デッドロックからの離礁(速報)

IRA武装放棄の声明

暗礁に乗り上げているかのように見えていた北アイルランド和平
交渉は、憶良氏推測のように、水面下で進展していた。
その中心は、やはりブリティッシュ・アイリッシュ協議会であった。

日本の新聞やテレヴィではあまり報道されていないが、BBCの
ホームページの最近の報道からまとめてみた。

IRA武装放棄の声明は、英国政府が、「北アイルランド和平合意
(Good Friday Agreement)は、本年5月22日に期限が切れ
るが、IRAには期限までの武装解除は期待していない」と声明し
た直後に行われた。

すなわちアイルランド政府アハーン首相と英国政府ブレア首相
は5月5日(金曜日)精力的な協議を行い、北アイルランドの警察
制度の改革や駐留軍の削減や、IRA囚人の釈放や、和平合意
期限の延長を討議し、両国政府から関係当事者への強硬な提案
に答える形で、IRAは劇的な声明を公表した。

1 和平合意期限の延長

マンデルソン英国北アイルランド担当相は、5月6日BBC放送で
「アイルランド政府と英国政府は、和平合意期限を2000年5月
22日より2001年6月まで延長することに合意した」と公表した。

2 IRAの武装放棄声明

この声明を受けて5月6日(土曜日)、IRAは、
「目下一時停止されている北アイルランド自治政治が、和平合
意に準拠して、発展的かつ後戻りしない形で今後16日以内に再
開されることを前提条件に、第三者による検査機関による査察
により、これが武装解除委員会に報告されるという形式であれ
ば、『全面的にかつ立証できる形で』武器の放棄を行う準備がで
きている」
The IRA has said it is ready to begin a process that would
"completely and verifiably" put its weapons beyond use.
と公式に回答した。

これはアルスター統一党(プロテスタント)が要求してきたような
武器の破壊(to destroy weapon)ではなく、武装の放棄(arms
dump)ではあるが、まことに画期的な内容のある声明である。

3 英国軍の削減

UK政府は、目下IRAの武力行動が抑制され、危険性が少なく
なっていることから、英国軍の北アイルランド駐留基地を大幅に
閉鎖することにした。

第1段階としてロンドンデリーとクックスタウンの基地やベルファ
スト北部・西部やアーマーの哨戒所が閉鎖されることになった。

4 警察制度の改革

従来北アイルランドの警察は、プロテスタントであるUK政府側
の立場でカトリック教徒(共和派)に不利な制度であった。
今回この改革に着手し、シン・フェイン党代表を含む10人の公
安委員会が来年1月に発足し、4月から活動する。
IRAが武装放棄するのも、駐留軍の削減や警察制度の改革が
着実に実施されると判断されたからであろう。
ここにもアイルランド政府が乗り出した成果がみられる。

4 プロテスタント政党の反応

アルスター統一党(プロテスタント)のトリンブル党首は、
「自分がIRAの武装放棄の安全性に責任を持つから」と、IRA
の武装解除を疑問視してきた党内極右派を抑え、前向きに受け
容れる姿勢を示した。

アルスター統一党はIRAと関係の深いシン・フェイン党と自治政
府を作ることに否定的であったが、IRAが武装放棄する以上、
これを無視できなくなったといえよう。

5 第三者査察機関

IRAは、武装放棄が『全面的にかつ立証できる形』で行われるこ
とを検査し、武装解除委員会に報告する第三者機関として、前
フィンランド大統領のMartti Ahtisaari 氏と、前アフリカ民族会議
事務総長のCyril Ramaphosa氏を指名した。

Martti Ahtisaari 氏は、かねてより紛争の解決の適役として、ヨ
ーロッパでは著名であり、最近ではEU(European Union)からコ
ソボ紛争の解決に派遣されている。

Cyril Ramaphosa氏はアフリカの民族会議や黒人労働者組合の
リーダー的存在である。南アフリカの憲法草案にも関与しており
現代のネイティブ・アフリカンの指導者の1人である。

以上のように、ゴールデン・ウィークで遊び呆けている間に、北
アイルランド問題は、水面下で確実にかつ大幅に進展していた。

結果としては、憶良氏が「聖パトリックの日、3月17日に注目(速報)」
と予言したように、三方一両損の、当事者全員が譲歩した形とな
った。
皆さんは、憶良氏のHP以外の日本の報道でこの予想を見たこと
がありますか?



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