光 源 その2 作・大内惠美子作 |
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登場人物・・・ 岩上麻耶 矢口 雅 高安 史 福野優子 矢口亜季 野田太郎 黒子 |
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第 5 景 | |
岩上に抜き。 | |
岩上 | 私…やっぱりわがままなのかな。雅先輩が進路を、選ぶのがどれだけ大変だったか、どんな気持ちで選んだのか……。考えてなかったかもしれない。私が劇をやりたいだけで、無理言って。……でも、やっぱり雅先輩は専門で勉強して、デザイナーになりたいって思っているんじゃないのかな。私がこんなこんなこと言うのは余計なお世話かもしれない。でも、私は去年の劇を見たから今ここにいる……役者の演技にも、雅先輩の考えた服にも惹かれて……凄く、憧れてた。私、演劇が大好きだから、今年の大会でも、みんなで、去年に負けないくらい素敵な劇をしたい。……だから待ってる。雅先輩が来てくれるのを。 |
岩上の抜きが消えて雅に抜き。 | |
雅 | 私は…どうするべきなの?亜希のことを考えて、就職にしょうって思ったのに……本当は、私はただ逃げているだけなの?……自分でもわからない。本当はデザインについてもっと詳しく勉強したい。服を考えるのが好き。作るのが好き。その服を喜んでもらえるのは……もっと好き。演劇も大好き。でも、迷惑をかけるのは嫌。お母さんにも、お父さんにも迷惑がかかる。………演劇部のみんなには……、迷惑…かかってるんだよね……。…もうどうしたらいいのか分かんないよぉ!……ねぇ亜希……私はどうすればいいのかなぁ? |
暗 転 D | |
第 6 景 | |
場所は病院の待合室。亜希は本を読んでいる。 下手から岩上登場。 |
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岩上 | ……矢口亜希…さんですか…? |
亜希 | は…はい。そうですけど……どちら様ですか? |
岩上 | 私、岩上麻那って言います!あの…雅先輩の後輩です。 |
亜希 | あぁ!演劇部の方ですか!座りませんか? |
岩上 | はい…これ、お見舞いなんですけど… |
亜希 | ありがとう。 |
二人 | ……… |
ちょっと沈黙。 | |
二人 | あの… |
岩上 | あぁぁあっお先どうぞ!? |
亜希 | いやいやいや、お先にどうぞ! |
間 |
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二人 |
あのっ |
二人 | どうぞっ |
亜希 | あー……じゃんけんぽん! |
岩上 | えぇっ!? |
岩上、つられて出す。岩上勝利。 |
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亜希 | はい、岩上さんから。 |
岩上 | あ…はい。あの、今演劇部で劇を作っています。人数が少なくて思うように作業が進まないんです…… |
亜希 | うん… |
岩上 |
私、雅先輩のデザインした服が好きなんです。 |
亜希 | うん… |
岩上 | 雅先輩に、劇を手伝ってもらいたいんです……就職希望で忙しいのも分かります。私の我儘だっていうのも分かっています…。それでも、雅先輩が、本当にその進路でいいのか、後悔しないのか……。他人の私が口を出すことじゃないと思いますけど、でも…やっぱり、もっとよく考えてほしいんです。だから、亜希さんから雅先輩にそう話してもらいたいんです…お願いします! |
亜希 | ……私もね、今のお姉ちゃんの進路には不満があるの。だって、演劇をしないのも、就職を選んだのも、本当にお姉ちゃんが望んでいることじゃないから。 |
雅、下手より登場。岩上が居るのに気付き、隠れる。 |
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亜希 | ……私の身体が弱い所為で、お姉ちゃんは、子供の頃から何も出来ない私に気を使って何でも我慢してきた。小学校の運動会の日だって私が発作起こして入院したから、徒競走もダンスも、いっぱい練習したのに運動会に出ないで病院に来てくれて。お母さんが看病で私のところに居るとき、お姉ちゃんはいっつも家で独りだった。お姉ちゃんは優しいから、何にも言わないで笑ってくれて……だからもう、私の為に我慢してもらいたくない。演劇のことも進路のことも。 |
