「 ストレンジ スノウ 」後編 |
作・安保健+宮三女高演劇部 |
登場人物 有 美 理 香 加 奈 智 子 瞳 |
(有美が一人) | |
有美 | こんにちは、奥菜恵です。いつも、ありがとうございます。今度、写真集も出します。良かったら買ってくださいね。はい、ありがとうございます。こんにちは、ここに、サインですか?わかりました。はい。一緒に写真ですか?いいですよ。どなたかカメラお願いします。はい、チーズ。ありがとうございました。こんにちは、お名前も?瞳さん?私の親友の名前と同じですね。はい、ありがとうございました。また、よろしくお願いします。あ、マネージャー、休憩ですか?大丈夫ですよ。はい、分かりました。みなさん、残念ながら時間が来てしまいました。午後の部でお会いしましょう。あー・マネージャー、また、雪が降ってきました。ほら、こんなにきれい!きれいですよね。えっ・・・脚本家の先生と映画監督が?私に会いたいってどうゆうことですか?主演映画ですか?私がですか?本当ですか?夢のようです。 |
理香 | へへへ、これ持ってきた。 |
智子 | あ、それ・・・ |
加奈 | ちょっと、理香やりすぎ。 |
理香 | いいいじゃない、有美いないし。 |
瞳 | 私はいい。 |
理香 | じゃあ、向こうに行ってて。有美が来たらすぐ消すよ。いくら私だってこのビデオ有美には見せないよ。その位の思いやりはあるつもりだし。 |
瞳 | ・・・・・・ |
智子 | 瞳、どうしたの・・・。理香、もう、やめよう。 |
理香 | やめる?有美に見せるわけじゃないのに。 |
加奈 | 理香、やめよう。 |
理香 | どうして?別に見たっていいじゃない。 |
加奈 | みんな嫌がってる。 |
理香 | 加奈は? |
加奈 | 私は別にいいけど。 |
理香 | じゃあ、見よう。 |
瞳 | やめて!お願いやめて! |
有美が走って入ってくる。満面に笑みを浮かべて。 |
|
理香 | どうしたの有美? |
有美 | 決まった。 |
理香 | 決まった? |
有美 | 瞳、決まったの。 |
理香 | だから何が決まったの。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | 瞳がいつも言ってた主演映画。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | 瞳、うれしくないの?もっと、喜んでよ。 |
瞳 | おめでとう……・ |
有美 | それだけ…… |
加奈 | す、すごいねえ。 |
有美 | うん。 |
理香 | マネージャーの吉田さんも喜んでるよね。 |
有美 | うん、すごく喜んでる。どうしたのみんな? |
加奈 | どうしたのって? |
有美 | みんな嬉しそうじゃない。 |
加奈 | 何言ってるの有美、みんな驚いてるだけだよ。 |
有美 | そうか、そうだよね。 |
加奈 | 映画の題名教えて? |
有美 | まだ、決まってないんだって。 |
理香 | 相手役は? |
有美 | それも未定。 |
理香 | じゃぁ、決まってるのは有美が主役ってことだけ? |
有美 | うん。 |
理香 | それって何か変。 |
有美 | どうして? |
理香 | 墟みたい。 |
有美 | 嘘? |
理香 | 芸能界ってもっと緻密だと思う。 |
有美 | そうでもないよ。私、抜擢されたの。 |
理香 | じゃあ、記者会見はいつ? |
有美 | 多分、近いうちにあるよ。 |
加奈 | すごいね。 |
理香 | 本当に夢見たいな話だね。 |
有美 | 夢?・・・どうしたの、智子? |
智子 | え、何が? |
有美 | 顔色悪いよ。それに睦も。 |
瞳 | 有美、お願い・・・ |
有美 | お願い? |
瞳 | お願いだから・・・ |
有美 | 何よ、瞳、はっきり言って。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | 瞳、今日、何かおかしいよ。はっきり言って。 |
瞳 | ・・・・・・ |
理香 | 有美、いいもの持って来たよ。 |
有美 | 何? |
理香 | これ。 |
有美 | ビデオ・……・ |
理香 | 有美、見る。 |
有美 | うん。 |
理香 | きっと、演技の参考になるよ。 |
有美 | 本 当に? |
理香 | 間違いなし、保証する。 |
