仙台三高演劇部上演脚本 ミクロなやつら @ 作 西平明史 |
1995年地区大会に鮮烈デビュー。創作脚本賞獲得。
ある高校の化学部。部員は三人。これは三人の個性あふれたキャラクターが織り成すドタバタ劇。その裏にあるメッセージを読んでみて。 |
部長・物長・ツトム・ユウキ・蟻AB・だんご虫AB・カマキリAB |
@
激しい雨と雷。やがて巨大な爆発音。 |
|
部 長 | できた。ついに一世一代の大発明が完成したぞ。これでノーベル賞はおれのものだ。 |
照明全体。下手からツトム入ってくる。 | |
ツトム | 部長、何ですか今の音は。 |
部 長 | よう、ツトム、遅いじゃないか。 |
ツトム | 何言ってるんですか。今三時半ですよ。部長、授業 サボったんですか? |
部 長 | おれには必要ない。 |
ツトム | なぜですか? |
部 長 | わかりきったことだ、簡単だからだ。よく考えてみろよ。二十世紀最後の天才とうたわれるおれに誰が教えると言うのだ。 |
ツトム | 周りからは、二十世紀最後の変態と言われています。 |
部 長 | 気のせいだ。おれは生物の頂点である人間の王であるぞ。 |
ツトム | 何で生物の王が赤点を八個もとるんですか。 |
部 長 | ちがう、九個だ。 |
ツトム | こんな生活、何年続けているんですか。 |
部 長 | 五年だ。 |
ツトム | 五年? |
部 長 | 今年の十二月で二十になる。 |
ツトム | (ショックでうなだれる) |
部 長 | (えばりながら)まあ、体は二十歳でも心は小学生並みの若さだ。問題ない。 |
ツトム | 自慢になってませんよ。 |
ツトム | ところでさっきの音ですが・・・・・ |
部 長 | よく聞いてくれた。実はたった今、我が一世一代の発明が完成したところだ。 |
ツトム | (ため息まじりに)一週間前は「今世紀最大の傑作」で、その一ヶ月前は、「究極の大発見」でした。 |
部 長 | 今度のはすごいぞ、いいか・・・・・ |
三角フラスコを見せて | |
部 長 | これを飲むとな・・・・・なんと、体を宙に浮かすことができるんだ。 |
ツトム | 部長、本当ですか? |
部 長 | ああ、もちろんだ。 |
ツトム | やりましたね。これでノーベル賞は部長のものです。 |
部 長 | ハッハッハッ。まあツトム、これがおれの実力だ。よし今からこの薬の力を見せてやる。 |
そう言ってフラスコの中の液体を飲みほす。そして床に 仰向けに寝る。 |
|
部 長 |
ツトム、そこの布をおれにかけろ。 |
ツトム | はい。 |
部長の上に布がかけられる。すると部長の体がゆくっりと 浮き上がる。 | |
ツトム | すごい。成功だ。 |
布をとると部長が仰向けに寝ている。 | |
ツトム | えー、私ツトムレポーターは、二十世紀最後の発明のレポートにきています。そしてこちらがその発明家の方です。こんにちは。 |
部 長 | こんにちは。 |
ツトム | この発明で、ノーベル賞は確実だと言われていますが、今の心境は? |
部 長 | 今までの努力が報われたことで感激しています。 |
ツトム | では、具体的にどんな努力をされたのですか。 |
部 長 | そうですね・・・・・毎日五十回は腕立て伏せをしました。 |
ツトム | (我にかえる)え? |
部 長 | なかなか腕力がいるんですよ、これ。 |
ツトム | 部長、今の実験もう一回やってもらえますか? |
部 長 | ああ、いいぜ。 |
さっきの作業を繰り返す。 部長が浮いてきたところで布をはぐ。 |
|
部 長 | やあ。 |
ツトム | 「やあ」じゃないですよ。どこが体の浮く薬なんですか。 |
部 長 | 正確には「体を浮かすのを助ける薬」だな。 |
ツトム | ・・・・・? |
部 長 | オリジナルのプロテインだ。 |
部長一人で笑う。 |
|
