6BQ5 島田式cspp試作機




 一般にCSPPのOPTはDEPPの1/4のインピーダンスになる為に、これまでの島田式CSPP

アンプは専用の低RL用OPTを使っていたのですが、今回は内部抵抗の高い出力管と組み合わせる事に

より、市販のDEPP用OPTを使った島田式CSPPアンプとして試作してみました。

 まず出力管にはRL8k動作の6BQ5を、チョークには東栄のOPT10P−8Kを、OPTは春日

のOUT6635Qを使いました。本当は1次側が5kΩで2次側16Ω端子のあるOPTで、2次側の

16Ω端子に8Ωを接続する事で1次側2.5KとしてDEPP換算の10kΩとすれば使い易くなるの

ですが、あいにく手持ちがなかったので、2次の8Ω端子に4Ωのロード抵抗を接続して1次側2.5k

のOPTとして使う事にしました。

 出力管を変更した訳ですが、6BQ5もB電圧250Vで動作する球ですしソケットの引出しも同じな

ので、回路としてはバイアス電圧とトランス類を変更した以外は、ほとんど以前のままです。



 一見すると固定バイアスのように見えますが、この東栄のOPTはDC抵抗が片側で190Ωもあるの

で、バイアス電圧は3.8Vで済んでいて実際には折衷バイアスと言えると思います。なお、上記の回路

ではRLがDEPP換算で10kΩとなり、やや最適負荷から外れていますが、その分B電圧が高めです

から出力的にはそれほど不利ではないと思われます。


歪 率 特 性


 データを採ってみると9W付近

でクリップしていますが、動作例

の数字はOPT等のロスは入って

ないので順当な数値でしょう。

 一方、今回は出力段動作の検証

が目的ですから、アンプとしての

特性はさほど追い込んでいないの

ですが、歪率カーブも素直ですし

各曲線も揃っていて好ましい特性

になっています。


無歪出力9.0W THD0.86%1kHz

NFB 6.0dB(2倍)

