エリン・ブロコビッチ  ★★★☆
【2000年 : アメリカ】
 監督:スティーヴン・ソダーバーグ/音楽:トーマス・ニューマン
 出演:ジュリア・ロバーツ(エリン)、
    アルバート・フィニー(エド)、
    アーロン・エッカート(ジョージ) 他

全米史上最高額の和解金を手にした実在の女性の活躍を描いたドラマ。
顔もスタイルもいいけどバツ2で三人の子持ち、仕事も金もない貧乏暮らしに困り果てていたエリンが、たまたま巻き込まれた追突事故の処理で世話になった弁護士の元へ「仕事をくれ!」とムリヤリ押し掛けていったことから人生が変わります。
書類の整理中にふと見つけた不可解なファイル。不動産売却の書類にもかかわらず血液検査の結果が添付されていたことを不審に思って調べるうち、大企業の工場が有害物質を垂れ流しにしている事実を突き止めた彼女は、それが原因で病に苦しむ近隣住民たちのために訴訟を起こすことを決意するわけです。訝しがる住民のもとへひたすら通い詰め、同意書を得るために孤軍奮闘するエリン。
このバイタリティがまずすごいよね。本人いわく、「誰かにこんなに期待されたことなんてなかった」という充実感が彼女を奔走させたようですが、それにしたって着眼点や分析力は相当なものだと思うのですよ。普通そんな書類を見つけても、あるいはどれだけ汚染の証拠を掴んでも、裁判に持ち込めるだけの資料にまとめ上げることなんてなかなかできません。それも全くの素人がね。もともと頭はいい人だったんだろうなあ。
彼女が仕事に没頭するあいだ子供たちの面倒をみてくれたお隣さん、いかついバイク野郎のジョージはとてもいい男に見えました。エリンの頑張りを認めて、できる限りのサポートをしてくれた彼はやっぱり優しくていい男。
ただのラブコメを脱皮して、溌剌と仕事に輝く逞しい女性を演じたジュリア・ロバーツも非常に楽しそうでした。働く女性にとっては、胸がスカッとする作品だと思います。



 エレファント  ★★★☆
【2003年 : アメリカ】
 監督:ガス・ヴァン・サント
 出演:ジョン・ロビンソン(ジョン)、
    アレックス・フロスト(アレックス)、
    エリック・デューレン(エリック)、
    イライアス・マッコネル(イーライ)、
    ジョーダン・テイラー(ジョーダン)、
    ティモシー・ボトムズ(ジョンの父) 他

1999年に起きた米コロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフに、事件が勃発するまでの高校生たちの一日を淡々と描いた青春ドラマ。
オレゴン州ポートランド郊外のワット高校。ある初秋の朝、生徒たちそれぞれの、いつもの一日が始まる。
学校まで送ってくれた父親が酒に酔っていることに気付いたジョンは、兄に迎えを頼む電話をかけていた。
写真好きのイーライはポートレート制作のために公園を散歩するカップルの撮影。女子に人気のアメフト部員ネイサンはガールフレンドと待ち合わせ。食堂では仲良しの女子3人組がダイエットや買い物などの話で持ちきりだ。そんな中、いじめられっ子で内向的なアレックスとエリックは、ネットで入手した銃器を手に学校へ向かう・・・。

学校を舞台に起こる重大な犯罪事件が昨今の日本でも問題になっていますが、そういえばアメリカでは99年にこんなことがあったんだっけねえ、と思い出しました。そして折しも先日、また同じような銃乱射事件がミネソタ州で起こり、現実は何も変わっていないのだと思い知らされているところです。
この映画は、そんな悲劇が起こる直前までの様子を、何人かの若者の視点をいくつも交錯させながら描いています。いつものように学校に通い、友達と喋り、遊び、先生に叱られ、クラスメイトに苛められ、うわさ話に声をひそめあう。ごくありふれた、平凡な若者たちと普通の一日。それがあの惨劇に繋がっていくまでを、こちらはただ見つめているばかりです。
どうして、という疑問に対する答えはどこにもありません。なにか教訓が示されているわけでもなく、解決策がみつかるわけでもなく、ただ起こった事実がそこにあるだけ。 学校という場所が、ある生徒たちにとっては息もできないほど窮屈で、ひたすら苦痛であり、壊さずにはいられないほどくだらない監獄であるという感覚は、実は私たちにもまったく思い当たらなくはない、という気がします。
多感な学生時代。押しつぶされて暴走した若者たち。理解なんかできないけど、伝わる何かを感じてしまう。だからこそこんなに重い気分になるのかもしれません。ガス・ヴァン・サントが映画に使う空は相変わらず私のお気に入りです。淡い青と、ぐんぐん流れていく雲のフォルム、透明感のある空の構図はそのままポストカードにしたいほど。でもその限りない無垢さがあまりにもこの映画を淋しく見せてしまって、あの空が綺麗であればあるほど、なんだかなあ、と溜息が出たのでした。