部 長 | しかしなんだな。おれの発明も頂点を極めたって感じだな。 |
ツトム | 何言ってんですか、散々被害を出ししておいて |
部 長 | 何のことだ? |
ツトム | とぼけないでください。二丁目の佐藤さんです。 |
部 長 | 心当たりがないな。 |
ツトム | 佐藤さん家の猫、赤と緑と黄色の三毛猫を生んだそうです。 |
部 長 | ラスタカラーってやつだな。・・・・・そうか三毛だったか。 |
ツトム | やっぱり部長じゃないですか。 |
部 長 | 本当は五色のハズだったんだけどな・・・・・まいっか、よし次は三つ目の犬にトライだっ。 |
ツトム | やめて下さい。かわいそうじゃないですか。 |
部 長 | 犬の一匹や二匹どうなろうといいじゃねえか。いいか、人間様が生きていくには下等動物どもの犠牲が必要なんだ。第一やつらに悲しいなんて感情はねえんだよ。 |
A ユウキ入ってくる。 |
|
ツトム | ユウキ先輩、部長を止めてください。 |
ユウキ | ・・・・・ |
部 長 | よ、ユウキ。 |
ユウキ | ・・・・・ |
ツトム | どうしたんですか、先輩。 |
部 長 | 分かった。また女にふられたんだ。 |
ユウキ | 部長!! |
叫びながら帽子をとる。すると下から赤い髪が。 | |
ツトム | どうしたんですか。 |
部 長 | ハッハッハッ・・・・・ |
ユウキ | それだけじゃないっ。 |
手袋をとると手に赤い毛が生えている。 | |
部 長 | (最高潮)ゲラゲラゲラ・・・・・ |
ツトム | プックククク。 |
共に笑う二人。ユウキ本気で怒っている。 | |
ユウキ | 昨日部長に飲まされた薬でこんなになったんだ。と゜うしてくれるんだ。 |
部 長 | 思ったよりうまくいったな。(まだ笑う) |
ツトム | サ・・・サ・・・サルだ。(笑ってうまく言えない) |
ユウキ | サル? ツトムてめえ!! |
ツトム 冗談ですよ。冗談・・・・・。けど先輩本当にどうしたんですか。ユウキ、 聞いてくれよ。昨日部長に「新作のコーラが出たんだ」って言われて薬を 飲まされたんだ。されで朝起きてみたら・・・・・ | |
部 長 | 赤ザルの誕生か? |
ユウキ | 部長。いい加減にしないと本気で怒りますよ。 |
部 長 | 悪い。悪い。まあその薬も三日もすれば治るだろう。 |
ユウキ | あと三日もですか・・・・・ |
うなだれるユウキ | |
ツトム | そういえばこの薬この前のと似てますね。 |
ユウキ | ああ、田中先生に使った奴だろ。 |
部 長 | そう。あの時の薬の改良版だ。あれはひどかったな、いきなり体中から真っ赤な毛が飛び出すんだもんな。 |
ユウキ | そういえば田中先生はどうしたんだ? |
部 長 | なんか町歩いてたら、フジTVのスカウトを受けて、毎朝ムックとしてポンキッキにでてるらしいぜ。 |
ユウキ | 地毛でムックか……。おいしいな。 |
ツトム | これで化学部の顧問第十七号はリタイアですね |
ユウキ | 十八号を探すか。 |
ツトム けどまずいですね。文化祭を目の前にして顧問がいないのは。 | |
ユウキ 顧問なんでいなくても文化祭は開けるさ。
|
|
部 長 しかし文化祭なんてすっかり忘れてたぜ・・・ん? そういえば・・・・・お前らちょっとそこで待ってろ | |
部長、上手へ走り去る。 |
|
ツトム | 部長? |
B 舞台に残るツトム、ユウキ |
|
ツトム | だけど先輩、よく部長に二年間もついていけますね。 |
ユウキ | まあ慣れだ。おれも最初はつらかったけどな……まあ、なんてゆ−のか性格はともかく化学力はすげえからな、あの部長。そこは尊敬してるよ。 |
ツトム |
そうなんですか。 |
ユウキ | だって高校生が人の髪の色をかえる薬を作るんだぜ |
ツトム | ……。 |
ユウキ |
