中東戦争も一段落し、マーケットも平常に戻った。殺気立っていたディ
ーラーたちも、穏やかなもとの顔付きになった。
地下鉄モアゲート駅近くのパブにたむろしていた。
「チァース(乾杯)!」
「ご苦労さんでした」
つまみは名物スコッチ・エッグである。ゆで卵をハンバーグで巻いたよ
うな田舎風の素朴な味が、ラガーやビターによく合う。
「いゃあ、苦労したなあ」
「情けなかったですなぁ、ジャパン・プレミアムには。でも、どうしてイタリ
ーはプレミアムなしで取れたのでしょかねぇ?経済力は日本よりずっと
劣っているのに」
邦銀各行が「ジャパン・プレミアム」を払い、ユーロ資金の確保に苦心
惨憺している時、外貨準備も少なく(当時)石油の輸入国であり、ユー
ロ資金も取り入れ側であるイタリーの銀行は、不思議なことにケロリと
していた。
「イタリアン・プレミアム」という話も聞かなかった。
そこでやおら憶良氏が口を出す。
「それはね、本音のところは人種と宗教さ」
「エッ、人種と宗教ですか?
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