二つのレガッタ
(前頁より)



では、憶良氏の経験したもう一つの「優雅」な方のレガッタを報告しよう。
これこそ日本に存在しないものだから。
オアズメンの端くれである憶良氏は、滞英中に一度はヘンレー・レガッ
タをこの目で見るべしと、1974年7月7日の日曜日に、家族を引き連
れヘンレーに向かった。

ロンドンから西へドライブすると、テムズ川の上流には風光明媚な田園
風景が広がる。テムズ川の水は青く清らかで、岸辺には緑の樹木が鬱
蒼と茂り、丘の牧場には牛の群れがのどかに草を食んでいる。川沿い
に建てられている邸宅や民家にはバラの花が咲き誇っている。
ジューン・ブライド(6月の花嫁)という言葉があるように、初夏の英国は
花嫁に相応しく、バラと緑が美しい。

  ヘンレーの町は、正式にはヘンレー・オン・テムズという。
川の水面にはエイト・フォア・ダブルスカール・シングルスカールなどいろ
いろなボートが浮かんでいる。運河で遊ぶのであろう小さなクルージング・
ヨットも、このレガッタの時期には沢山係留されている。 そう、このヘンレ
ー・オン・テムズの町こそ、英国の誇る川遊びの中心地である。

いつもは落ち着いて静かな河畔の町も、7月初旬の4日間は、全国から
集まるクルーやレースを楽しむ人々で大変賑わう。
所属クラブや大学のカラーを襟に縁取りした、白やベージュの夏の上着
にクラブ・タイを着たOBたちや、いかにも涼しげなサマー・ドレスに身を
包み、洒落た麦藁帽子を被った婦人たちが目につく。


次頁へ