TATUYA ISHII 2000 ART PERFORMANCE ART NUDE in Zepp Sendai

−コンサート編−(第一部)

 ステージはまだ暗く前方のフットライトが客席を向いているためその全貌を伺い知ることができない。中央上方に"Art Nude"と白文字で書かれた透明な半球が紫のライトに薄く浮かび上がっているだけだ。バックにはモノラル録音のジャズっぽい音楽が流れている。その中に"Come on a Here"というフレーズを見つけて、流れているのが1950年代のミュージカル映画音楽であることを知る。
 客席には続々と観客が入ってくる。開演が近い。リンゴーン、リンゴーンと教会の鐘の音が響きまもなく開演とのアナウンスが流れる。いよいよ始まりだ。

 ステージ暗転のまま男の声がする。続いて女の声。英語だがどうやら男が女をコンサートに誘っているようだ。「とってもすてきなコンサートに連れていってあげるよ」「え?誰のコンサート?スティング?プリンス?」「え、いや、TATUYA ISHIIのコンサートさ」「TATU…。だれ?…それってもしかして日本人なんじゃないの?」「う、そうだよ…。だから彼はとってもすばらしいアーティストなんだ。彼のステージはパーフェクトで○○で○○で(以下言い訳)」
 概ねこんなふうな会話が進行するなかミュージシャンが席に着く。上手側にパーカッション(大儀見元)、アコースティックギター(宮野裕紀)、下手側にベース(金子隆博)、キーボード(野崎洋一)である。
 インストゥルメンタルの曲が始まるとステージがだんだん明るくなる。中央奥に配された巨大なボディが目に入る。そのボディには赤茶の革のようなものがかけられている。まだ本番ではないということか。今回はその後ろにもセットが組まれている。目の粗い布のようなものが吊り下げられているのだ。その緩いM字形に波打った形状がなんとなく鳥の羽根を思い浮かばせる。正面から見るとボディの背中に羽が生えているようにも見える。
 静かに始まったインスト曲も、旋律がギターからピアノに遷り、さらに三連のリズムへと変化する。次第に観客の期待は高まってくる。
 登場した石井は上からグレイがかったサングラスに黒ベルベットの膝丈までの上着に黒シルクのシャツ、いつものシルバーのチョーカーに黒パンツという黒づくめの衣装、上着の背中には十字の模様が浮き出ている。下手と上手でおじぎ、次いでボディの前に立つと掛かっていた革をはがす。出てきたのは女性のボディであった。
 中央に配されたバーチェアのような背の高いスツールに座ると前奏が始まる。1曲目は【もしも】、石井の高音の伸びに聞き惚れる。ステージ後方の紫のライトが美しい。曲が終わり今度は何本もの筋になったグリーンのライトが6つ、放射状の光を客席前方へ投げかける。ソプラノサックスのイントロで始まる2曲目は【予感】だった。リズムの感じがボサノバというよりちょっとジャズ寄りな感じ。金子はベースを弾いている。サビでリズムにシェイカーとタンバリン(4拍目)が加わり鋭いその音と歌詞(♪恋の途中で気がついていたこんな結末の予感)に胸がしめつけられる。暗転し英語の女性の声がしたと思うと今度は【OCEAN ROAD】である。背後のボディには青と赤の編み目の光が当たり石井には上からのスポットライトが当たる。ボディをゆっくりなで回す編み目のライトと、前方の石井を照らすライトの対照が美しい。2番では右真横から石井にライトが当てられ彼の顔左半分が影になる。その立体感がまた美しくため息がでる。エンディングでは波の音がインサートしてきてゆっくりと暗転していった。

