「 光 源 」 作・大内惠美子 |
登場人物 岩上麻耶 矢口 雅 高安 史 福野優子 矢口亜季 野田太郎 黒子 |
幕が開き始めると舞台は薄暗い。 机を運び終わって、周りの大道具などを確認し終えると、 イスに座ってアッチ向いてほいをし始める。 すると、上手から雅がハリセンで素振りをしながら 出て くる。 片方が其れに気付き退場。もう一人はスパーンと叩かれ、 二人で退場。 |
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第 1 景 | |
少しすると上手から史が入ってくる。 |
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史 | おはよう御座いまーす……まだ誰も居ないか。 |
史は座って本を読み始める。 少しすると上手から雅が入ってくる。 |
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雅 | おはよー |
史 | おはよ。 |
雅 | あれ?優子は?まだ来てないの? |
史 | んー。そうみたい。もしかしたら、また野田先生にでも呼び出されてるんじゃない? |
雅 | あぁ、そうかもね。 |
雅は話しながら荷物を置いて、史の隣に座る。 | |
史 | あぁ…だから殺されちゃったのね…わかるわかる。(独り言) |
雅 | なッ何読んでんの?またホラー? |
史 | ううん。「あのとき世界が動いた7〜中国四千年の歴史〜」 |
雅 | ……へぇ……っていうか、本になってたんだね其れ……知らなかった。史、そういうの好きだよね。 |
史、急に笑顔になり雅を見る。 |
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史 | うん!!!!だぁぁぁい好き。あのね、「あのとき世界が動いた」の何が素晴らしいって…聞きたい?聞きたい? |
雅 | ……う……うん |
史 | それは何かというと…(抜き)やっぱり隠れた歴史?例えばかの有名な三国志の赤壁の闘い!天下の奇才と呼ばれた蜀の諸葛孔明が、吹かないと言われていた東南の風を吹かせ、見事呉軍を勝利へと導いた!で・も、本当はそれは諸葛亮がいつ東南の風が吹くのかを、風の事に詳しい漁師に聞き、あたかも自分が吹かせたように見せただけのものだった!その事を知らない大衆は諸葛亮の力だと信じ、更に諸葛亮を恐れるようになった!とか、世間的には知られていなかった真実!それを知ったときの快感ったらないよねぇ……雅もそう思わない!? |
雅 | うっうん!すっごく思う! |
史は更に語ろうとするが、ばたばたと走ってくる足音が聞こえガラっと勢いよく優子が入ってきた。優子、凄い服装。(フリフリした服装) |
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優子 | おっはよーございまぁーす☆ちょっと先輩聞いてくださいよー!!私ね、ただ少――しだけ制服を可愛くしただけなのに、野田に呼び出されて説教されたんですよ!?まじで有り得ないですよね!!?今は青春真っ只中じゃないですか、おしゃれしたいと思うのは普通ですよね??それに、普通に制服着てたってつまんないじゃないですかぁ………ねぇ先輩!?この服の方が可愛いー――☆ですよね!!? |
雅 | 可愛い――☆けど、、ちょっと派手すぎるんじゃないかな?これじゃぁ野田先生が怒るのは仕方ないと思うよ…? |
史 | そうかな?私は凄く良いと思うよ?やっぱり、似合う服装をするのが一番だよ。 |
優子 | そうですよね!?それが一番ですよね!?私、先輩もこういう格好似合うと思うんです!!だから先輩も…… |
史 | 私はやんない。 |
雅 | 言っちゃった! |
優子 | そっかぁ…残念……。……雅先輩!! |
雅 | いや!ってか無理。あ……バイト始まっちゃう。私帰るね。 |
史 | あぁ、お疲れ。次は部活いつ来れる?…… って言っても、この人数だから部活も何もないけど。 |
雅 | 今年は一年生も入らなかったし、この人数じゃ大会も出れない。私が来ても、何の意味も無いでしょ? |
優子 | ………あ―――――――――――! |
雅 | どっどうしたのよ! |
