常夏の島は暑かった @
                       作・尾田将史
夏休み、大海原を漂流する高校生三人組み。南国の島に漂着する。原住民の兄弟との出会い。なにやら悪巧みをする日本人。男なら誰でもあこがれる冒険。笑いあり、アクションあり、の大活劇。
ナオト・フミヤ・シュウイチ・ポポ・ドラ・カチョウ・コマツ

常夏の島は暑かったA

 

                第一場

     海上。波の音。

     ナオトだけが身を起こしてポートの縁にひじをかけている。
    フミヤ、シュウイチの二人は眠っている。しばしの沈黙。

ナオト  ふう、な−んも見えて来やしねえ。海なんてのも、ここまでなんにもねえと、ただのだだっ広い水たまりだな……それにしても、日本を出発してだいぶ経ったなあ。いったいここはどこなんだ‐……方位磁石があればなあ。(地図を取り出して見る)こんな海のど真ん中じゃ、世界地図なんてちっとも役にたたねえ。

     またも沈黙。波の音。シュウイチのいびき。

     しばらくしてフミヤ起きる。

ナオト 

お、やっと起きたな。

フミヤ     ん、おはよ。今、どこらへん?
ナオト     寝ぼけんな。こっちが聞きてえよ。
フミヤ 

そっか、ごめん。そうだよな。おれたちって、そんな生易しい状況じゃないもんな。あ−あ、水も食料もずいぶんなくなってきたなあ。大丈夫かなあ、オレたち。

ナオト  ふっ、大丈夫もなにも、このままじゃ、オレたちゃ、海の藻屑だ。
     シュウイチのいぴきが、またやってくる。
ナオト    

ったく、人がこんなに真剣に悩んだいるってのに。おら、起きろ、委員長!なに呑気に寝てやがる!今何時だと思ってんだ!

シュウイチ  う−ん、も、もっとお−!(と悩ましげに)
ナオト     アホ!変な夢見てんじやねえ!
シュウイチ  いたっ!なっ、なんなんですか、いきなり。誰ですか?こんな非人道的な起こし方をするのは!と言っても、このメンバーでそんなことするのは、一人しかいませんけど。
ナオト     ヘっ、おめ−がいつまでもグースカ寝てやがるのが悪いんだよ。
シュウイチ   何言ってるんですか。私が見張りを交代したのは午前八時だから、(腕時計を見る)今は九時、ボクはたったの一時間しか睡眠をとってないんですよ。何が悪いんですか。見張りは八時間交代だし、第一、ナオトの次はフミヤの番でしょ。
ナオト     だ−っ!うるせえ!おめえってやつは、起きたとたんにこれかい。おめえのいびきがあんまりやかましいもんだから、黙らせてやっただけよ。
シュウイチ  

そんなの、理由にならないでしょう。

フミヤ  ま、まあまあ、お二人さん。
シュウイチ だいたい何も見えないからといって、ぼくらに八つ当たりするのは、止めてくださいよ。こっちだってイライラしてるんだから。
ナオト     なんだとおおおっ?
シュウイチ   「わー、全部海だあ。すっげえ! こんな光景に出会えるなんて、オレは幸せだなあ」なんで感激してたの、誰でしたっけ。あきっぽいんですね。
ナオト  

こんちくしょう、言わせておけば!おめえは昔から人の弱みばかりにぎりやがって。            

シュウイチ  そっちだって、なんですか、そのいいぐさは。
    取っ組み合う。ボート、大きく揺れる。
フミヤ  

やめろ−っ!ひっくりかえるぞ!

