ハイ・テーブル

(前頁より)



ところで、クライスト・チャーチ・カレッジの学生食堂に入ると、これが伝統
の重みというのであろう。ずっしりと分厚い、何百年も経っていそうな木
のテーブルと、木のベンチ。
しかし、壁には所狭しとばかりに、このカレッジから世に出た著名人の肖
像画がずらりと懸けられて、後輩たちを見下ろしている。
工場の食堂のような日本の大学食堂とは比較にならないセッティングで
ある。ダイニング・ルームの位置付けが高いことがわかる。
 
さらに驚いたことに、学生食堂はセルフサービスではない。
スカウトと呼ばれるオックスフォード独自のカレッジ・サーバント(大学の
給仕職)が、ホテルのボーイのように給仕をする。
彼らは寮の廊下の端に小部屋を持ち、朝はモーニング・ティーを担当の
学生の部屋部屋に配り、洗濯物を集める。学生の身分で、モーニング・
コーヒーやティーが部屋に運ばれるのである。

学生の部屋と言っても感覚が狂っちゃう。応接セットの置かれた広いリビ
ング・ルームとベッド・ルームの二間である。何という彼我の差であろうか。



さて、スカウトたちは、モーニング・サービスが終わると直ちに食堂に行っ
て、朝食の給仕にまわる。夕食もまたスカウトにサーブされる。
学生達は傲慢なエリートになる訓練を受けているのではない。若いときか
ら人にサーブされる訓練がなされているのである。

その価値判断にはいろいろな意見があろうが、一旦緩急ある時には、エ
リートは真っ先に命を捨てて来た。ノーブレス・オブリージ(高貴なるがゆ
えの責務)が果たされているからこそ、このようなスカウト制度が残ってい
るのであろうと憶良氏は解釈し、感心した。



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