TATUYA ISHII 2000 ART PERFORMANCE ART NUDE in Zepp Tokyo

12月20日

−コンサート編−(第一部)

 今回の石井の衣装は仙台のベルベット地のものとは違っていた。上からグレイがかったサングラスに黒の膝丈まで(上腕部とカフスのところに、腕をくるむように湾曲した黒の樹脂板が鋲で止められているデザイン)の上着に黒シルクのシャツ、黒パンツといういでたちである。(ベルベット生地だと暑いのだろうか?)
 スタートは仙台と同じ曲並びで、【もしも】【予感】【OCEAN ROAD】の3曲、そして1回目のMCへ。
 今年も紅白をケリました(客:笑い)。一人宝塚の石井竜也でございます。今年もやってまいりましたアートヌード、3回目の自慰行為でございます。後ろにある男性のボディに筆を入れるという、入れると言っても変な意味じゃないですよ。
 まったりとしたバラードコンサートですんで、眠くなったりする方もいらっしゃるかと思いますが、ぐっすりとお休みください。今回は『癒し』がテーマでございます。『いやしい』じゃないですよ、癒しでございます(客:笑い)。
 今回は生け花の先生もお呼びしましてですね、假屋崎省吾先生とおっしゃるんですが、僕がペインティングしたあとにお花を飾っていただくわけでございます。二部はお絵かきと生け花とインプロビゼーションのコラボレーションというわけですね。
 こないだファンの人から「二部でやっている曲はなんですか?」って聞かれて「あれはインプロビゼーションです」って言ったらインプロビゼーションって曲名だとおもわれたりしちゃったんですが、インプロビゼーションとは曲名ではございません。『即興演奏』のことでございます。ですからお絵かきと生け花と即興演奏でお楽しみいただくというわけでございます。
 僕がアートヌードというのを考えついたというのは、米米CLUBのときからなんですが、子供の時からやってきた絵と音楽とを結びつけたようなものがやりたいと思っていたんですね。でも米米CLUBの僕のイメージもあるしむずかしいなと思ってました。きっと皆さんの中でも絵と音楽が結びつかないだろうというのもあったんですね。もちろん僕の中でも絵と音楽が結びつかないというのもあったんですが。
 だから「ソロになったらやろう」って思ってまして、LIVE A LIVEというのを初めてやって、それからアートヌードと変わって今年で三回目になるんですが。
 そうそう、もうひとつはね、普段僕たちは製品しか見ていないんですよ。これが産業社会の大きなひずみなんですが、できあがった製品しか見ていなくてそれができてゆく過程を見ていないんですよ。だから作品ができあがってゆくプロセスというのを見せたいなと思って。
 NHKの『芸術日曜ナントカカントカ』(客:笑い)っていうのあるじゃないですか。あれなんかでもずーっと作っていくのを撮っていてなんか見れてしまうじゃないですか。大工さんとかが自分の家を作っているのを一日中見ていても飽きないじゃないですか。技術ってそんなもんだと思うんですが、そういうプロセスを見せていきたいと思うんです。
 ふわーと泣かせてわーっと笑わせてとっとと帰そうっていうコンサートばっかりじゃつまらないじゃないですか。って俺もそういうコンサートやってるんですけど(客:笑い)。泣くっていってもだーって泣くのがいいと思っているでしょうけど、じわーっと涙がこぼれるかこぼれないかぐらいでたまっているのはきれいですよ。
 今日はそういうじわーっとしたコンサートにしたいと思います。

 今年はいろんな事件があってね。こっからですよMCは(客:笑い)。というわけで時事ネタにいってみたいと思います。じじぃネタじゃないですよ(客:笑い)。
 もう17歳がバスジャックしたり爆弾しかけたりしちゃってねぇ。でもあそこまで行かなくてもあるもんですよ。僕の高校時代にも残酷なヤツがいましたよ。カラス捕まえてきてカラスのケツに爆竹つめこんで火つけるヤツとか。
 だいたい17歳っていうのは革命を起こしたい年頃なんですよね。とくに男の子がそうだと思うんですが。だからって人殺してもいいってわけじゃないですけど。いろいろ報道するからエスカレートしていくだけで。ほっとけばいいと思うんですけどね。
 もう政治もねぇ(客:笑い)、水ぶっかけちゃったりして。あの水かけた人は国民の代表ですよ。
 加藤さんもねぇ(客:笑い)、もっと頑張って欲しかったですよね。あそこでぱんっと投票して「じゃ、辞めます」ってさーっといなくなりゃ、来年の選挙で彼の内閣ができたかもしれないんですからね。国民は見ていますよ。ねぇゴアさんぐらいがんばって欲しかったですよねぇ。
 ゴアさんもねぇ、もう負けてるのに頑張っちゃって負けを認めようとしない。彼は池乃めだかみたいな人ですよね。頭つかまれて「わー(腕振り回す)」とかやって、「今日はこれくらいにしといたるわ」って(客:笑い)。
 でもブッシュさんもこれから大変ですよねぇ。だって国民の半分はゴア票を投じた人たちですからね。やりづらいと思いますよね。でもブッシュさんは白人至上主義みたいなところがあるんで、日本にいい政治をしてくれるのか見ていきたいと思いますけれども。
 それからIT、ITってね。森総理自らテレビに出ちゃったりして。だいたい森総理がパソコンに向かうとパソコンがこんなに(手で大きさを示す。ミニハンドタオル大)ちいちゃく見えてしまいますよね(客:笑い)。
 ほんとに森さんもねぇ、いろいろ言っちゃって嫌われたりしていますけど。僕は森さん好きですよ。こないだ後ろを見たらこっから(首の後ろを指す)チャックが見えてましたよ。中はむれて汗びっしょりだったりして。きっと宮沢さんが入ってるんでしょうね。上半身は宮沢さん、下半身は橋龍が入ってると僕はふんでるんですけど。下半身の橋龍が竹刀を持ってたりして…(客:ちらほら笑い)。想像力のたくましい人だけが笑えるというわけでございますね。

