「 タマゴの勝利 」前編 |
作・安保健+宮三女高演劇部 |
登場人物 ユミ (高校3年生) ユキ (高校2年生) マサエ(高校2年生) |
夏の放課後、文芸部の部室 |
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ユキ | (蝉の鳴き声に合わせて団扇を両手で振りながら) ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、先輩、蝉の前足と後ろ足ってどっちが長いと思います? |
ユミ | 前足だと思うよ。 |
ユキ | 先輩、どうして分かるんですか? |
ユミ | 前足が長い方が地面から出やすいでしょ。 |
ユキ | 先輩、頭いいですもんね。わたしいじけますよ。 |
ユミ | 小学生でも分かると思うよ。 |
ユキ | そうですか?先輩、どうします。どうします? |
ユミ | なにが? |
ユキ | 部活です。 |
ユミ | うん、どうしよう。 |
ユキ | やはり、少ないと、辛いですよね。 |
ユミ | うん。でも、1人でもやってる部あるし。 |
ユキ | そうですね、がんばりましょう。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | でも、とりあえず試験ですよね。 |
ユミ | そうだね。 |
ユキ | ・・・でも、どうして、音楽部ばかりに、みんな入部するんです? |
ユミ | 全国1位だからね。 |
エキ | 87名も1年生入部したんですって。 |
ユミ | すごいね。 |
ユキ | 1年生根こそぎですよね。他の部は困つてると思います。地学部なんて2人で、新聞部は1人だそうです。そして、うちと演劇部は0です。・・・せめて二人欲しいですね。一人でもいいですけど。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | 人数制限つてないんですかね。 |
ユミ | 人数制限? |
ユキ | 合唱部の人数を最高40名にすれば、うちの部に入ってくる人いると思うんです。 |
ユミ | 合唱部はうちの学校の顔だからね。 |
ユキ | そうですよね。でも、このままだと、うちの部や他の部は潰れてしまいます。 |
ユミ | 自然淘汰だね。 |
ユキ | 自然淘汰?なんですか、それ。 |
ユミ | 強いものだけが生き残る。弱いものは自然と消えていく。 |
ユキ | それって、勝ち組みと負け組みですよね。 |
ユミ | 考えようによっては、そういうことだね。 |
ユキ | なんか、落ち込みますね。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | なんか、惨めです。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | 先輩、なんか人事みたいです。 |
ユミ | そうかなあ・・・。 |
ユキ | そうです。うちの部、人が少ないということで、部費がぐっと減らされて、一昨年の半分ですよ。それに、もうだめです!また、赤点です。先輩、このままだと私もう一回2年生です。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | 先輩はいいですよね。 |
ユミ | どうして? |
ユキ | 余裕シャクシャクじやないですか。 |
ユミ | そうでも。 |
ユキ | 私なんかと違って、先輩いつもテストもバッチリじゃないですか。それに比べて私なんか赤点3つもあるんですよ。3つも。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | ・・・それだけ。 |
ユミ | うん、がんばれ。 |
ユキ | ・・冷たい。 |
ユミ | なにが? |
ユキ | 先輩です。 |
ユミ | そうかな。 |
ユキ | そうです、このままだと私、留年なんですよ。 |
ユミ | でもしょうがないじゃない。やらなかったのはユキちゃんなんだし。 |
ユキ | それはそうですけど。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | ・・・・・・ |
ユミ | いいんじやないかな。 |
ユキ | 何がです? |
ユミ | 留年。 |
ユキ | 先輩、脅かさないでください。 |
ユミ | 実は私、2年遅れてるの。 |
