「 ストレンジ スノウ 」前編 |
作・安保健+宮三女高演劇部 |
登場人物 有 美 理 香 加 奈 智 子 瞳 |
季節 夏 場所 部室 ( あるいは有美の心象風景) 智子は手紙を見つめている。 理香が登場。 智子は慌てて手紙を隠そうとする。 |
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理香 | へへー見た。なに、その手紙、ラブレターだったりして。 |
智子 | 違うよ。 |
理香 | じゃあ、なに? |
智子 | 瞳の手紙。 |
理香 | 瞳の?智子に? |
智子 | 有美に。 |
理香 | 瞳が有美に?なんかありそう?ところで瞳は? |
智子 | 帰った。 |
理香 | えっもう? |
智子 | うん。 |
理香 | ショック、こんな時に。 |
智子 | ショックなのは瞳かもしれない。 |
理香 | で、どうする? |
智子 | どうするって、どうしよう。 |
理香 | 部長困ったね。 |
智子 | うん。 |
理香 | 加奈や有美が来てから考えようか? |
智子 | うん |
理香 | やっぱ、加奈だけの方がいいかも。 |
智子 | うん。 |
理香 | うんばっかし。 |
智子 | うん? |
理香 | でも、有美来ないかなあ? |
智子 | それは心配ない、来ない。 |
理香 | ってことは、いつもの雑誌の撮影ってことかな? |
智子 | サイン会か |
理香 | すごいね、でも、どこでやってるんだろうね。 |
智子 | どこって? |
理香 | どっか暗いところでサイン会やってる。コンパンワ、ミナサン、キテイタダイテ、アリガトウ、イマウリダシチュウノ、オキナメグミデース、ヨロシクネ、ハイ、アリガトウ、ハイ、サインデス、コンド、シャシンシュウモ、ダシマス。カッテクダサイネ、ソレカラ、ソレカラ、ワタシノヒミツ、ミンナニ、オシエヨウカナ、ホントウハ、ホントウハ・・・。 |
智子 | 理香!止めて。 |
理香 | ゴメーン。懲りない私。 |
智子 | おはよう。(加奈登場) |
理香 | コンパンワ。 |
加奈 | どうしたの? |
理香 | 何が? |
加奈 | ちょっと暗いよ。 |
理香 | 暗いって、当たり前でしょう。クライ話してたんだから。 |
加奈 | 面白そう、なに? |
理香 | バンパバイヤの話。 |
加奈 | バンパパイヤ、それ何? |
理香 | バンパバイヤは満月になると狼になって血を吸う人間のこと。 |
加奈 | それって、バンパイヤのこと? |
理香 | ば−か、野球じゃないよ。 |
加奈 | それはアンバイヤ。 |
理香 | どっちだっていい。とにかく有美が私たちを騙して血を吸うバンパパイヤ。 |
智子 | それ、ちょっと言いすぎ。 |
理香 | でも、言いたくなる。 |
加奈 | でも、本当にどうする。有美少し不気味。 |
智子 | うん、困ったどうしよう。 |
加奈 | はっきり、言ったほうが良いかも。 |
理香 | ぐさりと。 |
加奈 | やっぱそれは瞳に……・瞳は? |
智子 | 帰った。 |
加奈 | 一番ここにいていい人だと思うけど。 |
理香 | いや、一番いたくない人だよ。 |
智子 | そうかも。 |
理香 | 復讐するかも、ナイフ持ってグッサ。 |
智子 | それ、言いすぎ。 |
加奈 | でも気持ちわかる。可愛さ余って、憎さ百倍、グッサ。 |
理香 | ああ、ゆ・う・つ |
加奈 | みんな同じかも、憂鬱。これ見て。 (奥菜恵の載ってる雑誌を出す) これにも載ってる。これが本物の奥菜恵。 |
理香 | 全然違う。 |
智子 | そう、全然違う。昨日、テレビでも見たけれどやっぱり全然違う。 |
理香 | 私も見た。この人これからすごく有名になるって、みんな言ってる。 |
加奈 | 有美はテレビ見ていないのかなあ。 |
理香 | 見てやってるなら、かなり、不気味。 |
智子 | 有美はどうして奥菜恵だって、みんなに言ったんだろう。 |
加奈 | 瞳立ち直れない。 |
理香 | 瞳は来ないの? |
智子 | 今日は来ないって。 |
理香 | 有美、ずっと、私たちを騙してた。 |
加奈 | 騙す? |
智子 | それちょっと言いすぎ。 |
加奈 | でも、有美は一年以上奥菜恵で通してた。 |
理香 | なんか、怖い。 |
