ミクロなやつら A |
I |
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ユウキ |
お前はもう、死んでいる。 |
ツトム | 先輩、何するんですか。 |
ユウキ | 何かアリにぱかにされてる感じがして……。 |
ツトム |
アリがしやべりますか。 |
部 長 | おれもユウキと同じことを感じたぜ。 |
ツトム | ニ人ともおかしいですよ。 |
ユウキ | そうか? |
部 長 | とにかくアリは気にいらねえ。ダメだ。大体ちよっと部室に食べかけのアンパンおいただけで行列作りやがって……。 |
ユウキ |
きっとやられたんだぜ。 |
ツトム | 情けないですね。 |
部 長 | とにかくアリはだめだ。他の何かにしよう。 |
ユウキ | 蚊はどうでしょう。 |
部 長 |
蚊? |
ツトム | 蚊? |
ユウキ | そ−です。蚊です。血をすった後のカをつぶすとベットリ血が手につきますよね。もしカが巨大化して吸血していったら(興雷して)襲われた人間はひからびてミイテとなり、それを見た人々は、もう狂ったように逃げまどう。最強の吸血鬼だ。 |
ツトム | ユウキ先輩ってときどきおかしくなりますよね。あるイミ部長よりアブナイですよ。 |
部 長 | お前もそのうちアブナくなるさ。 |
ツトム | (……いやな顔)。 |
ユウキ |
聞いてましたか、今の話? |
部 長 | ああ聞いてたよ、蚊だろ. よし蚊をつかまえよう。 |
ツトム | さっきから部長の腕にとまってますが。 |
部 長 | 何。なんですぐ言わないんだ。 |
ツトム | それがおかしいんです。こいつら、いっこうに血を吸う気配がないんです。 |
部 長 | ふ−ん。 |
ユウキ |
ふ−ん。 |
J |
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蚊B |
愛してるよ、キャシー。 |
蚊A | 私もよ、ジョニー。 |
蚊B |
ああ、その美しく伸びた手、その大きな瞳、その愛らしい、うなじ |
蚊A | ああ、そのいさぎよくちぢんだ足、その点のような瞳、その匂いたつうなじ……最高。私の命、あなたと共にあるわ。 |
蚊B |
私と結婚してくれるね。 |
蚊A | ええ。 |
部 長 | なんなのこいつら。 |
ユウキ | チチクリ合ってるように見えますけど。 |
ツトム |
部長の血、まずいんじやないですか? |
ユウキ | ……(うなずく)。 |
部 長 | おまえらなあ。 |
ツトム | そんなことより観察しましようか。 |
ユウキ |
そうだな。 |
部 長 | ……。 |
蚊A | ねえ、あたし達の子供の名前どうしようかしら。やっぱりみんなに好かれる親しみやすい名前がいいわよね。 |
蚊B | いやいや、やっぱり何と昔っても私たちの愛の緒晶なんだから、その証になるような名がふさわしいだろうね。 |
蚊A | じゃあ、ジョニーとキャシーの間をとって・…・。 |
蚊B | ポブ!! |
蚊A | 最高! 素敵な名前ね。 |
蚊B | ああポプ早く生まれてきて、この私に至高の喜びをおくれ。 |
蚊A | 結婚式には何人お友達を誘おうかしら。 |
蚊B |
そのことなんだがキャシー。 |
蚊A | 何、ジョニー。 |
蚊B | 結婚式は今、ひっそりとここで開かないか。 |
蚊A |
二人っきりで? |
蚊B | そうだよ.。二人で愛を誓い、二人で愛の契りを交わす……オレ達二人の間に他人の入りこむ余地なんてないんだ。 |
蚊A | いや。 |
蚊B | え? |
蚊A | いやよ、そんなの。いい? 結婚式で私は純白のドレスに身をつつみ、其っ赤なバージンロードを通ってあなたと結ぱれるわ。そして教会から出た私達を人々はうらやましそうに迎えて、その後の披露宴ではおいしい血が出されて・…・・。 |
蚊B |
そいつはちがうぜキャシー。 |
蚊A | 何がちがうのよ、ここにはドレスもなけれぱ祝ってくれる人もいないじゃない。 |
