「 高  架  下 」

作・古川高校演劇部

登場人物   A (八津)・・・・十代後半、男

       B (由利)・・・・二十代半ば、男

       C (店長)・・・・四十代、男

       D (田辺)・・・・二十代前半、男

 

 部屋・・・十七歳ぐらいの青年(A)が天井をじっとみつめている。

 横には中年のおっさん(C)

   
・・・。
   

 暗 転 

 とある小さな古本屋・・・二十代後半の男(B) が、ダラダラと仕事をしている。そこにAがやってくる

   
ねえ、由利さん。
何?
暇だね。
もうすぐ、時間だよ。
え・・これからどうしようかな・・・
B    何かやることがあるのか。
A  別に・・・。
寝ぼけてんのか。
何だろ、ぼーっとしてるよね。
してるね。
最近さ、いつもこうなんだよね。
知ってる。
なんでだろう。
知らないよ。
A  何にも、やることがなくてさ。
B  仕事があるだろ。
A  そうじやないよ、何か、楽しいやつ。
B  ・・・わかんねぇなあ、そんなの。
A   ん〜前まではあったんだけどなあ。なんか、全部、なくなった。
B  ・・・ま、俺にもあったよ、そういう時期。
え、うそ。
あったよ。
んで?
B    どうだろう・・・
何?
B    知らず知らずのうちに終わってたような・・・
A  それじゃあわかんないよ。
B    でも、そんなもんだよ、お前ぐらいの歳なんて。
そうなの? でも、つまんないよ。
 そういう時期なんだよ。もうちょっとしたら、楽になる。
・・・本当に?
・・・たぶんね。
まぁ、その話はいいよ。別の話しよう。
B   

なんだよ。

だって、つまんないじゃん。
だから、そういう時期なんだって。
いいってば。・・・由利さん最近夢見る?
唐突だな・・・見ないよ。全然。
・・・つまんない。
B    あ?
A     俺もさ、見ないんだよ。見ても、すぐ忘れる。なんでだろう。
疲れてんじゃねえの。
A  なのかな。そうでもないと思うけど・・・。
んじゃ、寝すぎなんじゃない。
A   そう?・・・そうかも。でも、寝すぎると夢って見ないものなの?
 知らないけど・・・寝すぎで夢と現実の区別がつかないとか、さ。
じゃあ、ここは夢の中なの? そうじゃないでしょ。
 ・・・一応、会話をつなげようと努力はしたんだけどな・・・やっぱ議題がよくないわ。
 ん・・・そう思う。んじゃあ何がいい? ドラマの話とか?
B  ・・・やっぱ歳の差、感じるなぁ。
A   んじゃ、由利さんは何に興味を持ってるの? 俺、合わせるよ。 
B  合わないよ。
A  とりあえず、言ってみてよ。
無いって。
好きな歌手とか、映画とかさ。
B  別に・・・なぁ。そういう歳じゃないし。
つまんないよ。
・・・そういわれると、何にも言えない。
A  何でここ来たの?
 他に行くアテ無かったから。割と金もいいし、住み込みだったし。
A    最終学歴は?
高卒。
その後は?
別に・・・
B  それは無し。
A  なんだろうねえ。
・・・ダラダラと転々と。
ここに来てどれくらい?
B  ずいぶん長いよ、五年以上。
A  長続きの秘訣は?
B   ・・・好きだから、じやない?
A  この仕事が?
この場所が。
・・・なんで?
B  お前はそう思わないのか。
思わないよ。・・・思ったことがない。
なんでいるんだよ。
他に行くアテ無いし。
B  なんだよ・・・そんな。
・・・なんで、好きなの?
B   ん〜なんて言うかさ、ここつて、どうだっていいんだ。何したっていい。何が起ころうと、上は何も変わらない。上で何が起ころうと、俺にはまったく関係がない。・・・俺には見えない。別世界なんだよ、ここは。
ふ〜ん・・・上って、どこ?
世間だよ。
わかったような、わかんないような。
いいんだよ、それで。‥・そういう時期なんだから。
   
 そこにCとDがやってくる。B、いつの間にかいない。
   
おう、八津君。もう、時間だけど。
あ、どうも。
何かした?
A  いえ・・・(天井を見つめる)ぼーっとしてました。
ああ・・・そう。ヒマ?
まあ・・・。
C  ・・・何か見える?
A  何がですか?
C   天井。
いえ・・・
C  あ、そう・・・。
A    じゃあ、失礼します。
C  あ、もう行く?
A 