智子 | 理香……・ |
理香 | 何? |
智子 | ちょっと・・・ |
理香 | ちょっと、何? |
智子 | ・・・やりすぎ。 |
理香 | 何が? |
智子 | ・・・・・・ |
加奈 | 有美!有美の主演映画もっと聞きたいな〜。 |
有美 | 実はね、映画の相手役なんだけど |
理香 | あれ、未定じゃなかったの? |
有美 | そうだけど、実は |
加奈 | 実は? |
有美 | 藤原竜也君なの。 |
加奈 | 本当!すごい! |
有美 | 竜也君が私の主演映画に出たいって言ってるの! |
理香 | 美、何か私たちの手の届かない所に行きそう。 |
有美 | みんな、内緒よ。契約が決まるまで絶対に言うなってマネージャーに言われてるの。 |
理香 | だからさっき未定って言ったんだ。 |
有美 | うん、ごめんね。これ、みんなにだけ教えたの。 |
理香 | じゃあ、誰も知らないの。 |
有美 | うん。 |
理香 | 有美、有名になって、私たちを忘れちゃうんじゃない? |
有美 | そんなことない、絶対に忘れないよ。 |
理香 | 良かった。このビデオ、見ようか。 |
有美 | うん。・・・どうしたの、瞳? |
瞳 | ちょっと、具合悪い。 |
有美 | そお? |
瞳 | うん。 |
智子 | 顔色悪い、瞳、無理しないで。 |
瞳 | うん。 |
理香 | 帰ったら。 |
有美 | 瞳、一緒に見よう。……みんな、どうしたの? |
加奈 | 何? |
有美 | みんな、いつもと全然違う。 |
智子 | そ、そんなことないよ。 |
有美 | そうかな……‥ |
加奈 | だって、有美、相手役が藤原竜也だよ。私たちにとっては雲の上の人だもん。 |
有美 | そっか、そうだよね! |
智子 | みんな、もうそろそろ、帰ろうか。 |
有美 | なんか、みんな、冷たい。 |
智子 | 冷たい? |
有美 | みんな冷たい。 |
智子 | そんなことないよ、有美。 |
有美 | (笑顔で)じゃあ、みんな、私のためにビデオ見て感想言って。ね? |
理香 | じゃあ、みんな、見ていいよね。(ビデオをかける) |
有美 | このビデオ・・・ |
理香 | 有美のサイン会のビデオ。もう少しで有美出てくるよ。 |
有美 | ・・・・・・ |
理香 | この人がマネージャ1の吉田さん? |
有美 | う、うん。 |
理香 | 違うよね。 |
有美 | え・・・・・・ |
理香 | この人、マネージャ1の川村さんって言ってた。後のインタビューで言ってた。 |
有美 | あっ、そうだった。私、もう一人マネージャ1いるの。 |
理香 | 有美、すごいね。 |
有美 | すごい? |
理香 | だって、二人もマネージャーいるんでしょう。 |
有美 | うん。 |
理香 | 有美登場。この人、有美だよね。 |
有美 | うん、私。 |
理香 | 本当に? |
有美 | どうしてそんなこと聞くの? |
理香 | だって、別人に見えるもの。 |
有美 | そうかも。 |
理香 | 加奈、この人別人に見えない? |
加奈 | 有美、きれいだね。有美ってテレビ映り、とってもいいね。 |
有美 | ありがとう。 |
理香 | 智子、有美、どう思う。 |
智子 | 何が? |
理香 | 何がって、有美、別人みたいだよね。 |
有美 | 私、メイクうまいでしょ。 |
理香 | 有美、このサイン会どこでやったの? |
有美 | どこって・・・ |
理香 | 自分がどこでやったのか覚えてないの? |
有美 | いろんな所で、サイン会したから良く覚えていない |
理香 | 思い出してよ、三日前にやったばかりだよ。 |
有美 | 最近、忙しくて、ごめんね。 |
理香 | じゃあ、有美の隣に映ってる人、誰 ? |
有美 | この人? |
理香 | 分からないの? |
有美 | 誰だっけ・・・ |
理香 | それはおかしいよ。 |
有美 | どうして? |
理香 | だって、そうでしょう? |
有美 | そうかな |
理香 | 瞳、おかしいよね。 |
有美 | 瞳、どうしたの?瞳悲しそう。私、こんなに有名になってきたのよ。 |
瞳 | 有美、もうやめよう・・・ |
有美 | 止める。私が何を止めるの。瞳、変なこと言わないで。 |
理香 | 有美、この人、本当に分からないの? |
有美 | だから、誰なの? |
理香 | あなたのお母さんでしょう。奥菜恵のお母さんでしょう。 |
