晴耕庵の談話室

NO.17


REPORT


98/11/ 7
標題:Bonfire Night

ロンドン憶良様

Mail ありがとうございました。 今夜は、あちこちから聞こえる爆音をバック
にお便りしています。 そうです、昨晩は 11月5日・Bonfire Night でした。
子供達にせがまれて、末っ子の通うNurseryの Bonfire を見に行きました。 こ
こ数日続く寒気と風のせいで気温は5度ぐらい。 毛糸の帽子で耳をしっかり覆
い、マフラーに手袋の重装備で出かけます。 イギリスにきたばかりの昨年は、
どうしてこの時期に花火や爆竹の音がするのかよくわからず、Nurseryの先生に
おたずねしたことを思い出します。 (あいにくその先生は由来をご存じなかっ
たのですが、 ご近所の Mrs Mはさすが年の功、よくご存知で、1605年 Guy Fowkes
の事件を説明してくださいました。 )

花火の大きさ、美しさでは 日本に優るものはないように思います。 それに、
水辺で涼を求めて花火見物・・・のほうが reasonable というものです。 ラジ
オでは、「今夜は今年最後のバーベキューチャンス」などというので、思わず聞
き間違いかと思いました。 いったい誰がこんな寒い中BBQをするというのでしょ
うかね。 Bonfireは double Jumper つまり、上着を2枚かさねて見物する・・と
いうのだそうです。

去年の夏は日本で大きな花火大会を見に行って、子供達はその音や大きさ、美
しさに歓声を上げていましたが、こうしてだんだんとイングランドの折々の風物
が彼らの季節観の基になっていくのだなあと思うと、憶良さんではありません
が、自分の子供時代を振り返り、不思議な気がします。 子供達はまぎれもなく
日本人である以上、日本語や日本の文化を誇りに思い、それを守り伝えうる日本
人に育ってほしいと思っていますし、同時に、こちらでの生活から、この国の
人々に伝えられてきたものを学び、より深くこの国とそこに暮らす人々を理解
し、お互いを結ぶ架け橋となってくれれば、とも思います。そもそも外から見て
初めて見える自国の姿というものが確かにありますよね。1605年といえば日本が
鎖国を始めようとする頃、大航海時代で外へ外へと向かった国があるかと思え
ば、かたくなに窓を閉ざす国もある、本当に世界は広いです。

今通っている語学学校のクラスに、インド・パキスタン・イラン・イラクそれぞれ
の国籍の人がいて、さながら国際紛争の縮図のようなのですが、彼らはいたって
友好的、政治や国のレベルとは大違いです。 きっとアイルランドでもひっそり
と仲良くしている人たちはたくさんいるのでしょうけれど。それにイスラエルで
も。 私自身も、第二次大戦中のイギリスの勝手な二枚舌工作が、以後のパレス
チナ問題を一層複雑にしたと思っていたので、憶良さんのご意見興味深く拝見し
ました。

アメリカ大統領の場合、国内政策的には二期目の後半はほとんど何も期待されて
いないので、かえって外の問題と与しやすいのかもしれません。 それにもちろ
ん、ロビイスト或いは強力な圧力団体としてのユダヤ人は到底無視できないわけ
ですし。更に昨今のクリントン自身の個人的状況 を考えても大きな勲章がほし
い彼を選んだブレア首相の読みは大当たりです。イスラエルでは今日もまた爆弾
テロが発生し、Hanukkah・Christmasが近いのに、と思ったことでした。

日本ではあまり報道されていないかも知れませんが、こちらではチリのピノチェ
ト将軍についても連日報道されています。 やはりチリにも10年来の友人がいて、
当時からずっとチリの政治状況についての話を聞いていたので、目が離せません。
こちらの報道をE-mailで知らせたりしています。 日本にいた頃イギリスは、ダ
イアナ妃とバッキンガムパレスしか印象がなかったのですが、なかなかどうして
世界政治に重要な役割を果たしているのだと驚きました。 ブレア首相どこまで
化けていくでしょうか。 外への気配りと同時に、国内をどのようにまとめてい
くか、 ユーロ通貨統合問題が次の課題と見ていますがいかがでしょうか。

ローマ帝国については、別に学んでみたいと考えています。 ずいぶん昔受験勉
強そっちのけでギボンのローマ帝国衰亡史を読んだことを思い出します。(たし
か初の全巻完結の日本語訳が刊行され始めたばかりの頃でした) ヨーロッパを
知ろうと思うと、どうしてもギリシャ・ローマ・キリスト教に入っていかざるを得
ないですね。 なんとかはしょって要点だけはつかみたいと虫のいいことを考え
ております。

Bonfireについて書くつもりが、だいぶ横道へそれてしまいました。 夜もふけ
外はますます冷え込んでいるようです。さすがに花火の音も途絶えました。
ではまた・・・

                               N.N.


REPORT


Nご夫妻様

英国歳時記のレポートありがとうございました。

> ガイ・フォークス(Guy Fawkes)事件

私も初めてロンドンに赴任した1972年のこの夜、友人の家に招かれ花火
の音を聞きながら食事をしたことを思い出しています。

ガイ・フォークス(Guy Fawkes)事件はすでにMrs Mより説明を受けられた
とのことですが、ほかの方の参考になると思いますので近日中に少し詳しく
とりまとめて、「UKを知ろう」で紹介したいと思います。

北アイルランド問題でも分かるように、英国ではカトリックは旧教としてマ
イナーです。
11月5日は、国教派の方とカトリックの方では、それぞれ違った感慨で花
火を打ち上げていることでしょう。

> ブレア首相なかなかどうして世界政治に重要な役割を果たしている

近いうちに「黄昏でない英連邦の絆」をアップ予定です。
良くも悪くもしたたかなUKです。「黄昏のロンドン」などよく言うよと思い
ます。サッチャーにしろメージャーにしろブレアにしろ歴代の首相はそれぞ
れ個性と内容が豊かです。
日本の首相は、法制上は「元首」ですが、国民も本人も「自民党総裁」では
あっても、「国家元首」という認識が欠けているので、首の据え換えも頻繁
で、首相としての自己啓発も今ひとつなのではないでしょうか。
(英連邦では女王が元首ですが、日本の場合首相が元首であり、ちょっと複
雑な心境です)

> ヨーロッパを知ろうと思うと、どうしてもギリシャ・ローマ・キリスト教
に入っていかざるを得ないですね。

その通りです。私は休暇にエーゲ海文明の匂いを嗅ぎにギリシャからクレタ島
に足を延ばしてきました。昔の雑詠を・・・

フォロ・ロマーノにて(朝日歌壇入選)
いにしえの栄華をしのびシーザーのバシリカに坐す春の日うらら

カプリにて(朝日歌壇入選)
カプリより見るベスビオス富士に似て裳裾曳きたり海青く凪ぐ

別の旅ですがクレタ島にて
オリーブの薫る遺跡に吾子と立ちエーゲの海の歴史語りぬ

最近脳味噌がアナログからデジタルになったのか、歌が湧きません。
ロンドン憶良というよりも晴耕庵(電脳)遊翁です。

ではまた
                
                           ロンドン憶良

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