批判されたオレンジ結社の行動

宗教界は暴力行為に距離を置く

IRAの武力行使の停止宣言に始まり、武器査察の受け容れ、自治
政府の再開と、北アイルランド和平は紆余曲折を経ながら着実に進
んでいることは、都度HPに掲載してきました。

これまで北アイルランドと言えば、カトリック教徒側の過激派IRAの
爆弾テロや、その武装解除に応じない姿勢などが日本での報道の
大部分を占めていました。

しかし、どのような争いにも反対側には必ず相手(Counter Party)
があります。
プロテスタント側の強力な集団は「オレンジ結社」(Orange Order)
です。

毎年7月12日には、北アイルランドでは「オレンジ・マーチ」と呼ば
れるプロテスタントの大行進が町を練り歩きます。
また前夜の11日にはボン・ファイアすなわち大たき火が燃されます。
そのパレードが、勢力を誇示するようにカトリック信者の居住区を行
進すると、諍いや衝突が起こり、負傷者が出るのが恒例でした。



今年の「オレンジ・マーチ」には、英国政府は極めて配意しました。

と言うのは、IRAの武装解除に代わり、武器使用停止の査察だけで
和平が進むのは手ぬるいと、プロテスタントの極右派が、和平進行
に水を差しているからです。

オレンジ結社は1週間前から気勢をあげて、発砲したり、爆弾騒ぎ
などを起こしていました。

暴走するオレンジ結社の行動を危惧した英国政府は、一旦引き
上げた軍隊を、北アイルランドに戻し、特にカトリック信者の居住区
の入り口には軍隊を派遣し、オレンジ結社の大行進を入れないよう
に、バリケードを張りました。
その結果7月12日の「オレンジ・マーチ」はカトリック居住区の行進
を阻止して紛争を未然防止しました。



7月13日のNHK TVでも、このプロテスタントのオレンジ・マーチ
と、これをカトリック信者の居住区の入り口で阻止する軍隊が対峙
した様子が報道されました。

しかし日本ではあまり聞きなれないオレンジ結社の由来や、やや
行きすぎるオレンジ結社の暴力行為までは説明されませんでした。
(時間的にも、興味の面でも歴史的な開設は無理でしょう)

そこで当HPでBBC News Worldの報道などを参考に、補足説
明してみましょう。


1 オレンジ結社とは?

オレンジ結社は北アイルランドでイングランドの立憲君主制を維持
しようとする目的の親英的なプロテスタントの組織です。
少なくとも6万人のメンバーがいるといわれています。
アイルランドはもともとカトリックの国ですが、イングランドの支配に
より特に北部の支配階級はイングランドからきたプロテスタントでし
た。

1791年にアイルランドのカトリック教徒とプロテスタントは共に団結
しようと、アイルランド人の統一的な組織である、ユナイテッド・アイ
リッシュメンが結成されました。
その後カトリック教徒は民族独立を志向するようになり、プロテスタ
ントは袂を分かちました。ユナイテッド・アイリッシュメンはカトリック
農民を中心に、独立運動の地下組織として再編されました。

一方イングランドの立憲君主制を望むアイルランドのプロテスタント
はカトリックの動きに危機感を懐き、対抗する武力組織として1795
年にオレンジ結社を創設しました。
以来、UKから独立しようとするカトリック(共和派)と武力抗争してき
ました。

オレンジ結社は北アイルランドだけでなく、カナダやニュージrンド
オーストラリア、米国や西アフリカなど世界各国にもこの組織を作っ
ています。

2 オレンジの由来

1685年、イングランド王位についたジェームズ2世は、幼少時より
フランスに亡命していたのでカトリックでした。
王位につくやカトリック優位の政策を進め、またイングランドの政敵
フランス王ルイ14世との密約などがプロテスタントの反感を買い、
僅か3年で王位から追放されました。

1688年、イングランド国民は、先王チャールズ1世の長女メアリー
をオランダからイングランド女王に迎えました。
当時メアリーはオランダ総督であるナッソー伯オレンジ公ウィリアム
に嫁していました。

メアリーは女王就任にあたり、夫を共同統治者とすることを条件に
帰国し、ウィリアムはイングランド王兼オランダ総督ウィリアム3世を
名乗りました。いわゆる名誉革命です。

(名誉革命前後のイングランドの政治・経済の変動については
談話室第47回をご覧下さい)