有美 | あっ、そうだ。私のお母さん。 |
理香 | 有美のお母さんも別人に見える。 |
有美 | 親子そろってメイク上手いから。瞳、どうしたの・・・ |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | 瞳、泣いてるの?どうして、瞳泣いてるの。 |
理香 | 有美、もう止めよう。 |
有美 | 止める? |
理香 | そう、止めるの。 |
加奈 | 理香止めて! |
有美 | 何を止めるの? |
理香 | 奥菜恵ごっこ。 |
有美 | 輿菜恵ごっこ? |
理香 | あなたは本当に自分が奥菜恵だと思ってるの? |
有美 | 何を言ってるの理香、私は奥菜恵よ。私が奥菜恵でなかったら誰が奥菜恵なの? |
理香 | ・・・・・・ |
有美 | 理香、私、主演映画も決まってるのよ。あっ、そうだ、マネージャーに電話するの忘れていた。あっマネージャしすみません、遅くなって。ミーティングですよね。えっ、明日、テレビの収録ですか?衣装合わせですか、分かりました。今行きます。 |
理香 | 逃げるの! |
有美 | 逃げる?私が逃げる? |
智子 | 理香! |
理香 | 衣装合わせなんか嘘でしょ! |
有美 | 嘘? |
智子 | もう理香止めて! |
有美 | みんな嘘! |
有美 | 何言ってるの、本当よ。加奈、私、嘘なんかついていないよね。 |
加奈 | 有美、大丈夫、本当よ。 |
有美 | みんな待ってて。今、すごいの見せてあげるから。 |
有美、出て行こうとする。 |
|
智子 | 有美待って! |
有美 | 智子どうしたの? |
智子 | 有美大丈夫? |
有美 | 何が? |
智子 | 何がって? |
有美 | 待って、今来るから。 |
有美出て行く。 |
|
有美待って! | |
智子も出て行く。 |
|
加奈 | もうみんなボロポロ。理香、どうして? |
理香 | 何が。 |
加奈 | どうして有美をあそこまで追い詰めるの?有美は私たちに嘘をついただけじゃない。別に誰かを裏切って傷つけたわけではない・・・ それに有美は・・・ |
理香 | 有美は何? |
加奈 | 有美はきっと病気だよ。 |
理香 | みんな、ずるい。 |
加奈 | ずるい・・・・・・? |
理香 | みんな、みんな、いい子ぶってる! |
加奈 | いい子ぶってるって・・・ |
理香 | 今までずっと有美のことばっかりだったくせに、有美はすごい!有美最高!有美可愛い!有美有美有美・・・・・・って言ってたくせに。今度は有美を病人扱い。もう、うんざり! |
ウエディングドレスを着た有美が入ってくる。 |
|
有美 | みんな聞こえる?ほ−ら聞こえるでしょう。 |
理香 | 聞こえる? |
有美 | 聞こえるでしょう。 |
智子 | 有美、しっかりして! |
有美 | みんな、聞こえないの?ほうら、聞こえるでしょう。 |
理香 | 何が聞こえるの?有美。 |
有美 | 鐘の音。 |
理香 | 鐘の音・・・・・・・ |
有美 | 瞳、聞こえるでしょう?鐘の音。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | どうして、私を見ないの?私きれいでしょう。私、ずっと、あこがれてたの、この白いドレス。瞳、私結婚したの。どう?このドレスきれいでしょう。このまま死んでもいいみたい。きれい、白くてきれい。雪降ってきた。白くてきれい。こんなに晴れているのに、降ってくる。今日の雪とてもきれい。私、雪大好き。あ、マネージャー、お祝辞ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。竜也さん、こっち来て。ほら、この人、分かる。藤原竜也さん。みんな、すごいでしょう。サイン貰うなら今のうちよ。紹介するね、みんな私の大切な友達。加奈に、理香に、智子。そして、この子が瞳。みんな私たちを祝福してくれてるの。みんな、私たちの映画見たって。ありがとう。じゃあ、お礼にこのブーケ投げるね。竜也さんいいよね。(ブーケ投げる。ブーケ床に落ちる)どうしたのみんな、私のブーケ受け止めてくれないの?幸せのブーケ。もう一度投げるね。(もう一度ブーケを投げる) ひどい。どうして受け止めてくれなの・・・・・どうして・・・。せっかくの私の結婚式なのに。もういいわ、竜也さん帰りましょう。 |