 3曲終わってMCタイム。
松田聖子さんが離婚しました。みなさん10秒間黙祷しましょう。黙祷!…5秒で終わりました(客:笑い)。
 それではメンバー紹介をしてみたいと思います。こっちからパーカッション大儀見元、ギター宮野裕紀、ベース&サキソフォン金子隆博、キーボード野崎洋一でございます。
 いやあ押し詰まってまいりましたね。皆さんお忙しいですか?…忙しきゃこんなところに来てませんね。毎年のようにやってまいりましたアートヌード…(忘却)奥さま(客:笑い)。いーんです!奥さまで。
 今回はしっとりといってみたいと思います。優雅に、踊れませんね。一部はバラード中心のコンサート、二部はお絵かきというわけでございまして、面白くも可笑しくもないコンサートというわけでございます(客:笑い)。
 二階席の皆さぁん(手を振る)。すばらしい方たちでございますね。先ほどから見ておりましたらもう目の輝きが違う。それにくらべて一階席は(きゃー)…すばらしい方たちでございます。
 仙台はねぇ、イルミネーションはもう始まったんですか?(客:まだ〜)まだ始まってない。いつから始まるんですか?(客:12日ぃ)12日から。札幌はもうやってましたよ。札幌は10時まででしたから11時までやっていただきたいものだと思いますが(客:12時までぇ)。12時までやるんですか。景気いいですねぇ。本当に景気がいい(客:笑い)。
 今日は恋愛、そして男と女、人類の歴史から政治までを語りたいと思っているんですが。
 ねぇ森総理(客:笑い)、あの人もねぇ。どなたか森総理好きな方いらっしゃいますか?(客:手があがらない)私は好きですよ。あれは誰か中に入ってるんじゃないですかねぇ、後ろにチャックとかついてたりして。僕の予想では中に宮沢さんが入ってるんじゃないかなと思ってるんですけどね。森総理と宮沢さんのツーショットって映ってないですからね。じゃなきゃ竹内さん、えっと竹内じゃなくて(客:竹下ぁ)、そうそう竹下さん竹下さん。死んじゃったなんてうそなんじゃないかと思いますね。って一度まちがっちゃうと何言ってもだめですね。中に人が入っている人は気をつけた方がいいですよ。
 大変だといえばゴアさんね。もういい加減にあきらめりゃいいのにね。なかなか負け認めようとしない。僕の小学生の時もいましたよそんなやつが。もうボコボコにされちゃってるのに『わぁ〜(手を振り回す)』ってかかっていったりして。…それなんですけどね(客:笑い)。人間引き際が大事ですよね。
 引き際っていっちゃあ加藤さんね。あそこで賛成票ぱっと入れてすっと引いてりゃ彼が次期総理大臣ですよ。それをねぇ、出場しないで…出場って言わないか。国会に出ないでねぇほんとに。
 今回は恋愛を中心に、ACRIの曲もやります。僕の曲ってこんな(踊る)のばっかりだと思っているでしょうが、そればっかりじゃありません。今日このコンサートを見て「あらいい声だこと!(客:笑い)」と思っていただければ幸いです。今回は第一部がコンサート、第二部がお絵かきということで、いつものコンサートよりも時間が短いんですが「ソンしたじゃん」とか思わないでください。「二時間のコンサートやってから絵を描け」とか言われますけど、死んじゃいますよね。
 今日は後ろにある女性…ジョセフィーヌというんですが、まぁどんな名前だっていいんですが。あれに色を塗るというというわけなんですが。「楽してんじゃん」と思われるかもしれませんが、みなさん前からだけ見ているから「たいしたことないじゃん」って思われるんでしょうが、裏表ありますからね。見えているところの倍塗ることになるという。
 だいたい壁を塗ったことのある方はわかるでしょうけど、壁とか絵の具…じゃないやペンキ塗るのってたいへんですよね。壁一面をこんなローラーで塗るのだってたいへんなのに、僕は筆でこうやって(筆を持って叩きつけるふり)塗るんですから相当大変なんですよ。ということをわかってくださることを切に願うわけでございます。
 あと「劇やれ」とかいう人もいてね(客:笑い)。劇はやりません。それは来年にツアーがまたありますんでそこで。
 そうそう俺このあいだタラバガニ食ったんですよ(客:ほぉ〜)。って自慢じゃありませんよ。こないだ札幌の時にタラバガニ食って。そうすると大層な説明書がつくんですよ。さすがにタラバガニクラスになると説明書がつくという。それで、それ見たらタラバガニってカニじゃないんですってね。あれはカニ科じゃなくて、ヤドカリ属なんだそうですね。
 それからアメリガザリガニっているじゃないですか。あれもエビの種類じゃないんですよね。あれはザリガニ科なんですね。ロブスターなんかも一緒なんでしょうね。よかったですよねロブスターじゃなくて。小川にロブスターがいたら指が何本あっても足りやしない。…おっとあぶない話になってしまいました(ぱしっ)。
 それでは最後までたっぷり楽しんでいってください。次のコーナーへ行ってみたいと思います。