    二人の動き止まる。揺れが小さくなる。
フミヤ

静かに、静かに。いいか、冷静になれ。そうだ、そうだ。もう食料が残り少ないんだ。余計な体力を使うな。シャレになんないぞ、海の藻屑になるなんて。

ナオト  わ、わかった。わりい。
シュウイチ  

そうでした。フミヤの言う通りです。情けない。よし、ここいらで、食料の残りを確認しましょう。

フミヤ     ギクッ!
ナオト  ん?  どうかしたか。
フミヤ へ?う、ううん、何でもないよ。
シュウイチ 

 え−と、水が一五リットル、だいぷなくなりましたね。そんでもってカンパンが二十缶、コンビーフとツナが八缶、う−んこちらもかんばしくない。バナナはっと、

ナオト  おれの田辺屋のアンパンは?確か名前を書いておいたはずなんだけど。
シュウイチ  

あんぱん?田辺屋の、え−と、無い。

ナオト     うそ、オレ食ってねえぞ。
フミヤ     この暑さだ、腐ってるよ。
ナオト  いや、正味期限はまだ切れてない。
シュウイチ  

そう言えば、ぼくのカニカンも無い。

ナオト  ん、ということは(フミヤを睨む)
フミヤ     な、なんのことかな。
ナオト   とぼけるな、おめえだろ。
     ナオト、フミヤにとびかかる。ポート大きく揺れる。
シュウイチ

うわうわわ−、あぷなあ−い!

フミヤ    

わかった、わかったから、静かに、静かに、静かに(言いつつ、隠していたあんぱんとカニ缶をだす)

ナオト     今日お前は、一日、めしヌキ。
フミヤ そんなあ!
ナオト  

黙れ、キミに弁解の余地はない。

シュウイチ ちょっと、あれ!
フミヤ     何?
シュウイチ 波だ。
フミヤ 

お、おっきい!

ナオト 来る、来るぞ。
     大きな波がボートを襲う。
三人  うわあ!ぶげっ! びええっ!
     三入うまく建て直すが、息荒く、暫く沈黙。
ナオト     誰だ。誰だ!! 遊べる最後の高2の夏を、みんなで、思い切って、大海原を冒険しようなんて馬鹿なことを言いだしたのは、誰だ!!
フミヤ
シュウイチ
  お前だ。
ナオト 

えっ、そうだっけ?じゃ、じゃあ、寝ぼけてフミヤを海に蹴落としたのは誰だ!

フミヤ
シュウイチ
お前だ。
ナオト

ちくしょう。じゃ、じゃあ、おしっこしてる時にボートが激しく揺れて、その拍子にシュウイチにおしっこひっかけたのは、誰だ!

フミヤ
シュウイチ 
それもお前だろう。
ナオト 

うわあああ、じゃ、じゃ、夜中にこっそり水を飲んだのは誰だ!

フミヤ     犯人はお前か!(なぐりつける)
ナオト いてっ!
シュウイチ  

道理で水の減りが早いと思った。

ナオト くっそ−、ぜんぶオレじゃねえか!
    ガスン、ポートがゆれる。みんな静まる。
フミヤ  何かポートにぷつからなかった?
ナオト

気のせいだ。

シュウイチ でも、何か雰囲気的におかしくありませんか。
フミヤ  そう、なんて言うか、あまりに静かすぎる。
ナオト  なんだ、二人とも。臆病風に吹かれたかや。(ガスン、ボートがゆれる)
フミヤ  また、ガスンって。
シュウイチ 

ちょ、ちょっとナオト、海のなかのぞいて見て下さいよ。

ナオト なんだよ、どうせ、ちょっと大きな魚なんかだろう。
    ナオト、ボートから身を乗り出して海の中を覗く。
ナオト     うわっ!
フミヤ

な、なに?なんだった?

ナオト さ、さささささささささ、
シュウイチ  もったいぷらないで、早く教えて下さいよ。
ナオト サメだあ!!!
フミヤ
シュウイチ

え−!(ガスン、ポートがゆれる)

シュウイチ   ひょっ、ひょっとして、これは今回の冒険最大のピンチなのでは?
フミヤ  そんなことより、一刻も早く逃げるぞ。オールをとってくれ。
ナオト  ちくしょう!(オールを出してフミヤに渡す。二人清ぎだす。)
ナオト
フミヤ

いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!

