ウルトラマンの母 |
2000年宮城県大会創作脚本賞・大会優秀賞 |
通りがかりの男・少年・ある時は詩人の占い師・地域住民代表・探し物の見つからない女・警察官・レポーター・男・父・先生 |
ウルトラマンの母A |
@ 深夜のアーケード。 |
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占い師 | 探し物は見つかったのかい。そんなに大切なものだったら、いつでもポケットの中へ入れとかなきゃ。それとも金庫にしまったまま開けるける鍵をなくしちまったのかい。もしかしたら、それが大切なものだってこともすっかり忘れてしまったのかい。 |
女登場。 | |
女 | またわけのわからないこと言ってる。今日は詩人なのね。 |
占い師 |
わけなんかわからないほうがいいこともあるんだよ。 |
女 | そう? あたしはいつでもわけが知りたいよ。どうしてそうなるのか。どうしてこうなったのか。 |
占い師 |
で、見つかったのかい、お嬢さんの探し物は。 |
女 |
わかったのよ。 |
占い師 | ほう。 |
女 |
何を探しているのかがまず分からないってことが。 |
占い師 |
それを進歩と言っていいんだろうか。 |
女 | なによ、あんただってぜんぜん進歩ないじゃない。 |
占い師 |
ん? |
女 | あいかわらず暇そうだし。 |
占い師 | おおきなお世話だ。 |
女 | 簡単じゃない、客が言って欲しいことを言ってあげりゃいいのよ。あんたに見てもらおうなんて人はさ、みんなほんとはどうすればいいのか自分ではわかってるんだから。ただね、わかってんだけど誰かにそうだねって言って欲しいだけなのよ。 |
占い師 | 俺は真実を伝えるだけさ。想像できる未来なんてつまらないじゃないか。余計なこと言ってないで、今日も見るんだろ。 |
女 | あら、早くも転職?あたしが食わしてやってるようなもんね。 |
占い師 | こういう商売でお得意様っていうのもどうかと思うがね。 |
女 |
何か変わったかな? |
占い師 | 運命なんてそう簡単に変わるもんじゃないさ。 |
女 |
だからあんたは儲からないの。 |
占い師 | 金儲けでやってるわけじゃない。 |
女 |
変える事ってできないの? |
占い師 | お前さんみたいに姿、形を変えたところで一生自分ってものからは離れられないんだ。他人がお前さんをどう見るかは知らんが、鏡の中にいるのはやっぱり元のお前じやないのかい? |
女 | あたしだってね。好きでこうなったわけじゃないよ。中学までは普通の男の子だったわよ。……自分をね、変えて見たかったの。今までの自分とは全然違う自分に生まれ変わりたかったの。でも、もう一度初めからやり直すってわけにもいかないじゃない。テレビゲームみたいにさ。 |
占い師 |
ヘンシンって感じか。 |
女 | 何それ。 |
占い師 | ヘンシンだよ。変身。正しくやれぱ、こうやってこうきて、こうだ。 |
女 |
何それ。 |
占い師 | 知らないのか、変身した身の上のくせに。 |
女 | そんなの聞いたこともない。 |
占い師 | お前まさか、いくらなんでもこれは……。 |
女 ん | ? もう一回やって。三十七度五分。ちょっと高いな。 |
占い師 | 違うんだよ。良く見ろよ良く、いいか。 |
女 | 牛乳は腰に手をあてて飲みましょう。 |
占い師 | 違うだろ! これだぞ、これ! |
女 | 天下御免の向こう傷、ぱっ。 |
占い師 | 拙者早乙女……違うんだよ!なんてこった、戦争を知らない子供達のその子供達が今度はウルトラマンを知らないなんて。 |
女 |
だあって知らないもん。 |
占い師 | そうかそうか、……日本の未来は暗いな。 |
女 |
なんでそうなるのよ。それより早く見てってば。 |
占い師 |
わかったよ。どうせ明るい未来なんてないのになあ。どれどれ、ん? |
女 | 何?何が変わった。ねえ、何が見えたのよ。 |
占い師 | 肌が荒れている。 |
女 |
なによ。寝不足なのよ。化粧ののりも悪いの。厚塗りなの。 |
占い師 | これは! |
女 | 手がガサガサだとか言うんでしょ。 |
占い師 | お前さん、恋をしてるね。 |
女 | な、なに馬鹿なこと言ってんのよ。そんなもの中学校の下駄箱の中に忘れてきちゃったわよ。 |
占い師 | いや、お前に恋してる奴がいるってことかな。どっちにしろ、お前さんの心の隅っこの方にぼんやりだが、人の影が見えるんだよ。 |
女 |