ユキ | 先輩がですか。 |
ユミ | うん。病気で2年間、病院の天井を見てた。 |
ユキ | 2年もですか! |
ユミ | そうだよ。たいしたことないって、留年なんて。1年や、2年どうってことないよ。 |
ユキ | 先輩何歳ですか? |
ユミ | 本当は28。 |
ユキ | えっ、先輩、それちょつと無理があります。 |
ユミ | ごめん。 |
ユキ | 本当は何歳ですか。 |
ユミ | 19 |
ユキ | そうなんですか。 |
ユミ | 言わなかった。 |
ユキ | はい。聞いていいですか・・病気って。 |
ユミ | 白血病。 |
ユキ | えっっ! |
ユミ | いわなかつた、嘘。 |
ユキ | おどかさないでください。 |
ユミ | いいよ、留年。(うっとりと、天空を見つめる。) |
ユキ | (遥か彼方の先輩の視線を追いながら、うっとりと、微笑みながら。)先輩、まるで私、留年するみたいですね。なんか、先輩に言と、やれそうな気がしてきました。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | はい。 |
【ユキ、英語の教科書に集中する。】 |
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ユキ | ちょっと聞いていいですか? |
ユミ | なに? |
ユキ | 明日の英語テストなんですけど・ |
ユミ | いいけど。 |
ユキ | ここの文です。「Mary's father threw his hands to Mary.」って、どうゆう意味ですか?「マリーのお父さんは自分の両腕をマリーに投げた。」・・腕は投げられませんよね。両腕を切って投げたら出血多量で死んじゃいますよね。この文、どう訳せばいいんですか? |
ユミ | 多分、お父さんはマリーを抱き寄せようと両手を差し出したくらいでいいんじゃない。 |
ユキ | あつそうか、それだと意味が通じる。さすが先輩サンキュー。 |
ユミ | ウエルカム。 |
ユキ | 先輩もうひとつ聞いてもいいですか。 |
ユミ | いいけど。 |
ユキ | 「My nose is running」 ってなんですか。「ノウズ」 って鼻ですよね。「私の鼻が走る」 ってなんですか?私の鼻がとれてネズミのように走るんですか? |
ユミ | runって走るのほかに流れるという意味がある。それって鼻水が流れるつて意味だと思うよ。 |
ユキ | Thank you. |
ユミ | Not at all |
ユキ | ・・・先輩、もうひとつ、もういっこいいですか。 |
ユミ | いいけど。 |
ユキ | これですけど、「You are right」 って訳すと「あなたは右です」 っておかしくありませんか。 |
ユミ | それって、右じゃなくて正しいじゃない。 |
ユキ | 正しいって意味があるんですか! |
ユミ | うん、You are right. |
ユキ | じゃぁ、right の反対は左って left って言いますよね。Rightが正しいという意味なのなら、その反対の left は正しくないということになるんですか? |
ユミ | そうは、ならないと思うけど。辞書引くね。そうなんだ。 |
ユキ | どうしたんですか、先輩? |
ユミ | ユキの言うとおり、left って悪いという意味がある。Rightは右、正しいが基本的意味であるが、欧米では古くから右は「正しいもの 左は 「邪悪なもの」 という考え方があった。人間の多くが右利きであることに影響されているものといわれている・・・・大発見だね。左 利きは少数だから邪悪なものと見なされていたんだね。だから、left は正しくないと言う意味もあるんだ。 |
ユキ | 私は左きき、I am not right .Iam left.って邪悪なものになるんだ。 |
ユミ | 誰もユキを邪悪だって思わないけど。 |
ユキ | これって多数決ですよね・・・。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | 多数決って怖いですね。 |
ユミ | 今日の部室掃除、ユキがいいと思う人? |
ユキ | はーい |
ユミ | (エレベーターガイドのように) 次の日。 |
ユミ | 今日の部室掃除、ユキがいいと思う人? |
ユキ | はーい! |
ユミ | また次の日。今日の部室掃除、ユキがいいと思う人? |
ユキ | はーい! |