シュウイチ あ、あのう、必死になってるところ、悪いんですけど、僕は何をしたら
フミヤ     (すごい顔で)バッカヤロー!そんなの自分で考えろ。
シュウイチ そんなこど言われたって。うわあ、また追ってくる!
             おろおろするシュウイチロウ。
シュウイチ

そうだ!(ポケットから扇をふたつ取り出す)フレー、フレー、フミヤ! フレー、フレー、フミヤ! いけいけナオト!いけいけナオト! がんばれがんばれ三高!

ナオト  あほか。そんなことしてる暇あったら、海に入ってバタ足でポートを進めろ。
シュウイチ そ、そんなことしたら、僕の足が食べられちやうじゃないですか。
ナオト  その時はその時だ。がんばれ……ん、なんか、冷たいぞ。
フミヤ

あ−、水だ、水が入ってくる。

シュウイチ  あ、あそこに穴あいてる。サメがぶつかった時にできたんでしょうか。
ナオト  よかったなあ、シュウイチ!やることができたぞ。
シュウイチ み、み、みずを、かきだせば、いいんですね。
ナオト

それ以外に何がある。いくぞ。そ−れ−。

三人  いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!
ナオト  まだ追って来やがるか。
シュウイチ  あ、もう大丈夫。影も形もありません。
三人 

はあああっ。(しばらくして)

フミヤ     あっ!お、おい、見ろ!(立ち上がる)島だ!島が見えるぞ!
ナオト     ああ、本当だ。島だあ−!(立ち上がる)
シュウイチ 立たないで。あぷないよ。すわって、すわって、た、助かった。
フミヤ    

よ−し、もうひとふんばりだ。

ナオト  おう。(三人位置について)
三人  いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!いっち、に!

 

                                                  第二場

          島、浜辺。波、カモメ。ナオトとフミヤ、下手より走って登場。

ナオト    

ひゃっほ−!       

フミヤ  イエーイ!
           歓書の声をあげながら、舞台上をぐるぐるまわり、
     滑り込むようにしてすわる。
ナオト
フミヤ

(顔を見合せて)ハハハハハハ!(大声で笑いころげる)

シュウイチ  (下手よりうれしそうに登場)いっや−、陸に足をつけるなんて、いったい何日ぷりですかね。こんなにも地面がありがたいものだなんて。ああ、全く幸せですよ。
ナオト     な−に気取ってんだよ。ホレ!(砂をかける)
シュウイチ ぷあっ、ちょっと、ナオト、砂をかけないで下さいよ。(シュウ、やりかえす。二人、砂のかけあい)
フミヤ    

はあっ、何と言うか、生きた心地がしたっていうか。地面の上を歩くと安心するよ。(行進、やがてばったりと寝ころがる)ああ、こんなきれいな砂浜、見たことないなあ。

         ナオトとシュウイチも、疲れ果てて寝ころがる。
ナオト    

海もすんげえ透明で、しかも薄緑。まさに楽園だなあ。いったいここはどこなんだろう。

シュウイチ さあ、どこでしょうか。あれえ、ぴょっとして、ここは赤道直下、もしくは赤道付近の小島。
フミヤ     何でわかるのさ。
シュウイチ  

昔、図鑑で読んだことがあります。赤遺付近は太陽の光が直角に降ってくるから、気温が高い。ほら、太隔が真上にあるでしょう。(眠そう)

ナオト    

ほお−、さっすが学級委員長。物知りだな。

フミヤ   これで地球上におけるおおまかな位置はわかったとして、次はこの島だな。たいして大きな島じゃなさそうだな。無人島なのかな。
ナオト  そうだと思うぜ。人間どころか、動物の影すら見当たらねえ。わけのわからねえ生物に襲われるよりはましだがよ。
フミヤ    