気がつかなっかった。そんなに広い心じゃないのに。 |
占い師 | 本当はみんな自分のことが一番分からないのさ。 |
女 | それって誰かがあたしを気に掛けてくれてるってことだよね。このあたしのこと思い出してくれる人がいるってこと? |
占い師 | 俺は真実を伝えるだけだってば。 |
女 | あたし、帰るよ。 |
占い師 | ずいぶん急ぐじゃないか。もっと話していけよ。 |
女 | だって電話が来るかもしれないじゃない。部屋だって片付けなきゃ。あ、洗濯物干しっぱなしじゃない。じゃ、急ぐから、またね。あ、またねって言ったけど、もう来ないかもしれないよ。 |
女退場。 |
A | |
占い師 | なるほど、こうやるわけか。俺も結構商売上手なのかもしれないな。探し物なら別のとこへ行きな。俺は遺失物の係じゃないんでね。駅へ行ってみるといいよ。そこにはそこには大勢の人のため息といっしょに、あんたが忘れた大切なものを預かってくれてるかもしれないからね。でもね、忘れちゃいけないのは、身分証明だよ。あんたがほんとにあんたかどうか、ちゃあんと確かめないといけないからね。探しているうちが花なのさ。たとえそれが何だか分からなくってもね。 |
少年登場。 |
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少年 | あ、あの。 |
占い師 | 探し物かい? |
少年 | いえ、そうじやありません。 |
占い師 | これ知ってるか?これ。 |
少年 |
は? |
占い師 | これだぞ、これ。 |
少年 | ……ウルトラマン? |
占い師 | 日本の未来もまだ捨てたもんじやないなあ。おじさんうれしいよ。 |
少年 |
はあ。 |
占い師 | ちなみに、仮面ライダーは? |
少年 | ああ、はい。 |
占い師 |
一文字隼人はこうで、本郷剛はこうなんだよな。 |
少年 | そこまで詳しくは。 |
占い師 |
日本の未来が曇ってきたなあ。……月光仮面は? |
少年 | あ−、ちょっとそのへんになると。 |
占い師 |
月光仮面は知らないと。 |
少年 | なにメモしてるんですか。 |
占い師 | いや、ヒーローがね、いない時代だなと思ってさ。 |
少年 | だからって何でぼくの言ったことメモするんですか。 |
占い師 | ちなみに、もちろん少年ジェットなんて知らないんだよね。 |
少年 |
はあ、知らないです。 |
占い師 | 少年ジェットも知らないと。 |
少年 | だからどうして、 |
占い師 | じゃあかろうじて知っているあたりで話をするけどね、ウルトラの母って知ってる? |
少年 | あ、なんとなく。 |
占い師 | ウルトラの母ってさ、頭の格好がどう見てもおさげ髪なんだよな。おかしいと思わないか |
少年 |
いえ、別に。 |
占い師 | だいたいウルトラの母っていうのがおかしいだろう。 |
少年 | そうでしょうか。 |
占い師 | そんなアットホームなヒーローがあっていいと思うか。 |
少年 | そう言われても。 |
占い師 | やっぱりショッカーの手で改造されてしまった仮面ライダーの悲しい身の上っていうのが正しいヒーローの形だと思うんだなあ。 |
少年 | はあ。 |
占い師 |
ヘンシンだろ?お前も。 |
少年 | は? |
占い師 | お前もヘンシンってやってみたいんだろう。 |
少年 | ああ、ヘンシンね。 |
占い師 | ヘンシンって叫んで何かほかのものに変われたらなんて思ってるんだろう。 |
少年 | あの、なかだか話が一方的に盛り上がってるんですが、ぼくが話しかけたのはそういうことじゃなくて |
少年 | なんでまたメモしようとしてるんですか。 |
占い師 |
いや、世間相手の商売だから。 |
少年 | 商売の邪魔をするつもりはないんです。ここで歌ってもいいですか。 |
占い師 | なんだ、そんなことか。構わないよ。どうせお客なんてきやしないんだ。 |
少年 | ありがとう。うるさかったら言ってください。すぐやめますから。 |
B |
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男 |
おっ、いいところにいやがるな。やってくれい。 |
少年 | 何をですか? |
男 |
何ってお前、古質メロディに決まってんじゃねえか。 |
少年 | 古質メロディって何ですか? |
男 |
しょうがねえなあ、じゃ何が出来るんだよ。流しのお兄さん。 |
少年 |
ぼくは流しじゃありません。 |