優子 | これ……頼まれたの提出するの忘れてました。ぁぁ! |
一枚の紙を取り出して、二人に見せる。 |
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雅 | 演劇部入部届け……1年1組2番……岩上まー……まー…… |
優子 | 麻那ちゃんですぅ! |
雅 | あぁ麻那ちゃん……って、一年生!? |
優子 | 先生に出してきますうぅぅぅ! |
優子が出ようとしたとき、扉が開く音がして岩上が 入ってくる。 | |
岩上 | おはようございまーーーーーッうっっ!!!! |
岩上、入ってきたと同時に見事にすっ転ぶ。 倒れたままなかなか起き上がらないので、雅が 優子に起こすように促す |
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優子 | 大丈夫……? |
岩上 | いったぁ……はっ! |
岩上は起き上がって深々と礼をする。 | |
岩上 | 岩上麻那です!!!!好きな言葉は「友情」「青春」「努力」です!!よろしくお願いします!! |
優子 | よろしくぅー |
史・雅 | ハァ……(二人唖然。) |
岩上 | 私、演劇が大好きなんです!役者と裏方の絶妙なコンビネージョン!凄いですよね……照明と音響と役者、全てがぴったりに合ったとき!あれは全身に鳥肌が立ってしまいますよね!見ているだけで世界に引き込まれて…… |
岩上がしゃべっているうちにFO、喋り続ける 岩上に、暗くなる直前に雅がハリセン一発がる。 暗 転 @ |
第 2 景 |
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場所は演劇部活動場所。 |
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岩上 | あのー…。 |
優子 | ん? |
岩上 | 活動ってしないんですか?発声とか…台本読みとか。ていうか、地区大会って何時なんですか? |
史 | 今年は大会には出ないよ。 |
岩上 | ええええ!!?どッどうしてですか!!? |
史 | この人数見たら分かるでしょ?3人で劇作るのなんて難しすぎるよ。役者も一人芝居しなきゃいけなくなるんだから。 |
優子 | こんな人数で頑張ったって、どうせ地区大会止まり。それだったらやらないほうが時間の無駄にならなくていいよ。 |
岩上 | でも……雅先輩も居るじゃないですか。 |
史 | 雅は就職希望だから、今の時期は凄く忙しいの。それにバイトもしてるしね。私は専門だからまだ時間があるけど、雅には頼れないのよ。 |
優子 | 本当は専門いきたいって言ってましたけどね。亜希ちゃんの医療費がかかるからって言って、ここ妥協して就職にして。最近ずっと悩んでたじゃないですか。行きたいならいけばいいのに。 |
岩上 | 亜希さん? |
史 | 雅の妹。 |
岩上 | 妹…… |
史 | 体が弱くてね、入院してるのよ。 |
岩上 | そう…なんですか…… |
史 | 最近は体調が安定しなくて、入退院を繰り返してるらしいし。それも心配なんでしょうね。 |
優子 | 私、自分の夢があるのにそんなことで諦めるなんて考えられないなぁー。 |
史 | 優子。そんな言い方しちゃだめよ。雅にとってはそんな事じゃないんだから。 |
優子 | ……。 |
史 | だから、今年は諦めよう?私だって出たいけど、今のままじゃどうにもならないわ。 |
岩上、少しう俯いて考える。 | |
岩上 | でも……やっぱり、やってみなきゃ分からないですよ!この人数でも、やれるだけのことはやりましょうよ! |
優子 | 私はやっても無駄な気がするー。人の何倍も頑張って、それで結果が付いてこなっかたら、ただの骨折り損でしょ? |
岩上 | 無駄なんて決め付けちゃだめですよ!やってみてもいないのに… |
優子 | じゃぁ、勝手にしたら?私は抜けるよ?今年はやらないってことだったからバイトいっぱい入れちゃったし。やりたい人だけやればいいよ。 |
史 | 優子あなただって演劇が好きなんでしょ?だったらそういう言い方はないんじゃないの? |
優子 | じゃあ、辞めればいいんですか? |
史 | そういうことじゃないでしょう? |