沈黙、智子の携帯が鳴る。 | |
智子 | もしもし、うん、うん、大丈夫。来れるの分かった、待ってる。 |
理香 | 誰? |
智子 | 有美。 |
理香 | 噂すれば陰。来るの? |
智子 | うん。 |
理香 | 悪魔のサイン会じゃなかったの? |
加奈 | サイン会か・・・一年も聞いていると本当に聞こえる。なんのサイン会なんだろう? |
理香 | 初めっから存在しない、だれも来ないサイン会。悪魔と握手する有美。 |
理香 | 何時来る? |
智子 | もうすぐ。 |
理香 | あ−あ、また、奥菜恵ごっこ。 |
智子 | 有美は本当に私たちを騙しているのかなあ。 |
理香 | 先輩、私耐えられそうもありません。かわいい後輩を家に帰してください。 |
加奈 | 透げるな.理香は居ること。いつ、後輩になったの。嘘つき。 |
理香 | だめ、気持ち悪くなってきた。むかつく。 |
加奈 | それ、ずるい. |
理香 | 私、面(ヅラ)の皮薄いの。 |
加奈 | え? |
理香 | 私、面(ヅラ)の皮薄いの。 |
加奈 | 面(ヅラ)の皮?つらだよ、つら! |
智子 | 理香、残って。 |
加奈 | これ部長命令。 |
理香 | わかった。智子が言うなら残る。 |
加奈 | 本当は有美のこと、そんなに嫌いじゃないし・・・ね? |
理香 | ・・・うん。 |
智子 | それを聞いて少し安心した。 |
理香 | さあ、どうする部長。このままだと、誰も寄りつかなくなるかも。 |
加奈 | それは大丈夫。理香のおかげですでに誰も寄りつかないから。 |
理香 | ドキッ、それってどうゆうこと。 |
加奈 | あんた、わかってないの。 |
智子 | とにかく、いつもどうりに振る舞うしかないよね。 |
加奈 | 賛成。仮面をつけた部員たち。これ自体ドラマ。 |
理香 | なんか、少しせつないドラマ。でも、私、少し自信ない。 |
加奈 | 何が? |
理香 | だって、私の面の皮薄いもの。 |
智子 | 実は有美が一番切ないかも。 |
理香 | どうして? |
智子 | どうしてって、自分が奥菜恵の仮面つけている。 |
理香 | 加奈は加奈の仮面をつけている。 |
加奈 | じゃあ、私は誰?本当に有美は自分が奥菜恵だと本当に信じているのだろうか? |
智子 | 分からない。 |
加奈 | こんなにテレビに本物が出ているのに。 |
理香 | 有美はこんなに本物が有名になるとは思わなかったりして。 |
加奈 | 有美来るかなあ。 |
理香 | 私だったら来ないなあ。 |
智子 | きっと来る。 |
加奈 | 開き直ってくるかもね。 |
理香 | そうかも、野となれ川となれか。 |
加奈 | ばーか山だよ。 |
智子 | ここしか、来るところないかも。 |
加奈 | 言える。ここにいる時の有美とても明るい。 |
理香 | 確かに、クラスに居る時とは違う。クラスに居る時の有美の顔いつも作り笑い。 |
加奈 | ここが、有美の生きる舞台。このステージがなくなったら? |
理香 | 残酷、リストカット。バンパバイヤは血を見て癒される。(理香手首を見ながら) |
智子 | 言って良いことと悪いことがある。 |
理香 | ごめん、反省。懲りない私。 |
加奈 | シーツ、誰か来る。 |
三人息を詰める |
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加奈 | ごめん、嘘。 |
理香 | 加〜奈〜? |
加奈 | ごめん、ちょっと理香の真面目な顔が見たかった。 |
理香が加奈を追い詰める。 有美が登場。 |
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有美 | (元気良く)おはよう。 |
智子 | おはよう。 |
理香 | よっ、奥菜、忙しそうだね。 |
有美 | うん、少し売れてきた。 |
加奈 | 良かったね。 |
有美 | ありがとう。 |
理香 | あれ1、サイン会じゃなかったの? |
有美 | うん、少し時間ができた。 |
理香 | 何人くらい来たの。 |
有美 | 五十人くらい、まだ、デビューして間もないし。 |
加奈 | すごい、五十人。 |
有美 | それほどでも。 |
理香 | どこでやってるの。 |
有美 | えっ?何が? |
理香 | サイン会。 |
