ロンドン憶良見聞録

ペーパー・タイガー


「あらっ、三船敏郎さんがロンドンに見えられるのね」
素朴な厚焼きクッキーといったらぴったりしそうな、伝統的なお菓子で
あるスコーンをつまみ、香り高いダージリン産の紅茶を飲みながら美
絵夫人が話しかけて来た。

美絵夫人の前にはロンドン・タイムズ紙が広げられている。
「デビット・ニヴンと共演している『ペーパー・タイガー』の封切りに挨拶
するようだよ。三船敏郎は好きなんだろ。切符は買っておいたよ。久し
ぶりに映画観賞としゃれるか」
「わあっ、嬉しい」
と言うようなことで、数日後二人は劇場の椅子に腰を下ろしていた。

デビット・ニヴンは英国人に人気の高い俳優である。東西二人の人気
俳優の共演とあって、この日はロイヤル・ファミリーもご鑑賞されるらし
い。
上流社会の人々やスターなどが見えるのであろうか、映画館の周辺
には人だかりができていた。

いかにも時代がかった中世宮廷風の派手な衣装と鬘をつけた楽士が
現れ、ファンファーレが吹かれた。



アン王女夫妻が二階正面の席にお見えになり、一同起立し英国国歌
が吹奏された。映画を見る前に国歌が吹奏された経験は日本ではな
い。
三船敏郎氏、デビット・ニヴン氏と子役の日本少年と女優が万雷の拍
手で舞台に迎えられ、観客に挨拶する。
ライトが暗くなり、映画が上演される。



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