優子出て行こうとするが、上手から声がして固まる。 | |
野田 | 福野ぉぉぉ!!!! |
優子 | げぇっ!野田先生なんで此処に!? |
野田 | いや、俺この部の顧問だし。 |
優子 | ……あ、そうかぁー優子ッたら慌てん坊さん☆★じゃあ、用事があるので帰りマース。お疲れ様でしたぁぁ! |
優子、人形をとろうとするがそれより野田が先に人形 をゲット。 |
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野田 | いやいや待ちなさいなお嬢さん。お前まだ数学の課題提出してないだろ!!?今日中って言っておいただろうが!!しかもまたそんなかっこして!!何回言ったらわかるんだ! |
優子 | 家にプリント忘れたんです!!明日提出しますから!!そして、そろそろ服のことは諦めてください!! |
野田 | じゃあ新しいプリント渡すから今から先生と一緒にやろう!!そして服のことは諦め切れません!!!!てか校則違反だから!!! |
野田、岩上に気付く。 | |
野田 | おお!!?お前が新入部員か!!? |
岩上 | はっはい! |
野田 | そうかそうか、今年は大会出場はしないみたいだが、来年は楽しみにしているからな!(かっこつけ) |
岩上 | はぁ…… |
野田 | あぁ、俺の名は野田太郎だ。名乗るほどのもんじゃないがな。(かっこつけ) |
岩上 | い…岩上麻那です。よろしくお願いします。 |
優子 | あーーもう返してくださいよ! |
優子、人形を取り返す。 | |
雅 | 忘れ物したあああああ! |
雅、急いだ様子で登場。 野田が居ることに気付き一瞬固まるがスルーする。 |
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野田 | 矢口…おはよう(かっこつけ) |
雅 | 史、私のタオル知らない?(無視) |
史 | 優子ボックスに入ってたかも。 |
野田 | 矢口、俺のでよかったら。 |
野田、青いハンカチをさしだす。 | |
雅・史 | 青いハンカチ… |
岩・優 | ハンカチ王子! |
雅 | 古っ。結構です。あぁ、あったあった。 |
野田 | 雅ちゃぁーん! |
雅 | じゃ、バイト戻るね。(無視) |
優子 | 野田先生も連れてって下さいぃー… |
雅 |
はぁぁぁ!?嫌だし!……はっ…野田先生、職員室戻ったらどうですか? |
野田 | えー?じゃぁ福野も一緒に行かなきゃだな! |
優子 | 嫌ですってばぁ! |
史 | 野田先生 |
野田 | ハイ高安! |
史 | おはよう御座います。 |
野田 | おはよう(かっこつけ) |
史 | 静かにしてもらえませんか。 |
野田 | 高安ッたら俺が来て嬉しいんだな? |
史 | そんなわけあると思いますか? |
野田 | 素直じゃないなぁ、可愛いやつめ(薔薇投下) |
雅 | うわ…(小声) |
史 | 用がないなら帰ってください! |
優子 | そうですよ!早く帰ってください! |
史 | 帰れ。 |
史の一言に一瞬、場の空気が止まる。 | |
野田 | いやいや(素に戻る)そうもいかなくてなぁ……なぁ福野!? |
優子 | 優子わかんなーい! |
岩上 | 雅先輩! |
雅 | ん? |
岩上 | あの…今年の大会って…… |
雅 | あぁ、今年は無理じゃないかな?あ、私急ぐから。 |
優子 | さよーならぁー |
史 | バイバイ |
岩上 | …さようなら… |
雅 | うん、バイバイ! |
雅いそいそと退場。 | |
史 | …さ、いい加減先生も帰りましょうか。 |
野田 | ほら福野! |
優子 | いやっ!優子行かない! |
史と優子が野田を帰らせようと騒いでいる。 |
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岩上 | 野田先生 |
野田 | どうした? |
岩上 | 大会のことなんですが……どうにかして出場できるようになりませんか? |
優子 | 麻那ちゃん? |
岩上 | 一番は、私が出場したいからなんですが……それに今年は史先輩にも、雅先輩にも最後の大会じゃないですか! |
野田 | 出場するのは構わないが、この人数で大丈夫か? |
岩上 | 皆で頑張ればきっと大丈夫ですよ! |