 エンジェル・アイズ  ★★★☆
【2000年 : アメリカ】
 監督:ルイス・マンドーキ
 出演:ジェニファー・ロペス(シャロン)、
    ジム・カヴィーゼル(キャッチ)、
    ジェレミー・シスト(ラリー)、
    テレンス・ダッション・ハワード(ロビー)、
    ソニア・ブラガ(ミセス・ポーグ)、
    ヴィクター・アルゴ(ミスター・ポーグ) 他

正義感が強く男勝りだが、誰にも言えない心の傷を抱えた女性警官・シャロン。そんな彼女はある日、 強盗犯を追跡中にキャッチと名乗る男に危機を救われる。
名前以外は全てが謎に包まれたこの青年を奇妙に思いつつも、すこしずつ交流を持つうちお互いに心惹かれていくふたり。ところがキャッチの封印された過去が明らかになるにつれ、彼女は大きな愛の試練に立ち向かうことに・・・。

少々デキスギくんの感もあるこの脚本。しかしテーマはというと、家庭内暴力が生む心の傷の問題であったり、大事な人を失った悲しみとそれを乗り越える力、家族の再生といった案外硬派なところにあるようです。
基本的にジェニファー・ロペスは好きではないのですが、「ウェディング・プランナー」よりはなんぼか美人に見えました。あのがっちり体型もまさしく警官向き。
注目は不思議青年を演じたジム・カヴィーゼル。オットコマエやなアンター!
自分の存在感さえ危ういような、どこかもの悲しい男を哀愁タップリの表情で見せてくれます。僕はラブシーンは演じないヨとかいう俳優として少々無茶な宣言をしていた人だと聞きましたが、なんのこたない、本作のこれがラブシーンでなくて何でございましょう。
最近ではあの話題作、メル・ギブソン監督の「パッション」でキリストを演じた彼。あまりに過酷な撮影に、自らも敬虔なクリスチャンでありながらさすがにぶっちぎれそうになったと話しておりました。正直でヨシ。
実をいうと、主人公のシャロンが家族と対話するシーンではちょっとじんわりきてしまいました。それだけにラストのシメはちょっと甘いっつーか都合良すぎるというか。ヒューマンドラマとラブロマンスを一緒に食べようと思うとこうなるんですかねえ・・・。



 王は踊る  ★★★☆
【2000年 : ベルギー・フランス・ドイツ】
 監督:ジェラール・コルビオ/音楽監修:ラインハルト・ゲーベル
 出演:ブノワ・マジメル(ルイ14世)、
    ボリス・テラル(リュリ)、
    チェッキー・カリョ(モリエール)、
    コレット・エマニュエル(アンヌ) 他

実在のフランス国王で“太陽王”と呼ばれたルイ14世と、彼のために3,000曲もの音楽と密かな愛を捧げた宮廷音楽家リュリの物語。
1643年、ルイ14世(エミル・タルディング)は5歳にしてフランス国王となる。だが14歳になった今も政治の実権は母のアンヌ(コレット・エマニュエル)と宰相マザラン(セルジュ・フイヤール)が握っており、ルイは音楽とダンスに情熱を傾けて日々を過ごしていた。
その頃、イタリアからやって来た音楽家にして舞踏家のリュリ(ボリス・テラル)と出会ったルイは、彼の振り付けたダンスによって太陽王のイメージを人々に知らしめていく。そしてリュリもまた、聡明で美しいルイに情熱の全てを傾けるのだったが…。

