朝 顔 通 り 

ここは小説の通りです。私が読んで、おもしろかった作品、感動し
た作品、心静まった作品をかってきままな書き方で、紹介します。

☆2012/02/20 更新


PART2 はこちら

 

高木敏子       「ガラスのうさぎ」 11/10
エレナ・ポーター   「少女パレアナ」 
五木寛之      「親鸞」      
冲方 丁       「天地明察」 
伊坂幸太郎     「終末のフール」
            「重力ピエロ」
朝倉卓弥       「四日間の奇蹟」   
川上弘美       「センセイの鞄」
サトクリフ       「アーサー王と円卓の騎士」
宮城谷昌光の   中国古典英雄譚の一群
オグ・マンディーノ  「十ニ番目の天使」
             「この世で一番の奇跡」
重松 清 作     「ナイフ」
             「エイジ」
サリンジャー    「Catcher in the Rye」
                 訳・村上春樹   
ドストエーフスキー   「カラマーゾフの兄弟」   
                 訳・亀山郁夫
島崎藤村      「夜明け前」     

 

「ガラスのうさぎ」     高木敏子
           
 最近本をよむのがせいいっぱいで、ここへの書き込みまで気持ちが
行かなかった。この本は、詩の授業の参考資料をさがしてて、学校
図書館で見つけて、急に読みたくなって、借りた。
 何十年ぶりだろうか。それでも新鮮な驚きを感じた。
 者の戦争体験記である。大空襲と敗戦とその影響をもろに受けながら、
幼い子が、懸命に生きていく、そのけなげな姿は、驚きである。
 当時の社会全体の様子、変わり行く人々の心根。振り回されながらも、じ
っと堪えて、周りに適応しながら、自分の中心は守り抜いて、生き抜く姿は、
何時の世の人々にも、読みついでほしいと、思う。

  

「 少女パレアナ 」   エレナ・ポーター
                   
角川文庫
 両親がなくなって、父は牧師だったので、地域の婦人会で世話していたが、ただ一人の身寄りということで、バレー叔母さんのところへ来た。明るくて、とてつもなくおしゃべりで、たちまち周りの者をひきつけてしまう、ということで、はじめ、これ「赤毛のアン」の設定そっくり、と思った。でもアンのようには屈折してなくて、何でも喜びに変えてしまうという遊びの達人なのだ。
 ラストは涙を誘う設定になっていて、どうぞ、素直に泣ける方にお勧めです。私はたくさん泣いて、すっきりしましたね。
 よくこういう聖書みたいな本が書けるなあと。人生、生きるということはこういうことよ、との教えが強く出ていて、それがアンとは大きくちがうところだ。
 この種の本が、アメリカでは好まれるというのは、民族性の一端なのかしら。

 

「 親 鸞 」     五木寛之
                   
講談社  

 五木寛之は私たち学生時代に夢中になって読んだ作者の一人である。
とにかく当時、ストーリーテラーとしては抜群だった。日本人離れしていた。
今でこそ、こうした資質を備えた作者がどんどん生まれているが。かれが
宗教、それも仏教の方へ行ってしまって、もう小説はおわりかなと思ってい
た。
 最新作「親鸞」を読もうと思ってのは、わたし自身が、スピリチュアルの方
面に関心を持ち始めたからである。仏教も、親鸞、日蓮あたりから、と思っ
ていた矢先に目に入った次第。
 で、読んでみて、まずなにより、面白い。ストーリーテラーの五木は健在
であった。河原坊浄寛、法螺房弁才、ツブテの弥七という3人組み。このキ
ャラの設定はほどんどゲームの世界である。いくらでも話をおもしろくできる。
どんな危険な設定でも、主人公を助けだせるのだ。
 法然という私の頭にほとんどなかった人物もここでおしえられたし、当時の
世相も生きた形で読めた。その中で親鸞になっていく人物の成長ものがたり
同時に、読者は南無阿弥陀仏の内容を学んでいく。まことにうまくできている。

 

「天地明察」      丁
                  
角川書店  

 まず作者名。全く読めなかった。「うぶかたとう」????
 暦法家の話、というし、この題名ではと、内容にも興味を持てなかった。
それが、あるとき、なにげに開いて、読んでみて、面白さに、やめられな
くなった。江戸時代の、それまで中国のものをそのまま使っていた暦を
大和暦に換える、その大事業を成し遂げた一人の天才のはなし。全く
知らなかった世界、暦というもののスケールの大きさだけでなく、江戸
時代に日本でかくも数学に血道をあげる者がいたというのも知らなかった。
主人公、春海の、才能の描出も、人間関係の描き方も、時代の表し方
も、とにかくあきさせない。一級品の娯楽作品。おすすめ!!