有美 | もう、終わった。 |
加奈 | これから有美ますます忙しくなるんだね。 |
有美 | そんなことないよ。 |
理香 | 有名になったら私たちを呼んで。 |
有美 | うん、呼ぷ。・・・智子どうしたの? |
智子 | えっ・・・ |
有美 | なんか元気ない。 |
智子 | そうかなあ、そうでもないけど。 |
加奈 | そうだ、有美、今度、小学校で芝居やる計画、のる? |
有美 | すごい、のる。 |
加奈 | 小学生は残酷だよ。つまらないとすぐ飽きて走り回る。 |
理香 | 小学生の中に有美が奥菜恵だって知ってる子がいたりして。 |
有美 | 多分、分からないと思うよ。 |
理香 | どうして? |
有美 | だって、あまり有名でないし、テレビにもあんまり出てないし、雑誌もポチポチだし。 |
理香 | そんなことないと思うよ。そういえば、昨日テレビに出ていたよね。 |
有美 | (困惑して)えっ、うん。 |
加奈 | (話題をそらそうとして)もう、そろそろ、コンクールの台本決めないとね、部長。 |
智子 | うん、そうだね。決めないと。 |
有美 | 瞳、どうしたの? |
智子 | ちょっと用事があるって。 |
有美 | そうなんだ・・・ |
智子 | この本ありがとうって。(有美に本差し出す) |
有美 | これ、あげたのに。瞳なんか言ってた? |
智子 | 別に、何も、言ってなかったけど。 |
有美 | そうなんだ。(有美の携帯が鳴る)もしもし、はい、今ですか、はい、分かりました。 |
加奈 | どうしたの。 |
有美 | 行かなきゃ。マネージャーが来いって。 |
理香 | マネージャーつて吉田さん? |
有美 | うん。 |
理香 | 吉田さんによろしく伝えて。私もスターにしてって。 |
有美 | うん、伝える。約束する.(有美退場) |
理香 | いい気なもんだ.吉田さんなんて会ったことないのに。 |
加奈 | でも、本当に電話来たね。 |
理香 | うん、少し、きもい。 |
智子 | 理香、ひどすぎる。 |
理香 | ひどすぎる?私が? |
智子 | どうして、サイン会の場所聞いたりしなきやならないの?追い詰めすぎ。いもしないマネージャーによろしく言わなきゃならない? |
理香 | でも、今までずっとこうやって来たのよ。みんな、こうやって喜んでいたじゃない。まるで、私が悪者みたい! |
智子 | そんなつもりじやないけどごめん。 |
理香 | 私も少し調子に乗りすぎたかも・・・あやまる。 |
加奈 | 瞳呼ぼう。 |
理香 | うん、呼ぼう。呼んで有美にはっきり言おう。 |
加奈 | ずばり言うの?あんたは奥菜恵でないのよって。 |
理香 | それが本人のためだと思う。 |
加奈 | それって、有美のプライドずたずた。 |
理香 | 何言ってんの。みんな甘い。 |
智子 | 私は言うの反対。残酷すぎて有美が持たないと思う。 |
加奈 | でも、いずれは言わなければならないと思う。瞳は何て言ってる? |
智子 | まだ、聞いていない。 |
加奈 | 智子、瞳呼ぼう。 |
智子 | うん。(智子携帯かける)もしもし、瞳。今ちょっと話していい。有美のことで話してるんだけど、瞳ちょっと来てくれない、お願い。 |
瞳 | (上手スポット)ごめん、私、もう行けない。 |
智子 | そんなことない、来て。 |
瞳 | 私、もう、有美と関わりたくない。有美をあんなふうにしたの私かもしれない。 |
智子 | そんなことないって、来て。みんな、瞳の考え知りたがってる。有美の一番の友達は瞳だし。来てお願い。 |
瞳 | そんな気分になれないごめん。 |
智子 | 分 かるけど・・・来て。有美には瞳が必要だと思う。 |
瞳 | 智子、私部活辞めたい。 |
智子 | えっ?有美のことで? |
瞳 | 有美のことだけじゃないと思うけど、有美の顔見るの怖い。 |
智子 | 大丈夫、きっとうまく行くよ。 |
瞳 | 昨日、有美に電話して、いろいろ話したの。 |
下手のスポットに有美登場。 |
|
有美 | もしもし。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | もしもし。 |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | もしもし、誰? |