男 | ありませんって、ギター持ってるじゃねえか。 |
少年 |
ギターは持ってますけど。ほら最近街で見かけるでしょ、ほらあっちの通りに大勢いるじゃないですか。 |
男 | おお、あいつ等か。変だと思ったんだよ。飲み屋もねえのになんだってこんなに流しがいるんだろうって。 |
少年 | おじさん、世の中の流れに乗ってませんね。 |
男 | おじさんって言うな。 |
少年 | すみません。 |
男 | お前におじさんって言われるほどのおじさんじゃないんだよ。 |
少年 |
すみませんでした。 |
男 | あやまるな。 |
少年 | だって、 |
男 | お前にあやまられるほどのおじさんじゃないんだよ。 |
少年 | 酔ってます? |
男 | うん。まあいいってことよ。人生そんなに堅苦しく生きてどうすんだ。なあ少年。明日は明日の風が吹くんだ。そうだろ少年。少年? 少年? …少年がこんな時間になんだ−。 |
少年 | ごめんなさい。 |
男 | あやまるな。 |
少年 | はい。 |
男 | 家でおかあさんが心配してるぞ。こんな遅い時間にこんな場所をうろうろして。 |
少年 | 心配は……してるんでしょうね、やっぱり。 |
男 | 当たり前だ。子供を心配しない親がどこにいる。 |
少年 | それが負担だったりもするんですよ。 |
男 | な−に生意気言ってやがる。あ、わかった。あれだろ。お受験。 |
少年 |
は? |
男 | 東大一直線。 |
少年 | ぜんぜん。 |
男 | 早稲田? |
少年 |
いやそういうことを言っているんじゃなくて、 |
男 | 駒澤? |
少年 | なんで急にそこいくんですか。 |
男 | あ、駒澤をばかにしてるな。あそこはキャンパスで坊主が見られるんだぞ。 |
少年 | だからそういうことじゃないんですよ。親は学歴なんてどうでもいいって言ってるし……。 |
C 父親登場。 |
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父 | そのとおりだよ。子供の自主性ってものを第一に考えなきゃ。そう。こう生きなきゃってことはないんだから。父さんはね、大学には行きたかったけど家の仕事を継がなきゃならなかったんだよ。家は豆腐屋だったからね、毎朝毎朝早く起きて、こう大豆をだなあ、こう大豆を……なんで俺はこんなことしてなきゃならないんだって、涙がさ、こう涙が流れてくるんだよ。涙を流しながらそれでも大豆を煮たんだよ。……そういう時代だったんだ。だけどね、今は違うんだ。個性の時代じゃないか。君は君の好きな人生を生きていいんだよ。 |
父退場。先生登場。 | |
先生 | そのとおりだよ。先生もそう思うな。学校の名前じゃないんだ。偏差値じゃないんだ。そこで何を学びたいかが大切だと思うんだよ。自分らしく生きる。これなんじゃないかな。自分らしさってものを見つけることが君たちのこれからの人生で一番大切なことなんじゃないか?学校だってちゃあんと多様化する生徒に対して様々な選択肢を準傭してるんだ。おっと、授業の時間だ。3時間目は「世界の踊り2・バンプーダンス」どれ、竹の準備、竹の準備と……。 |
先生退場。 | |
D | |
少年 | 気がつくと、ぼくは街にいたんです。 |
女登場。 | |
女 | あたしが開けてあげる。 |
男 | なんだお前は。 |
女 | このいんちき占い師。あたしがほどいてあげるわ。あんたの縛られた両手を、この鍵で、自由という名の鎖でしぱられたその…… |
男 |
そこで宝塚みたいなことやってないでさっさと開けろよ。 |
女 | わかってるわよ。ほら、開いた。 |
少年 | ありがとう。あの……、 |
女 | あんたの手、女の子みたいに柔らかい。どっかで……。あんたうちのお店来たことある? |
少年 | いえ。 |
女 |
そうよねえ、さすがに今時の高校生だって来ないわよねえ。 |
男 | お前はどんな店に勤めてんだ。 |
女 | あんたこのへんじゃ見ない顔ね。 |
少年 | ええ、今日初めて来たんですから。 |
男 |
今日初めて来たんだよ。この流しのお兄さんは。 |
少年 | あの、流しじゃ……。 |
女 | ば−かね、あんた。ストリートミュージシャンって言うのよこの人達。 |
男 | ばかって言うな。わかってるんだよ。からかってみただけじゃねえか。街の音楽家だろ訳せぱ。 |
少年 | なんか森の音楽家みたいですね。 |
女 |
おじさんはすぐ訳しちゃうのよ。 |
男 | おじさんって言うな。 |