蚊B | お前は結婚式とその名前に酔っているだけだ。本当の結婚式と言うのは、そんな見かけだおしじゃない。今からそれを証明してやる。キャシ ー、お前の考えるうまい血とはなんだ? |
蚊A | もちろん「人間のメスの健康体十五年もの」に限るわ。 |
蚊B | フツフッフッ。. |
蚊A | 何がおかしいのよ? |
蚊B | 分かってない。分かってないなあ。 |
蚊A | だから、何がよ。 |
蚊B | お前のその意見は周りの評判の受け売りだろ。しかし本質の味というのはそんなものじやない。見ろ、今おれ達はいかにも不健康そうな青年の腕の上にいる。・…・キャシーこの男の血を吸うんだ。 |
蚊A |
え−。まずいにきまってるわ。 |
蚊B | いいから吸うんだ。ただしその静脈から三本右の血管の血をだ。 |
蚊A | は−い。ゴクゴクゴク・…。こっこれは!・・まったりとしていて、それでいてしつこくなく、喉の奥に深いこくを残す。こんな血があるなんて… |
蚊B | この血は極めてまれであり、コレステロールも溜まらないほど不健康でなおかつ悪い血の流れがもたらす深いコクだ。私ば君にこの味を知って欲しくてここでプロポーズしたんだ…・・。。それなのに・… |
蚊A | ジョニー、悪かったわ。私が間違っていたのね・・・…。(バタッ) |
部長に叩かれ倒れるA | |
蚊B |
キャシー、大丈夫か? |
蚊A | せっかく……分かり合えたのに……(ガクツ) |
蚊B | キャシー!! ちくしょう、人間め……何の権利があってこんなことするんだ。我々だって生きるためには血を吸わなきゃいけないんだ。なんだってそんなにパチパチと「カ」を叩くんだ。地球はてめえらのためだけにあるんじゃ……うわっ !! |
Aに続いてBもつぶされる。 |
K |
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部 長 |
人間様の血を吸おうなんざ百万年早いんだよ。この下等生物がっ! |
ツトム | さて、次は何でいきましようか? |
ユウキ | おっ、いつもだったら部長につっこむのに、ど−したんだ? |
ツトム | こうゆうことはサクサクいきましょう。 |
部 長 | ツトムも分かってきたようだな。よし、次ダンゴ虫だ。あの防御力で おれ達を守ってもらおう。 |
近くの石をどける。 | |
ユウキ |
おお、いるいる。 |
部 長 | ツトム、二匹ほどつまみ出せ。 |
ツトム | はい。(二匹石の陰からつまみ出す。) |
ユウキ | さあ、観察しようぜ。 |
上手ヌキ。ダンゴ虫が二匹丸まってる。 |
|
部長 | ……。 |
ツトム | ……。 |
ユウキ | ……。 |
二十秒間の沈黙。全員指一本動かさない。 | |
部長 | ……。 |
ツトム | ……。 |
ユウキ | ……。 |
(ドコッ) ツトム床を殴る。上手ヌキ消える。 | |
ユウキ |
次は? |
ツトム | う−ん。 |
部 長 | あれしかないかな。 |
ツトム | あれ? |
部 長 |
ツトム、カマキリを捕まえてこい。それも交尾してるやつだ。 |
ツトム | はい(出ていく)。 |
ユウキ | そんなに簡単に見つかりますかね。 |
部 長 | だから今まで言わなかったんだ。 |
ユウキ | とゆうことは、最初からカマキリを考えていたんですか? |
部 長 | ああ、おれの考えが正しけれぱ最強の昆虫のはずだ。 |
ツトム入ってくる。 | |
ツトム | いました。直後のが二匹。 |
虫籠を二人の間に置く。 | |
ユウキ |
これが最強なんですか。 |
部 長 | まあ見ろ。 |
かまきりA | 今このお腹の中に私たちの子がいるのね。 |
かまきりB | ああ、おれたちの子だ。 |
かまきりA | ええ、でも……。 |
かまきりB | でも……? |
かまきりA |
でも・…ううん、やっぱりいい。 |
かまきりB | 何だよ、いえよ。 |
かまきりA | ねえ、あなた。 |
かまきりB | 何だいおまえ。 |
かまきりA | この子のこと愛してる? |