瞳 | もしもし・・・ |
有美 | 何だ、瞳、どうしたの? |
瞳 | どうしたのって? |
有美 | なんか変、元気ない。 |
瞳 | ちょっといい。 |
有美 | 何、改まって、どうしたの? |
瞳 | 電話でないと話せない。 |
有美 | えっ? |
瞳 | ビデオ見た?あのビデオ? |
有美 | うん、見た。 |
瞳 | なんか変だと思わない。 |
有美 | 何が。 |
瞳 | 何がって、あの人有美? |
有美 | 何が私でないの? |
瞳 | ビデオに映ってるの、あれは有美でない。 |
有美 | (笑いながら)何言ってるの瞳、あれは私よ。誰が見ても私よ。 |
瞳 | あのビデオに映ってる人は有美じゃない。あなたは奥菜恵でない。 |
有美 | じゃあ、奥菜恵は誰なの? |
瞳 | ・・・・・・ |
有美 | 私が奥莱恵でなかったら、誰が奥菜恵なの? |
瞳 | 止めよ。有美。 |
有美 | 止める。瞳何を止めるの?私が何を止めるの?私に止めるものなんか初めから何もない。瞳、目がおかしいんじゃない、あれ、私よ。みんな私よ。誰が見ても私よ。あの笑顔、あの横顔、みんな私、あの服、私が選んだの、高かったのよ。まだ、売れていないからお母さんに無理言って買ってもらったのよ。今度着て行ってあげる。実は今、着ているんだけどね。あなただってずっと私が奥菜恵だって言ってたじゃない。ねえ聞いて、聞いて今度、藤原竜也くんと共演するの、すごいでしょう。ちょい役だけれど。瞳サイン欲しいって言ってたでしょう。貰って来てあげるね。みんなに内緒よ。私、デビューして間もないから別人のように映っているのよ。実物よりきれいに映ってるかも、私メイクうまいから。 |
笑い、有美消える。 |
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智子 | 瞳、大丈夫? |
瞳 | 手紙に狂ってるって書いた。 |
智子 | えっ、狂ってる。 |
瞳 | 有美狂ってるって。もう、手遅れ。どうしてあんなこと書いたんだろう。 |
智子 | 瞳、大丈夫。 |
瞳 | 大丈夫って。 |
智子 | まだ、渡してない。 |
瞳 | 渡してないの? |
智子 | うん、ごめん。 |
瞳 | あリがとう。 |
智子 | 来て、お願い。 |
瞳 | 努力する。でも、行けないかも。 |
智子 | 分かった、瞳、いいよ、無理しないで。来れる時来て。 |
瞳 | うん、分かった。 |
智子 | (電話切る) |
理香 | どうだった、来るって? |
智子 | 瞳、迷ってるみたい。自分が有美を責めたと思ってる。 |
理香 | どうして?なんとなく分かるけど。瞳はやさしすぎ。 |
加奈 | 理香は冷たすぎ。 |
理香 | それ、多分有美。 |
智子 | あっ、有美。 |
有美登場。 |
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有美 | どうしたの?みんな。 |
智子 | えっ? |
有美 | 口開けてる。 |
理香 | 別に何も? |
有美 | なんか怪しい。 |
加奈 | 何でもないって。 |
有美 | (智子に手を差し伸べる)頂戴。 |
智子 | えっ、何? |
有美 | 忘れ物。 |
智子 | 忘れ物? |
有美 | 手紙、瞳からの手紙。昨日、渡すって言ってた。 |
智子 | もらってないよ。 |
理香 | 智子! |
智子 | (理香を呪む) |
有美 | どうしたの? |
智子 | 別に。瞳、忘れたんじゃないかな? |
有美 | そっか〜。じや、これ、渡して。(手紙差し出す) |
智子 | これ、何? |
有美 | ヒ・ミ・ツ |
理香 | え〜、教えてよ〜 |
有美 | 実は・・・藤原竜也君のサインなの! |
理香 | そのサイン本物? |
有美 | 理香、疑ってるの?はら、見て、本物よ。 |
理香 | これが本物か。私、今、夢の中にいるみたい。 |
有美 | 現実よ。 |
理香 | 本当に? |
有美 | だって、私がここにいるでしょう? |
理香 | 有美が奥菜恵で藤原竜也と会ってるなんて私には夢のよう。 |
有美 | でも、本当よ。 |
理香 | 実はね、私、少し嫉妬いてるの。 |
有美 | どうして? |
理香 | だって、私、藤原竜也と付き合っているんだもん。 |
有美 | 理香、冗談言うのやめて。 |