史 | 麻那ちゃん…… |
野田 | 高安と福野はどうなんだ?岩上だけがやりたいって言っても人数が人数だからな。 |
史 | 私は……やりたいです。でも、この人数じゃ劇を作るのは不可能だと思うんです。 |
岩上 | …不可能でも、やってみなきゃ分からない事だってあるじゃないですか!私は、やる前から諦めるなんて、そんなことしたくないんです! |
野田 | 福野はどうなんだ? |
優子 | ……優子は……優子は忙しいんです!だからお部活にはこれません! |
岩上 | 優子先輩…… |
史 | 麻那ちゃん、そんなに出たいの? |
岩上 | はい!皆で頑張って、一つの劇を仕上げたいんです!お願いします! |
史 | ……先生、私からもお願いします。 |
岩上 | 史先輩! |
史 | 何でも、挑戦してみなきゃね。 |
野田 | おぉ!そうかそうか!じゃぁ俺も手伝うからな! |
岩上 | 有難う御座います! |
優子 | ………… |
史 | 優子、私は頑張ってみるわ。 |
優子 | ……私、帰ります。 |
野田 | いやいやお待ちよお嬢さん。それは俺が許さんよ。あんたは今から俺と職員室へランデブー。 |
優子 | はい!?何でですか!? |
野田 | 一緒に数学の課題をやる為にだろ!今日中に提出しないと、唯でさえ少ない平常点をもっと低く しちゃうぞ!!!! |
3人 | きもっ! |
史 | 先生、しちゃうぞとか言っても可愛くないですからね? |
岩上 | 史先輩…はっきり言いますね…… |
史 | はっきり言わないと分からない先生なの。……まぁ、言っても分からない時が殆どだけどね……。 |
岩上 | そうなんですか…… |
野田 | よーし福野行くぞ!!!! |
優子 | いやぁぁ!!いきたくない!!!! |
史 | あ、先生。 |
野田 | なんだ高安? |
史 | もう一ついいたい事があるんですけどいいですか? |
野田 | お?遠慮しないでドンドン言いなさい! |
史 | 先生って…スーツ、似合わないですね。 |
野田ショーーーック。 | |
野田 | ふっ……よく言われる。 |
史 | それだけです。さようなら。 |
野田 | 今度はスーツが似合う男になって帰ってくるからな! |
史 | 早く職員室戻ったらどうですか? |
野田 | おっそうだった!福野とランデブー! |
優子 |
いやぁぁ!返して私のあかりちゃーーーん! |
野田 |
良い夢見ろよ!(再び薔薇投下) |
野田素敵に笑いながら退場。 |
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優子 |
あ!カバン忘れたぁぁぁ!野田先――――――! |
優子再び退場。 史は野田が散らかした薔薇や優子が投げたぬいぐるみ を片付け始める。岩上も手伝う。 |
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岩上 | あの、 |
史 | なに? |
岩上 |
……有難うございます…。大会のこと。 |
史 | あぁ、私も出たいと思ってたし、いう機会に丁度よかったのよ。この人数で辛いと思うけど、頑張りましょう。 |
岩上 | 優子先輩は…… |
いい
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史 | 優子は、あんな態度取ってるけどね、本当いい 子だから。来てくれるのを待ちましょう。 |
岩上 | ……雅先輩は…… |
史 |
……難しいけど、一応話はしてみるつもり。 |
岩上 | あの……雅先輩って、本当は何の専門学校に行きたかったんですか? |
史 | 雅はファッションデザイナー志望だったから、デザイン系の学校。 |
岩上 | ファッションデザイナーですか! |
史 | うちの去年の劇、見てくれた? |
岩上 | あ、はい。見ました! |
史 | あの服全部、雅がデザインしたのよ。 |
岩上 | えぇ!?そうなんですか!凄い…… |
史 | 私も専門学校に行く事をすすめたんだけどね、家の事情とかで… |
岩上 | 妹さんのことでですか…… |
史 | うん。親に迷惑かけたくないって、就職を選んだみたい。バイトしてるのも、亜希ちゃんの医療費を自分も少しでも出せたらって。 |