あの部長についてはいろいろと逸話もあるしな。 |
ツトム | 逸話? |
ユウキ |
そう、化学部に伝わる伝説だ。たとえば……部長の前で「リカちゃん」は禁句だ。 |
ツトム | リカちゃん? |
ユウキ |
あの人が入学して二年目の夏……あの人は恋をした。 |
ツトム | 恋? |
ユウキ | 信じられんだろ? 今は「女は研究のじゃまだっ」って言ってる部長が恋だぜ。 |
ツトム | それで相手の人はどんな人なんですか? |
ユウキ | リカちゃん人形だ、看護婦さんバージョンだ。 |
ツトム | ……。 |
ユウキ | そしてこともあろうにあの部長はリカちゃん人形に人工頭脳をつけ、自分の恋人にしようとしたんだ。 |
ユウキは立ち上がって熱弁をふるい出す。ツトムうなだれる。 | |
ユウキ | 実験は成功した。そして、その日から二人の愛と夢の同棲生活が始まったんだ。しかし……幸せは長くは続かなかった。二人で暮らしていくうちにいろいろな問題点が出てきた。それは……リカちゃんはちょっと小さいのだ。いや小さすぎた。「おやすみのキス」をしようにも顔全体に口づけてしまう。一緒に寝ても寝返りでつぶしてしまう。そしてなにより……リカちゃんは無表情だった。ロマンティストだった部長はそれがたえられなかった。そしてついに……。 |
ツトム | ついに? |
ユウキ | 他.の女に走っ.た。その頃クラス一のブスといわれていた女の子が部長に告白したんだ。部長はその時の彼女の豊かな表情に感動した.そして二人は坂道を転げ落ちるようにフォーリング・ラブ!! |
ツトム | なんかちがう。 |
ユウキ | しかしそれをリカちゃんは許さなかった。だけど小さなリカちゃんは無力だった。そこで……。 |
ツトム |
そこで?. |
ユウキ | 火をつけた……。 |
ツトム | 火をつけた?! |
ユウキ | リカちゃんは部長の家にその女が遊びに来てるのをみはからって火を付けたんだ。! |
ツトム | ……。 |
ユウキ |
結局家は全焼。部長だけが生き.残って他の二人は死んだという。そう、これが、あの部長の悲しい伝説だ……。 |
ユウキ、空を見上げて、自分の話に酔いしれている。 | |
ツトム |
先輩、先輩、.もういいですって。 |
ユウキ | まあ、この程度の逸話があと千個あるらしい...。 |
ツトム | アラビアンナイトですか。 |
部長が入室。 | |
部 長 | 何話してんだ。おれもまぜろよ. |
ツトム | いえ、なんでもないんです。 |
ユウキ | どこ行ってたんですか? |
部 長 | ちょっとな……まあそれは他の部員がきてから言おう。他の部員はどうした。 |
ツトム | みんな、部長のアヤシイ薬で部をやめました。 |
部 長 | なんだ根性ねーな。じゃあここにいるやつだけでいいや。実はな……我が化学部の部費が底をついた。… |
ツトム | えっ。 |
ユウキ | バカな、そんなに無駄使いした記憶はないです。 |
ツトム | 部長、それはどういうことですか? |
部 長 | それだけじゃない。明日からこの部室は物理部が使うらしい。 |
ユウキ | なんで? |
ツトム | うそでしょ。 |
ユウキ | あのイヤミな物理部長のしわざか? |
ツトム | 部長、説明してください。 |
部 長 | い…いや…それが……。 |
C 歩いてくる物理部部長 |
|
物 長 |
やあ、誇君お・は・よ。 |
部 長 | 貴様、何の用だ。(と言って物長を押し出そうとするが、身をかわす物長) |
物 長 |
しかし、おたくたち二人も犬変だね。こんな部長を持って。 |
ツトム | え? |
ユウキ | え? |
物 長 | さっきはぴっくりしたね。いきなり生徒会室のドアが開いて「来年の部費、前借りさせてくれ」だもんね。まあ自分で部 費を 使い込んで、しかも、マージャンの負けがかさんで、部 室を売ったんだ……。自業自得ってやつだね。 |