でも、そうなると、間題は食料だね。この島には木の実かなんかあるのかなあ。

ナオト     (あくび)さあな、あの森ん中でも探せば、なんかあるんじゃないの。
フミヤ     うん、よし、さっそく行こう。
ナオト    

どうぞ…il

フミヤ  ちょっと、眠るなよ。
ナオト  いいから、オレも眠らせて。
フミヤ オレもって ?
シュウイチ

ゴゴゴゴゴ・・・・・ピーゴゴゴゴゴ

フミヤ ・・・・・あっちゃ−、でもさ、明るいうちに行かないと
      ナオトの返事がない。
フミヤ   もう、驚異的なスピードで眠りやがって‐…はあ、しょうがないかi…オレも寝よう。疲れた疲れた。
      静かになる。波、カモメ。タ方になり、やがて夜になる。

 

                     第三場

       ポポ、上手より登場。鼻唄でも歌いながら。

ポポ  ああ、今夜も星がきれいなんだな。夜のお散歩は、気持ちいいんだな。ん−(と、背伸びをして)今夜は何をしようかな。昨日の夜は夜釣りをしたんだけど、ちっとも釣れなかったんだな。昨日の昨日の夜は、星がいくつあるか数えたんだけど数えてるうちにねちやったんだな。昨日の昨目の昨日の夜は、何をしたんだっけ?…・!あいた!
        飛ぴ上がる。
ポポ 

カニ!カニ!ヘヘ、ちょうどいいぞ。

       近くにあった棒切れを拾って、しゃがんで、
      カニをつっつきながら追い回す。
ポポ  

カー二さん、カー二さん、大きなはさみで、こら、待て、待て。うわっ!(三人に気づく)なんだ ? (のぞいて見て、一人ずつ棒でつっついて)反応がないんだな。死んでるのかな……大変なんだな。兄ちゃんに知らせないと。お−い、兄ちや−ん!ドラ兄ちや−ん!

       上手に退場。波、カモメ。
      しばらくし、ポポとドラ登場。
ドラ  

ポポ、いったい何があったんてんだあ。兄ちやん、びっくりしたぞ。

ポポ ほ、ほら、兄ちゃん、あれ。あれ。
ドラ  うほお、人間でねえかあ。兄ちゃん、外人見るの初めてだあ。
ポポ      うん、おらも、初めてだ。
ドラ

生きてんのか ? おぼれ死んだんでねえのか?

ポポ      棒でツンツンしたんだげっと、反応ないんだな。(二人顔を見合わせる)
ドラ   よ、よ−し、棒、貸せ。兄ちゃんが確かめてやる。ポポ、こういう時は、ッンツンしたくらいじゃだめなんだ。ツンツンした後、グリグリってするんだ。
ポポ うん、わかったよ、兄ちやん。ツンツンの後にグリグリだな。
ドラ  

そうだ。ほんじや、ペっぺっ(と手に唾。そろそろと近づいて)ツンツーン、グリグリ。(反応なし)こりゃあ、やっぱし、死んでるんでねえか。よし、そっちやってみよう。ツンツーン、グリグリ。

ドラ・ポポ   ンツーンの、グーリグリ。
ナオト     いてっ!(と寝返りをうつ)
      二人ぴっくりして
ポポ     

兄ちゃん、なんでオラの後ろに隠れるんだ?

ドラ      うるさい。ちょっとびっくりしただけだ。
ナオト   だあれだ−!うるせえな。ムックリ起き上がる。
      飛びのいて逃げる二人。
ナオト    

ん?(ふたりに気づいて)うわあ−ああああああ1!お、おい、起きろ人間だ、人間がいるぞ。

シュウイチ   なんですかあ。
フミヤ     もう朝か。
ナオト  あっちだ、あっち。
シュウイチ
フミヤ

  (しばらく沈黙してから)うわあ−あああああ−!

ドラ  な、なんてバカでかい声出す連中なんだ。
ポポ  びっくりしたなあ。
シュウイチ   にににに、人間ですよね、この方たちは。むむむ、無人島じや、なかったんですか。
ナオト 

おおおお、オレに聞くな。フフフ、フミヤ、フミヤ!