岩上 |
雅先輩は、亜希さんが大好きなんですね。 |
亜希 |
え…? |
岩上 | だって、そうでなかったらそこまで出来ないですよ。私だったら多分、自分の事を優先して考えちゃいます……。それに、嫉妬しちゃう。運動会だって、本当は出たかったのに!って仕方が無いのに我が儘言ってあばれちゃいます。そういうワガママを言わないのは、雅先輩が亜希さんが大好きだからですよ。 |
亜希 | ………私、お姉ちゃんが劇をやってるところが好きなの。お姉ちゃんの考える服が好き。だから…専門学校が必ずしも良いって訳じゃないけど、寄り道なんかしないで真っ直ぐ、ファッションデザイナーを目指してもらいたい。お姉ちゃんが作った服着て、役者さんが舞台で演技してしてるのが見たい。 |
岩上 |
じゃあ…お願いしてもいいですか?良いですか?部活の頃、進路のこと…… |
亜希 | もちろん。 |
岩上 | ありがとう御座います…… |
亜希 | こちらこそ、ありがとう。 |
岩上 | え?どうしてですか? |
亜希 | 私のこれ以上言っていいのかどうか、迷っていたから…。最終的に決めるのはお姉ちゃんだし、私は口ばっかり出して何もしてあげられなくて。逆に心配かけて。でも、岩上さんの話を聞いて、ここは引いちゃいけないトコだと思えたから。有難う。 |
岩上 | …いえ……あ、これから部活あるので、そろそろ失礼しますね! |
亜希 | うん。お姉ちゃんには話しておくね。 |
岩上 | はい!ありがとう御座いました! |
岩上、ばたばたと退場。雅は見つからないようにカバンを頭にかぶる。 |
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亜希 | あれ?……お姉ちゃん? |
雅 | え!?あ、うん……お姉ちゃんです… |
亜希 | 岩上さん、来てたんだよ。 |
雅 | うん…… |
亜希 | 聞いてた? |
雅 | うん……ごめん…… |
亜希 | 謝るなら部活のみんなにね(笑) |
雅 | ……でも、 |
亜希 |
お姉ちゃんには後悔してもらいたくないの。 |
雅 | でも、なれなかったら… |
亜希 | なれるよ。お姉ちゃんならなれる。 |
雅 | …… |
亜希 | 約束、したでしょ?退院したら、私に服作ってくれるって。私それ着て、お姉ちゃんが考えた服着て演技してる大会、見に行くんだから。 |
雅 | 亜希… |
亜希 | 自分がやりたいこと、我慢しないで?私は、夢に向かって頑張ってるお姉ちゃんが見たい。 |
雅 | …亜希……うん、ごめんね。逆に心配かけて… |
亜希 | ううん。大丈夫だから。あーもう!ほらほら、部活に行った行った!他に3人しかいないんでしょ? |
雅 | うん!有難う! |
亜希 | 違うよ、私じゃなくて… |
二人 | みんなに! |
雅 | いってくるね! |
雅、出て行くがすぐに戻ってくる。 | |
雅 | あーーーーーきーーーーー! |
看護婦(声) |
病院内は静かにしてください! |
雅 | すっすいません! |
亜希 | どうしたの? |
雅 | どんな服が着たいか考えておいてね?頑張って作るから! |
亜希 | わかった。 |
雅 | 行ってきます! |
雅、走って退場。 袖内から声がする。 |
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看護婦(声) | 病院内は走らないで下さい! |
雅(声) | ごめんなさぁぁぁぁあい! |
暗 転 E |
第 7 景 |
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場所は演劇部活動場所。 岩上は大道具を作ろうとしている。 史は用具を取りに上手にはける。 優子は縫い物をしている。 |
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岩上 | 史せんぱーい………あれ?史先輩?優子先輩、史先輩知りませんか? |
優子 | えー?トイレでも行ったんじゃなかなぁ?…いったぁーい!針刺しちゃったよー… |
岩上 | 大丈夫ですか?ああああ!優子先輩!これ曲がってますよ!? |