 ではそろそろ曲の説明をしたいと思うんですけれども。1曲目は【もしも】という女の人にプロポーズする曲で、2曲目の【予感】が別れの曲、3曲目【Ocean Road】は駆け落ちの曲というわけでございます。ですから結婚して別れて駆け落ちするという人生の縮図のような選曲でございますね。
 次のコーナーはホテルを題材にした曲を集めてみたんですけれども。ホテルというと、入った瞬間に感じる人っているらしいですよね。僕も商売柄全国いろんなホテルを渡り歩いているんですが、米米CLUBのときに1度だけ感じたことがありますね。だいたい部屋にはいるときはぽーんと電気をつけてから入るんですが、たまたますぐに寝たいと思って電気をつけないで入って荷物をおいて自分の前の鏡を見たんですよ。そうしたら俺の後ろに女の人が立っている。思わず「ぅわぁ〜」って声が出ちゃいまして、そしたら、ドアの外にマネージャーがいたんですがそのマネージャーが「てっぺいさん、どうしたんですか?」ってどんどんどんってドアを叩くんですよ。その音に驚いてまた「わぁ〜!」って声出したりして。で、よぉく見たら後ろにかかっている絵だったんですけども(客:笑い)。
 そういうわけでホテルを題材にした曲、聴いてください。

 1曲目は【それぞれの理由】。♪さっきまでの恋人ホテルの部屋に残し、の歌詞は確かにあるが…。ティンバレスの枠のところをスティックで叩くカンカンという金属音が心地よい。ボディには左側から赤いライトが当たっている。間奏部でのボンゴのソロからギターソロ、そしてテナーサックスへと受け渡される。バックの羽根が淡いオレンジのライトに浮かび上がる。
 2曲目は仙台の時とは違う【2918】。曲名からしてホテルのルームナンバーなのだからこちらは疑問の余地がない。後半♪飛び込んでくシーツの海、を♪シーツの海から歌い出しちょっともごもごする石井。そのままごまかし歌いきった。
 車の音、ピアノソロから始まる【Damage】。ピアノからソプラノサックスへ受け渡された旋律の、音の高まりと共にボディには赤と青の編み目パターンのライトが当てられ、背後の羽根にはグリーンの幾何学模様が浮かび上がる。そしてゆっくりとボディをなで回すライトたちに思わず目を奪われる。
 4曲目は【天使の標的】、ステージ奥から放射されるライトが5本、そのうちの下手1本が回らず途中で消されてしまった。
 そして2度目のMCへ。
 来年はツアーがありまして、ゼロシティというツアーなんですけども、21世紀になって日本もアジアも世界も、一度ゼロに戻ってみようよというメッセージも込められているツアーなんですが。セットは映画で言うとブレードランナーみたいなセットにしようかなと思っています。イメージは近未来のアジアということなんで、みなさんもそういう服装できていただくといいなと思います。テーマカラーは白と黒なんですけれどもね。そんな感じでやってみたいと。
 曲もいっぱい書いています。だいたい浮かばないときは2ヶ月も3ヶ月も浮かばないんですけども、浮かぶときっていうのは1日に何十曲も浮かんでくるんですね。その代わり歌ものばっかりじゃなくて、インストものがあったりなんかするんですが。
 僕は3歳の頃から絵を描いていて、絵を描くというのは左脳で描いている感じがするんですよ。「次はこうやってああやって」と左脳を使いながら描いている感じなんですね。だから右脳を使って(曲を作って)るんじゃないかと思いますね。普通みなさんは絵は右脳で曲は左脳、みたいに思われると思うんですが、そうじゃなくて絵は左脳で音楽は右脳なんですね。
 …どこまで話しましたっけ?ああ、ゼロシティの話をして、そうそう、曲をいっぱい書いているってはなしをしてたんですよね。だいたい70曲ぐらいたまったんで、順繰りに皆さんに聴いてもらってノリのいいやつをアルバムにしていきたいと思っています。
 もうソロになって4年ぐらいたつんですが、ようやく自分の世界観が出てきた気がしますね。だいたい僕は自分の世界観を強く持っている方だと思うんですが。1,2年目は怒濤のように過ぎていきまして、3年目ぐらいに自分のスタンスができてきて。4年目でようやく自分のスタンスでできるようになってきました。
 ブレーンもいっぱいできましたね。アレンジャーさん、演奏者、スタッフの人たち。テレビ局もしかり。とにかく僕をバックアップしてくれる人たちが「今度なにやるんだろう」って目がきらきらしているのがうれしいです。「石井っておもしろい」と思われるといいなと思ってやっているんですが。
 来年はツアーにまみれた1年にしようと思っています。ツアーまみれ、なんか汚い感じがしてしまいますが、ツアーに明け暮れようと思いますね。それとツアーに限らず変なコンサートとかもしてみたいと思います。一夜だけの、とかね。夜の12時から始まるコンサートっていうのもいいですよね(客:うなづく)。まぁ、どこまでできるかわかりませんが、外国でのコンサートとかね。中国でもいいしアメリカでもイタリアでもいいですけど。
 イタリアの遺跡の前かなんかでオーケストラをバックに『手紙』とか歌っちゃったりしてね。「オーテガァミ、カリンテ!」なんか言われたりして(客:笑い)。そんで侍とか言って刀で大根かなんか切っちゃったりして。そんなことしなくてもいいのにあっち行くとやっちゃったりするんですよね。