 

終末のフール』  伊坂幸太郎                 集英社       

 仙台人による仙台を舞台にした小説を初めて読んだわけであるが、「仙台」という言葉が度々出てくるのは、なかなかいいものだ。なんか肌にくる。まだ、具体的に、仙台でなければならない、という地域性とか、風土、街並み、とかがあるわけではないが。仙台北部の高台にある「ヒルズタウン」という団地。仙台の街並みが見え、そのさらに向こうに海。
話しは、小惑星が、3年後に地球に衝突し、人類は絶滅するという設定である。そうした特殊な状況下における、団地の住人の、一人一人の生き様に焦点をあてて、八つの短編に仕上げている。進むにつれて、その一人一人が、微妙にかかわってくる形になっている。
甘さを逃れられないのは、大部分は、五年も前から仕事をやめていて、それでも食っていける、というところ。作者はそれなりに説明はしているのだが、どうも納得がいかない、その気持ちを引きずってしまう。それだけを別とすれば、それなりに楽しめる本ではあった。                            H19.1.14
『重力ピエロ』  伊坂幸太郎
              新潮社
 これも仙台が舞台だ。率直、うれしい。話の展開上仙台でなければならない理由はないが、ただ、仙台駅西口周辺と、青葉山八木山橋とは、生かされていて、これもうれしい。話は面白い。あきない。語り口が、読者」を引っ張るのだ。なかなか手なれている。
 ミステリー仕立てなので、あまり詳しくはふれられないが。


「四日間の奇蹟」   朝倉卓弥

              宝島社文庫    

 最近若い作家がどんどん出てくるので、文学界は、知らない人ばかりだ。時おり読んでみて、共通点として感じるのは、みんなストーリーテラーだということ。ストーリーの作り方がうまいし、おもしろい。そういう意味では、西欧の小説との境がなくなってきている。
 この小説は、たまたま書店で見かけて、表紙に書いてある「脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事を、最高の筆致で描く癒しと再生のファンタジー。」から、たまたまに読んでみようという気になったものである。で、おもしろかった。読ませる。書き出しから、引き付けていくが、まんなかで、話ががらりと変わる。現象そのものは漫画や小説の世界ではめずらしくもないことなのに、読んでて仰天させられるのは、うまいのだ。とにかくうまい。その後は、一気呵成に読まされてしまった。
 人間存在の不思議さと、癒しの問題、とは、一身同体のものかもしれない。

 

「センセイの鞄」     川上弘美
           
 川上弘美という作家を知らなかった。図書館の大槻さんのお勧めで読んでみた。
 これは大人の本だと思った。大町ツキコは、高校卒業してずうっと年配になってか
ら、居酒屋で高校の恩師に出会った。もうかなりのお年だ。ところが、この二人、趣
味がやたら似ている。性格もなにやら似ているのだ。妙にぼーうっとしていて、とり
とめがなく、それでいて、お互いに引かれていって、恋だなんてことになったりする。
 不思議な味の小説である。大人の小説である。ひさしぶりにほんわかした気持ち
で読むことができた。

 

「アーサー王と円卓の騎士」 ローズマリ・サトクリフ
           
原 書 房   1800円+税
 アーサー王ってよく聞くけど、いったいなんだろう、とずうっと思っていた。いつか読み
たいっていうか知りたいことだった。円卓の騎士ってなんだろうとも。今度、学校の図
書館で購入したのをきっかけに、読んでみた。
 三部作の第1巻らしく、アーサー王のことよりも、アーサー王に招かれた円卓の騎
士たちの、一人一人の冒険と運命が、えがかれている。様々な冒険、そこには魔法
とか、呪文とか、聖なる剣とか、特別な薬草とか、色んなものがアーサー王と関わり
を持ちながらも、登場する。なんだ、まるでテレビゲームの世界ではないか。いや、
そうではなくて、テレビゲームがこの世界を真似したのだ。もっと言えば、ファンタジ
ーの源流がここにある。ちょっと宣伝文句を紹介しよう。
 「ブリテン王アーサーと、魔術師マーリン、そして、ブリテンの善と栄光を求める彼
らの終りなき戦いその伝説のかずかずを描いた、生き生きとして、忘れがたい『アー
サー王』の登場である。」
  なお、サトクリフは、歴史ファンタジー作家として世界的に有名なそうです。
続編・「アーサー王と聖杯の物語」
   「アーサー王最後の戦い」

 