優子 | ええええ!?いや――――ん!どうしようぅー… |
急に軽快な音楽が流れてくる。同時に野田登場。 | |
野田 | どうだー?進んでるかぁー? |
岩上 | 何故マラカス…しかも手作り! |
野田 | お前達が頑張れるように応援しに来たんだよ!ほーらほらガンバレー! |
野田、気色悪い踊り。 史がかなづちを持って帰ってくると、途端に音楽が 終わる。野田は「あれ?」って感じ。 |
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史 | 先生…… |
野田、びくっとして振り返る。 | |
野田 | 高安……俺……応援しに… |
史 |
へぇ。 |
野田 | お前達が元気になるように… |
史 | へぇ。 |
野田 | スーツが似合う男に! |
史 | いいえ。 |
野田 | そっかぁ……(しょんぼり) |
岩・優 | 先生……どんまい。 |
史 | 野田先生、もういいです。大道具、手伝ってもらえますか? |
野田 | おっおぉ……(ビックリ) |
史 | 嫌なんですか? |
野田 | いいえ喜んで! |
岩上 | 先生、この釘ってどういうふうにうてばいいんですか? |
野田 | わからん! |
岩上 | 駄目じゃん! |
史 | 野田先生……ちっ(舌打ち)裁縫やりますか? |
野田 | 無理! |
史 | 役立たず! |
野田 | よく言われる! |
岩上 | 言われるんだ!? |
史 | じゃあ買出し行って下さい。五寸釘と藁と白のペンキをお願いします。五分で買って来て下さいね。よーいスタート! |
野田 | ええぇぇ!? |
野田、ビックリしながらも買出しに行こうとすると扉 がガラっと開く。雅登場。一堂驚く。 | |
優子 | 雅先輩! |
雅 | おはよ……。(息切れ) |
史 | おはよう雅。 |
麻那 | 雅先輩… |
雅 | おはよ、麻那ちゃん。 |
岩上 | 先輩!スイマセンでした! |
雅 | ううん、いいの。私、やっぱり服を作るのが好き、もう我慢しない!私も劇を作りたい!また、一緒にやってもいい? |
岩上 | はい! |
優子 | 勿論ですよ! |
雅 | 皆、ごめんね。心配も、迷惑も、いっぱいかけちゃって……そして……有難う! |
史 | 雅……。 |
雅 | 私…輝いてないなって思ったの。皆が頑張って劇作ろうとしてるのに、私だけ色んなことから逃げてた。意地張って、迷惑かけて、心配させて……。でも!私も輝きたい。頑張りたい!…改めて、よろしくお願いします! |
岩上 | よろしくお願いします! |
史 | よろしくね。 |
優子 | よろしくお願いします! |
野田 | よろしくな☆(かっこつけ) |
一同 | …… |
野田 | ……すいませ…… |
雅 | ……よろしくお願いします。野田先生。 |
野田 | よっよよよよ宜しく! |
岩上 | これから皆、これでもっと輝けますね。やっぱり、皆で力をあわせなきゃですよね! |
雅 | そうよね! |
史 | 雅。優子の服作り手伝ってあげて。優子じゃ服じゃなくなりそう。 |
優子 | せんぱーい…私には無理ですぅぅぅぅ… |
雅 | あー…どうやったらこんなになるのよ(笑) |
岩上 | …あれ?なんか忘れてる気が…… |
野田以外 | …あ!退部届け!! |
皆一斉に野田を見る。 野田、ポケットを調べ、どこだどこだと探す。途中 で青いハンカチをちらつかせる。 |
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野田 | 出してない! |
一同 | ナ――――――イス! |
雅は退部みんな安心して各自の仕事に入る。 届けを受け取り頬擦りしている。 音楽が盛り上がる。 |
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雅 | 優子…一体何を作ろうとしてたの…? |
優子 | スカートです! |
雅 | しかも手縫いなのね…… |
優子 | ミシンの使い方わからなくて… |
史 | じゃあ優子、服は雅に任せて、小道具作ろうか。 |
優子 | はい! |
岩上 | あ、先生買出しは? |
野田 | しーーー! |
史 | いってらっしゃい先生。 |
野田 | えーー。 |
史 | はいはい、早く行かないとあと一分にしちゃいますよ。 |