ウィリアム3世は熱心なプロテスタントでした。
カトリック擁護政策を実施してイングランドを追われ、フランスに亡
命した前王ジェームズ2世は、フランス王ルイ14世の支援を得て、
アイルランドに上陸し、イングランド反攻を図りました。

1690年7月12日、ウィリアム3世は、前王ジェームズ2世の軍を
ボイン(Boyne)の戦いで破りました。
つまりプロテスタントの軍が、カトリックの軍に勝利したのです。
以来オレンジ公はプロテスタントの尊敬する象徴的存在となり、
カトリックの勢力に対抗する結社の名前になりました。

オレンジ結社のプロテスタントは、毎年7月12日にベルファストで
大行進をして、この勝利を祝ってきました。
それは、カトリック教徒を痛く刺激してきたことも事実です。

3 暴走した2000年のオレンジ・マーチ

北アイルランドではプロテスタントが人口や経済力や行政で優位
にあります。
毎年7月12日の行進には、男子は山高帽子(Bowler hat)を
被り、オレンジ色のタスキをかけ、オレンジ色に縁取られた旗幟
を打ち立て、バンドは大きく行進曲を奏で、歩調を合わせ行進し
ます。まさに勢力の誇示です。

北アイルランド和平が進行する過程で、今年の行進が、カトリック
教徒居住区を通過するかどうか、注目されました。

「プロテスタント地区を行進しないように」との当局の規制に、オレ
ンジ結社が反撥し、すでにこの1週間、オレンジ結社員による暴
力的行為による死傷者が各地で発生していました。

これらの暴力的行為に、各方面が顰蹙しました。
2000年7月13日のBBC News Worldによれば、カトリック
教会はもとより、新教のメソジスト教会や、オレンジ結社員の内
部からさえ批判が出ています。

メソジスト教会の長老は
「オレンジ結社の周囲に起こる暴力的行為はまさに無法地帯が
増えるという実に嘆かわしい兆候だ」
と慨嘆している。
The president of the Methodist Church in Ireland has said the
violence surrounding Orange Order protests is "a deplorable
sign of increasing lawlessness

カトリック教会の方では
「北アイルランドはまさに無政府状態に陥る危険な状態だ」
と警告している。
Catholic Bishop of Down and Connor Patrick Walsh warned
on Tuesday that Northern Ireland was "in danger of slipping
into anarchy".

国教会の方でも
「キリスト教各派は宗派を超えてオレンジ結社の抗議行動によっ
て引き起こされている無作法や暴力行為とは距離を置こうと思う
であろう」
「我々は『(規制に対する)抗議行動を呼びかけた者が、抗議行
動参加者たちを統制出来なくなる前に、抗議を止めたほうがよい』
という教会首脳や政治指導者たちの呼びかけを無視したことを
大変遺憾に思う。」
とのべている。

"All Christian churches will want to distance themselves from
the vulgarity and violence surrounding Orange protests,"
he said.
"We deeply regret that those who called for the protests
did not heed the calls of the church and political leaders
to call off the protests before they became uncontrollable."

オレンジ結社の幹部デヴィッド・バーンサイド氏は
「オレンジ結社は今や組織を把握管理しなければならない。
またオレンジ結社と言う名前を騙って行う暴力行為は、切り離
さねばならない」
と一部の跳ね上がりを批判しています。

And a leading Orangeman and London-based businessman,
David Burnside, has said the Orange Order must now seize
control and dissociate itself from thuggery carried out in its
name.

NHKのTVでも、カトリック教徒居住区行進を主張するオレ
ンジ結社員を前に、結社のリーダーが
「今や、北アイルランドは和平を求めている時代である。
いたずらにカトリック教徒を刺激する時代ではない。」
と発言していました。

まだまだ多くの行進参加者がブーイングをしていましたが、
IRAが武力行使を停止したように、プロテスタントの右派
であるオレンジ結社の中にも歩み寄る姿勢が見えてきた
ように感じました。

カトリック側のIRAが非暴力になればなるほど、プロテスタント
側の暴力行為が、浮き上がって見えます。

皆さんは7月13日のNHKの現地報道をどうご覧になりましたか。
北アイルランド問題を理解するには、もう少し突っ込んだ報道が
ほしいものです。
(だから憶良氏のHPの出番があるのかもね)



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