宮城谷昌光著 中国古典英雄の一群

読み始めたら止められないのが、この人の中国古典英雄
 「奇貨居くべし」  全5巻 中央公論新社  各1500円+税
 
 秦がどうしてあの中国の統一をやれたのか、ましてあのとんでもない人格の「始
皇帝」のもとで。どうにもこれが納得できなかったのだが、この本を読んで、わかっ
た。「奇貨」がいたんだ。呂不違という人間が。その上に始皇帝がのっかって、結局
は彼の功績を食いつぶしてしまったんだ。
 この本には宮城谷さんの総決算のような感じがある。中国古典の世界にひたりき
ることによって育ててきた彼の世界観、人生観が、随所に、それも詳しく述べられて
いる。
 「 楽 毅 」       全4巻 新潮社  各1900円+税

 彼の本の中では、私のもっとも好きなもの。これこそ英雄だと、思うのです。 
 大国にはさまれていた小国の中山国の宰相の嫡子である
楽毅の一代記。
 圧倒的な戦力の趙の軍隊を天才的な闘いで悩まし続けた楽毅は、中山国が趙
に滅ぼされた後、燕に迎えられて、ついに超大国の斉を全面占領するにいたる。
かれの闘いは、外交的、戦略的に天才的であった。この辺はどこか織田信長に
似ている。
 

 

 「十ニ番目の天使」  オグ・マンディーノ作
                            
求龍堂 1200円+税
 三高図書館の司書から勧められた本。「読みながら何度も何度も涙が流れたわ。」
と勧められたわけだけれど、お涙ものは、いやだから、素直に読もうとは言えなかっ
た。しかし、彼女は真剣だったから、つい借りて読み始めてしまった。
 訳は上手いと思った。読んでて引っかからない。スムーズに読める。などと思いな
がら二日目までは少しずつよんでいた。
 三日目になったら、止められなくなった。終わりに近くなるにつれて、涙、だった。
 内容は紹介しない方がいいと思う。少年と野球、生と死。
 とにかく読んでみてくれ。いい本だぜ。
 こんなふうに真っ直ぐに書かれて、素直にまっすくに読めて、しかも心から感動し
てしまう、こういう小説って日本にはないよな。
 オグ・マンディーノ、はじめて聞く名前だ。他の本も読もうと言う気になってしまった。
「この世で一番の奇跡」 オグ・マンディーノ作
             
PHP研究所 1200円+税 
 まずマンディーノの紹介。「自己啓発や成功哲学の分野では、世界を代表する作
家です。1996年に他界するまで、彼はしめて18冊の著作を著していますがその
大半がベストセラーのリストに名を列ね、世界22カ国でむ3600万部も売ったと言わ
れています。」訳者あとがき
 次にこの本の紹介。「マンディーノは本書の中で、自分を見失ってしまっている人
を手きびしく、「生きた屍」と呼んでいます。そのような人たちをいかにして「復活」さ
せ、幸福な人生へと導くかが本書のテーマになっているのです。」訳者あとがき
 たとえば、「ひとたび決定したら、背後の橋は焼き払ってしまった方がよい」
 「あることを達成するためには、ほかのことをあきらめ、犠牲にする準備さえできて
いれば、どんなことでも達成できる。」
 「わしらが不幸なのは、自分を敬う気持ちを失ってしまったからです。」
 えんえんと出てくるのですが、そして本当にいい言葉は、後の方で出てくるのた゜
けれど、このような話を小説として書かれるということに、日本人は慣れていないと
いうことじゃないかしら。今まで読まれなかったというのは。
 文章がいかにも翻訳物らしいので、読みにくいというか、心にうまくなじまないの
が1つの難点。
 そのことに留意して、ラストまで読みつづけて見てください。

 

 「 ナイフ 」  重松 清   新潮社  各1700円+税 
 
 これが現代を描いた小説ってやつなんだと、認識した作品。
 五つの短編からなる。表題の「ナイフ」はその中の一編。この「ナイフ」はいじめ
られた少年が、心の支えとしてナイフを持つ、という話かと思ったら、ナイフ持つの
は、いじめられている子を持った親だった。つまり、親なんだ、想定されてる読者は、
自分のところにきたらどうしよと、どうしたらよいかわからなくてびくびくしている親な
んだ。具体的にどういうことになるのか前もってのシュミレート。
 帯封に「小さな幸福に包まれた家族の喉元に突きつけられる"いじめ"とい
う名の鋭利なナイフ。平凡な日常の中の歪みと救いを、ビタースィートに描き
出す5つのストーリー」
とある。上手いまとめ方だと思った。
 非常に良く書かれている。いじめの様子が、親の気持が、非常に良く描かれてい
る。
  徹底してしていじめられると、人間の中の何かがこわれる、だから、その影響は
ずうっと後まで続いたり、ずうっと後になってから出て来たり、そのことが今、日本の
社会に噴出してきているはずだが、そこのところが、作者の頭にないのは、ちょとあ
まいよな、と思った。
 「 エイジ 」  重松 清
  中学二年生のエイジの、9月はじめから12月はじめまでの3ヶ月間を描いた小
説。
  最も激しく変わる中ニの二学期を、中学生の内部に視点を置いて描いた。彼の
周りで様々な事件が起きる。毎日毎日、イヤな事件が起きる、イヤな時代だ。でも
その中で生きる、生きているタカやん、ツカちゃん、タモツくん、相沢志保、本条め
ぐみ。読んでいて、あきないのは、彼らの心の中がよく描かれているからだ。心の
中は、時代そのものだ。
  「ナイフ」でいじめを中心に少年たちを描いた作者だったが、「エイジ」でここま
で詳細に描いてしまうと、もう少年達を描くことはできないんじゃないかしら、など
とよけいな心配をしてしまった。
 実際、作者のメスは、「ビタミンF」では、大人達へと向かっている。