女 | でも、あんたなんでこっちでやってるの?みんな向こうの通りにいるじゃない。あたしたまにだけど間きにいくよ。下手も多いけどさ。こう、せつなくなっちゃうような歌歌う子もいるんだよね。 |
男 | 下手も多いじゃねえよ。下手以前の問題だよ。奴らがやってるのはな、ままごとだよ、実感がないんだよ、砂のおだんごなんだよ。女と寝たことのない奴が女の歌なんか歌うんじやねえってんだ。 |
少年 | すみません。 |
女 |
あんたがあやまることないのよ。なによおじさん。急に真面目になっちゃって。この子はね、辛いことがあるのよ。それをね、少しでも紛らわせようとここに来て歌ってるんじゃない。 |
男 |
おじさんって言うな。 |
少年 | そういうのともちょっと連うと思うんですが。 |
男 | ほら違うって言ってるじゃねえか。 |
女 | 誰にも迷惑かけてないじゃない。歌いたいことを歌って何が悪いのさ。 |
男 | 迷惑なんだよ。住民がうるさくて寝られませんって横断幕がはってあったじゃないか。 |
女 | 酔っぱらいだっておんなじじゃないの。あんたがぶつぶつ言う戯言よりか、この子の歌の方がずっとましだわ。あ、ごめん、ましだなんて言っちゃって。聞いてもいないのに。 |
少年 | いえ。 |
男 | だいたい何を歌うっていうんだよ。歌っていうのはさ、こうなんかせつないものなんじゃないの?人生の悲哀っていうかさ、社会に対して訴えたいっていうかさ。辛い人生だけど頑張ろうみたいなさ。こうジンとくるもんがなきゃいけないんじゃないの。 |
少年 | 確かにそんな気もします。 |
女 | こんな酔っぱらいの言うことに納得しちゃだめだよ。若者には若者だけの考えがあるんだって。若者でしか歌えない歌だってきっとあるはずよ。 |
少年 | うん、そうかもしれないな。お姉さんって優しいですね。 |
女 | お姉さんだなんて、やだ、照れるじやない。 |
男 | 痛えんだよ。 |
女 | とにかくこの子は歌いに来たんだからさ、邪魔しちゃだめだよ。聞いてみたらいいじゃないの、まずはさ。 |
男 | わかったよ、何でも好きなのやってみろよ。聞いててやるから。 |
少年 | じゃ、いきますよ。 |
男 | おう。 |
少年 |
歌いますよ。 |
男 | おう。 |
女 | はやく。 |
少年 | なんか、そうしっかり待たれても、なんだかやりづらくって。 |
男 | めんどくせえ奴だな。形はどうでもいいだろ。歌が大事なんじゃねえのか、歌が。 |
女 | 初めてなんだもの。まだ慣れてないんだから、そんなこと言っちゃかわいそうでしょ。 |
男 | さっきからお前、こいつの味方ばっかりしやがって、お前はこいつのかあちゃんかってえの。 |
女 | 大人なんでしょ。やりたいようにさせてあげれぱいいじゃない、どうせ暇なんだし。 |
男 | わかったよ。やってやるよ。どうすりゃいいんだ。 |
女 | こう、偶然通りがかったっていう雰囲気を出したいわね。 |
男 | お前が偉そうに言うんじゃないよ。 |
女 | ちょっと、そっちからこう自然に歩いてきてよ。 |
男 | わっかったよ。やってやるよこうなったら。こっちからだな。 |
女 | いいわよ。よーいスタート。 |
女 | カーット。誰がお城に忍ぴ込めって言ったのよ。スタニスラフスキーぐらい読んでから来て欲しいわ。 |
男 | なんだそりゃ。 |
女 |
あたし演劇部出身なのよ。こう見えても。 |
男 |
そんなこと言うんだったら、お前がやってみろよ。 |
少年 | あの、お気持ちはうれしいんですが、そうやっていろいろされると、どんどんやりづらくなるんですが、いや皆さんの気遣いは、ほんとうれしいんですけど。 |
男 | お前のためにここまでやってやってるのに、そういう言い方はないだろう。わかったよ。消えてやるから後は好きにやんな。 |
男退場。 | |
女 | もう来なくていいからね。……でも聞きたいわ、あんたの歌。あたし食事してくるからさ。また来るよきっと。一人になればさ、歌えるよ、きっと。別に待ってなくていいからね。戻ってきてさ、いなかったら帰るから。いいんだよ、気にしなくて。 |
女退場。 |
E | |
少年 |
そう言われるとかえって気になるんだけどなあ。(少年歌い出そうとするが、) |
少年 |
ぼくらはいったい何を歌えばいいんだろう。 |
占い師 | そこの迷える若者。 |
少年 | はっ? |
占い師 |
何に迷っているのかも分からない若者。 |