時間ですから。

そう、じゃあちょっと待ってて。
   
 C,一度はける。
   
 これ、よかったら・・・(A、いない。)・・・はぁ。どいつもこいつも。
D  なんなんでしょうね、あいつは。
C   最近の八津君、なんか、無関心というか、感情がないというか・・・
・・・。
はぁ〜。
D    どうしようもないじゃない。
C  彼、何で・・・
D    いつからなんです。
ケ月前から。
 じゃあ、理由ははっきりしている。あの人のことで、でしょ。
そういうなよ。
D   でも‥・葬儀にも出ないで、どっか行って、戻ってきたら、あの調子。
C   そういうなって、彼らは仲がよかったんだから、仕方がないよ。
店長はあいつに甘すぎなんですよ。
そういうな。
D  自立なんてできやしない。
C   うん・・・
D    何とかなると思ってる。
C   

・・・かもしれない。

D  そうなんですよ。
C   そうか・・・。もう彼には、由利君しか見えていないのだろうか・・。
たとえそうだとしても、もう戻ってはきません。
C  だから、俺はどうしていいのか分からないんだ。
・・・なるようにしか、なりませんよ。
   

 回想。雨の日T現在のAの部屋。Bがベッドでくつろいでいる。

 インターフォン (ブザーでむ可)が鳴る。

 Cがくる。

   
由利君、由利君! ちょっといい?
どうぞ。・・・どうしました?(B、Cを中に入れる。)
ほら、入って。 (Aを招く)
・・・どうしました?
C   明日からここで働くことになった、八津君。仲良くしてやってね。
あ、はい。
C  こちらは、由利君。
A  ・・・。
C 

 それじゃあ、細かいことは明日話すから、今日はゆっくり休んでね。んじゃ、私はこれで。

B  え?
C  相部屋、いいでしょ?
B  ・・・まぁ。
C   頼むよ。 (はける)
B  ・・・。
・・・。
B  お前、歳いくつ?
十五です。
B   

若いね。・・・どうした?

A  ・・・。
B    雨宿りに来たってわけでもないだろ? まぁ、くつろげよ。俺の部屋、半分やるからさ。
A  ・・・。
B  おい、八津君。聞いてる?
A  ・・・。
あ、八津君、これ知ってる? (ゲームを取り出す。)
A   ・・・知ってますよ。
俺さ、全然わかんなくてさ、教えてくんない?
A  ・・・そんな難しいやつでもないですよ。古いし。
B    いうねえ。期待してるよ。(電源を入れる。)
A    ・・・。
・・・ま、大方、あの人の口車に乗せられてきたんだろ?
A  やっぱ、そうなんですか。
B   そうだよ。妙にお節介で・・・結構、君みたいな人、来るよ。
A  他にいるんですか?
いや、みんな帰っていった。
A  そうですか・・・。
俺の予想だけどさ。
A  何?
君は長くいると思うよ。
   

 雨音、回想照明FO−現在、Aがゲームをしている。

 
A  (ゲームの電源を切る)今の時間おもしろいやつありますかね。
・・・ワイドショーじゃないか、大体。
おもしろいですかね。(チャンネルをいじくる)
年とってくるとね。おもしろく感じるよ。
A    そうですか。
B  誰が離婚したとか、不法投棄の問題とかね。
A  ・・・何がおもしろいんすか。
B  ん・・・他人の不幸。
・・・。 
あとは、ラジオとかね。
A  年寄り臭くないですか?
B  かもね・・・でも、意外といいもんだよ。
A  なんで。
B  朝方、早く起きちゃうときとかあるだろ。
無いですよ。
B   まぁ・・・俺にはあるんだよ。んで、目が冴えちゃって、もう、寝れねえよって。んで、つけるんだよ。もちろん、お前を起こさないように音は小さめで。
A  はい・・・
B   そうするとさ、天気予報がやってるんだよ。・・・これがなかなかいいんだよ。気がつくと、太陽が昇ってきて、朝の二ユースが始まり、お前も目を覚ます。・・・そのときに空を見上げて、あぁ、今日は晴れだな、とか、これから曇り始めるな、とか考える。
・・・それ、前にも聞きましたよ。
B  そうだっけ・・・まぁ、何度聞いても損はないって。
A  そうですか・・・
どうした、最近。
え?
B    何か変だ。
A     そう? 別になんともないけど。・・・そう見えます?
B  まあ。
A   飽きてるんですよ。
B   何に?
A    わからないけど・・・マンネリっつーか、つまんねえなーって。
B  あんまり夢を見るなよ。
A 
B  誰にでも見ていいものじゃない。
A  わかってますよ。別に、夢なんて無いし。
B  そうか。
A    うん・・・そういうんじゃない。
B  悪かったな。
いや・・・
   