 

「The Catcher in the Rye」   サリンジャー作
                       村上 春樹 訳
 
7・21          
白水社 880円           
 最近二度目読む。主人公の抱えるものが、彼の症状が、人間関係をうまく保てないという問題だということがわかった。一人ひとりが、彼には否定的存在にしか見えない。自分への対し方が、彼にとっては否定するしかないものに映る。で、彼自身は落ち着かない。何をしたらよいかわからない。やりたいこと、なすべきことが、次々変わるから、おちつかない。とそこまで読めた。もう一度読まないと。
 16歳のホールデン・コールフィールドの心の有り様、ということかな。詠みやすかった。けっこうおもしろかった。よみおわるのが惜しかった。新訳ということで、興味をもって読めるんじゃないかと思って、読んだのだが、期待に反しなかった。この作に関する村上春樹の解釈も読みたかったが、残念。
 こういう感じでほかの年代の者が書いたらどうだろうか、と思いつつ読んだ。16歳だから許される感じ方なんだろうか。
 なんか、心理学的にさまざまな論議が成り立つ作品だと思う。だから、一回読んでわかったつもりでいたら、まちがいそうだ。

 

「カラマーゾフの兄弟」   ドストエーフスキー作
                亀山 郁夫  訳
           
光文社  全五巻  
  学生時代から何度も挑戦して、その度に中途挫折を繰り返した。今度、新訳がでたというので、その新訳がすごく読まれているというので、わたしもモウ一度挑戦した。最初は、その世界になじむのに、しんどかった。これだけ長い小説だと、だいたいそうだから、わたしは、少しずつでもいいから、どんなに長くかかってもいいから、今度だめだったら、後はないから、とにかく読了しようと、覚悟を決めた。
 幸い四分の一あたりからおもしろくなってきた。訳はすごく読みやすい。あまりよみやすいので、重いテーマのところを、気づかず読んでしまいそうな気がするくらいだ。
 思いは、読んでいて、これはまるで、今の日本ではないか、ということであった。
登場人物のひとりひとりに人格化されている存在が、いまの日本の時代状況に近似している。これじゃあ、救われない。書かれるはずであった後半が、どうしても読みたいと思うのは、そのためであった。若い人達に読まれているという理由が、納得できる気がしてしまうのだ。
 読み終えるのに四ヶ月かかってしまったが、終わってみると、あの、近似しているものが何なのか、これは、いつかまた、もう一度読むしかないな、と

 

 「 夜明け前 」   
                    島崎 藤村 作

           
  古本屋で、河出書房「日本文学全集11・島崎藤村二」にこれがあるのを見つけ
て、買ってきて読み始めた。いつか読もうと思いつつ、あまりの長さに、躊躇してい
たのだ。とにかくひたすらまじめに取り組んで書かれた小説である。読者を楽しま
せようとは、これっぽっちも考えてない。だから一気には読めない。覚悟決め、毎日
少しずつでも、何カ月かかっても、読みきろうと、考えたのだ。
 この小説では、和宮降嫁以前から、明治半ばまでの、いわば明治維新前後の、
世の中動きを、実に克明に、詳細に追っている。木曾街道馬籠で庄屋。問屋・本陣
を代々引き受けている青山一族、特に青山半蔵の一代記でもある。一般民衆にとっ
て、明治維新によって何もかもががらりと変わったのであるが、それはどういうことか、
実によくわかる。また国学者達が何を考え何をやろうとしたか、それもわたしにとって
初めて知ったことばかりで、へえ、そうなのかあー、という感じなのだ。まじめな半蔵
をまじめな藤村が、ひたすらまじめに書いた、「半蔵の姿イコ−ル世の中の姿」。そ
れは、ひとりのまじめな男としては、じぶんという鏡に受け止めるには、発狂するしか
ない変転の仕方であったのだ。

 

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