ユキ | (ハッとして) ちょっと待って下さい!それ良くないですよね。それじゃあ私、ずっと掃除です。 |
ユミ | そうだね。 |
ユキ | また、質問していいですか? |
ユミ | いいけど。 |
ユキ | 先輩って恋したことありますか? |
ユミ | 恋って、好意を持つこと。それならあるよ。 |
ユキ | えっ、本当ですか。ちょっと意外です。 |
ユミ | それって、少し失礼ね。 ′ |
ユキ | すみません。クールな先輩が恋人の家の前で夜、じっと立ってる姿、ちょつと想像できないです。 |
ユミ | それってストーカーだね。 |
ユキ | あっ、すみません。先輩に向かって何ていうことを‥。でも本当に人生って不思議ですね。先輩が恋するなんて。(不愉快そうにしているユミに) でも、もう終わったんですね。 |
ユミ | ・・・・。(足鳴らす。) |
ユキ | 進行中なんですか! |
ユミ | ・・・・。(足鳴らす。) |
ユキ | えっ、進行中なんですね!否定しませんよね。そうですよね。クールな先輩が・・・赤くなるなんて意外です。僕は君のために死に行くって感じですか?そうだったらカツコいいですよね。私もそういう人いると幸せ。わたしだったら生きて欲しいな。私のために死んでなんか欲しくない。 |
ユミ | ちょっと待って、まるで私の恋人が若死にするみたい。 |
ユキ | でも、今、テレビでやってますよ。戦争で飛行機に乗って死にゆく映画。 、 |
ユミ | ユキ、もしユキの愛する人が本当に死にゆくならどうする。 |
ユキ | 逃げる! 一緒に、どこまでも逃げる。逃げて、逃げてにげまくってやる。 |
ユミ | がんばれ。 |
ユキ | 先輩、一緒に逃げましょう。 |
ユミ | いいけど。 |
ユキ | えっ、冗談です。 |
【マサエがマニ車を回しながら登場。】 |
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マサエ | キコキコキコキコキコキコキコ・・・。 |
ユキ | マサエ、それなに? |
マサエ | さあ、なんでしょう? |
ユキ | なんかきもい。 |
マサエ | なにをいうか!これは神聖なものであるぞ! |
ユキ | だから、なに? |
マサエ | なにつてマニ車。 |
ユキ | ワニ車? |
マサエ | ばかこの!マニだよマニ、マニ車だよ。これを1回まわすと、お経を一回唱えたことになる。この中にお経が入っていて字の読めないチベッットの人たちが使っている。 |
ユキ | じゃあ、マサエにぴったりだ。 |
マサエ | どうして? |
ユキ | マサエ、字が読めない。 |
マサエ | まあ、それもある。 |
ユキ | ・・・・どうしたの・・・。今日のマサエ、妙に謙虚。 |
マサエ | 私はかわったのです。 |
ユキ | なにが? |
マサエ | 真理が。 |
ユキ | 真理って? |
マサエ | 悟りが・・・。 |
ユキ | なんか、この人いつもより大分、ヘン・・・。 |
マサエ | 人は常にかわるものです。時にはその代わりようが変に見える時があります。 (手を合せ) ナマステ。(ユミも手を合わせる。) |
ユキ | ナマステ? |
マサエ | ナマステとは南無阿弥陀佛です。 |
ユキ | 南無阿弥陀佛って? |
マサエ | ナマステです。 |
ユキ | ちょっと、それ苦しくない?どうしたの? |
マサエ | どうしたのって?‥・父さんがネパールから帰ってきました。人生観が変わったって、言ってる。これ兄貴へのプレゼント。でも、私が譲りうけました。 |
ユキ | マサエ、大丈夫。 |
マサエ | なにが? |
ユキ | 明日テストって知ってる? |
マサエ | 知ってるよ。でも、勉強より大切なものは世界には沢山ある。 |
ユキ | それは、そう。 |
【マサエが五体踏地を始める。】 |
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ユキ | 今度はなに? |
マサエ | さあ、なんでしょう? |
ユキ | なんなの? |
マサエ | 五体踏地。 |
ユキ | だからなに? |
マサエ | こうやって、お祈りしながら一歩一歩歩く。チベットの人たちはこうやって歩いていく。カイラスまで行く。 |
ユキ | カイラス? |
マサエ | チベットの聖なる山。エベレストの近く。 |
ユキ | エベレスト。 |