理香 | 本当だよ。私は空想の中で藤原竜也と付き合っている。つまり、藤原竜也大ファンつてこと。 |
有美 | なんだ。 |
理香 | でも、可能性がない訳ではない。だって、有美が芸能界の奥菜恵だよ。もしかして? |
有美 | もしかして? |
理香 | 空想の中の奥粟恵だったりして。 |
有美 | (笑いながら)ただし、売れないけどね。じゃあ、これ、瞳に渡してね。急がないと、最近うるさいんだ。 |
理香 | 分かった、マネージャーの吉田さん。 |
有美 | 当たり、じゃあバイバイ。 |
加奈 | あ−、びっくりした。ちょっと、理香、やりすぎだよ。 |
理香 | 何が? |
加奈 | 空想の中の奥菜恵。 |
理香 | どうせ、いつかばれるんだから。 |
智子 | それ、良くない。 |
理香 | どうして? |
智子 | 有美、傷つく。 |
加奈 | 有美から奥菜恵をとったら何も残らない。 |
智子 | それってとても危ない。 |
加奈 | 有美プラス奥菜恵イコール有美。有美マイナス奥菜恵イコールゼロ。ゼロイコール死。 |
理香 | nothing ! |
加奈 | あ、瞳。 |
瞳が入ってくる。 |
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智子 | 瞳、大丈夫。 |
瞳 | うん、大丈夫。 |
理香 | 来ないほうが良かったんじゃない。 |
沈黙。 |
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理香 | あ、そうだ忘れてた。これ、有美から。 |
瞳 | 何? |
理香 | 藤原竜也のサインだって。 |
瞳 | さあ、どうしようか? |
智子 | いつもどおりにするのが一番いいんじゃないかな。 |
加奈 | 私もそう思う。それで有美の気持ちが維持できるならそれがいいかも・・・瞳はどう思う? |
瞳 | いいと思うけど |
智子 | けど? |
瞳 | 私、耐えられそうもない |
理香 | じゃあ、ストレートに行く? |
智子 | ストレート? |
理香 | あなたは典薬恵ではない。ずばり言う。 |
加奈 | やっぱり理香は残酷。 |
理香 | 何言ってるの、これが一番いいの。一生このまま続けるつもり? |
加奈 | いいんじゃない。 |
理香 | 何が? |
加奈 | このまま続けるの。一度ついた嘘は最後まで通せば嘘じゃない。 |
理香 | は? |
加奈 | 何? |
理香 | この人、オバサンみたいなこと言ってる。人生を知り尽くしたオバサン。オバサン万歳! |
加奈 | オバサン。失礼な。 |
瞳 | やめて、お願い。 |
理香 | 瞳、少七、甘いんじゃない。 |
瞳 | 甘い・・・ |
加奈 | 理香、やめて。 |
理香 | 瞳、有美に奥菜恵を演じさせておいて自分は耐えられそうもないなんて無視が良すぎる。耐えられないならここに来なければいい。 |
加奈 | 理香、言いすぎだよ! |
瞳 | 理香の言う通りかもしれない。 |
智子 | 瞳、無理しなくていいんだよ。 |
瞳 | 私、ここに残る。 |
智子 | 大丈夫? |
瞳 | うん。 |
理香 | なんか、私一人悪者みたい。 |
加奈 | そんなことないよ。理香が一番強いってこと。 |
理香 | それって、面の皮が厚いってこと? |
加奈 | 当たり。 |
智子 | 有美が奥菜恵でいることが一番、落ち着くなら、それしかないかも。 |
加奈 | 有美が望むならどこまでも奥菜恵の世界で行く。 |
理香 | どんなことがあっても奥菜恵でいく。たとえ、私が奥菜恵になっても。 |
加奈 | 理香、また変なこと考えていないよね。 |
理香 | 別に。なるようにしかならないんだから。 |
加奈 | 理香、有美が奥菜恵じゃないって分かってから、急に有美に冷たくなった。 |
理香 | 私が? |
加奈 | そう、冷たい。 |
理香 | そんなことない。でも・・・ |
加奈 | でも何? |
理香 | 有美って幸せ。 |
瞳 | 幸せ? |
理香 | みんな有美のこと真剣に考えてる。 |
加奈 | 誰も理香のことなんか考えてくれない。 |
理香 | ・・・・・・ |
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