かまきりB | もちろんだよ。 |
かまきりA | あなた・…・頂きます。 |
Bを喰うA。ぼ−ぜんと見つめる三人 | |
ツトム | これば、いったい・…・・。 |
ユウキ | 共食い? |
部 長 | そう、カマキリのメスは交尾をした直後オスを喰うんだ。おれはこ の習性に目をつけたんだ。(笑いながら)メスは子どもを守るため に必死で戦うだろうな。 |
ユウキ | すげえな……。 |
ツトム | カマキリのメスで決まりですね。 |
有頂天で立ち上がる三人。 | |
部 長 |
まっ、せいぜいおれ達のために命かけてもらおうぜ。 |
ツトム | そうですね。 |
ユウキ | 朝日が楽しみだなあ。 |
帰ろうとする三人。しかし部長の様子がおかしい。 | |
ツトム |
どうしたんですか、行きましよう。 |
部 長 | なんか……自の前に赤いモヤモヤがかかってる。 |
ユウキ | そうですか? おれには何も見えませんが。 |
部 長 | 赤内障なんて病気あったかな……まいっか。 |
気を取り直しハケる三人。晴転。舞台上ツトムがいる。 |
L |
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ユウキ |
部長早くして下さい。 |
部 長 | まあ、あわてるな。そんなにいそがなくてもおれ達の勝利に違いない。 |
ツトム | あっ部長、準備できていますよ。 |
部 長 | よし、さっそく始めるか。 |
ユウキ | 今、おれ達は歴史の証人になるんだ。おれは今までの人生をこの世紀の一瞬を見るためだけに、生きてきたと言っても過言ではない。小学校もそう、中学校もそう、高級レストランもそう、花束もそう、あんたのため・…・。 |
部 長 |
バカ言ってないで始めるぞ。 |
ユウキ | シャ乱Qはキライですか。 |
部 長 | チョロQ? |
ユウキ | いや、シャ乱Q。 |
部 長 |
ああ、メロリンQか。 |
ツトム | なつかしいなあメロリンQ、今どうしているんだろう? |
部 長 | なんか色々TVでてるだろ? お前おくれてるな。 |
ユウキ | 進んでる部長がなんでシャ乱Q知らないんですか? |
部 長 |
ああ、坂本キュウのことか。 |
ユウキ | もういいです。 |
ツトム | 何、話のコシおってるんですか、実験をしましょうよ。 |
部 長 | お前、自分のこと棚において……。 |
ツトム |
はいはい、グチは後で聞きますから。 |
部 長 | じゃあ、始めるぞ……いいな。 |
部 長、虫籠に薬を流し込む。すると中のカマキリが大きくなる。 |
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ユウキ |
やった! |
ツトム | 成功だ! |
大はしゃぎの二人。 |
|
かまきりA |
これはいったい……。 |
ユウキ | おっ、何か言ってるぜ。 |
ツトム | 腹でも減ったんじゃないですか。 |
部 長 | いや、ただ驚いているだけらしい。 |
ユウキ |
部長カマキリ語がわかるんですか。 |
かまきりA | ここはどこ? あなたたちは? |
暴れるかまきりA。 ユウキとツトム、なだめるが゜、止まらない。 |
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部 長 | おちつけ! |
おとなしくなるかまきりA | |
ツトム |
とまった。 |
ユウキ | 部長……。 |
部 長 |
おれば万物の長だぞ。虫ケラに言うこときかすぐらい朝メシ前だ。 |
ツトム | かっこいい。 |
ユウキ | (感心している) |
部 長 |
よしっ、この調子でもっと多くのカマキリを集めるぞ。ツトムは学校の裏庭、ユウキは三丁目の空き地だ。 |
ツトム・ユウキ | はい! |
出ていく二人、残る部長とA。 | |
かまきりA |
あなたは私の言葉がわかるのですか? |
部 長 | ん? まあな。 |
かまきりA | じゃあ、私の質問に答えて。わたしはなぜこんな所にいるの?
