ロンドン憶良見聞録

裁判官のユーモア判決



サッカー・ファンの読者諸氏が喜びそうな、嘘のような古い実話を一つ
紹介しよう。

1975年(昭和50年)4月9日夜のロンドン市内の大衆酒場(パブ)は、
どこもかしこも大変な混み様であった。酒場の中だけではない。近くの
路上も、広場も、ジョッキを掲げ乾杯する男たちで、深更まで賑わった。

当日のナイト・ゲームFAカップ準優勝戦(セミファイナル)で、ロンドンを
本拠地とするプロサッカー・チームのフルハムとウエスト・ハムステッド
が、それぞれ、バーミンガムとイプスウィッチという一部リーグ(ディヴィ
ジョン・ワン)の二大強豪を共に破って、決勝に進出したからである。



FAカップ、すなわち蹴球協会杯(Football Association Cup)は、この国
のプロサッカー・チーム実力ナンバー・ワンに与えられる、名誉ある優勝
杯である。

日本のプロ野球は、セントラルとパシフィックの両リーグ各6球団、合計
12球団に過ぎないが、英国のプロサッカー・チームは、ディヴィジョン1
だけでも22チームある。
さらにディヴィジョン2と3があるから、チーム数は60余りある。

それぞれのリーグで、ホーム・グランドと遠征の2試合による総当たり戦
を行う。
リーグ優勝の決まった後、各リーグの上位チームによるFAカップのトー
ナメントが争われるのである。

したがって、この国のプロサッカーの一試合一試合の激しさは、日本の
プロ野球の比ではない。同じ相手とは、たった2試合しかないのである。
1年間鎬(しのぎ)を削って戦った結果、最高の栄誉を懸けて、FAカッ
プ争奪戦に選ばれるわけであるからファンの熱気も自ずから高まる。

準優勝戦で、ロンドンに本拠をおく2チームが勝ったから、ロンドンッ子が
はしゃぐのも無理はない。


次頁へ