岩上 | そうなんですか…。 |
史 | まぁ、最終的な判断をするのは雅だからね。私達には何にも出来ない。 |
岩上 | ……。 |
史 | あ、私、用事があるから帰るわね。 |
岩上 | はい…お疲れ様です。 |
史 | じゃあ、明日から頑張ろうね。お疲れ様。 |
岩上 | はい!頑張ります!お疲れ様でした! |
史 | 帰るとき、電気宜しくね。 |
岩上 | はい! |
史退場。 |
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岩上 | ……大会…………よし!!!! |
岩上、部屋の電気を消して(暗転A)退場。 |
第 3 景 | |
場所は病院の待合室。 |
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野田 | 亜希、元気か? |
亜希 | 野田先生……元気だったらここにいないじゃないですか。 |
野田 | だよな! |
亜希 |
相変わらずですねぇ。でも、最近は落ち着いてます。このまま順調に行けば来月には退院できるそうです。 |
野田 | そうか!よかったな! |
亜希 | はい。 |
野田 | そういえば、最近雅はきてるのか? |
亜希 | いいえ、なんか忙しいみたいで……。 |
野田 | そうか……。あぁ、そうだ!今年も演劇部は大会に出るぞ! |
亜希 | ほんとですか! |
野田 | 一年生が一人入ってな、その一年生がまた元気で、大会に出ようってやる気満々なんだよ! |
亜希 | 私も絶対見に行きます! |
野田 | おお!じゃあ尚更頑張らなきゃな!でも、まずは体調を落ち着かせるのが一番だからな? |
亜希 | 分かってますよ。 |
野田 | そうかそうか! |
亜希 | 大会に出るって事は、衣装は今年もお姉ちゃんが考えた服なんですか? |
野田 | …亜希、そのことなんだがな。 |
亜希 | どうかしたんですか? |
野田 | まだ雅には伝わってないんだよ。大会のこと。最近は部活にも顔を出さなくて、いう機会がなくてな。もしかしたら高安が伝えたのかもしれないが、部活に来てないんだよ。だから、お前から雅に部活に来るように言ってもらえないか? |
亜希 | …はい。でも、この時期に顔を出さないってことは、お姉ちゃん、大会があっても出るつもりはないってことなのかも。……私としては、お姉ちゃんに大会に出て欲しいです。でも、お姉ちゃんは就職だし、言っても説得するのは難しいと思うんですけど… |
野田 | そうだなぁ…。 |
亜希 | でも私、お姉ちゃん、本当に就職でいいのかなって思うんです。私の所為で進学したいのに我慢してるのかなって…… |
野田 | 進路を決めるのは雅本人だぞ。でも気になっちまうよな…あ、部活の事は、機会があっちまうたらでいい。 |
亜希 | 分かりました。 |
野田 | じゃあ、そろそろ帰るな。早く良くなって、クラスに戻って来いよ?お前は俺の大事な生徒だからな。 |
亜希 | はい。 |
野田 | じゃあな。 |
野田退場。 |
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雅 | 亜希、ここに居たのね。 |
亜希 |
あ、お姉ちゃん!久しぶり!今日はバイト休みなの? |
雅 | うん。どう?体調は… |
亜希 |
大丈夫。最近は落ち着いてきてるよ。 |
雅 | そう、良かった。 |
亜希 |
さっきね、野田先生がお見舞いに来たんだよ。 |
雅 | 野田先生!?何であんな……あ、そういえば亜 希の担任だったね…。野田先生、何だって? |
亜希 | ……演劇部、大会に出ることにしたんだって。 |
雅 | えっ……? |
亜希 | やっぱり、聞いてなかったんだね… |
雅 |
……ううん、史から聞いた…… |
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亜希 | 野田先生、部活に顔を出してほしいって言って たけど、お姉ちゃんは…大会に出ないの? |
雅 | うん… |
亜希 | どうして? |
雅 | そんな時間……ないよ。バイトだって毎日入ってるし! |
亜希 | バイトなんて辞めればいいじゃない。 |
