TATUYA ISHII 2002 ART PERFORMANCE
ART NUDE
in Zepp Sendai

−コンサート編−(第一部)

 

いつも通りステージ前のフットライトが迎えてくれる。今回の開演前のお供は「雑踏の車の音」、通り過ぎる車の音がひたすら続いている。
 フットライト越しにわずかに見えるステージは、正面下手寄りにArt Nudeとかかれた半球、ビスで歯車に止められているような意匠である。また同じく上手寄りには地球と思しき物体もうっすら見える。正面奥には言わずとしれた今回のオブジェ。人の顔に見える(深いしわの刻まれた老人の顔であった)。正面前には譜面台とマイクと思われる物体がある。譜面台の頭上にはライトが、微妙なアールを描いているそれらは、今回のために特注されたものだと言う。早く照明がついてちゃんとみたいものだ。

 開演が近づき場内アナウンスが流れる。「本日場内は喫煙になっております……場内は禁煙になっております」みごとな言い間違いに場内は笑いに包まれる。

 車の行き交う音に、ふっと人の話し声が紛れ込む。大型バイクが通り過ぎ、トラックがとおりすぎる。コツコツという靴音が聞こえ始める。規則的に歩き続ける靴音、カメラが一人の男に焦点を向けたように、今まで定点観測だった脳裏の映像が、男の靴音によって動き出す。男と共に道路脇を歩く。ピーポーピーポーと救急車がどこかを走ってゆく。ガサガサ、ゴソゴソという音が大きく聞こえる。紙がくしゃくしゃいうような音だ。音にならない口笛が聞こえる。相変わらずガサガサ言っている。きっと男の手にしているコンビニの袋かなんかだろう。

 「あーさむい」とつぶやく声、「なんなんだよ」缶が転がる音、「おぅ、ここまだ工事してんのかよ。なげぇよ…ったく」
 靴音が壁に反響していることから建物に入ったのがわかる。鍵を取り出すチャランという音、それを鍵穴に差し込んで回す音、男が部屋に入る。2回聞こえるファスナーの音はブーツを脱ぐ音だろうか? コンビニ袋ががさがさいいコートを脱いだらしいチャックとゴソゴソ音がする。「ファーさぶい、ふぅ」という声と共にボトルのキャップを回す音。わずかに喉が鳴り、「ライフマジック」というつぶやきでキメ。

 とたんにオブジェに紫のライトがおちる。いったんステージの照明がおち、ふたたびつく。なぜだろう?
 前奏は哀調を帯びたピッコロで始まる。和笛を思わせる長音が響き、それがアルゼンチンタンゴの曲調へと引き継がれる。キーボードがアコーディオンを思わせる音色を奏で、アコースティックギターがかき鳴らされる。再びピッコロが響きわたり曲調は一気に和風に。その行ったり来たりが自然なのが不思議な気がする。満を持して下手から石井が登場。it・manを抱えている。下手と上手でおじぎ、上手側にit・manを置くと「おすわり!」と指をさす(笑)。そのまま椅子に座ると黒革の手袋をはずす。

 石井の登場により一時盛り上がった音楽は、再びもとのアルゼンチンタンゴにもどっている。右耳の横に手を構え♪パンッ、ッパン、パンと手拍子を入れる石井。
 彼の衣装は、上から黒地に白の抜けがフロントに入った着物地の長上着(斑入りの葉のような感じ、とでも言おうか)、インナーは黒のベスト、白シャツ、黒ネクタイ、手には黒革手袋、ステッキ、it・man(笑)である。

 1曲目は【青い朝】。エッグマラカスのリズムとキーボードの組み合わせで始まる。♪わりきれるものじゃない、からギターとコンガ、フルートがインサート、そのままの組み合わせで2番へ。フルートが間奏の♪ららら、んららら、らっららで入る。

 曲が終わると波の音がしてステージが暗くなる。右はオレンジ色、左は明るい紫に彩られる。2曲目は【SCENARIO】、テナーサックスがとてもブルージーで大人っぽい。テナーサックスの中音から下は背中にくる。ぞくぞくしてくすぐったい。それに石井の歌が輪をかけるものだから、もう2曲目から腰砕けだ。
 終わりの♪結末のシナリオだけ、で2拍目4拍目に入るコンガの乾いた音にまたしびれる。

 暗転後、聞こえてくるのは街の雑踏。新曲【KISS】が始まる。老人の顔を虹色(ピンクと青)のライトがなでる。金子がベースに持ち替えている。キーボードのほわんとした音色から始まるが、なかなかどうしてハードな歌詞である。♪俺たちは 自分らしさを 追うあまり迷う、なんてあたり引きずられる。