理香 | そこに藤原竜也がいるのね。 |
有美 | 見えないの?そこにいるでしょう。 |
理香 | どこに? |
有美 | ほら、そこに。 |
理香 | あなたが藤原竜也さんですか?(見えない人間に向かって) |
有美 | 理香見えるのね。 |
理香 | あなたは本当に有美と結婚したんですか? |
有美 | 竜也さん、本当よね。はら、うなずいているでしょう。 |
理香 | 智子、藤原竜也さんのサイン出して。早く! |
理香 | (見えない藤原竜也に向かって)これはあなたがサインしてくれたんですよね。 |
有美 | 竜也さん、うなずいて。はら、うなずいている。 |
理香 | そうですか、あなたがサインしたんですね。 |
有美 | 竜也さんありがとう。 |
理香 | お願いがあります、竜也さん。有美からも頼んで。 |
有美 | 何を頼むの? |
理香 | ここにあなたのサインがあります。 |
有美 | どうするのそのサイン。 |
理香 | 也さん、あなたがここに居るなら、私がこのサイン破くの止めてください。 |
有美 | 理香、止めて! |
理香 | どうして!ここにあなたの夫の竜也さんが居るなら止めてもらえばいい。 |
有美 | 止めて!理香、お願い |
理香破く。 |
|
有美 | どうして竜也さん止めないの。どうして、どうして、どうして、どうして止めないのけ‥ |
瞳 | 藤原竜也なんかいない! |
有美 | え? |
瞳 | 有美、藤原竜也なんて何処にもいない。 |
有美 | ここにいるでしょう。 |
瞳 | 何処にいるの? |
有美 | ここに。 |
瞳 | 有美、夢を見ているだけ。私を見て。 |
有美 | 夢? |
瞳 | 有美、あなたはいないものをいるって言ってる。見えないものが見えたり、聞こえたりすることがあるの。しっかりして有美。 |
有美 | どうして、そんなこと言うの瞳。そんなこと絶対ない。だってみんなすごいって言ってくれたじゃない。睦もすごいって言ってくれたじゃないそれは、みんなあなたをずっと信じていたから。有美、藤原竜也も、マネージャーの吉田さんも、元からいない!あなたが作っただけ。私が作ったの?私が嘘ついてるっで言っているの、瞳、ひどい! |
瞳 | 有美、私はあなたが嘘をついていたと思ってた。でも違う。 |
有美 | 私は嘘なんかついていない。 |
瞳 | あなたは嘘をついていない。あなたはそう思っているだけなの。 |
有美 | 思っているだけ。 |
瞳 | 思ってるだけ。誰も騙そうとしていない。思ってるだけなの。誰にだってそんなことあるの。目を覚まして有美。あなたは有美なの |
有美 | 瞳何言ってるの、私は有美で奥菜よ。私が奥菜恵でなかったら誰が奥菜。恵なの。 |
瞳 | あなたは有美。 |
有美 | 違う!奥菜恵。 |
瞳 | 有美は有美なの。有美で頑張って欲しいの。 |
有美 | 私、有美が嫌い。私、有美になりたくない。有美」なんか大嫌い。 |
瞳 | でも私、有美が好き! |
有美 | 私、有美になれない。 |
瞳 | 私、有美に憧れてた。有美が奥菜恵だなんてすごいって思った。私、有美に毎日すごい、すごいって言ってた。有美の本当の気持ちも知らないで。 |
有美 | ・・・・・・ |
瞳 | 有美、時々寂しそうにしてた。本当は有美自分に戻ろうとしてたのだと思う。お願い、有美、本当の自分に戻って、どんなに嫌いな自分でも戻って。お願い。 |
有美 | ・・・・・・ |
瞳 | 有美は有美だけでいいの。有美だけでいいの・・・ |
理香 | どうしたの有美?あなたは奥菜恵じゃなかったの? |
加奈 | 理香! |
理香 | あなたが奥菜恵じゃなかったら、一体誰が奥菜恵なの? |
加奈 | 理香、やめて! |
有美 | 有美って誰ですか?私が有美?この人おかしいんじゃないですか?私は奥菜恵です。知らないんですか?私たち結婚したんです。マネージャーの吉田さんはどうしたんですか?どうして来ないんですか?ずっと待ってるのにどうして来ないんですか?( はけてからまた出てきて ) 今日はすごい雪。今日は早く帰らないと早く帰らないと帰れなくなる。竜也さん、行きましょう。今日の雪すごくきれい。( 暗転中もいろいろ喋っている ) |
智子 | 有美! |
暗転。 四カ月後。部室。 智子、部員を待ってる。 加奈入ってくる。 |
|
加奈 | おはよう。 |
智子 | おはよう。 |