マサエ | そう、世界最高峰。話がそれた、話を戻す。必死で一日1キロか2キロ、カイラスまで15年かかる人もいる。私は、これで四国八十八ヶ所を歩く。 |
ユキ | ばかばかしい。 |
マサエ | みんな、そういう。一見、馬鹿馬鹿しいところに悟りはある。実は学校までこれできた。2時間34分かかった。 |
ユキ | 本当! |
マサエ | 嘘。 |
ユミ | やってみようか。 |
ユキ | 先輩!本当ですか! |
ユミ | うん、やってみよう。(ユキも五体踏地を始める。) |
ユキ | どうしてですか? |
ユミ | ここは文芸部、詩や小説を書く部。 |
ユキ | 詩を書くのは好きだけど。 |
ユミ | 詩や小説って、つまり人間とは何かって描くこと。 |
ユキ | でも、これはちょっと、極端すぎます。みんな私たちをばかだと思います。 |
マサエ | みんながどういう眼で見るかっていうのは、みんなの問題で、私たちの問題ではありません。先輩やりましょう。 |
ユミ | みんなの反応が楽しみ。 |
ユキ | えっ・・・本当にやるんですか先輩。 |
ユミ | うん。 |
マサエ | ドント ワリーです。先輩。 |
ユミ | うん。You are right .だね。 |
マサエ | ナマステです、先輩 |
ユミ | ナマステ。 |
マサエ | ナマステ |
ユミ | ナマステ |
マサエ | ナマステ |
【ユミとマサエは何度もナマステを言い合いながら退場、ユキは呆れて立ち尽くし2人を見送る。】 |
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【ユキが観客に向かって】 【ユミとマサエが後方にある傾斜台でユキのモノローグに合わせて五体踏地をする。】 |
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ユキ | というわけで私たち恥じを省みず学校からいつもの道を歩いてみたのです。特に大変だったのは横断歩道でした。青の間に渡らないと車にはねられます。跳ねられるというか本当に轢かれます。それと、これが一番困ったことですがアスファルトが暑くて腹ばいになることができないのです。後で分かったのですがネパールでは裸足で人々が歩けるように道路を一部アスファルトにしないそうです。そのうち夕立が降ってきて私たち泥だらけになってしまい・・・犬がやってきてマサエの顔をなめて・・・そんなわけで私たちの宗教的儀式、五体踏地は500メートルで挫折し、そんなことをしてるうち、マサエと私ユキは赤点を二人で5つも取ってしまいました。でも私は2つで、マサエは3つでした。私の勝ち。なんて低レベルの争い、ガク。先輩?先輩はいつものように完壁でした。でもどうして、先輩はマサエにやさしいんだろう。私はすこしマサエが羨ましい。 |
【ギルバート・オサリバンのアローンアゲインが流れ明転。】 |
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【遠くから蝉の声、ユキとユミが部室で文集を作ってる。】 |
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ユキ | (蝉の鳴き声に合わせて) ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、暗いんですかね。 |
ユミ | なにが? |
ユキ | この部。 |
ユミ | そうかなあ? |
ユキ | 暗いですよ。だから入らないんです。明るいほうが絶対いいです。 |
ユミ | でも、文学って、もともと暗いんじやない。 |
ユキ | どうしてですか? |
ユミ | 人間って、もともと洞穴に住んでいた。だから暗いのが好きじゃない?これって遺伝子。 |
ユキ | 遺伝子? |
ユミ | 生まれつき備わってる。 |
ユキ | それはそうですけど、でも、明るくないと人は来ないと思います。 |
ユミ | 来るかなぁ? |
ユキ | 絶対来ます。虫が夜、明かりを求めて集まってくるように孤独な人たちが来ます。 |
ユミ | ユキちやん、成長したね。 |
ユキ | 何がですか? |
ユミ | なんか文学的。 |
ユキ | そうですか、ありがとうございます。演劇部なんですけど明るい芝居をやって15人部員をゲットしたそうです。(ホームランを打つように真似て) カキーン! |
ユミ | (打球を追いながら) 15人も?どんな芝居? |
ユキ | ドラえもんだそうです。 |