 身を揺らしリズムを取りつつ歌う石井。後ろの老人の顔が刻々と表情を変え、次第に渋面になってゆくように見えるのは気のせいか。

 間奏部は浅野のギターソロ。そのかき鳴らす音にせつなくなる。最後のフレーズ♪必死こいて 守ってゆく これからもずっと、は両手でマイクを包みこむようにして、ささやく感じ。背中を何かが這いのぼってゆく。

 暗転から戻るといきなり
「ゲルマニウム温泉に入ったことがありますか?」
入ったことがある方は、メールなり手紙なりで送ってください。どういうものだったか、入った感じはどうだったかなど知らせてください。

 ここでさらっとメンバー紹介なぞしてみたいと思います。パーカッション大儀見元、ギター浅野祥之、キーボード光田健一、そしてバンマスは金子隆博です。そして私はit・man制作者の石井竜也でございます(おじぎ)。

 仙台ですね。寒いと思ったら昼間暖かくて、夕方からちょっと寒くなってきましたけど。寒いんでしょう? 零下40度ぐらいになるんですよね。んなことないか。
 仙台と言えば牛たんですね。牛たんおいしいですね。最近ちょっといろいろありますけど。みなさん牛たん食べてますか?(食べてるー)そうですか、私はここのところ食べていませんけども。地元では食べないとねぇ。

 アートヌード初めての方いらっしゃいますか? 初めての方にご説明しますと、後ろのあれが卵になるんですが、それに絵を描くというのと、それからセクシーな歌とで成り立つコンサートです。 後ろのじっちゃんの顔にメイクする、ということはなくて、あれがくるんと回ると卵になる。そこに絵を描くというわけでございます。

 絵を描く行為は意外と癒しになるんですよ。大工さんがものを作っているところをずーっと見ていたりするじゃないですか。人が何かを作るというのは本能なんです。
 まぁ、今日はたっぷりと寝ていただきたいと思うんですが。(客:笑い)

 先ほどやりましたのは『青い朝』つぎが『シナリオ』そして3曲目は新曲なんですが。3月27日に『浪漫』というアルバムがでるんですが、その中に入っている『KISS』という曲です。僕はなかなか気に入っている曲なんです。

 今回アレンジしてくれたのが後ろにいる金子隆博なんですが。彼と仕事をするのは5,6年前。お互いに別のところでやっていて、久しぶりに一緒になって仕事をしまして。久しぶりに会って、互いに成長しているのを感じるのはいいもんです。

 アルバムには写真集がつくんですけど、イタリアで撮影してきたんですよ。3日でイタリアに行ったっていうのが自慢なんですけど。もうぱんぱんにむくんでいるのでアップはありません。(客:笑い)

 フィレンツェの郊外でとったんですが、朝5時起きで、なんだか歯の根があわないんですよ。で「何度だ」って聞いたら、「14度だ」っていうんですよ。14度にしては歯の根があわないなって思ったらマイナス14度なんですよ。その中で春服で、こうかっこつけて撮影してたんです。

「石井さんもっとゆったりしてください」って言われて。ゆったりできないっつーの! ワンカット撮る度にスタッフが羽毛布団でくるんでくれるんですけど、歯ががちがちいってね。僕の歯ががちがちいう音が4キロ先まで聞こえたという話です(客:笑い)。本当だ。(客:笑い)

 今度は絵本なんか書いてみたいですね。米米からずーっとファンでいてくれる人たちが、当時15,6歳だったとすると、今ちょうどお子さんがいる年齢なんですよね。長いですねぇ(客:笑い)。で、子供に読んであげたりするといいんじゃないかって。「じゃ次2ページね」とか言って。CDとかつけちゃってね。…できたらいいなと思っています。

 今年は作品を残す年にしたいと思っているんですよ。去年はとにかくステージに出まくっていたから、ツアー2回やって、あと1回だけというのもあったし、D-Dreamというオーケストラコンサートもやって。これでもかっていうぐらいやったんで。1つのツアーで長くやった方がよっぽど楽なんですよね。別の企画でいくつもやるというのは尋常でなく大変なんですよ。スタッフも大変だし。

 で、次の曲いってみたいと思います(客:笑い)
 次の曲は【アイシュウ】と【予感】そして、新曲なんですが【透明】という曲です。

 こないだ田舎にちょって帰ったんですよ。お正月帰れなかったんで、1月10日ぐらいにちょっと帰って。夕方、近くの海を歩いていたら、つっても堤防みたいなところなんですけど、歩いてたら。思い出すなー。

 向こうで座ってる奴がいるんですよ。それが小学校の友達だったんですよ。「石井帰ってきたのか」って「なにやってんの?」つったら「釣りしてんだよ」って、見ればわかるって。そいつ昔番長だったんですよ。で、話してるとなんか分が悪いんですよ。