 ギターとフルートソロで始まったのは【それぞれの理由】。2番の♪男の涙を横目で見つめて、を♪心の涙と間違える。エンディングは波の音、ここで金子はベースに持ち替える。ゆったりした8分の6のリズムで始まるのは【CROSS OVER THE RAINBOW】、ステージ全体をオレンジ色のライトが満たしている。夕日の感じが曲の歌詞とよくあっている。ゆっくりと照明が落ち暗転したステージには車の走る音、ピアノの音で始まったのは【Damage】、前奏でのソプラノサックスの音がせつない。♪Shot you love again(ここは録音)、のところでスキャットする石井がチャーミング、リズミカルに身体を揺らして歌っている。続いて打ち込みのリズムにシンセベース、赤いライトとの中で歌われるのは【天使の標的】。フルートが入っていたのが目新しい。エンディングの♪Oh Year〜のリフレインで次第に暗転。

とここで2度目のMC
 1曲目は【それぞれの理由】、2曲目は【CROSSOVER THE RAINBOW】、3曲目は【Damage】、4曲目は【天使の標的】と4曲続けてお送りいたしました。…それから最初の曲の【もしも】はプロポーズの曲、次の【予感】は別れの曲、3曲目の【OCEAN ROAD】はかけおちの曲ということで、いい流れでしょう?
 男が強いか女が強いかということを考えるんですけれども、もちろん肉体的には男のほうが強いのが当たり前なんですが、精神的には女の人の方が強いなぁと思うことがありますね。女の人は彼氏と別れて新しい彼氏ができるとガラっと変わったりしますからね。その点男の方が未練たらしいというかね。またつきあいたいと思ったり、つきあうかどうかは人それぞれなんですけど。別れた彼女のことをいつまでも引きずっているというね。
 大学時代にすごい好きだった彼女がいまして、その子は変わっている子だったんですね。変わっているといったら変ですけど、やっぱり変わっているのかな。その子は僕にいろんな文化を教えてくれるという子でした。画廊とかいろんな場所に連れていってくれたり美術館とか。都立美術館とか大きいところはもちろん知ってますよ。でも意外なところに小さい美術館とかあるんですよ東京には。そういう意外なことを教えてくれる子でしたね。
 男はそうやって女にプロデュースされるんですね。とくに大学とかだと男の方がガキなんでしょうね結局。そうやって彼女のプロデュースされた文化が今でも自分の中にある気がしますね。
 だから男と女はそうやってお互いにプロデュースしあう、お互いに勉強しあえる関係にあるというがいいですね。中には全然勉強にならない関係もあったりして。軽蔑ばっかりしてしまうというね。あれはもう飽きちゃってるんでしょうね。最初は「この人すてき」って思っていたのが飽きてくると長所が短所に見えてくるというね。『この人ってきれい好きなの』って思っていたのが『神経質』に、『やさしい』と思っていたのが『おせっかい』に言葉が置き換わっていってしまうという。
 僕はクリスマスのプレゼントを大切にしましたね。誕生日のプレゼントというのも大事ですけど、あれはあんまり人と比べたりしないものなんですが、クリスマスのプレゼントっていうのは女同士で比べたりしますからね。「あっちは5万円、私は3万円。私の愛は3万円なの?」って。だいたい女の人ってなんであんなに比べるんでしょうね。いつも一緒に買い物に行ったりする人のバッグが変わっていたりすると見ちゃったりして「あらあの人また買ったのね」とか。…だから男の人はクリスマスのプレゼントは大切にした方がいいと思いますよ。
 来年はツアーに明け暮れようかなと思っています。ゼロシティというツアーがあるんですが、すごいコンサートになると思います。セットに凝っちゃったり、曲もぜんぜん違えたりとか。
 年末はイタリアに行くんですよ。バチカンで新年を迎えようと思って。なんかご開帳がある…ご開帳っていうんだかなんだか知らないけど。百年とか二百年とかに1度しか開かない扉が開くらしいじゃないですか。開けようとしたらさびついて開かなかったりしてね。