野田、無言で立ち上がって買い出しに上手に走って はけていく。 みんなの笑い声。 音楽FO。 |
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岩上 | が――――――――――――…(幕が閉まる音) |
皆ストップモーション。 |
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岩上 | ………はいお疲れ――! |
わーわーと野田、亜希、黒子等等、今まで出てきた面 々が登場する。 | |
岩上 | 今日の合わせはコレで終わりにします!皆さんお疲れ様でした!明後日の大会に向けて身体を休めてください。反省などは明日のミーティングで話します。では今日はこれで解散! |
全員で片付けをする。 | |
雅 | せんぱーい!お疲れ様です! |
岩上 | お疲れ。今日は台詞飛んだところもなかったし、目立った間違いは無かったからよかったと思うよ。 |
雅 | 有難う御座います。 |
岩上 | 後は身体を休めて、本番でミスしないようにしなきゃね。 |
雅 | はい!あ、そういえば、この劇って先輩が台本書いたんですよね? |
岩上 | そうだけど…どうかした? |
雅 | この台本の演劇部って、去年の私たちにソックリだなって思ったんです。やっぱり、主体としてるのはこの部なんですか? |
岩上 | んー。基本はそうだね。あと、理想。 |
雅 | 理想……。 |
岩上 | 明るくて、楽しくて。去年は人が少なくて大会に出れなかったから。…今考えると、去年もう少し頑張っていたら大会に出れたんじゃないかなって後悔してるんだけどね……。だから今年こそ、皆で厳しい状況下でも負けないで劇を作っていきたい! |
雅 | 私、この劇の皆……麻那も雅も、史も優子も亜希も……野田も?これからもっと輝いていくと思うんです。だから、私だってもっともっと頑張れば輝けるんだって思ったんです! |
岩上 | そうよ!あとね、夢を諦めちゃいけないって事を伝えたかったの。夢を持つことって凄く素敵でしょ?私ね、夢に向かって頑張ってる人の顔を見るのが大好きなの。こう…ほら、キラキラーってしてるでしょ? |
雅 | あー、分かります!今の先輩もすっごくキラキラしてますよ! |
岩上 | うっそ。まじで?(笑) |
雅 | はい! |
岩上 | ありがとう。 |
雅 | ところで、先輩は将来何になりたいんですか? |
岩上 | 私?一応演劇を続けて行きたいと思ってるの。どんな小さな役でいい、裏方だって喜んでやるわ。唯一つの劇を、皆で仕上げたいの。ほら、達成感ってやつが大好きなのよ。 |
雅 | この台本の中の演劇部は、このあとどうなるんでしょうね……? |
岩上 | 頑張ったんだもの、例え大会が駄目だったとしても、きっと自分たちの満足できる結果になるわ。 |
雅 |
そうですね。 |
岩上 | よーし、皆かえろー。 |
一同(声) | はーい |
雅 | あ――――――――――――! |
岩上 | どっどうしたのよ! |
皆驚いて出てくる。 |
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雅 | せっ先輩!今日…台詞間違わなかったら……アイス奢ってくれるって約束しましたよね―――――! |
岩上 | えー?聞こえなーい。全然聞こえなーい。 |
雅 | えええ!?先輩!ずるいですよ!約束守ってくださいよー! |
岩上 | あんたは亜希にお洋服でも作ってあげなさい! |
雅 | それは劇の中でじゃないですかぁぁ!ずるいですよ先輩! |
岩上 | はいはい、ごちゃごちゃ言ってないで帰るよー。 |
雅 | うーー。先輩のうそつき…… |
何故か他の皆まで口々に「うそつきー」などといって いる。 | |
岩上 | あーもう。しょうがないわね、コンビニでいい? |
雅 | やったぁ☆ |
楽しそうに話しながら全員で退場。 電気がつけっぱなし。 岩上が戻ってくる。 |
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岩上 | 照明消してくだサーイ。 |
照明(声) | はーい。 |
舞台薄暗くなる。 岩上退場。 |
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幕 |