あな た達は誰? |
部 長 | おちつけっていってるだろう。いいか、お前はおれの薬で巨大化し |
かまきりA | 人間?(驚く) |
部 長 | ああ、人間だ。 |
かまきりA | あの、世界で最も残酪な人間? |
部 長 | 何? それはどうゆう…… |
かまきりA | 来ないで!! 死んだ母が言ってた。昔、母が兄弟の二人と歩いていたら急に上から声がして、不思議に思ってたら、次の瞬間には二人の兄弟が捕まってた。そしてその声は笑いながら去っていった・…・・それが人間だって。 |
部 長 |
トロいカマキリだな。 |
かまきりA | 人間はそうゆうことを平気でするのよ。 |
部 長 | おい、まてよ。それが何でそんなに残酪なんだ? お前らだって他の虫を殺して食うだろうが。それにお前は自分の夫だって食っただろうが。 |
かまきりA | 私達は必要な分の獲物しかとらない。夫を食べたのだって、子供を育てるためには仕方がないの。生きていくためには仕方がないの!それが人間はどう。 あなた達は野原でわたしたちをみつけるとすぐつかまえて、羽をむしり、足をもいで、散々もてあそん後、ポロゾーキンのように、捨てるんだわ。 |
部 長 |
人に聞かれたら、誤解されそうだな。 |
かまきりA |
あなた私を巨大化してどうしようというの? ハッ、まさか私の豊満な肉体に欲情して? |
部 長 | 何バカ言ってんだよ。 |
かまきりA | 体は奪えても心まではうぱえないわ。 |
部 長 | バカヤロウ。お前を巨大化させたのば戦わせるためだ。 |
かまきりA | え? |
部 長 | お前は明日、物理部を襲撃するときに、巨大ロポットと戦ってもらう。 |
かまきりA |
そ、そんなのいやよ。 |
部 長 | お前に選択の余地はない。お前を巨大化させたときの薬に遅効性の毒を入れておいた。後三日もすれぱ、お前はその子供もろとも天国行きだ。 |
かまきりA | うそ……。 |
部 長 | その薬の解毒剤は俺が持っている。もし襲撃がうまくいったらその解毒剤と一緒に体も元の大きさにしてやる。 |
かまきりA |
せめて子供だけでも |
部 長 | だめだ。 |
かまきりA | わかったわ。 |
部 長 | (驚いて)なんだ簡単に諦めちまうんだな。 |
かまきりA |
子供のためだもの。 |
部 長 | どうゆうことだ。 |
かまきりA | 家族って、互いのためなら命をかけられる。そういうものじゃない? あなただってそうでしょ。 |
部 長 | ……。 |
虫籠を持ってツトムとユウキ帰ってくる。 | |
ツトム |
いや−、けっこういるもんですね。 |
ユウキ | そうか? おれの方はあんまりいなかったけど。 |
部 長 | ……。 |
ツトム | 部長、どうしたんですか? |
部 長 | ……ん? いやなんでもない。それよりどうだ首尾は? |
ユウキ | 上々ですよ。 |
部 長 | そうか。 |
ユウキ |
ええ。それよりどうですか、カマキリは? |
ツトム | そのカマキリっていうの、言いにくいですね。何か名前つけましょう。 |
部 長 | いや本人に聞いてみよう。おい、お前の名前は? |
かまきりA | リカ。 |
部 長 | ……。 |
ツトム | なんて言ってますか? |
部 長 | ジェニーだそうだ。 |
かまきりA | リカって言ってるじゃない。リカちやんって呼んで。 |
部 長 |
お前は今からジェニーだ。キューピーでもいいぞ。 |
ユウキ | 何言ってんですか? さっきから。 |
部 長 | ジェニーば眠いらしいからほっとこう。 |
かまきりA | 私眠くなんか…… |
部長Aに強烈なポディ。Aうずくまって気を失う。 | |
部 長 | もう寝てしまった。 |
ツトム | 部長、今何かしませんでしたか。 |
部 長 | お前の錯覚だろう。 |
ユウキ | まいっか。じゃあ、他のカマキリも巨大化させましょ。 |
部 長 | そうそう。 |
ツトム | そうですね。 |
二人でAを引きずって出ていく。 |
M 夕方になる。三人出てくる。 |
|
ユウキ |
ついに、この時が来た。 |
ツトム | 部長。カマキリ達はうまく働いてくれるでしようか。 |
部 長 | ヤツラには毒を盛ったとうそを言ってある。バカな奴らで助かったぜ。 |
ユウキ | そうなんですか。 |
ツトム | ところで部長、目が赤いんですが……。 |
部 長 | これか? なにかこの前から赤いんだよな。まあ痛みもないし、そのうち治まるだろ。 |