監督は「カストラート」のジェラール・コルビだそうです。ははあ、ナルホド。古典が得意な監督さんなのですね。あの絢爛絢爛な宮廷と華美な衣裳たちは確かに迫力満点。美術さんは相当頑張っているぞ。
「ブノワ・マジメルは踊る」というタイトルでもいけそうなくらい、バロックダンスをピョコタンと華麗に踊ってくださるマジメル君。しかしコスプレ激しすぎて素の顔がよくわかりません。
主人公は彼に仕える宮廷音楽家のリュリ。愛の物語とは言いつつも男色家だったのはリュリだけなので、描かれているのは彼が一方的に王へ捧げた親愛と忠誠心です。最期まで一途すぎるほどの想いに生きたリュリの姿はどうにも痛々しい。



 大いなる遺産  ★★★☆
【1997年 : アメリカ】
 監督:アルフォンソ・クアロン/音楽:パトリック・ドイル
 出演:イーサン・ホーク(フィン)、
    グウィネス・パルトロウ(エステラ)、
    アン・バンクロフト(ディンズムア夫人)、
    ロバート・デ・ニーロ(ラスティグ) 他

画家を目指す青年の恋と成功を、彼の人生を変えた3人の男女との交流を軸に描いたドラマ。1946年のデイヴィッド・リーン監督版に次ぐ二度目の映画化。
両親に先立たれ姉と暮らすフィンは、いつもスケッチブックを片手に個性的な絵を描いて回る少年だった。10歳の彼はひょんなことから脱獄囚(ロバート・デ・ニーロ)の命を救うことになる。フィンにとっては忘れられない事件だったが、そんなある日、姉が彼を古びた屋敷に連れて来た。近隣に住む大富豪の老婦人ディンズムア夫人(アン・バンクロフト)が姪エステラの遊び相手にフィンを選んだというのだ。そして気まぐれな美しい娘エステラは、フィンの心を一目で虜にするのだった。
しかし成長したエステラ(グウィネス・パルトロウ)はヨーロッパの学校へと去り、失意のフィン(イーサン・ホーク)は絵も辞めて姉の恋人で養い親のジョーと漁師の生活を始める。そこへある日、一人の弁護士が来訪。匿名の支援者の依頼で、彼がニューヨークで画家として成功できるようはからうという。
絵を描くためニューヨークへやってきたフィンはエステラと再会し、再び恋に落ちるのだったが・・・。

相変わらず悩める青年のイーサン・ホーク。かたやプライドの高い女をやらせたらピカ一のグウィネス・パルトロウ。キャスティングははまってるといえばはまってる。かもしれないけど個人的な好みからしてイマイチ乗り切れない感じでございました。ロバート・デ・ニーロの存在感は文句ナシでしたけどね。
ストーリーからして文芸のかほり。この情緒的な感じは好きかもしれない。古い方の映画を見てみたいなあ。



 オーシャンズ11  ★★★☆
【2001年 : アメリカ】
 監督:スティーヴン・ソダーバーグ
 音楽:デイヴィッド・ホルムズ
 出演:ジョージ・クルーニー(ダニー・オーシャン)、
    ブラッド・ピット(ラスティー) 
    マット・デイモン(ライナス)、
    ジュリア・ロバーツ(テス) 他

11人のプロフェッショナルによる現金強奪作戦を描くクライム・ムービー。1960年作「オーシャンと11人の仲間」のリメイク作品です。
ともかく出演キャストが豪華すぎる。出演料でナンボかかっておるやら。
これだけの人間を出してきますと、11人それぞれのキャラをいかにスムーズに、意義深く、しかもバランスよく活かすかということが問題なわけですが、本作ではそれがもひとつであったという印象です。「オーシャンと11人の仲間」の方は未見なのですが、そのへんは前作が上であろうという評判を聞きました。見てないことにはなんとも言えませんけど。
それでもまあメインキャストの数人は魅力的に映っていたと思います。気が付くとハンバーガーをもりもり食っているブラッド・ピッドはやたら可愛い。「ジョー・ブラックをよろしく」でのピーナツ・バターを彷彿とさせる食いっぷりです。
ストーリーの山場である現金強奪シーンは、可もなく不可もなく。なんか「チャーリーズ・エンジェル」を思い出しました。
続編である「オーシャンズ12」の撮影にも入ったということで、次作ではどのへんを目玉に持ってくるんでしょうかね。 さらに人数を増やしてくるあたり、期待半分不安半分。



 オスカー・ワイルド  ★★★☆
【1997年 : イギリス】
 監督:ブライアン・ギルバート/音楽:デビー・ワイズマン
 出演:スティーヴン・フライ(オスカー・ワイルド)、
    ジュード・ロウ(ボジー)
    マイケル・シーン(ロバート・ロス)、
    ジェニファー・エイル(コンスタンス) 他


