第3部. 劇作りのポイント・・・演出・キャスト編
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三. 場面の作り方 |
その場面の目的を考える セリフがない時ほど大変 舞台(場面〉の見える読み会わせ |
※「その場面の目的を考える」 読み会わせもだいぷ進んで、セリフにある程度気持ちが入ってきたとしても、それで読み合わせが終わったわけ ではありません。各場面の目的をはっきりさせ、それが観客にしっかり伝わるようにするための工夫が必要なので す。 例えぱ、どんな劇でも開幕の五分が勝負といわれています。(「舞台からのメッセ‐ジ」の「オ‐イ、救けてくれ」を 参照して下さい)。『私の海は黄金色』の場合、幕が上がると礼子たちの数人が節子をいじめているところから劇 が始まります。節子がいじめられている様子を見せるのは当然ですが、そのときの節子の気持ちが観客にしっか り伝わるようにしなければなりません。また、節子や礼子達のグル‐プ以外の、傍観者的クラスメイトの様子も印象 づけておくことも重要になります。その他に、この学級はいま何をしようとしているのか、セリフの端々からわかって もらわないと、その先に進めないことになります。 そこで、「ペンケ‐スを床にわざと落とした時や、ノ‐トを破いた時、それまで数人でおしやべりをしていた傍観者 的クラスメイトが、一瞬話を止めて緊張感をつくるようにする」ということや、「文集のクラス発表で劇を上演しようと していることを話すセリフは、きちんと客席にわかってもらうようにする」ということなどを確認しました。 このように、その場面の目的をはっきりさせながら、しっかりした解釈で味をつけ、それを舞台の上に表す方法 についても考えて読み合わせをすることになるわけです。 ※「セリフがない時ほど大変」 次に、セリフのない時はどうすれぱいいのか考えてみます。「節子」と「礼子のグループ」とのからみの時、他の クラスメ‐トはなにをしているのでしょうか。本にはなにひとつ書いていません。セリフがないからといって休憩して いるわけには行きません。 読み合わせのとき、セリフがあれば、そのセリフからいろいろなことがわかり、それを基にした演技がみえてきま すが、セリフが書いてない人物については、自分で考えてつくるしかありません。そのような意味では、セリフがな いときほど大変ということになります。 みんなでじっと節子の方を見ていたのでは、クフスとしてのその場の雰囲気がでません。。自分は、だれと、どこ で、なにをしているのか。おしやべりをしているとしたなら、なんの話しをどのように話しているのか。そして、節子 と礼子のグル‐プとのからみをどのように見ているのか。そういうことを作らなければ、その時自分が舞台に立って どうしたらいいか分からなくなってしまいます。そういうことを読み合わせの段階で話し合っておきましょう。 演出は、ひと区切りついたところで、そのとき舞台に登場しているキャストに「そのときあなたはなにをしています か?」「どういう気持ちで聞いていますか?」と質問しましょう。その場面に登場しないキャストやスタッフも、意見や感 想をどんどん言って、みんなでその場面を作るようにしましょう。 演出は観客になったつもりで、観客の目で不自然なところがなくなるように、指摘してみんなに考えてもらいま す。解決できない問題が出た時は明日までの宿題にして、その間に顧問の先生と相談したり、仲間と議論するの もいいでしょう。 「読み合わせ」とは、単にセリフを読んで合わせるのではないことがわかりましたか。セリフを読むことによって、 気持ちや感情の交流をはっきりさせ、心を会わせてみんなで舞台を作っていく作業が「読み合わせ」なのです。感 情が自分のものになるにしたがって、セリフに心が入ってきます。「いいまわし」を無理に作らなくても、セリフが生 きてきます。 セリフは心のキャッチポールです。目をつぷっていると、生きたセリフはその場面の舞台を浮かぴ上からせてくれ ます。そうなるまで「読み会わせ」をしっかりやり、心のかよった場面を作っていきましょう。 ※「舞台(場面)の見える読み合わせ」 ある程度読み合わせが進み、お互いの気持ちや感情が表現できるようになったなら、その場面の状況について 話し合ってみましよう。例えば、前に出てきた次の場面を考えてみます。 〈ここはAの家。そこにBが登場する〉 B(汗をふきながら)やあ、こんにちは A まあ、遠いところよくいらっしやいました。 Aが、部屋のどの位置でどのような仕事をしているときに、Bが、どのくらい離れたところに登場するのか話し合い ます。その結果、次の様になったとします。 季節は夏、午後三時頃の暑い時間。Aは舞台上手よりでコザを広げて座り、取った野菜の選別をしている。そこ ヘ、一時間程歩いて来たBが荷物を背員って、下手から登場する。 このような状況であれば、Bは、舞台ヘ登場したとき、「やっとついた」という気持ちになって、ますホッとした表情 になると思います。そして、Aがいることに気がついて、「やあ、こんにちは」と声をかける。その声に気づいて振り向 いたAは、相手が誰であるか分かり、Bが来るという連絡を受けていたので、一時間歩いてきたことを察して「まあ、 遠いところよくいらっしやいました」と迎え入れるために立ち上がる。 このような様子が見えてくると、ただ単なる「読んで合わせる」のではなく、動きがほしくなり、汗を拭く動作や挨 拶の様子も、読み合わせの中で表現するようになってきます。ですから私は読み合わせも脚本を手に立った状態 でやることを進めていました。気持が入ってくると、相手の顔を見ながらセリフを言うようになり、手が自然と動きだし 状況がわかってくると、その他の動作も自然と沸き出してくるのです。心で感じていることや考えていることを相手に 伝えようとするために言葉や動作があるのです。 「動きは立ち稽古になってからでは遅い」のです。場面がみえてきて状況が分かってくると、「読む」ことから「話 す」ことへ変わってきます。自分が変わってくると相手も変わらざるをえません。お互いが向上しながら「生きた言 葉」になっていきます。そうなれば、当然「間」も生きたものになり、声のかけ方も距離を考えたものに変わってきま す。練習を見ている人にも、舞台が見えてくるようにな ります。頃合いを見て、演出は録音をとってみましょう。どち らかといえば、キャストは主観的にものを見ています。どのような気持ちをどのように表現するかということを中心に 練習していることが多いので、録音をとることによって、自分の声がどのように聞こえるか、ちょっと客観的になって もらうのです。そうすることによって、セリフのスピ‐ドや聞きにくいところなどを演出が細々と指示しなくても、わかっ てもらえるようです。 次 へ |