ツトム | じゃあ、そろそろ始めますか。 |
ユウキ | フフフ……。さあ地獄の宴の始まりだ。 |
部 長 | よしっ、第一部隊突撃!! |
戦いが始まる。ミサイル、ビームの昔。変な生き物の声。 爆発昔。などの戦いのS.E. |
|
ツトム |
勝った!! |
ユウキ | おれ達の勝利だ。 |
部 長 | ……。 |
ツトムとユウキ大書び。部長動かない。 暗転。 |
N 部室。ツトムとユウキがいる。そこに部長が入ってくる。 |
|
ツトム |
おはようございます。 |
部 長 | ……。 |
ユウキ | おはようございます。 |
部 長 | ……ん。ああ・…。 |
ツトム |
どうしたんですか? 元気ないですね。 |
ユウキ | クマができてますが、寝てないんですか? |
部 長 | まあな。 |
ツトム | まさか、昨日のことに罪悪感を感じてるんですか? |
ユウキ |
バカ。部長は真の科学者だぜ。そんなことあるわけねえよ。そうで |
部 長 | あ・…ああ。 |
ユウキ | ホラ。 |
ツトム | 本当ですか? |
部 長 |
勿論だ。昨夜はちょっと考えごとをしてた。 |
ツトム | 考え事? 何を考えてたんですか? |
部 長 | なぜ、ジャイアンの本名はタケシなのに、妹の本名がジャイ子な のか。 |
ツトム |
それは……ナゾですね。 |
ユウキ | う−ん。 |
二人考え込む。そこに物長入ってくる。 |
|
ツトム | アレ? |
ユウキ | どうしたツトム。あっお前!! 何しに来たんだ? 今この部室は化学部 の物だぞ。 |
物 長 | 荷物をとりに来ただけだ。すぐ帰る。 |
ツトム |
さっさとして下さいね。 |
物 長 | わかってる。 |
物長三つある段ポールを持とうとするが無理。 | |
部 長 |
おい、お前ら手伝ってやれ。 |
ツトム | そんな、なんで……。 |
部 長 | いいから早く! |
二人プツブツ言いながら二個の段ポールを持っていく。 |
|
物 長 |
まさか虫を使うとはな。思いもよらなかった。 |
部 長 | そうだろう。 |
物 長 |
どうしたんだその赤い目、それに目の下のクマ。 |
部 長 | ちょっと徹夜をした。目が赤いのは気にしないでくれ。 |
物 長 | ふ−ん。だが何で徹夜なんかしたんだ? |
部 長 | ちょっと「なぜジャイアンの本名はタケシなのに、妹ばジャイ子なのか」について考えてたもんでな。 |
物 長 | ……。うそをつくな。お前はそんなくだらない事で、徹夜する奴じやないはずだ。本当はどうしたん だ? |
部 長 |
お前は家族のために命をかけられるか? |
物 長 | 何? う−ん、わからんな。 |
部 長 | おれがつかったカマキリの一人に言われた。家族ってのは命をかけて互いを助け合えるって。 |
物 長 |
ふ−ん。 |
部 長 | それにあいつ、どんなに傷ついても絶対に倒れないクセして、死 ぬときはうずくまって腹をかぱっていた。母親ってのは、子どもの ためにそこまでできるものなのか? |
物 長 | そうか、小さいころに両親を亡くして、一人で生きてきたお前には 分からないかも知れないな。しかし、カマキリにもそんな愛があっ たか。 |
部 長 | 質問に答えろよ。 |
物 長 | そうだな。おれ達が育つにはやっぱり親の愛が必要なんだ。そ して母はそのために惜しみない愛情をおれ達に与えている。や がて育ったおれ達はまたその子どもに愛を与える。そういう、ギ ブアンドテイクで世の中成り立ってるんだな。カマキリも例外じや ないさ。 |
部 長 |
なるほどな。 |
物 長 | それは、地球全体としても言える事なんだ。母なる地球は自然と いう形でおれ達に色々な恩恵を与えている。だからおれ達人間 は同じように小動物を愛さなけれぱいけないんだ。 |
部 長 | 人間が動物どもをか? |
物 長 | そうさ。大体お前は勘違いをしてる。 |
部 長 |
何が? |
物 長 | 人間なんてもんは、そんなに優れた生き物じゃないし、極めて非力なんだ。母なる地球から見りゃ、人間なんてミリ単位、…… いやミクロ単位の存在だぜ。 |
部 長 | わかった。助かったぜ。 |
物 長 | 礼を言うなんてお前らしくないな。 |
立ち上がり、段ポールを持って出て行こうとするが | |
部 長 |
なあ、お前時々誰もいないのに上から声がするとかっていう経 |
物 長 | 何言ってんだ?
