ロンドン憶良見聞録

百年の計



穏やかな晩秋の日曜日の朝である。
「ボンジュール、ムッシュ タチバナ」(おはようございます)
「ボンジュール、マダム カーン」
お隣のドロシー小母さんはフランス語が好きである。憶良氏はフランス
語の素養がないので、挨拶程度以上は進まない。ドビーはいかにも残
念そうに、英会話に切り替える。

「今日は珍しくよい天気で、とっても暖かいですね」
「アメリカではインデアン・サマー(小春日和)って言うんでしょうね」
「イエース。よくご存じね。よろしかったらどう、一緒にモーニング・コーヒ
ーいかが」
というわけでカーン夫妻とコーヒーにする。
彼女はなかなかの教養人で、憶良氏が疑問に思っていることや、英国
の慣習とか国民性などについて明快な解説をしてくれる。



「何かの本で読んだのですが、日本の方々は、陽気でフランクなアメリ
カ人に比べて、英国人はとっつきにくい冷たい国民だと思われているよ
うですね」
「一般的にはそう言われています。多分アメリカに占領されていたこと
と、戦後の経済復興がアメリカと深い関係があるので、どうしてもアメリ
カ人に親しみを持つのでしょう」 
憶良氏は慎重に模範的な答えかたをする。

「英国人はねえ、実は控えめな国民なんですよ。こちらからは近づかな
いんです。近所付き合いでも、ある程度の距離を置いて、ベタベタしな
いんですよ。この国民性が、外国から来られた方には冷たいと写るので
しょう。しかし、何か相談されたり依頼されたりする時には、親切なんで
すよ。その点アメリカ人は積極的というか、お節介すぎるところがあるの
ではないでしょうか?」

「そう言われてみると、おなじイングリッシュ・スピーキング・ネイションで
も英米両国の国民性には大きな差があるようですね」 

「ところで日常生活には何か不便はありませんか? 困ったときはお互
い様ですから、遠慮なく相談しなさいよ。出来ることはしますし出来ない
ことはできませんけれどもね。ホッホッホ」



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