フグ大きいなー、ケンちゃんすげーなー」って、言っちゃってるんですよ俺。なんか分が悪くて。子供の頃の関係性になっちゃうんですよね。

 そんで中学生ぐらいの子供がいるんですよ。そう考えると「俺って遅れちゃってるな」とか思うんですよね。…(トーン下げてはきだすように)いいんですけど、めんどくせーから。…というわけで行ってみたいと思います。


 【アイシュウ】はピアノソロから始まった。オレンジのライトが一筋ピアノを照らしている。ソロパートが終わりイントロが始まる。オレンジライトが後ろから石井を照らす。そしてオブジェにはオレンジのモザイク模様がかかる。ステージはたそがれの雰囲気に満たされる。

 両手でマイクスタンドを掴んで歌う石井。ときおりシンセサイザーの優しい音がする。歌詞の力も相まって胸がしめつけられる心地がする。
 間奏はピッコロの長音、和笛のように哀調を帯びた高音が場内に響いてなんとも言えない気分になる。ピアノとピッコロのによる後奏が静まり静かに暗転した。

 ステージは一転して背後が赤のライト、その前にブルーのライトとシャープな感じへ。【予感】である。今まで聴いていたのはなんだったの?と言いたくなるぐらいの曲の変貌ぶりに驚く。特にリズムがボサノバの細かいリズムではなく、♪ズンズン、と1拍目に低音が入るのが特徴的である。

 1番の初めはエッグマラカス、♪You are wondering、からギターが入り、キーボードは終始和音を奏でる。間奏部はピッコロの切り裂くような長音。2番でリズムが変化、♪ダンッカカカカカ、ツツカツタタト、ダンッツカ(表現しにくいが)と徐々に音数が増えていくという編曲であった。

 暗転したステージが緑のバックライトで満たされる。下から放射される緑色でステージ全体が染まる。ピアノの前奏のあいだに、ステージ前方から放射される5本の光が、ゆっくりと客席後方から前方ににふりそそぎ、また上がってゆく。その白い光が消えたかと思うと、ステージは海の底のような深い青の世界になっている。

 新曲【透明】は幼い日の思い出をふりかえり、立ち止まってふと今の自分を思う、という歌詞。途中、朗読部分があり、そのときだけオブジェの下から強い赤い光が射し石井を包み込む。ラジオボイスで語られる朗読は、子供時代を当たり前のように過ごしてしまった自分を、今は少し後悔している、というものだった。
 ゆったりしたメロディで語られるような歌い方だが、バックはわりにはっきりとリズムを刻んでゆく。その対照が美しい1曲だった。


 今の『透明』というのは、2年ぐらい前に作った曲なんです。だいたい僕はステージを考えながらで曲を作ってることが多くて。米米のときの曲ってバーっといってカッといってそこでホーンがバーン、みたいな感じでやってまして。じっくり味わう曲というのはわかんなかったんですね。

 米米が解散して、ソロになったとき全然曲がかけなくなったときがあったんですね。何ヶ月もまったく何も浮かばなくて。何を歌ったらいいのか全然わからなくて。そのころは米米の石井といわれるのがいやでいやで。でもそう思うほど『元米米の』って言われるんですね。今は米米の石井でいいじゃないかって思ってますけど。どう言われたっていいやと。そう思ったら言われなくなるんですよ。だから、「やだな」と思っているうちは意識しているんですね。それが「いいじゃないか」と受け入れた瞬間から『個人』になる。おもしろいですよね。

 こないだミュージックフェアでパフィといっしょに歌を歌ったんですけど。なんだか横につくのがいやそうなんですよ。横でこれ抱いて歌ってたもんですから。(客:笑い)

 今度ミュージックフェアの1900回記念というのに出るんですけど、天童(よしみ)さんと歌わせてもらいます。(客、笑い) いや、これは僕が言い出したんですけどね。「石井さん、誰と歌いたいですか?」「天童さんです」って。天童さんと、米良さんが横にいたらいいでしょうね。それで後ろで美輪明宏さんが意味もなく踊ってたら楽しいでしょうね(後ろにいたギターの浅野さんが大笑い。マイクを通してないのに3列目まで生笑いが聞こえてきた)。意味もなく2人出てきたらいいですよね。

 さて、僕はこのようなシンプルな、といってもいろんなものがありますが、だいたい僕は作るのが好きなんで、変なものがいっぱい僕の中にあるんです。こんなで、こんなセットで、こんなメイクで、ひとりでいろいろ考えたりして。こまかく手の内(失念)。

 こないだhimico.tvっていう、BSデジタルのマイナーな番組を僕やってるんですが、そこに小松の親分さんがきてくれたんですよ。小松の親分さんって、名前なんだっけ?…(後ろに聞く)…小松政夫さんね。そうそう。あの人がギャグやってくれるんだけど、生で見てみるとあんまりおもしろくないんですよ。どんどんおちこんでいくんですよ。

