ダーク・スーツのいるゴルフ

(前頁より)



セント・アンドルーズはゴルフ発祥の地である。
ゴルファーなら一生に一度はここでプレーしてみたいと思っている聖地
である。

ロンドン・ヒースロウ空港を昼前にたつと、スコットランドの首都エジンバ
ラには昼過ぎに着く。バスで一路セント・アンドルーズの町へ急ぐ。
この町は寺院と大学都市としても中世から有名である。もともとはゴル
フの町ではなく、聖徒アンドルーズを称えた古都なのだ。

北海の強い風を受けろくろく木も牧草も育たない、砂とヒースと雑草の
生い茂る海岸の荒れ地に、玉転がしの好きな男たちが、手作りでコー
スを造った。

海岸という地形の制約もあって、18ホール中14ホールが共通グリーン
である。つまりひとつの大きなグリーンに、アウト・コースの旗とイン・コ
ースの旗が二本立っている。
日本のようにアウトとかインのスタートがクラブ・ハウスの近くからとい
う設計ではない。
1番からスタートして9番ホールは最も遠く、10番からはクラブ・ハウス
へ引き返してくる設計である。



午後3時、ゴルフ・リンクスの中にあるオールド・コース・ホテルへ着い
た一行は、まずはティーを飲み、着替えをすると、スタート地点のロイ
ヤル・アンド・アンシェント・クラブハウスへ向かった。
クラブハウスには簡単には入れない。リンクスでは逞しい男性キャディ
がつく。

スタート4時。
えっ、と思われる読者諸氏よ。ここの緯度は樺太北部並、夏は白夜で
ある。9時に上がってもまだ明るい。

さてさて、荘重なクラブハウスの前には暇な地元の男たちが腰を下ろ
して、ジャパニーズがどんなプレーをするのかと、一挙一投足を凝視し
ている。
いやはや緊張のティー・アップである。憶良氏のショットも、まずまず前
へ飛んで行き、ホッと一息つく。プロは大変なプレッシャーであろう。

こちらの芝は日本のフェアウェイとは違って、荒っぽく粘っこい芝生で
ある。
ラフは文字どおりラフ、「でこぼこの荒れ野」である。
日本のように、「よく刈り込まれたラフ」はラフではない。

やっとこさグリーンに乗せようとアプローチにかかると、キャデイが
「待て」という。
音に聞く共通グリーンである。帰りの組がグリーンの向こう側から打っ
て来ているのだ。

グリーンにオンしたといっても、簡単に喜べない。乗った位置がインの
方のホールにでも近いと、インの組に迷惑をかけるし、アンジュレイショ
ン(傾斜)のきついグリーンでは4、5パットはざらということになりかね
ない。

バンカーに入れたら悲劇である。
全英オープンに参加した日本の某著名プロが、タコツボ・バンカーで
8だか9だか叩いたことは、記憶力のよい方であれば覚えていよう。
簡単に言えば、日本の手入れの悪い河川敷ゴルフ場を、更に大きく
難しくしたようなコースである。

這這の体で7番に来ると、またまた「待て」である。ここではコースが
11番とクロスしているからだ。

コーすの先端9番グリーン目指して打とうとすると、キャディが、
「だめだめ、上空で風が強く舞っているから、もっともっとあっちへ向
いて打て」
という。
成程、これじゃベテランのキャデイなしではプレー出来ないなと痛感
する。

かくして次長会のツアー第1日は、散々な目にあって、ひどいスコア
で終わった。
遅い晩餐は、名物スモークド・サーモンとスコットランド牛ハイランド・
ビーフのステーキに舌鼓をうつ。

食後は夜の決戦が待っている。カード・テーブルでマージャンが開始
された。


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