逃げようとする部長。しかし二人につかまる。. | |
ツトム |
部長これはいったい……
|
ユウキ |
どーゆーことですか? |
すごむ二人.。部長あとずさりながら | |
部 長 | うそだ、全部うそだ。あいつの言ったうそだ。(気を取 り直してり直して)大体おまえら、おれとあいつのどっちを信じてるってんだ? |
無表情で物長の方に歩いていく二人。そして三人肩を組む。 | |
部 長 | そいつ水虫だぞ。. |
三人肩を組んで、親指で首を切り親指を下へ向ける。 | |
部 長 | おれの方が人望があるらしいな。 |
物 長 | ま……まあいい。とにかく今日中に荷物を持ってここから出て 行け。 |
部 長 | いやだと言ったら? |
物 長 |
ウチの最終の兵器で死んでもらう。 |
部 長 | まさか、アレができ上がったのか? |
物 長 | しかしまあ、そんな必要もなさそうだな。自分で作った薬の毒気にあたってるんじゃないのか? 顔色が悪いぜ。 |
ツトム | そう言えば最近、部長って元気よすぎるから、麻薬でも作って打ってるんじゃないですか? |
ユウキ |
毎日長袖着てるもんな。 |
部 長 | おまえらまで何言ってるんだ。 |
ユウキ | 冗談ですよ、部長。 |
物 長 | まあどの道貴様は死ぬんだ。せいぜい短い余生を楽しむんだな。 |
部 長 | だまれ、その言葉そっくりそのまま、のしつけて返してやるぜ。 |
物 長 | (ボソッと)おまえのためを思って言ってるんだがな……。 |
部 長 | ……。 |
物長去る。 |
D |
|
ツトム | 部長はあの人知ってるんですか? |
部 長 |
まあな。いわゆる旧友ってやつだ。しかし今では宿命のライバルといったところか。 |
ユウキ | ふ−ん。 |
ツトム |
ところで……、最終兵器って何ですか。 |
ユウキ | 物理部最強最悪の最終兵器ロポット「鉄人三十号」だ。 |
ツトム | ……。 |
部 長 |
恐ろしい兵器だ。ロケットパンチにアイビーム…… |
ツトム | 全部パクリですね。 |
ユウキ |
とにかく……これからどうするか決めないと。 |
部 長 | そうだな。 |
ツトム | 今までの発明品で何とか戦えませんか? |
ユウキ | う−ん。 |
ユウキが紙の束を持ってくる。 |
|
部 長 | 「サルになる薬」は?(ユウキを指さす。) |
ツトム |
ロポットにききますか? |
部 長 | じやあ、去年、国語の小林に使った「性転換の薬」は? |
ユウキ | あれは性格だけが転換して、ただのオカマになったでしょう。 |
部 長 | 「修業したくなる薬」は? |
ユウキ | 某教会に売って今はありません。 |
部 長 | 「体の浮く薬」は? |
ツトム |
ただの栄養剤です。 |
部 長 |
(怒って)なんだおまえら、くだらないものぱっか作りやがって。 |
ツトム | 全部、部長が作ったんです。 |
ユウキ | これだけあって一つも役にたたないとはな……。 |
ツトム |
部長が部費を使い込んだ結果の数々……。 |
ユウキ | 一つとしてまともなのがないな… |
部 長 | だまれっ! |
ツトム | あ−あ。 |
ユウキ |
なんか、やる気なくしちゃったな。 |
ツトム | とにかくもう手がないんですから、早く立ち退きましょう。 |
ユウキ | そうだな。 |
部 長 | おいおい、マジで逃げるのかよ。 |
ツトム | だってしょ−がないでしょ。 |
部 長 | いや、まだ何かあるハズだ。 |
ユウキ | もうないです。 |
ツトム | いいかげんにしましょうよ。部長……。 |
ユウキ | さて荷造りするか。 |
三人出て行く。 |
E
段ポールをもってくる三人。 |
|
ツトム |
これで最後ですね。 |
ユウキ | きれ−な夕日だなあ。 |
