風薫り 走れタチバナ アスコット
(前頁より)
「その年の婦人帽の流行はアスコット競馬に始まる」
と言われているくらい女性観客がフアッショナブルな競馬として有名で
ある。
メイン・スタジアムのプライベート・ルームをリザーブする男性は、黒や
グレイのモーニング・コートに、シルクハットを着用しないとスタンドに
入れない。
日本ではモーニングは黒と思い込む向きがあるが、グレイのハットが
多い。
小柄な憶良氏がシルクハットを被れば、チャップリン風のチンドン屋に
なりかねない上、貴賓席などに座れる身分でもないので、メイン・スタ
ンドでも下の方の、背広ネクタイでよい席をとった。
「あなた、帽子を買ってくださらなければ、アスコットにはお供できない
わよ」
ということになって、ハロッズ百貨店でネービー・ブルーの洒落たアウ
ティング用の帽子と似合うサマードレスを買わされることになったのは、
2百数十年の歴史に敬意を表し、やむをえない。
かくして1975年6月18日は、憶良氏の自分史にとって画期的な日とな
った。
この日はロイヤル・アスコットの第2日目であった。水曜日というのに
スタンドは満員である。休暇をとってアスコットに来るようなジャパニー
ズ・ビジネスマンもいようが、スタンドを見回しても知った顔は見当らな
い。

次頁へ
「ロンドン憶良見聞録」の目次へ戻る
ホームページへ戻る