【現在VHS発売のみ】

世界中でシェイクスピアに次ぐ人気を誇る文豪オスカー・ワイルドと、彼が愛した美青年との愛を綴った伝記ドラマ。

スティーヴン・フライ演じるオスカーは写真に見る実物によく似てて驚きでした。
奥さんと子どもを心から愛しながらも、同性愛に目覚めて以降のオスカー・ワイルドは男性からかなりモテモテだったご様子。しかし決して典型的な美男子だったというわけではなく、映画で描かれている人物像も、ともかく大柄で包容力があり、作家らしい知性とユーモアを併せ持つ繊細なゾウアザラシみたいな人です。
対して彼の心を奪った若きダグラス卿(ボジー)の方は、父親からの愛情を得られずに育ったために心が不安定で、人間としては未熟な青年。オスカーは彼の美しさを愛でると共に、その未熟さを守ってやらなくてはという庇護欲に駆られたのかもしれません。
またオスカーをソッチの道に目覚めさせた最初の人物であり、オスカーがボジーに心を移してからも生涯の親友で有り続けたロバート・ロスの存在も切ないものがありました。一番辛かったのは奥さんとこの人だよな。史実によると、ロバートは遺言によりオスカーと同じ墓に遺灰をいれてもらったんですって。ほんとに好きだったんだね・・・。
印象としては、それぞれの愛憎模様がちょっときれいごとに終わってしまったような気もするのですが、特筆すべきはやはりジュード・ロウの美貌でございましょうか。ボジーの実物(これはこれでナルホドきれいな青年です)とはいささかタイプが違うものの、ギリシア彫刻を思わせる体躯や顔立ち、時折すねるような口元でオスカーに寄り添う佇まいは、そりゃもうオッサンだってイチコロだろうよという存在感でした。父親譲りのムラのある気質や、子どもみたいな無邪気さと残酷さが非常によく出ていたと思います。
蛇足ですが、今をときめくオーランド・ブルームもオスカーにラブビームを送る街角の青年役でカメオ出演しておりますよ。



 オー・ブラザー!  ★★★★
【2000年 : アメリカ】
 監督:ジョエル・コーエン/音楽:ティー・ボーン・バーネット
 出演:ジョージ・クルーニー(エヴェレット)、
    ジョン・タトゥーロ(ピート)、
    ティム・ブレイク・ネルソン(デルマー)、
    ホリー・ハンター(ペニー) 他

古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を基に、アメリカ南部における囚人たちの冒険を描くコメディ。
1930年代、ミシシッピー州の片田舎。3人の囚人たち、エヴェレット(ジョージ・クルーニー)とピート(ジョン・タトゥーロ)とデルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)は、昔エヴェレットが隠しておいたという現金120万ドルを目指して脱獄を敢行する。その隠し場所はまもなくダム建設で川底に沈んでしまうのだ。
奇妙な人々との出会いと別れ、思わぬハプニングを乗り越えて三人が旅の果てに見たものは・・・ ?

実はコーエン兄弟の作品を見るのはこれが初めて。サイトに遊びに来て下さってるお客様に薦めていただきました。(ありがとうございますv)よそのレビューなどを拝見していると評価もまっぷたつのようですが、私は好きです。一回見てなんかボンヤリ「ほのぼのだな〜」と和んだ後、数日後にもう二、三回見ました。そして先日とうとう中古でDVDまで買ってしまった。自分でも意外なほど気に入ったようです。ううむ。
うっすら黄色いなつかしい感じの色合いで統一された画面、シュールな登場人物たちと、彼らを活かしきる整った脚本。世界最古の戯曲といわれる「オデュッセイア」を大胆に置き換えた試みだそうですが、なんとなく童話にも似た展開にそれも納得できる気がします。
それから、全編に散りばめられた音楽の力も大きいですね。サントラは米でも相当売れて、挙げ句にグラミー賞の最優秀アルバム賞まで獲得しました。私もすっかり聴きまくっております。カントリー、ブルース、アカペラ等の滲みる歌の数々。アメリカの原型ともいうべき音源が凝縮されてる感じです。
ジョージ・クルーニーの歌は吹き替えだそうですが(オンチじゃないと自分では言ってるけど間違いなく上手くはない・笑)、デルマー役のティム・ブレイク・ネルソンは自ら歌っております。最後の舞台でのパフォーマンスも大好き。ジョン・タトゥーロのとぼけたダンスは最高っすね。主役三人組は劇中ではただのポヤヤンとした中年男たちですけど、インタビューを受けてる地顔はみんなカッコイイです。コーエン兄弟も意外に若くて驚いた。あんなにスマートで小綺麗な人たちだったとわ・・・。
大好きを連呼したついでにもうひとつ。あのラストは、なんだか絵本を静かに閉じるようでとても上手いと思いました。お気に入りエンディングのリストに入れておこうと思います。