ユミ | ドラえもん? |
ユキ | はい、ドラえもんです。ドラえもんのペロペラがジェット噴射になるそうです。頭からジェット気流が噴出す物語だそうです。 |
ユミ | 詳しいことは良く分からないけど、頭にジェット噴射機が付いていると、ドラえもんは足から飛んでいくことになる。それって、ちょっと危険だね。 |
ユキ | そうですよね、足からだと前、見えませんものね。その点、鉄うでアトムは良くできていますよね。 |
ユミ | ユキちやん、それって鉄腕アトムじやない。 |
ユキ | う、う、うちの部も、明るくしましょう。 |
ユミ | うん、でもマンケンよりは明るいと思うけど。 |
ユキ | あ・そ・こ、本当に暗いですよね。でも、人気ありますよね。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | どうして人気あるんですか? |
ユミ | 類は友を呼ぶっていうから。 |
ユキ | それって、何ですか? |
ユミ | 同じような人が集まる。 |
ユキ | 暗い人たちが集まるってことですか。そうかもしれない。これ聞いてください。マンケンの人たちこの曲を流して部員集めしてたんです。 |
【揚水の 「傘がない」が流れる。ユキがのたうちながら歌う。】 |
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ユキ | これでも、明るいほうだそうです。 |
ユミ | でも、いい曲だと思うよ。 |
ユキ | そうですか?毎日聞いてるんですよこれ。「傘がない」 って曲ですけど、晴れの日も、曇りの日も、毎日、これ聞いてマンガ描いているんです。 |
ユミ | 良いマンガ描けるね。 |
ユキ | そうですか、これ聞いていたら暗い漫画しか描けないですよ。 |
ユミ | 明るい曲かける? |
ユキ | お願いします。 |
ユミ | これ私のお気に入りです。フフフフ。 |
【チェック・ペリーのYou never can tell の曲が流れ、マサエが曲に合わせて踊りながら登場。ユミも加わる。マサエとユミをユキは唖然として見つめている。マサエ曲と共に退場。】 |
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ユキ | 先輩、マサエと息、ぴったり合ってますね。 |
ユミ | そうかな? |
ユキ | そうです。 |
ユミ | この前、マサエからダンスのテストあるから教えてっていわれたの。ユキちゃん、どうかしたの? |
ユキ | 別に、なんでもないです。 |
ユミ | ユキちやん、怒っているの? |
ユキ | 怒ってなんかいません! |
ユミ | そうなの? |
ユキ | そうです。 |
ユミ | よかった。 |
ユキ | でも・・ |
ユミ | でも、なに? |
ユキ | なんでもないです。 |
ユミ | ・・・・・・。 |
ユキ | 気にしないでください。 |
ユミ | うん、ところでマサニは? |
ユキ | ああっ、いない。 |
ユミ | マサエって忍者みたいだね。 |
ユキ | 忍者? |
ユミ | うん。神出鬼没。好きな時あらわれ、好きなとき消える。ユキ 先輩、知ってますか? |
ユミ | なにを? |
ユキ | マサエです。学校に来てないってこと。 |
ユミ | 知っているよ。 |
ユキ | 先輩、知っていたんですか。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | どう思います.。 |
ユミ | いいんじゃない。神出鬼没で。 |
ユキ | 先輩ってとってもクールですよね。 |
ユミ | そうかな。 |
ユキ | そうです。 |
ユミ | だって、しょうがないじゃない。 |
ユキ | しょうがないだけですか。 |
ユミ | うん。 |
ユキ | うんって、マサエに学校に来るように先輩として言わないんですか?マサエはこのままだと留年ですよ。 |
ユミ | 言わないよ。 |
ユキ | どうしてです? |
ユミ | どうして言わなければならないのかな、ユキちゃん。 |
ユキ | だって、部員じゃないですか!助け合っていくのが大切なんじゃないです |
ユミ | 学校に出るか出ないかは、マサエが決めることだと思うよ。 |
ユキ | 先輩って冷たいです。 |
ユミ | そうかなあ、教室がライオンの檻のように、思えることだってあるよ。 |
ユキ | マサニがですか? |