少年 | ぼくのことですか。 |
占い師 | で、どんな夢を見たんだい。 |
少年 | なにも言ってないじゃないですか。また強引に話題を自分の方へ持っていこうとしてませんか。 |
占い師 |
だって君には話題がないんだろ。 |
少年 | そう言われると。 |
占い師 | だって君には歌う歌さえないんだろ。 |
少年 |
聞こえてたんですか。 |
占い師 | 鮫は常に前進していないと死んでしまうんだ。 |
少年 | え、そうなんですか。 |
占い師 | 無学な若者だな。 |
少年 | すみません。 |
占い師 | 人間だって同じさ。 |
少年 | そうでしょうか。 |
占い師 |
そこでずっと立ちっぱなしって訳にはいかないんだよ。 |
少年 | はあ。 |
占い師 | 生まれたものは必ず死ぬのさ。 |
少年 | それはそうですけど。……あの、ひとつ質問していいですか? |
占い師 | どうぞ。 |
少年 | なんでさっきあんな話をしたんですか。 |
占い師 | ああ、ヒーローね。もうヒーローが生きられない世の中なのかなと思ってね。 |
少年 | 確かにいませんね、ヒーロー。 |
占い師 |
君らのヒーローって誰なんだ。 |
少年 | ヒーローですか。うーん、思いつきません。 |
占い師 | やっぱりな。 |
少年 | おじさんの頃のヒーローって。 |
占い師 | ウルトラマンだろう、やっぱり。 |
少年 |
ヒーローの条件って何なんでしょうね。 |
占い師 | そりゃ、ちろん正義の味方であることだよ。 |
少年 |
なるほど。 |
占い師 | そして人間には真似できない圧倒的な力だな。 |
少年 | そうですね。 |
占い師 | 人間にはできないことをやってくれるヒーローを見て、スカーッとするわけだ。この世の悪を一刀両断。スペシウム光線だよ。 |
少年 |
不満を解消してくれてたわけですね。 |
占い師 | もう一つ。 |
少年 何 | ですか。 |
占い師 |
守るものは青く美しい地球・そして人間だ。 |
少年 | 人間が強くなりすぎたんでしょうか。 |
占い師 | 何が。 |
少年 | 人間が何でもできるようになって、ヒーローが必要なくなったんじゃないんですか。 |
占い師 | なるほど。でもな、ヒーローにはいつも裏返しの危険が伴っていたんだよ。 |
少年 | どういうことですか。 |
占い師 | 怪獣と戦うウルトラマンの足元では、どれだけ多くの人命がその巨大な足の下敷きになって失われたことか。 |
少年 | ああ、冷静に考えるそうですよね。 |
占い師 | これだけじゃない。もしその圧倒的な破壊力が悪の力として発揮されたら。たとえばウルトラマンが、「よーしこうなったら俺が地球を征服しちゃおうっと」なんて思ったらたいへんなことになる。 |
少年 | そう思わないから正義の味方なんでしょ。 |
占い師 | でも彼ら自身が正義じゃないのさ。あくまで彼らは正義の味方。その正義が正義じゃなかったらどうなるのか。 |
F |
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女 | いた−。待っててくれたんだ。 |
占い師 | (女を見て)確かに人間は何でもできるようになったのかもな。 |
女 |
なに?あたしのこと。 |
占い師 | いや、ヒーローの話だよ。 |
女 |
それだったらヒーローじやなくてヒロインでしょ。 |
少牟 | くすくすくす。 |
女 | あ、なに笑ってるのよ。あんた変なこと吹き込んだでしょこの子に。 |
占い師 |
なんにも言ってやしないよ。 |
女 | あんたの話なんか、どうでもいいのよ。で、どうなの、歌えそう? |
少年 |
あの、ずっとおじさんと話していたから。 |
女 | なーんだ、つまんない。あたしを待っててくれたんじゃないのね。な−んだ。 |
少年 |
いえ、そんなことないですよ。ちゃんと待ってたんです。 |
女 | 絶対待っててくれると思ったんだ。はいコーヒー。 |
少年 | あ、ありがとう。 |
女 |
あたし缶コーヒーって好き。 |
少年 |
そうですか? |
女 |
なんだかさ、妙に甘くってさ、口の中に残る感じがいいのよね。 |
少年 | 残る感じか。 |
女 |
始めますって感じでやろうとするからじゃない?なんとなく始まってるっていうのがいいんじゃないの。いつ始まっていつ終わったんっかわかんあいって感じが。 |
少年 | なんとなくか。そうだな、なんとなく始めてみようかな。 |
つづく |