その目の色といいお前最近変だぜ。医者に行った らどうだ? |
出ていく物長。 |
|
ツトム |
部長、部長!! |
ユウキ | 起きて下さい部長!! |
部 長 | 寝てないって。 |
ツトム | あの「巨太化する薬」ってあまってますか。 |
部 長 |
ああ、あまってはいるが……。あれは捨てようと思う。 |
ユウキ | なんでですか? |
ツトム | 業著の人が高額で買い取りたいと言ってきてるんです。 |
部 長 | 何のためにだ? |
ツトム | ここだけの話なんですが、アフリカで捕獲した象に薬を飲ませて巨大化した直後に殺して象牙を手にいれようってわけです。 |
部 長 |
象? ゾウって殺していいのか? |
ユウキ | 密猟ですよ。 |
部 長 |
何! |
ユウキ | でも部長、一匹あたりの量が増えれぱ殺される象の数は減るん ですよ。 |
部 長 | それにしたって……ん?
そうだあの薬は極めて小さい動物にしか 効かないんだ。だから ……。 |
ユウキ |
それを改良するのが部長の仕事なんです。 |
ツトム | 薬と一絡一緒に部長も買われてるんです。 |
部 長 | ……。 |
ユウキ | 部長どうするんですか? |
ツトム |
部長もちろんやりますよね。 |
ユウキ | 部長! |
ツトム | 部長! |
部 長 | わかった、やろう。 |
ツトム |
さすが部長。 |
ユウキ |
さすが万物の王ですね。きっとやってくれると信じてましたよ。 |
部 長 | そうか? |
ツトム |
そうですよ。何も恐れるものなんてありませんものね。 |
ユウキ | ツトム、急いで話つけてこようぜ。 |
ツトム | はい。 |
二人出ていく。一人になる部長。 | |
部 長 |
そうだよ。何も恐れることなんてないんだ。たとえ、人間が他の動物を愛さなけりやならないとしても、それをする必要がどこにある |
舞台赤くなる。 | |
部 長 |
なっ、なんだ? 目の前が赤くなって何も見えない。どうなってんだ。 |
上から声が聞こえる。 | |
B |
おい見ろよ。人間だぜ。 |
A | 本当だ。相変わらず小せえな。 |
B | こいつなんかキョロキョロしてるぜ、頭わりい。 |
A | メスでも探してるんじやねえの? なんたって発情期だからな。 |
B | なるほど。(A、Bクスクス笑う。) |
部 長 |
何を言ってる。俺は地球一の高等生物の人間だぞ。万物の長た |
A | なにかキイキイ言ってるぜ。……なあ、うるさいからつぶしちまお うぜ。 |
B | なんかかわいそうじやない? |
A | バカ、こいつら人間だぜ、こんな虫に悲しいなんて感惰あっかよ。 |
B | それもそうだな。 |
物がつぶれる音だけ響く。 ツトムとユウキが座っている。 |
|
ツトム |
だけど部長何で死んじゃったんでしようね。 |
ユウキ | なんか警察の話だと、長い問の怪しい薬の蓄積による中毒で脳が侵されてたらしいぜ。 |
ツトム | 本当にそれだけですかね。 |
ユウキ |
そうさ、部長の部屋には百を越える種類の薬があったんだって |
ツトム | でも部長の死に顔……なんかとても恐ろしい物を見たみたいで ……。なんかにおびえていたような…・・。 |
ユウキ | 幻覚でも見たんだろ。物理部の部長にも幻聴が開こえるみたい なこと言ってたらしいしな。 |
ツトム |
そうなんですか。 |
ユウキ | そう。あの悪魔みたいな頭脳も薬にはかなわなかったか。 |
ツトム | あっ、先輩、もうアフリカに発つ時間です。 |
ユウキ | よし、部長のやり残していった仕事、おれ達でやってやるか。 |
うなずいて出ていくツトム。 荷物を待つユウキ。 |
|
ユウキ | さてと行くか・…・あれ……なんか目の前に赤いモヤがかかっ ているな……まいっか、そのうち直るだろう。 |
出ていくユウキ。 | |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 完 |