ユミ | それは分からないけど。 |
ユキ | もしそうなら、私たちが教室まで一緒に行けばいいじゃないですか。 |
ユミ | マサエを入れるために? |
ユキ | はい。 |
ユミ | 私がマサエだったらお断りする。 |
ユキ | 私だったら嬉しいです。 |
ユミ | じゃあ、ユキちゃんがやればいい。マサエに学校に来るように言えば良いし教室に入れるように、ついていけばいい。 |
ユキ | 私やります!先輩は冷た過ぎです。マサエがどうなってもいいんですか?私、先輩を見損ないました! |
【 ユキが走って退場。】 |
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ユミ | ・・・がんばれ。 |
【マサエ、マニ車のように回転しながら登場。】 |
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マサエ | (回転しながらセリフを言い続ける) 先輩。 |
ユミ | なに? |
マサエ | ユキとなにかあったんですか? |
ユミ | なにもないよ。 |
マサエ | そうですか。先輩、また、お願いがあるんです。 |
ユミ | 今日はなに? |
マサエ | 今度は人間マニ車です。 |
ユミ | 人間マニ車? |
マサエ | そうです。こうやって、マニ車のようグルグル回転するんです。そうすると目がグルグル回ってきます。やがて私と世界は一つになり、この現実を超え、目に見えないものが見えてきます。 |
ユミ | 本当に。 |
マサエ | 本当です、先輩。やってみてください。(一時、回転を止める。) |
ユミ | うん。(ユミも回転し始める。) |
ユミ | 本当!世界と私が一つになる。 |
マサエ | そのとおりです、先輩!なりますよね。私と世界が (私である主体と世界である客体が) 一体となります。これがスーフィー教です。私は四国八十八カ所を回転しながら回ります。 |
ユミ | スーフィ−教?【ユミ回転を止める。】 |
マサエ | そうです、スフィー教です。イスラム教の密教の中の密教です。回転していると自分が世界の中心となり、あれが見えてくるはずです。 |
ユミ | なにが見えてくるのマサエ。 |
マサエ まだ、見たことがないので、はっきりと言えません。でも、先輩と一緒ならきっと見えます。いや、絶対に見えます。あの「すき焼きの丘」で先輩と一緒に回転すれば絶対に見えます。 | |
ユミ | 「すき焼きの丘」 !なんか面白そう、行こう、マサエ。 |
【トルコの旋回音楽セマーイがなる。] |
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【2人は回転しながらすき焼きの丘である傾斜台を登り 始める。】 |
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【ユキが観客に向かって語りかける。ユミとマサエはユキもモノローグに合わせて回転を傾斜台でする。] |
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ユキ | そんな訳で先輩とマサエは恥を省みず、すき焼きの丘まで、回転しながらというより転がりながら行きました。すき焼きの丘に着くころには二人はフラフラで、それでも2人は諦めず、登ってはグルグル、つまずいてはグルグル、まるで、止まりかけたコマのように登り降りしました。やがて2人に全身痙攣が襲い、最初に見たのはブタでした。すき焼きブタ。2人はひきつけを起こし気絶しました。しかし、ゴルゴダの丘にさす夕日のように、すき焼きの丘に夕日がさし、ついに、あれを見たそうです‥・。タマゴの神様が2人に微笑んでいたそうです。【コーラン朗誦がなり、天使の羽を着けたタマゴが飛 んでくる。】 私には全く見えませんでした。私には分かりません、あんなに賢くて勉強のできる先輩が、なぜマサエの言うことを聞くのか、どうして先輩が、あんなに熱心にマサエと一緒にあんな馬鹿なことをするのか、私にはわかりません。私は遠くから近寄れず、2人を見ている自分が情けなく思えました。先輩、どうしてですか?どうして先輩はマサエにやさしいんですか。私は少し、マサエが羨ましい。 |
【ギルバート・オサリバンのアローンアゲインが流れ、明転。】 |
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