 それに来年はジャンヌ・ダルクが聖人として認められるということですし。あのバチカンの回廊みたいなところにずらーっと絵が並んでるじゃないですか、あそこに加えられるということなんですけど。だいたいジャンヌ・ダルクという人はフランスを救ったかもしれないけど人もいっぱい殺しているじゃないですか。だから聖人に迎えるかどうか500年悩んだという。500年悩んだって誰が悩んだんでしょうね(客:笑い)。きっと20代ぐらいの人が悩んだんだと思いますけどね。
 その模様はもしかしたらインターネットで流せるかもしれないです。実は紅白でやってくれって言われたんですが、それを蹴ったという(笑)。
 イタリアは僕は思い入れがある国で、米米の時から毎年のように行っているんですけど、そこに行きつけの画廊がありまして。ある日その画廊に行ったら20歳ぐらいの青年がいっぱい絵を持ってきて画廊の主人に「置いてくれないか」と交渉しているらしいんですね。それで主人はその絵を見て「だめだ。置くわけにはいかない」って言ったらしいんですよ。そしたらその青年が泣き出しましてね。イタリア人って陽気じゃないですか、だから初めてイタリア人の泣くのをそこで見たんですけど。
 それでその青年が自分の描いた絵をまとめて投げつけて店を飛び出そうとしたんですね。そしたら店主がそれを押しとどめて「それじゃこの絵1枚だけ置いてやるから」みたいに言うんですが、それをまた店主の手からもぎ取って投げ捨てて店を飛び出していったんですよ。それを店主が追いかけていったりして。でその投げ捨てた絵を見て僕は「これは置かないのもムリはないな」と思ったんですが(客:笑い)。しかしあのバイタリティはすごいなと思いましたよ。きっと1軒だけじゃなかったんでしょうね。10軒ぐらい回ってどこもだめできれちゃったんでしょうけどね。
 だいたい技術が大事か才能が大事かということを考えるんですけれども、これは技術の方が大事なんじゃないかと思います。例えば絵にしてもギターとか楽器を演奏するにしても基本ができないと行き詰まってしまう。感覚だけではむりなんですね。ダリの絵にしてもこんな曲がったものを描いていますけど、デッサンがしっかりしているからそれができるんでね。
 マンガなんかでもみなさんみてると分かると思うんですが『デフォルメする』、マンガふうにデフォルメするというのもまず人物がちゃんと描けているからデフォルメできるんで。よくあるじゃないですか、「この人絵もうまいし細かく描いているんだけどなんかヘン」っていうのが。そういう感じになってしまう。デッサンができるできないということとは別に人間ってそういうバランスを見る目が自然と備わっているんですよね。
 僕は人間の絶対的感覚というのを信じているんですが、例えば紙があったとして、それを触らなくてもなんとなく「厚みはこれくらい」って見れば分かるじゃないですか。大理石なんかにしてもまるまんまの(無垢な)大理石か(なかが)中空になっているのか触ってみればなんとなくわかる。だからなんだと言われても困るんですが。 よくインターネットなんかで「私ってダメな人間なんです」って書いてくる人がいるんですが、そういう人は自分のいいところがわかってないんだと思いますね。わかるんですけどね、「自分はダメだ」って思うとダメなところばっかり見えるから、ダメなところばかり羅列するという。だからもっと自分のいいところ、すばらしいところを見るべきなんだと思います。
 ということでそんな歌を歌ってみたいと思います。どんな歌や。
秋口から冬にかけて特に事件とか出来事がなくてもなんだか寂しい気持ちになったりする、そういう曲が書きたいなと思って作りました。アートヌードでは定番の曲【AUTUMN】です。

 【AUTUMN】は最初のアートヌードから毎年演奏されている曲、人恋しさに涙が出そうになる心境を歌っている。聴いているうちにステージのオレンジ色のライトが枯れ葉が舞っているように見えてきて目頭が熱くなってしまう。石井は曲の終わりを待たずに退場。ゆったりと高まる後奏のなか下手へと去っていった。

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