部 長 | 血みたいだな。 |
ユウキ | ……。 |
ツトム | …… |
ユウキ | あっバッタだ。 |
部 長 | ……。(手刀で地面を打つ) |
ユウキ | ……。 |
ツトム | ……。 |
ユウキ | 相当機嫌悪いぜ。 |
ツトム | 部長は五年もあそこに通っていたんですからね。 |
ユウキ |
無理もないか。 |
ツトム | だけどおとなしくなっていいじゃないですか。 |
ユウキ | バカ、おまえはまだ部長の恐ろしさがわからないのか? |
ツトム | 恐ろしさですか。 |
ユウキ | そうだ。あの人は化学の研究を生きがいにしている。その研究ができないとなると、有り余ったパワーをどこに向けるかわからん。 |
ツトム | …… |
ユウキ | とにかく今は機嫌をとって、怒りを治めよう。 |
ツトム | はい。 |
段ポールに座ってる部長。 二人の方にイスのように二つ段ポールが置いてある。 |
|
部 長 |
何やってんだよ、さっさと座ったらどうだ。 |
ユウキ | ははっ…….じやあ |
ユウキ、部長側の段ボールに座ろうとするが、段ボルについている ロープを部長が引ーっ張り、ユウキしりもちをつく。 | |
部 長 | ゲラゲラゲラ。 |
ツトム | 部長! |
部 長 | 悪い、悪い。 |
ツトムもう-つの段ボールにロープがついてないか調べてから座る が、段ボールの中味が入ってなくて、段ボール-ルに尻がはまる。 |
|
部 長 | ひやっひやっひやっ。 |
部長大爆笑する。 | |
部 長 | おまえら最高だよ。 |
まだ笑いがとまらない。憮然とする二人。 | |
部 長 | あーあ。おもしろくねーなー。 |
ツトム | じゃあ何だったんですか今のは. |
ユウキ | まあ、おちつけ。見ろよあの夕日…….そしてこの大地……。こんな風景を見てるとさ、おれたちの怒りってやつが、ちっぼけなものに見えてこねーかい? |
ツトム |
かっこいい。 |
部 長 | そうだよな。どんな過ちも許してしまいそうだ。 |
ツトム | 部長、わかってくれたんですね。 |
部 長 |
ああ。 |
ユウキ | そうさ……人間ってなんてちっぽけなんだろう。 |
部 長 | ユウキ……。 |
ユウキ | なんですか。 |
部 長 | 去年の合宿でねしょんべんしたふとんを、おまえのふてんと交換したのっておれなんだ。 |
ユウキ | ……昔の話ですよ。 |
部 長 | おまえの家に行って、おまえの彼女から電話がかかってきたとき「はい、ケイコです。えっ、ユーちゃんは今○○○○○買いに行きました。」って女の声色を使ったこともあった……。 |
ユウキ | 次の日彼女に殴られましたよ。 |
部 長 | ついでに言うと、その薬の効き目、三日じゃなくて三年だから。 |
ユウキ | 何てことするんだ。あんた!! |
部長の胸倉をつかむユウキ。 | |
部 長 | おこらねーんじゃねーのかよ。 |
ユウキ | そーゆー問題じゃねえ!! |
ツトム | まあまあ、二人とも。 |
ショックでうずくまって泣くユウキ | |
ツトム | ショックでしょうね。 |
部 長 | 腰抜けが。 |
ユウキ |
ああ、おれのこの体は赤い毛に覆われて、夜明け前の闇よりも暗い暗黒の三年間を過ごす……。 |
部 長 | オーバーなんだよ、お前は。 |
ツトム | しかしこれじゃ先輩がかわいそうです。 |
部 長 | うるせえな。部室が戻ったら元に戻る薬を作ってやるよ。 |
ユウキいきなり元気に立ち上がり、つかつかと部長の前にきて | |
ユウキ | 部長、部室を取り戻しましょう。 |
部 長 | うむ。 |
ツトム | ちょっと先輩…… |
ユウキ | ツトム、私はあの部室を愛しているのだよ。 |
ツトム |
必死ですね。 |
部 長 | これで決まったな。 |
ツトム | だけど相手に効く武器がないんじゃ勝てません。 |