 チャイムが鳴る。B、袖にはける
 部屋―Aが天井をじっと見つめている。横にはC。  
   
・・・。由利さん、由利さん・・・
   
 普通照明に。
   
おう、八津君。ここにいた。
A  ・・・どうしました?
え・・・まあ、なんとなくなんだけど、さ。
A  はぁ・・・。
C   ・・・これ、食べない?
A  どうも。
C     せっかくのもらい物だからさ、食べてもらおうと思ってね。・・うん、ちょっと時間、いい?
A  俺ですか。
C  君以外に、誰がいるの?
A  由利さん。
C  ・・・君に話があってね。
A  何ですか?
C  とりあえず、あがっていい?
どうぞ。
 いやいや、ちょっと、疲れちゃったな。(ベッドに座り込む)
・・・。
C   なんていうか・・・いろいろ、あったからね。(勝手に飲み物をとりだす。)
・・・ええ。(適当な相づち)
C   本当はさ、話したいことなんてなくてさ。・・・まあ、あるといえばあるんだけど・・・。(チャンネルを適当にいじくりながら)
A  ・・・そうですか。(適当な相づち)
C  仕事の方はどう? 変わらなくやってる?
A  ・・・? ええ、別に、何も、変わらず。
 おっ、ワイドショー・・・あ、もう終わりか。(テレビを消そうとするが、うまく消せないのでコンセントごと抜く。)・・ならいいんだよ。
俺、何かしましたか?
 そ・・・そんなことないよ。むしろ君はよくやってる。
・・・どうも。
C   はじめから期待してたけどね・・・覚えは早いしさ。
A    ・・・。
C  手際もいいし、何より熱心だしね・・・そういうとこ由利君に似ているよねえ。
そうですか。(ちょっとうれしそう)
 うん・‥ここに来て結構たつよねえ。なんだかんだで。由利君の次に長いんじゃないか?
・・・はあ。
 ずっとここにいたっていいんだからね、なんなら、正社員になっちゃってもいい。
A  ・・・
 とりあえず、今までと特に変わりはないし、無理も無いと思うけど。
A   え・・・急には、決められませんよ。
C   そうか‥・いや、それがいいと思うよ。いいよ、ゆっくり考えて。私もそう深い意味があって言ったわけじゃない。
A  すいません。
 いいんだよ。・・・とにかく、落ち着いてから、だね。
A  ・・・?
それじゃあ、また明日。
   
 C、帰る。B、入ってくる。
帰ったか。
A  なんで、どっか行ってたの?
B  今は、会いたくないんだよ。
なんで?
B  お前が、会わせたくないからだろ。
A  どうしたの、ワケわかんないよ。
いいんだよ。
A  俺と由利さん、似てるって。
そうか。
A  きっとさ、考え方とか、似てるんだよ。
そう・・・おい、ケ一夕イ。
え?
B  充電できてないよ。ランプが消えてる。
A  ・・・あいつだ。(コンセントをつなげる)
B  そうだ、ラジオ聞いてみようか?
A  別にいいけど。
嫌そうな顔すんなって。
   
  B、ラジオをつける。すごく下らないラジオが流れている。
B   まぁ、当たり外れはあるからな、こういうときも、たまにはある。
A  そう。
B  ・・・この場所は好きか?
どうだろ?
俺は、好きだ。
A   なんで?
気楽だ。
・・・。
 だってそうだろう?この場所は、どうだっていいんだ。ここで何が起ころうと、どうだっていい。上は何も変わらない。上で何が起ころうと俺にはまったく関係がない。・・・俺には見えない。別世界なんだよ、ここは。
上って何?
B    ・・・世間だよ。
世間って?
B   社会一般の・・・サラリーマンとか、さ。
じゃあ、ここはどこなの?
 ・・・住み込みの部屋だろ。もしくは、『夢の中』か。
A  だから、それは無いって。
  暗  転。

表 紙   つづく