雅 | 無理だよ…唯でさえ私たち高校通わせて貰って るのに…これ以上お金の面で迷惑かけたくないの。 |
亜希 | ……私の治療代がかかってるから……だからお姉ちゃんはいっぱい我慢してるんでしょ? |
雅 |
亜希、違うよ、私は…… |
亜希 | 違わないでしょ?お姉ちゃんがバイトしてるのも、専門学校に行けないのも、私の治療費がかかるからだもの。だからお姉ちゃん、しょうがなく就職にしたんでしょ……?ねぇ、お母さんもお父さんも学費は何とかするって言ってくれてるんでしょう?お願いだから進学のこともう一度よく考えてみて。そして大会にも出て?好きなことして?お姉ちゃんには、私の分まで好きなことしてもらいたい…… |
雅 | ……そんなこと……できないよ。お母さんにもお父さんにも心配をかけないように就職を選んだの。これは、亜希の所為じゃない。自分で選んだ事なの。だから、自分の所為だなんていわないで。私は、コレで良いの。だから亜希は病気を少しでも早く治すことだけを考えて? |
亜希 | 病気を早く治す……?いつ?ねぇ、私の病気はいつ良くなるの?本当に治るの?私の病気は、どう頑張れば良くなるの?毎日薬飲んで安静にしてるだけ…それだけ。 |
雅 | それだけでも、今できることしなきゃ。 |
亜希 | ……私ね、自由に動ける体があるお姉ちゃんが羨ましいの。 |
雅 | …… |
亜希 | 私は身体が弱いから激しい運動もしちゃいけない。今まで運動会なんて出たことなくて、だからお姉ちゃんが羨ましかった。お姉ちゃんが私の夢だった。だから……! |
雅 | 亜希……就職は私が選んだことなの。後悔なんかしてないよ?それに、もし専門に行った上で、デザイナーになれなかったら?其れが怖いの…お金も時間も無駄にして…そこまでしてデザイナーなんて目指す必要ないよ…… |
亜希 | それでも!……それでも私は、お姉ちゃんの作った服も、演劇やってるお姉ちゃんも大好きだから。…頑張ってるお姉ちゃんが大好きだから…… |
雅 | ……(かたくなな表情) |
亜希 |
私の話し、今のお姉ちゃんには通じないんだね。…今日は帰って。疲れちゃった……。 |
亜希病室に帰っていく。雅俯く。 |
第 4 景 | |
場所は演劇部活動場所。 史と岩上が台本について話をしている。 |
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岩上 | やっぱり、役者は一人芝居になっちゃいますよね。 |
史 | そうだね。優子と雅がいたなら、ぎりぎり二人は出せるけど。 |
岩上 | ……優子先輩も雅先輩も、来てくれないんですかね…… |
史 | どうだろう…でも、私達には来てくれる事を祈る事しかできないから。 |
野田 | お困りのようですねお嬢様方。 |
岩上 | ひぃっ!のっ野田先生!? |
野田、ゴミ箱の中から登場。 | |
史・岩 | ………(沈黙) |
野田 | ……(耐えきれず)…たーろうーちゃん太郎ちゃん♪太郎ちゃんは?(サザエさん風) |
史 | ふ・ゆ・か・い・だ!(低音) |
野田、蓋を閉められて再びゴミ箱の中へ。 | |
史 | 台本どうしようね… |
岩上 | えっえぇ?あの、先生は…… |
野田、少しだけ顔を出してる。 |
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野田 | 高安ひどい……唯の冗談じゃないか… |
史 | 知ってますよそんなこと。 |
野田 | そっかー知ってるかー(ゴミ箱から出てくる) |
史 | はいはい。 |
岩上 | それで、野田先生はどうしてここに? |
野田 | あーー……本当は福野に用があったんだけどな。大会の準備もどれくらい進んでいるのかを見に来たんだよ。 |
岩上 | まだ全然です……。 |
野田 | そうか…まあこの人数じゃつらいだろうからな。雅は来たか? |
岩上 | いいえ… |
史 | 伝えたんですけど、やっぱり無理らしくて… |
野田 | そうか…亜希にも部活に来るように話してみてくれって頼んでおいたんだけどな、やっぱり無理だったか…… |
岩上 | 亜希さんって、雅先輩の妹さんですよね? |
野田 | そうだ。俺のクラスの生徒なんだよ。 |
岩上 | 亜希さんは雅先輩が大会に出ないって言う事を知っているんですか? |