 オール・アバウト・マイ・マザー  ★★★☆
【1998年 : スペイン】
 監督:ペドロ・アルモドバル/音楽:アルベルト・イグレシアス
 出演:セシリア・ロス(マヌエラ)、
    マリサ・パレデス(ウマ・ロッホ)、
    ペネロペ・クルス(シスター・ロサ) 他

息子の死をきっかけに、これまで振り返ろうとしなかった自分の人生の軌跡をもう一度辿り始める、ある女性の物語。99年度アカデミー賞、最優秀外国語映画賞受賞。
17年前に別れた夫のことを息子から問われたマヌエラは、長い間隠していた彼の秘密を話そうと覚悟を決めた矢先、息子を事故で失ってしまう。息子の死と彼が残した父への想いを伝えるため、彼女はかつて青春を過ごしたバルセロナへと旅立った・・・。

いろいろと不思議ちゃんな映画を撮ることで有名なペドロ・アルモドバル監督ですが、このあたりから彼流の人間ドラマをじっくりと作りだしたなあという気がします。
ともかく出てくるのは女ばっかり。元オトコだけど今はオンナ、っていうのもいる。
で、その「元オトコだけど今はオンナ」である人物とかつて夫婦だったのが主人公のマヌエラ。
ともかく強くて懐の広い女性です。むしろ強すぎるし広すぎる。昔別れた旦那のことも、彼の子を宿した少女のことも、出会っていくすべての人々のことを彼女は苦しみながら許してしまいます。そこに絡んでくるのが、女同士の友情というか、ある種それも越えてるかもしれない強い絆。いろんなタイプの女性が出てきますけど、誰もが根性据えて人生を生きており、同志である女性たちを心底励まし支え合うことを厭いません。
アルモドバル監督はともかく、女というものを尊敬しているのだなとしみじみ思いました。男には真似のできない無償の許し、それこそが母性なのだという彼の声が聞こえてきそうな作品です。



 オーロラの彼方へ  ★★★☆
【2000年 : アメリカ】
 監督:グレゴリー・ホブリット
 出演:デニス・クエイド(ジョン)、
    ジム・カヴィーゼル(フランク)、
    ショーン・ドイル、エリザベス・ミッチェル、
    アンドレ・ブラウアー、ノア・エメリッヒ 他

30年の時を隔て、奇跡的に無線で繋がった父子が協力して数々の命の危機を乗り越えていく、サスペンス仕立てのファンタジードラマ。
ニューヨークの空にオーロラが出現し、メッツのワールドシリーズ出場にクイーンズ中の市民が熱狂した69年10月のこと。6歳のジョン・サリヴァンの幸せな日々は、消防士の父の殉死によって突如終わりを告げる。
それから30年後、再びニューヨークの夜にオーロラが現れた。 警察官になっていたジョンは古い無線機で1人の男と交信する。すると驚いたことに、その男こそジョンの父・フランクだった。30年前に生きる父との交信に戸惑いつつも、 その翌日に迫るフランクの死の運命を変えようと必死になるジョン。時空を超えて起きた奇跡的な交信により、 果たして彼は父の命を救う事が出来るのか…。

タイトルを初めて見た時、どっか寒い国を冒険する話かと思い込んでいたのですが、全然違いました。(笑)
過去を変えてしまうことで未来も変わり、起こるべき現実がとんでもない方向に、というのはタイムトラベルもののセオリーですけど、この作品の面白いところはそれが無線での会話だけで成り立っている点です。生身の身体が行き来するのではなく、父と子が未来と過去の情報を無線で交換しあい、知恵を絞って危険に立ち向かうわけです。父の死をくつがえしたことから始まるさまざまな連鎖を乗り越える筋書きはテンポがよく、退屈させません。
最後のオチもなかなかよかった。出来すぎの予定調和かもしれませんが、あんなに頑張ったんだからまあいいか、と思わせてくれます。
できることならあの時あの瞬間に戻って、分岐点をやり直したいと思うことは誰にでもあります。それができないからこそ一度きりの人生なのだと思いつつ、やり直した分岐点が幸せにつながるさまを見るのはなかなかいい気分でした。