部 長 |
ふっ、ツトム、我々は最後の武器を残しているじゃないか。 |
ユウキ | 最後の武器? |
ツトム | それは? |
部 長 | この肉体だ。 |
ユウキ |
……。 |
ツトム | さ、これからどうしましょうか。 |
ユウキ |
物理部はどのくらい戦力があるんでしょうか。 |
部 長 | そうだな、決戦前にまず相手の力を知っておくのが基本だ。 |
ツトム | はい。 |
ユウキ | はい。 |
部 長 | じゃあ、この中からスパイを二人選抜する……おれとユウキだ。 |
ツトム |
なぜですか、部長殿。 |
ユウキ | ツトム、隊長の命令は絶対だ。 |
ツトム | しかし…… |
ユウキ |
だまれ、おまえは隊長の優しい心がわからんのか。
|
ツトム | えっ! |
ユウキ | 隊長はお前の若い命を散らしたくないのだ。 |
ツトム |
隊長……。(ガクッ) |
部 長 | じゃあ行くぞ、ユウキ。 |
ユウキ | はい。 |
出て行く二人。 | |
ツトム | どうか生きて、生きて帰ってください。 |
暗転。ツトムも出て行く。 |
F | |
部 長 |
ここが物理部室だ。 |
ユウキ | なるほど。 |
部 長 | 思い出すなあ、五年前きたときと寸分ちがわないな。 |
ユウキ | 来たことあるんですか? |
部 長 |
ああ、物理部の部長いるだろ。あいつと一緒に仮入部しに来たん だ。 |
ユウキ | あの人、部長とタメなんですか? |
部 長 | 同じ二十歳だ。 |
ユウキ | ……。 |
部 長 見ろよ、鉄人三十号だぜ。 |
|
舞台上手を指さす。 | |
ユウキ | でかい……部長、今こいつを破壊しちまえぱいいんじやないですか。 |
部 長 | フッ、甘いな。 |
そう一言ってポケットからポールをとりだす。 | |
部 長 | まあ見てろよ。 |
ポールを舞台袖に投げる。一瞬遅れて爆発音。 | |
ユウキ | これば……。 |
部 長 | あそこまで十メートルで三十個はトラップがあるばずだ。 |
部 長 | むこうから誰か来た。 |
ユウキ | 部長どうしましよう。 |
部 長 | こっちだ。 |
二人後ろにある台にのって部長は考える人。 ユウキはマッチョマンスタイルで銅像のマネをする。 物長、歌いながら入ってくる。一度二人の前を通りすぎるが、 また戻って二人をじっと見る。 |
|
物 長 | なんだ銅像か。鉄人は、化学部に移した二体も含めて三体だ。もう……物理部の科学力にかなう部はないな。高笑いして出ていく。 |
ユウキ | なんてことだ、もうそんなに戦力をつけていたとは。 |
部 長 | 野郎ふざけたこと言いやがって。 |
ユウキ | でも、どうします? 相手はもう三体もロポットを完成させているんです。 |
部 長 | わからない。……とにかく、早いとこずらかろうぜ。人がくるとヤバイ。 |
出ていく二人。暗転 |
G | |
ツトム |
そうですか。昨日そんなものを見たんですか。 |
ユウキ | ああ、しかしあんなでかいのがあと二体もいると思うとゾッとするぜ。 |
ツトム | 部長は何と言ってますか。 |
ユウキ |
さあな……。けど、今回はさすがにショックだったんだろうぜ。帰るときも一言もしゃべらなかったし……こりゃあもう、ダメだな。 |
ツトム | でも先輩の体も直らないじゃないですか。 |
ユウキ | 昨目の夜、昔の女にバッタリ会ってよ。くっくっくっ…。そんで今までのいきさつを話したら「私、毛深い人好きよ」だってよ。くっくっくっ…。 |
ツトム |
サルってかわいいですもんね。 |
ユウキ | ……。 |
ツトム | い、いや、ほめてるんですよ。いや−、本当に最近の先輩って魅力あるなあ。 |
ユウキ | まあいい。おれは今、機嫌がいいんだ。許してやろう。 |
快く会話する二人。そこに部長入ってくる。 | |
