UKを知ろう


アイリッシュがノルマンを破ったグランド・ナショナル

2年連続して親子チームのアイルランド馬が制覇


このところ北アイルランドの政治問題などの堅い話が続いたの
でちょっと肩のこらない話題を提供しよう。

読者の方からは、
「エッ、いまどきアイリッシュがノルマンを破ったって!またまた
憶良さん、人騒がせなタイトルで。一体全体、グランド・ナショナ
ルって、なーに?」
という質問も出よう。

憶良氏とて競馬にはまったくのドシロウトであるが、「グランド・
ナショナル」(The Grand National) は、「Nationalthriller」とも
呼ばれ、毎年リバプール市のエイントレ競馬場で開催される
世界最大7200メートルの、野外横断障害競馬(steeple-
chase)である。

余談であるが、リバプールは8世紀の頃からノルウェー人の植
民地(つまりヴァイキングの支配地)だったように、古くから開け
ていた町である。
政治家にはグラッドストーン宰相の生地として、若者にはヴィー
トルズ・サウンドの発祥地として著名である。
そして馬好きには、このグランド・ナショナル開催地で知られる。

野外横断障害競馬(steeple-chase)は、水を張った堀(濠)を跳
び越えたり、高い生垣のようなフェンスをジャンプしたり、直線を
走ったりする。日本語では名訳がないが、「ぞくぞく鳥肌が立つ
ような」いわゆるスリリングな、馬にも騎手にも極めて過酷な競
馬である。

その昔、ノルマン・コンクェストの頃は、甲冑に身を固めた騎士
たちが、槍を振りかざし、野山を駆け巡っていた名残であろう。
この馬を「jumper」(跳躍者)とか「chaser」(獲物を追う追跡者)
と称するのもうなづける。



ところで2000年4月8日、リバプール市のエイントレ競馬場で
開催されたグランド・ナショナルには、1999年を制したボビー
ジョー(Bobbyjo)をはじめ、40頭のたくましい馬たちが勢ぞろ
いした。

しかし、堀に落ち、フェンスにつまずき転倒し、騎手が落ち、なん
と23頭がレース途中で敗退し、完走したのは17頭に過ぎなか
った。いかに過酷かわかろう。幸いにも、転倒した馬たちや、落
馬した騎手にも怪我はなく、主催者はホッと安堵したとBBCは
報じている。



一群のトップを切ったのは、弱冠20歳、National thriller初出場
の騎手ルビー・.ウォルシュ(Ruby Walsh)の騎乗したアイル
ランド産馬 パピロン(Papillon)であった。

調教師は父親のテッド(Ted Walsh)。昨年のボビージョーの
Paul and Tommy Carberry 親子に続き、今年も「アイルランド産
馬の親子チーム」が優勝するという、珍しいダブル記録となった。

息子の初出場初優勝に、調教したテッドは「わっしはこの馬を、
家族全員を、そして息子を誇りに思います。わが生涯の最良の
日です」と喜んだ。
"I'm proud of the horse, I'm proud of the whole family and I'm
proud of him [Ruby]. It's a great day to be alive."

アイルランドは競走馬の名産地であったが、昨年のボビージョ
ーの優勝まで、なんと25年間優勝馬を出していなかったから、
(After a barren 25-year patch for Irish mounts) 2年連続して
1/4世紀ぶりの喜びである。
ちなみに騎乗馬はmountという。山のように大きいからであろう。
その背によじ登るのはまさに登山と同様である。

パピロンと「追いつ追われつの大接戦」(dong-bang battle)を展
開した結果、1馬身1/4の差で敗れたのは、ノルマン・ウィリア
ムサン(Norman Williamson)の騎乗したメリー・モス(Mely
Moss)であった。

ノルマン・ウィリアムサン!なんと壮大な名前ではないか。
日本で言えば、「姓はスイゼイ(神武天皇の子)、名はヤマト」と
いうような感じである。

優勝騎手 ルビーは
「ノルマンがすぐ側を上手く騎乗してきたが、わが友(my fella)
パピロンはその前を、まっしぐらに、障害に向かって突走ったよ。
彼らはこっちに追いつくことはなかったよ」
When Norman [Williamson] on Mely Moss went by going very
easy but my fella was doing nothing in front.He just picked up
and kept finding and finding. They were never going to get by
me."
と、喜びを語った。

というわけで、『アイリッシュの馬』が『ノルマンという名の騎手』
を破った2000年のグランド・ナショナルであった。

惜しくも2位となったノルマン・ウィリアムサン騎手には21世紀
に捲土重来を期してほしいものだ。


中世の騎士たちの、野趣豊かな闘争を想像させる、このような
ハードな競馬は、日本にはない。これも源流はウィリアム公の
創設したノルマン槍騎兵軍団の訓練にありと憶良氏は考える。



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