 あれってテレビでおもしろいのとライブでおもしろいのとがありますよね。テレビで漫才師の人を見ておもしろくても、テレビはは編集がありますから。「おれたちはおもしろいから大丈夫」って思ってるとやばいなって思う人がいますよね。(客席から「だれ?」)ロンブーあたりあぶないかな〜? いや「あたり」といっただけで、別にロンブーがあぶないって言ったわけじゃないですよ。…いろんな業種があっていいんですけど。

 このごろ思うんですよ。人って生まれてから死ぬまでいろんなことをやる。ごくふつうな人だとしても、生まれて仕事して子供育てて、子供育てるって本当に大変ですからね。そんだけのことをする。なかにはビルを建てちゃったり、ヒトラーみたいに何百万人殺しちゃったりする人もいたりして、人って生まれてから死ぬまでにいろんなことをしますよね。

 だって細胞1個のグニュグニュしたのから、魚になって、陸に上がってきて、両生類になって、猿になって人になってって、すごいことですよね。だって猿と人と比べても全然違いますからね。猿を見ても「これが俺たちの先祖かよ」って思いますもんね。(ケツをかくまねをする)んなことやったりして。

 ミッシングリンクっていうのがあるんですが、猿から人類が進化した過程で、わからない部分があるという。何から進化したものか、猿じゃないと思いますね。リスなんかもあぶないですよ。ものを持って食べてるところなんて人間そっくりですからね。動物占いっていうのもありますよね。

 あ、これ、そっか! もしかして一人一人ちがうんじゃないの?ガッツ石松さんなんて、どうみてもゴリラから進化したかんじがするもんね。
 「俺って動物にたとえるとなに?」って、昔番組で一緒になった人に聞いたんですよ。そしたら「コリー」って言われまして。…種類で言われるのいやですよね。犬なら犬でいいじゃない、種類で言うなよっていう。

 …このようにのんべんだらりとしたMCで、怒って帰っちゃう人がいたりしてね。(ちょっとトーンを下げて)でも、お金返さないんだ。
 …さてあと2曲ほど歌ってみようと思うんですが…。「長いよ石井さん」って。…(2階席を見上げて)上の方だいじょうぶですかぁ?すぐ終わりますからね。(客:笑い)

 次の曲は「Octave」という米米CLUBで一番売れたアルバムがあったんですが、たしか800万枚とかなんとか(客:笑い)。その中に入っている曲で【Eことあるサ】という曲をやってみたいと思います。これは米米のときにもほとんどやったことがないんですよ。それを金子君のアレンジでおとなっぽくやってみたいと思います。
 もう1曲は新曲で【On My Own】という、たったひとり、とか、ひとりぼっちとかいう意味なんですけど、じーんとする1曲をお送りしたいと思います。


 ステージがいったん暗転、石井はサングラスをはずして汗を拭いている。ここからサングラスをはずすらしい。【Eことあるサ】のイントロが始まると、ステージは今までで一番明るくなっている。さらにうっすら客電もついている。心が弾んでくるリズムに、思わず手拍子したくなる(しかし場内微動だにせず。密かに脚と指先でリズムを取る筆者だった)。金子はベースに持ち替え。ギターのリズムがいい。

 2度目の♪Eことあるサ Eこと!!、の後のベースのリフレインは金子さん。わかってはいるけどなぜかどきどき。続いて光田さんのロングキーボードソロ、これがクセのある感じでかっこいい。石井、大サビの♪なぜに 君に近づけない、の半音階がちょっとフラットしていたかも?
 ♪Oh! My Love 君だけに、に続くギターソロもすばらしい。今回は本当にテクニシャン揃いのチームである。

 曲が終わっても暗転せず、ステージは明るいまま次の【On My Own】へ。次第に落ちてゆく照明と入れ替わりに、バックが緑色のライトで満たされる。パンフルート(葦の茎を横に並べた形の楽器)を思わせるキーボードの音が響く。♪雲はどこへゆくのか、との歌い出しのメロディが少しセンチメンタルで和風な感じだが、サビは力強い。中盤エッグマラカスのチャッチャカいうリズムが心地よい。

 サビの♪On My Own ひとりきりの道のり、からはかなりの熱唱になる。椅子から腰が浮くぐらい力が入っているのがわかる。その様子に思わず引き込まれてしまう。歌い終わってまだ後奏が続くなか、立ち上がり下手へと去っていく石井。

 演奏陣の音はますます力強く、ますます高まってゆく。それぞれの楽器の音ひとつひとつが、とてもクリア聞こえてくる。やがて、ふっとひとつにまとまると、すーっと消えていった。

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