DF=13.6 on-off法1kHz 1V

利得 20.7dB(10.9倍) 1kHz

残留ノイズ 0.16mV


 今回使用した春日のOPTは、PP用にもかかわらずインダクタンスが30Hしかないという変則的な

特性のOPTで、通常の使い方をすると低域がまるで出ないOPTだったのですが、(以前はQuadU

式アンプ
のOPTとして使っていました。)今回は1次インピーダンスを半分に下げて使ったために低域

の弱さは大分改善されたように思います。

 これはこれで充分実用になる回路だと思いますが、島田式CSPPはOPTとチョークを上下で入れ替

えても同様の動作をするとの事なので、引き続きプレートチョーク式に変更してみました。



プレートチョーク式CSPP回路


 回路的には以下のとおりOPTとチョークを入れ替えただけですが、カソード側に来たOPTのDCR

が35Ωと少なくなり、その分バイアス電圧を上げていますので、あえて言えば少しだけ固定バイアスに

近づいた動作となっています。



 それ以外の変更点はありませんので、これで本当に先の回路と同様の動作をするのか、データを採って

比較して見ました。
比 較 特 性


 二つの方式の歪率特性を比較し

てると数値に少々違いが出たので

すが、特性カーブの形は一緒です

ので測定時の電源電圧の違い等が

出たものと思われ、回路としては

ほぼ同様な動作をしているように

思います。



 無歪最大出力など各データは、

ほとんど違いが無かったので省略



 次に周波数特性で、これも二つの方式の特性を比較できるように描きましたが、ほとんど違いが無く、

誤差の範囲といえる程度のズレしかありませんでした。



 これらの事から、この二つの方式には特性的にほとんど違いが無く、チョークあるいはOPTの絶縁耐

圧で選ぶというような変則的な選択方式もあるかも知れません。島田式CSPPを組もうと思う時に一番

頭を悩ますのは、市販品に低インピーダンスのOPTが無いという事ですが、この方式ならカソード側に

トランジスター用OPTを使うという事も可能だろうと思います。

 一方、島田式CSPPの第三の方式にプレート側とカソード側の両方から出力を取り出す方式もあるの

で、さらに組替えて特性を採ってみたいと思います。



上下両出力式CSPP回路


 今までの試作回路のチョークはOPTの2次巻線を開放にして使っていたので、この両出力式にするの

は簡単な変更で済むのですが、トランスの巻線を並列にしたり直列にしたりする場合のインピーダンス値

の導き方は、同じΩで表わす抵抗の計算方法とは違うので注意が必要です。過去MJ誌の執筆者の先生で

も、この事を間違えて製作記事を発表した方がいらしたくらいで、抵抗などの計算に精通した人ほど勘違

いしやすいようです。そこで以下に整理すると・・・

1.同数回巻かれた巻線を「並列」にした場合、インピーダンスは「変らない」。

2.同数回巻かれた巻線を「直列」にした場合、インピーダンスは「4倍」になる。

3.巻数比の違うOPTの巻線を並列にする場合、1次か2次のどちらかは直列にする。島田式CSPP

  では1次側が並列になるので、2次側は必ず直列にする。


 この巻数比の異なるOPTを組み合わせて使うのは制約が多いようなので、今回は試作機ですし、話を

簡単にする為にも上下のOPTは同じ物を使う事にします。

a.まず東栄のOPTは「8k:8Ω」なので2次側並列では変らず「8k:8Ω」で、

  同直列では「2k:8Ω」(8k:32Ω)となります。

b.他方の春日のOPTは「5k:8Ω」なので2次側並列では変らず「5k:8Ω」で、

  同直列では「1.25k:8Ω」(5k:32Ω)となります。


 このようなインピーダンス変化を考えると、今回の回路には東栄のOPTが良さそうに思えるのですが

結果が思わしくなかったので後ほど述べる事として、まずは春日のOPTを使ったセットをレポートした

いと思います。春日のOPTには6Ω端子があるので、これを直列に接続すると1次側のインピーダンス

は約1.7kΩ(DEPP換算で約6.7k)となり6BQ5の最適負荷の8kΩに近い値になります。

そこで6Ω端子を使うという事で以下のような回路になりました。



 なお今回の方式で二つのOPTの極性が逆になっていると、信号が打ち消しあって出力が出てきません

から、もしも出力が出てこない時には、どちらかの1次巻線の極性を入れ替えてください。さらにNFの

極性を合わせるのは、FETの後ろの配線を入れ替えるのが簡単だと思います。それ以外の回路はそのま

まですが、とりあえず特性を採って見ました。


諸 特 性


 ノンクリップ出力は10Wを超

えて、ようやく6BQ5の動作例

に近い出力が得られました。

 ただし、これはDCRの大きな

東栄のOPTを外した為に出力ロ

スが減った事が原因で、両出力式

の方が能率が良いという事ではな

いようです。その証拠に東栄のO

PTの場合は(黄色線)8.4W

でクリップしています。


無歪出力10.4W THD0.94%1kHz

利得 22.8dB(13.8倍)1kHz

NFB  8.6dB

DF=15 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.22mV


 次に周波数特性で、これも春日と東栄の両方のOPTでの特性を採って比較して見ました。これを見て

一目瞭然なのは、東栄のOPTを使った場合に高域特性が極端に悪くなるという事です。OPTの帯域特

性は設計インピーダンスより低く使うと低域寄りにズレるものですが、東栄のOPT10Pは元々あまり

高域が伸びないOPTですし、しかも設計インピーダンスの1/4の状態で動作させた為に、高域が早め

に落ちてしまったようです。



 それに対し春日のOPTの方は高域まで素直に伸びていて、10〜180kHz/−3dBの広帯域特

性を見せています。さらに補正の必要性は感じさせませんが念の為に方形波応答でも確認して見たところ

僅かにオーバーシュートが見られますが負荷開放でも安定しています。


 これらの特性を見ると東栄のOPTは両出力式のCSPPには向かないようで、今回の方式に向いてい

るOPTは、この春日のOPTのようにDCRが少なく高域寄りの帯域を持つOPTという事になるよう

です。先にも述べましたが、春日のOPTはDEPPでは思ったような特性が得られませんでしたが、今

回は一転して好ましい特性を見せましたので、島田式CSPPは、このように眠っているOPTの活用法

としても面白い回路ではないかと思います。


 タスキ掛けコンデンサーの容量

 最後にタスキ掛けコンデンサー容量について考察して見ました。6BQ5は場合によっては300Vに

電源電圧を上げるかも知れないと考えて350V耐圧のCを入れましたが、そうなると大きな容量に出来

なかったので100μFとしました。このCの容量が少ないとクロスオーバー歪が発生するようで、当初

のカソード抵抗式ではクリップ前からクロスオーバー歪が発生していましたが、今回はDCRの少ないト

ランス式ですし、設定インピーダンスが1.7kΩですから問題なかろうと判断しました。クリップ付近

の波形を確認して見たのですが、以下のようにクリップ直前でも段差は見られませんでした。



 クリップ後の12Wではさすがに段差が目に付くようになりますが、これはグリッド電流が流れ始めて

いるのが原因と思いますし、ドライブ電圧の関係でグリッドリーク抵抗を低く出来ないので仕方ない事の

ように思います。とにかく波形を見る限りコンデンサーの容量は100μFでも大丈夫そうです。



 この回路の実用性は?

 今回の回路に使った春日のOPTは発売中止になっていますが、大体同じような特性のOUT−663

5Pは4,180円します。これが2個ですから計8,360円+ケミコン代なのに対し、染谷の同クラ

スのバイファラー巻OPTであるASTR−20Sは9,450円で、さほど変らない価格です。そこで

廉価な東栄のOPTを使いたいところですが、上記のように設定インピーダンスを下げると思ったような

性能が得られません。このOPTのDCRは390Ωあり、通常の8kΩに対してなら大した問題になり

ませんが、CSPPで使う2kΩに対してだと、これだけで1割以上のロスになってしまいます。さらに

実装を考えると、ステレオで4個のOPTを配置するのはかなりの手間になりますから、染谷のOPTの

ようにDEPP並に2個のOPTで済むのは、かなりの優位点になると思います。これらの事から考える

と、手持ちのOPTがある場合を除いては染谷のバイファラー巻OPTを使った方が良さそうです。

 それでも普通のOPTを組み合わせてCSPP回路を組める事が証明できたので、CSPPを勉強する

為の試作機として組むのなら、手頃な回路ではないかと思います。





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6BQ5 島田式cspp アンプ



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