フミヤ あの二人、何しゃべってんだ?この島の原住艮かな。
ポボ 兄ちやん、なんかしゃべってるよ。聞いたことない言葉だよ。
ドラ   やっぱ、あいつら死人だな。
ナオト

現住民? そんなやつらが、今の世の中に、誰の目にも触れずに生きてきたってのか。

フミヤ  まあ、こんな小さな島、地図にも載ってないし、今の今まで発見されなかったんじゃないかなあ。
シュウイチ フ、フ、フミヤ君、よく君はそんなに冷静でいられますね。もしも、もしもですよ、人食い人種だったらどうします?
ポポ 兄ちやん、あいつら、なんか作戦会議をしてるんだな。あ、ひょっとして、オラたちを食べようとしてるんじゃ?!
ドラ     

まさか。いや、待てよ。どっかに隠し武器を持ってるかもしんねえな。

ポポ      どうするんだな、兄ちゃん!ひとまず逃げようか。
ドラ  いや、逃げたら、追っ掛けまわしてえと思うのが人間の性分だべ。それじゃ、らちがあかねえ。第一この小さい島じゃ、どこに隠れる?
ポポ  そ、そ、そうなんだな。こうなったら相手の出方を待つしかないんだな。
ナオト    

ど、ど、どうする?

シュウイチ   どうするったって。
フミヤ     しかし、何かしら行動をとらなけれぱ、このまま永久ににらめっこだ。
ナオト  コミュニケーションだ。コミュニケーションの基本と言えば、やっぱり(手をたたく)
三人 

握手だ!

シュウイチ  そう、握手ですよ。握手と言えば、世界共通のあいさつ。親愛、和解、協力などの意志表示のための行為です。通じないわけありません!
フミヤ そして、握手につきものなのが、やっぱり(手をたたく)
三人 スマイル!
シュウイチ

そう、スマイルですよ。テレピでもよくやっている、おえらいさん同士が握手する時の、あの気持ち悪いくらいのスマイル!

ナオト なるほど、握手とスマイルさえあれば、もうオレたちに怖いものはない。(立ち上がる)
フミヤ     そうだ。その通りだ。任せたぞ、ナオト。
ナオト  ヘ?
フミヤ    

行って来い。

ナオト オレ?
シュウイチ   うううっ、ナオト、立派になったなあ。父さんは、うれしいぞ。
ナオト     だれが父さんだ。わかったよ。スマイルで握手だな。
ミヤ 

そうだよ。

シュウイチ 相手のハートをわしづかみにするのよ。母さん待ってるから。
      ナオト、首を傾げ気合いを入れて、一二歩進む。
      止まって顔だけ客の方に向けて、ものすごいスマイル!
ナオト  こ、こうか?
フミヤ     そうそう!
      ナオト、スマイルのまま顔の向きだけ元にもどしてゆっくり進む。
ポポ ド、ドラ兄ちゃん、一人、近づいて来たんだな。
ドラ 

お、おびえるな。ポポ、兄ちゃんの後ろにいろ。

ポポ      兄ちゃん、この人、すごい顔してるんだな。こわいんだな。
ドラ      こうやって、不気味な笑みを浮かべて、ワシらの心につけこもうとしてるんだな。
シュウイチ おっ、スマイルがなかなか受けてるみたいですよ。
フミヤ

オレにはおびえてるようにしか見えんが。

       ナオト、手を指しだす。
ドラ  ひっ、な、何をする気だ、こいつは? 
ポポ      兄ちゃん、気をつけて。悪霊は手から乗り移るんだ。
ナオト    

(スマイルのまま振り返って)オーイ、拒否されたぞ。  

シュウイチ ぼくたちと友好を結ぷ気はないんでしょうか。
フミヤ    

さて、どうしたもんか。

ナオト どうしたらいいんだよ。
ポポ     

兄ちゃん、どうする?