 陰陽師  ★★★☆
【2001年 : 日本】
 監督:滝田洋二郎
 出演:野村萬斎(安倍晴明)、伊藤英明(源博雅)、
    真田広之(道尊)、 小泉今日子(青音)他

平安京の闇に紛れる魑魅魍魎を類い希な秘術で制したといわれる伝説の陰陽師、安倍晴明の活躍を描く時代活劇。夢枕獏の原作を元に、作者のたっての希望で野村萬斎が晴明役を演じて数々の国内映画賞を受賞。
邦画を見てつくづくと思うのは、なんで日本のSFXはこんなにチャチなの〜?ってこと。
CG技術は世界に誇れるのに、ああいう妖怪とかアクションとか爆破シーンとかそういうものはなんか未だにゴジラや仮面ライダーと大差ない感じ。それから、役者ね・・・色物的にアイドルを投入すんのはやめてくれ。ムリしなくていいから。マジで。
野村氏の晴明は大変よかったです。古典芸能を活かした舞のシーンは心底ウットリ。腰の安定感がゼンゼン違う。さすがです。小泉さんもよかった。あの人の落ち着いた声はあんまり浮いた感じがしなくて、安心して見てられました。
あと、真田氏ですが・・・。彼は上手すぎて逆の意味で浮いてた。なんかもったいない。
あの映画に出るには上手すぎます。熱演すぎ。(笑)



 陰陽師 II  ★★☆
【2003年 : 日本】
 監督:滝田洋二郎
 出演:野村萬斎(安倍晴明)、伊藤英明(源博雅)、
    中井貴一(幻角)、 深田恭子(日美子)他

伝説の陰陽師、安倍晴明の活躍を描く時代活劇の第二弾。
太陽が黒くなる「日隠れ」の後、宮中の人々を次々と鬼が襲う。犠牲者はすでに4人。襲われた人々はいずれも体の一部を食いちぎられていた。そんな中、晴明(野村萬斎)は藤原安麻呂(伊武雅刀)に請われ、娘・日実子(深田恭子)が毎夜夢遊病のようにさまよい歩くことと、鬼の事件との関係性を調べることに。
一方、都では幻角(中井貴一)という男が次々と奇跡を起こし、人々から神のように崇められていた…。

これはですねー、地上波の放送で見たんですが、なんか見てる方が恥ずかしくなってきて、途中で何度もチャンネル変えちゃった。何が恥ずかしいって、もう笑っちゃうほどぎこちない会話の数々がね。なんでああも見事に芝居が上達しないかなあの人たち・・・特にあの元アイドルよ。学芸会じゃないんだからアンタ・・・。あれを劇場で公開しちゃうことがすでにえらい度胸だと思うわけですがどうですか。
前作がまだなんとか見られる感じだったのは、野村萬斎氏の晴明っぷり、特に陰陽師風まんさいダンスが素晴らしかったからです。しかし今回は話の都合上、なんと「まんさいダンス巫女バージョン」だったのね・・・まあ歴史の上でそういうこともなかったわけではないが・・・とりあえず萬斎氏は女装してはイカンということがはっきりわかりました。すごく頑張っていたとは思うけど、実際問題ビジュアルは重要だ。二次元ではどうとでもなるかもしれない見栄えも三次元では誤魔化しようがないのさってストレート過ぎですかこの感想。
まあCGとかはところどころ凝ってるような気もした。でもSFXは相変わらず泣ける。むしろ号泣。
娯楽映画とは言いつつも、登場人物の会話なんかが不自然すぎて乗り切れないつらさがあります。まともな芝居ができるのはいつも敵役ばっかり。(前回は真田くん。今回は中井くん。)金をかけているわりにはもったいない。この勢いでこの先も作り続けていくのだろうか・・・。
あ、見所といえばひとつだけあった。深キョンによる無意味なほど露出度高いセクシーショット:ちょっと大人な大胆仕様。前回の小泉今日子に負けてはならじと色気を絞り出しておりました。男性諸君はこれで我慢するように。ああそれにしても、つくづくこういうエンターテイメントが苦手なんだな、日本の映画界って。