 最近思うのは『人間ひとつ何かを続けていくとなんとかなるんだなぁ』ということですね。日本人のわるい癖で『もう年だから今更そんなこと始めても』とか『この年じゃもうものにならない』なんて年を気にしすぎるんですよ。アンリ・ルソーという人は60歳から始めてあんなに有名になったし、マルセル・デュシャンという芸術家も30歳くらいから始めていたりして、何かを始めるのに年は関係ないんですよ。
 だいたい最初から職業にしようと思うからたいへんなんであって、そういうことを考えずにこつこつとやっていけばなんとかなるんです。才能があるなしというのは自分で分かります。3年目ぐらいにね。みんな1年ぐらいで『だめだわ。私、才能ないの』とか言ってやめちゃうけど、1年ぐらいだと才能があるかないかわからないですよ、3年はやってみないと。だから僕は、これから何かやり始めようとしている人、やり始めている人には3年は続けてみた方がよいと言いたいですね。
 アートヌードも今回で3回目なんですけど、結構たいへんなんですよ。お金もかかるし手間もかかる。でも続けていけばアートヌードを見ようというお客さんも増えてくるし世間も『こういうことやってるんだ』とわかる。
 あらためて今回のアートヌードを見に来ていらっしゃる皆さんを見ますと、1回目のときと全然違いますね。アートヌードを見る目線になっているのが分かります。ドラガジアできゃーってやっていた人と同じ人とはとても思えません(客:笑い)。
 ですから続けられるうちは続けたいなと思いますね。こういうことをやっている人は他にいませんからね。やりたくてもできないだろうというのはありますけどね。実はすごいことをやっているんですよ。だいたい生け花とのコラボレーションなんて見たくても他ではみられるものじゃありませんからね。

 今年の暮れはイタリアの方に行ってこようと思っています。イタリアは僕が米米CLUBのときから好きな国なんですね。以前から僕はずーっと『21世紀のはじめは自分は何処にいるんだろう、何処にいたいんだろう、何やってるんだろう』って考えていて、バチカンに行きたいと思ったんですね。千年期を作った国だし百年に一度だけ開く扉というのもあったりして、そういうのを見てみたいと思って。そして新たな気持ちで日本に帰ってこようと思っています。(拍手)
 中には便所で今年になっちゃったヤツがいたりしてね。便所に入って隣の窓から聞こえてくる音で『あー時間間違えて便所で今年になっちゃったよ』って(客:笑い)。というわけでございまして、いろいろありますがたくましく生きていってください。そしてアートヌードも応援してくださいませ。(客:拍手)

 それでは一部最後の曲になりました。AUTUMNという曲なんですが、これはアートヌードでしかやらない曲です。そういう曲が1曲ぐらいあってもいいかなと思って。この曲は他の人にあげるつもりもないしアルバムに入れるつもりもない。来年もできたらまたアートヌードで歌いたいと思っています。それでは聴いてください。【AUTUMN】

 つぶやくような歌い出しから綴られるモノローグの曲、誰もが経験したことのある秋から冬への痛切な寂しさが胸に迫る。アートヌードのこの空間でしか歌われない(聴けない)この曲は心の中に大切にしまっておきたい宝石のような1曲だと思った。

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