ドラ      どうする?
フミヤ     どうする?
シュウイチ どうしましょう。
    五人の間に緊張が走る。ぐううっ!腹の鳴る音。
ナオト     お腹、鳴っちゃった。
フミヤ  そういえば、朝から何も食ってないもんな。
    ぐううっ!もう一度。
シュウイチ あっちや−。
ポポ     

ぷっ、ぷぷぷぷっ。

ドラ      くっ、くくくくっ。
ポポ・ドラ    は−はははははは!
ナオト  なんだ?笑ってるぞ。
ポポ     

そうか、この人たち、おなかがすいてるんだな。

ドラ      そんじゃ、これは(手を差し出す)おなかがすいた時の合図ってわけか。そうとわかったら、お前ら、ついて来い。ハラいっぱい食わしてやっからよ。
シュウイチ どうやら、付いて来いって言ってるみたいですよ。
フミヤ オレたちがはらぺこなの、わかってくれたみたいですね。
ナオト     腹の虫は万国共通なんだ。よし、なんか食わせてもらおうぜ。
       全員上手に退場。

 

                                  第四場

    退場する五人を見送るようにして、二人のサラリーマン登場。

カチョウ

ここかね、コマツ君。

コマツ は、はい!間違いありません。『アンノウン・アイランド』です。
カチョウ  フフフ、『アンノウン・アイランド』。誰も知らない島。とうとう我々はたどり着いたのだ!
コマツ    

やりましたね、課長!

カチョウ ああ、世界的観光企業の未開拓地開発促進部第三課の課長になって早五年……ついに私は偉業を成し遂げるのだ。あっは、は、は。
コマツ

『アンノウン・アイランド』、緑は豊かで、海はきれいな水色、そしてさわやかな空気。ここにわが社のホテルとリゾート施設を造れば、莫大な利益を得たも同然です。

カチョウ  その通りだよ、コマツ君。これで私も部長、いやひょっとしたら、一気に専務まで昇進するかもしれん。その時は、コマツ君、苦楽を共にしたきみにふさわしい役職を与えよう。
コマツ     ありがとうございます。
カチョウ 

  だが、しかし、安心するのはまだ早い。さっそく最優先事項に取りかかろう。まずは、島の調査だ。小さな島だが、猛獣や毒を持った蛇がいるかもしれん。もしかしたら人間も。

コマツ     いやだなあ、課長、人間がいたら『誰も知らない島」じゃなくなりますよ。
カチョウ    そりゃそうだ。はっはっはっは、こりゃ、一本とられたな。
コマツ そうですよ、はっはっはっは
カチョウ   

なわけねえだろう(ガツンと一発)。だったら、さっきのやつらは何なんだ。

コマツ  えっ、さっきって、何かいたんですか。
カチョウ  ざけんなよ、しめころしたろか。
コマツ まいった、まいった、まいりました。いました。確かにいました。
カチョウ   

よし。何だ、あれは。誰もいないはずだろうが。

コマツ     変だなあ。原住艮なんかいないと思ったんですけどね。
カチョウ    原住艮? 俺には日本人に見えたぞ。
コマツ そんな、ばなな。
カチョウ   

どした? 

コマツ     ばなな。
カチョウ    おっ、野性のバナナだ。
コマツ  食べられますかね。
カチョウ   

まだ無理みたいだなあ。よし、やっぱりここに一大リゾート施投を造ろう。どこもかしこも、バナナの木で一杯にするんだ。

コマツ     良かった。
カチョウ バナナもぎとりツァー!、さあさあ、持てるだけ取っていいですよ。お客さんお客さん、遠慮しないで、バナナだよ、どんどんもいでもいで。
コマツ

そんなに持てませんよ。

カチョウ    バナナ好きの日本人とバナナ好きの韓国人で満員になるぞ。いいか、そのためにも、あいつらが何者か、調査しなきゃな。コマツ、重大任務だぞ。
コマツ  はい。
カチョウ 

あいつらは何者か、なぜここにいるのか、何をしているのか、びったり密着して調査するんだ。目を離すな。いいか、最優先課題だぞ。

コマツ    

わかりました。

カチョウ  どこに行く。
コマツ     食料。まず水と食料を用意しなきゃ。
カチョウ ばか。腹へったら、バナナを食え。
      ムリヤリ上手に押しやる。
コマツ     そんな、ばなな。
     上手に退場。見届けて、課長は下手に退場。

                      つ づ く

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