部 長 | おい、お前らこんな所にいたのか。 |
ツトム | あっ、部長、おはようございます。 |
ユウキ | おはようございます。 |
部 長 | そんなのいいからちよっと座れ。 |
言われるままに地面に座る二人。 | |
部 長 | (うれしそうに)今朝おれがいつものように心地よい眠りから醒めたらよ……なんと、となりに全長一メートルもあろうかというゴキブリが寝てるんだよ。ぴっくりして大声をあ げたらそいつも起きてよ。もうアパートぶっこわしまくって、どっかいっちまたんだよ。 |
ユウキ | それがなんでそんなにうれしいんですか。 |
部 長 |
それがいろいろ調べてみるとよ、どうやらこの間の栄養剤が原困らしいんだ。 |
ツトム | 「体の浮く薬」でしたね。 |
部 長 | そう、あの薬だ。 |
ツトム | でも、そんなことより今は部室を取り返すことを考えないと……。 |
部 長 | バカッ、まだわからないのか。 |
ユウキ | ……そうか、その薬で小動物を巨大化させれぱ、大軍隊ができるぞ。 |
部 長 | そう。しかもこんな話を聞いたことがある。「地球上の生物が全部同じ大きさだった場合、最強の生物は昆虫である」って話をな。 |
ツトム |
巨大昆虫の軍隊……まさしく最強の生物兵器だ。 |
部 長 | ……。 |
ツトム | ……。 |
ユウキ | ……。 |
部 長 |
いける、いけるぞ。 |
ツトム | やった−。 |
ユウキ |
これで部室が戻るぞ。 |
大ハシャギの三人 | |
部 長 |
よし、そうなったら、どの虫を巨大化させるか決めようぜ。 |
ツトム | アリばどうでしよう。 |
ユウキ | アリ? |
ツトム | ええ、アリは見かけによらず、すごくカがありますし、何より列になって歩いたりして、軍隊に向いてると思います。 |
部 長 | そうか、なるほど。 |
ユウキ | じゃあアリを観察してみようぜ。 |
ツトム |
ちょうどよくここに二匹のアリがいます。 |
三人足元をじっと見る。 |
H
舞台上手にもヌキ。二匹のアリがいる。 |
|
アリA |
アリなんだよな。 |
アリB | はっ? |
アリA | いや、おれ達ってさ、アリなんだよな。 |
アリB | 何言ってんのお前。 |
アリA | なんかさ。お前、不思議に思ったことない?……何でおれ達アリに生まれて来たのか? その必要性は? ……そういうこと思わないか? |
アリB | なるほどな、確かに思わないこともないけどさ、それを考えたらキリがないぜ。 |
アリA |
う−ん。けどなあ・・… |
アリB | やめろやめろ、そんなことよりもっとほかのこと考えようぜ。 |
部 長 | 何やってんのこいつら。 |
ユウキ |
さあ。 |
ツトム |
ずっと隣合ってますけど…… |
部 長 | 仕事しねえアリだなあ。 |
アリA | そういや白アリのトオル、最近見ねえな。 |
アリB | ああ、お前聞いてないんだっけ。あいつな、課長の機嫌そこねて、田舎に飛ぱされたらしいぜ。 |
アリA | うそ、いったい何やったんだよ。 |
アリB | 何でも上司に秘密で女王アリのレイコちやんにプレぜントやってたらしいぜ。……でもレイコちゃんはグルメなんで全然相手にしなかったんだってよ。 |
アリA | いい様だぜ、みんなのアイドルを独り占めしようとした罰だ。 |
アリB | まったくだぜ。 |
立ち上がる。 | |
アリB | じゃ、そろそろ仕事しますか。 |
アリA | かったり−な、なあ今日はサポッて、人問どもの残した食い物あさりに行かない? |
アリB | あっ、それはいい。そうしようぜ。だけど人間もバカだよな。あんな汚ゴミの出し方じや、おれ達にたかれって言ってるようなもんだぜ。 |
ユウキ アタアァ!!(ドコッ、ユウキが地面を殴る。) | |
A・B | はうっ |
同時に虫へのヌキ、消える。 つ づ く |