加奈 | 二人でいると、ここ、広いね。 |
智子 | うん。 |
加奈 | みんながいた時は狭いと思っていたけど。 |
智子 | うん。二人だけだと寂しいくらい広い。 |
加奈 | 雪降りそうだね。(窓の方を見て) |
智子 | うん、冬。 |
加奈 | 今日も来ないね。 |
智子 | うん、来ない。 |
加奈 | 何、読んでるの。 |
智子 | 聖書。 |
加奈 | 聖書? |
智子 | うん。 |
加奈 | 智子、聖書読むんだ。 |
智子 | おじさんが貸してくれた。いろいろ話してたら、これ読んでみたらって。 |
加奈 | 有美のこと話したの? |
智子 | うん、少し。 |
加奈 | 読んでみたの。 |
智子 | うん、全部じゃないけど。難しくて良く分からない。でも・・・ |
加奈 | でも? |
智子 | 読んでいるとなんとなく心が落ち着く。 |
加奈 | 落ち着く? |
智子 | うん。 |
加奈 | 有美って、どうしてああなったのかなあ。理香はどうしてあそこまで追い詰めたのかなあ。 |
智子 | 分からない。理香、いつも寂しそうだった。 |
加奈 | 寂しそう? |
智子 | うん、みんな有美ばかり見てた。私もそう。 |
加奈 | 理香、いつもおどけてたよね。 |
智子 | だれも理香を見てくれない。クラスで理香いつもさびしいくらいおどけてた。でも、有美が悪いわけでも理香が悪いわけでもないと思う。 |
加奈 | そうだね。 |
智子 | 加奈、救いってあると思う? |
加奈 | 救い? |
智子 | うん、救い。聖書に書いてた。 |
加奈 | 聖書に? |
智子 | うん、祈ることと愛することで人は救われる。他にもあると思うけど。有美は幸せになれるのかな? |
加奈 | ・・・・・・ |
智子 | ……有美、治らない気がする。 |
加奈 | きっと治るよ。 |
智子 | きっと、そうだね。帰って来たら温かく迎えてあげようね。…・これ。 |
加奈 | これ、何? |
智子 | 有美からの手紙。 |
加奈、手紙を受け取り読もうとする。 |
|
加奈 | 読めない。 |
智子 | うん、読めない。字が乱れて読めない、というより潰れて字になってない。 |
加奈 | 有美、調子悪いみたいだね。宛名は代筆だね。 |
智子 | うん、でも、所々読める。これは瞳。これは加奈、これは私。これは理香。これは多分「空」、これは「ありがとう」だと思う。 |
加奈 | 智子すごい。まるで暗号みたい。 |
智子 | 全部は無理だけど・・・ |
加奈 | なんとなく有美の言おうとしていること分かるね。 |
智子 | この手紙どうする。 |
加奈 | どうするって? |
智子 | 瞳と理香に見せる。 |
加奈 | 理香はどうかな。 |
智子 | でも、ここに、理香許してって書いてる。 |
加奈 | 本当だ。でむ、理香に読めるかな? |
智子 | 分からない。 |
加奈 | 見せたほうがいいね、きっと。 |
智子 | 理香、有美を追い詰めたこと、きっと、苦しんでるよ。 |
加奈 | うん、そう思う。きっと、自分でも分からなくて、あんなことしたと思う。 |
智子 | そうだね、きっと |
加奈 | うん。 |
智子 | あ、雪・・・ |
加奈と智子が窓によって雪を見る。睦も入ってくる。 スポットライトで理香が手紙を読む。 |
|
有美 | 理香、あのね。私、とっても寂しかったの。友達や家族が一人また一人消えていくみたいで怖かったの。私、一枚の写真を見たの。なれないカメラの前で精一杯微笑んでいて。私、ほっとしたの。涙が止まらなかった。その人に私はなれたの。私、奥菜恵になったの。怖くても、寂しくても、私は笑えるようになったの。理香、分かって。私、理香が好き。理香が大好き。ああ、雪、白くてきれい。こんなに晴れてるのに降ってくる。 (サイン会)はい、こんにちは。ここにサインですか?はい、分かりました。一緒に写真ですか?もちろんです!どなたか、カメラお願いします。はい、チーズ!ありがとうございました! (以下無声)はい、こんにちは、お名前も?瞳さんって言うんですか?私の親友と同じ名前ですね。はい、ありがとうございました。またよろしくお願いします。あ、マネージャー、休憩ですか?大丈夫ですよ!はい、分かりました!皆さん残念ながら時間がきてしまいました。午後の部でお会いしましょう! |
有美、空を見上げる。 ― 幕 ― |
|
前編にもどる |