。『旅人の木』といいまして、珍しいものです。
石井:あれってもともとあんな色なんですか?
假屋崎:いや、枯れさせたもので色を着けています。要は一度死んでしまったものを再生させる、もう一度命を与えるということですね。
石井:こうやって見ますと、百合が下の方にあるから、あの百合を生かすためにはもっとをもっと下の方に集中させたほうがよかったかなと思いますね。それでは回してみましょう。(石井回す)
假屋崎:この左45度の角度がいいですね。
石井:(回しながら)僕全然見えてないんですよ。後ろ側が見えない(客:笑い)。

首の周りを取り囲む百合の花のと葉のと八方につんつん伸びているの枝、それを支えているボディの、そしての間に覗く金色。石井のアートと假屋崎の生け花の見事にマッチングした瞬間だった。

 假屋崎氏が退場して石井ひとり、最後のMC。
 今まで描いた作品を集めて展示したらおもしろいですよね。なんかの形で展示する機会を設けますので、そのときはぜひ見に来ていただきたいと思います(客:拍手)。
 それから来年なんですけども、僕がソロになってからバックステージをずっととり続けてくれている方がいまして、それこそ何百時間という時間回してるんですが。それが90分のビデオ3本になります。まぁドキュメントフィルムといいいますか。
 僕のやってきたのはエンターテインメントショウで、みんなに夢と希望を与えるものだったわけで、そんなことしてるやつがバックステージを見せるとべきではないとずっと思ってきたんですが。ソロになるということで、思うところもあって。バックステージを見せることによってそれさえも自分の糧、自分の蓄えにするというどん欲さを見せていくことも必要だろうと思って。
 1本目はDRAG-ONの頃で、これは『苦悩編』という感じです。スタッフの中で泣きべそをかいている俺がいたり、覚えられなくて自分の頭をゴンゴン叩いている俺がいたりしています。2本目はTRANSの頃、3本目はドラガジアの辺りを収録しています。『Dragon Spirit』という名前です。ぜひ見ていただきたいと思います。
 それじゃもう1曲ぐらいやっていい気持ちで帰っていただきましょう。『H』というアルバムに入っている【想い】という曲です。
 イントロのギターソロで段にしゃがみこんで歌い始める石井、♪いつまでも〜で立ち上がって歌う。間奏で再びメンバー紹介。歌い終わるとボディを1回転させる。あまりの美しさに鳥肌が立つ。
 「作品名は『炎の雪』、それではよいお年を」と言い残し、エンディングの後奏のなか消えていった。ボディには奥上方からスポットがあたり、前方下からも照明があてられている。そんな中、百合が一輪コロンと揺れた。

 鳴り止まぬ拍手の中、假屋崎氏と再び登場した石井、しっかりと握手をする。そして『来年もまた遊ぼうぜぇ』と言い今度こそ本当に退場していった…。

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