野田 | ああ。そのことがすこし辛そうだった… |
岩上 | ……あの |
野田 | なんだ? |
岩上 | 亜希さんのいる病院、教えてもらえませんか?私、もう一度大会に出てほしいっていうことを雅先輩に伝えてもらえるようにお願いしたいと思うんです。……だめでしょうか……? |
野田 | うーん。それはちょっとなぁ。亜希もまだ本調子じゃないみたいだし、これ以上、負担をかけるのもどうかと思うぞ? |
岩上 | でも、亜希さんも雅先輩のことで辛そうにしてるのなら、先輩が大会に出る事が、亜希さんの気持ちを晴らすことになるんじゃないでしょうか。 |
野田 | ……(考え込んでる) |
岩上 | 先生、お願いします! |
野田 | わかった。でも、長居はするな。迷惑だけはかけないようにしろよ。 |
岩上 | はい! |
史 | 先生じゃないんだから、大丈夫だよね? |
岩上 | 先輩…… |
野田 | 史ちゃんひどーい! |
史、机を叩いて立ち上がる。 上手から雅登場。 |
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雅 | おはようございます。 |
岩上 | 雅先輩!来てくれたんですね!? |
野田 | ですね☆(周りに睨まれる) |
雅 | ……… |
史 | 雅…? |
雅 | 先生。今日は、コレを出しにきただけです。 |
野田 | ……退部届け……? |
岩上 | どうしてですか!? |
史 | 雅、本気なの? |
雅 | …私は出られないって言ったでしょう!?野田先生、どうして亜希に余計なこと言ったんですか! |
野田 | (落ち着いて)俺は、部活に顔を出すように伝えてくれと言っただけだ。 |
雅 | 私はもう演劇なんてしている場合じゃないんです! |
岩上 | そんな……雅先輩は演劇が嫌いになったんですか? |
雅 | 演劇が嫌いになったわけじゃない……。わたしだってできる事なら大会にも出たい…… |
岩上 | じゃあ |
雅 | だけど、そんな時間ないのよ!私がどんな気持ちで就職希望にしたと思ってるの?簡単に決めたことじゃないの、考えて考えて…親が言ってくれている通りに専門に行かせて貰おうかとも思ったこともあるわ、迷っていたの……でも……ダメ……親に、お金のことでこれ以上迷惑かけられないもの。…亜希は、自分のせいでわたしが就職にしたんだと思ってる。そんな心配してもらいたくないから、大会のことは黙ってた……それなのに…! |
野田 | 亜希を巻き込んだにことは謝る。でもな、亜希はなんていっているんだ?大会について、お前の進路について。 |
雅 | 大会に出てほしいと言われました。それから……進路のことも、、専門学校に行ってほしいって… |
岩上 | それだったら… |
雅 | ファッションデザイナーは私の夢だった……でも、今はそんなこと言っている時期じゃないの。両親にお金のことで迷惑かけて、その上でデザイナーになれなかったら何の意味も無い。……そんななれるかどうか保障がないものを目指すより、断然安定した就職を選んだほうが良いって思ったから……。 |
史 | 雅は、本当にそれでいいと思ってるの? |
雅 | ……思ってるよ。 |
岩上 | …私、雅先輩がデザインした服、好きです。 |
雅 | …… |
岩上 | 私がこの学校を選んだのは、去年の劇を見たからなんです。役者全員がすごくキラキラしてて、どうしたらあんなふうになれるんだろうって考えたときに、服のデザインもあるんだなって。シンプルで、でも一人一人の役にあった服で、どこか心惹かれました。それを雅先輩が考えたって聞いて、凄いなって思ったんで巣!だから…… |
雅 | だから!?…だからなんなのよ。私くらいのデザインの才能がある人間なんて沢山いるの!その中で成功できる人なんてほんの一握りしか居ないの。 |
岩上 | でもそれは……私には逃げているようにしか思えません…… |
雅 | 逃げてる…? |
岩上 | 夢からも、演劇からも。 |
雅 | あんたに何が分かるって言うの!? |
岩上 | 亜希さんに心配させてるの、雅先輩のそういう考え方なんじゃないんですか?亜希さんの為、亜希さんの為……そんな事いわれたら悩むのも仕方ないんじゃないんですか? |
雅 | 誰が亜希の為だなんて言ったのよ!?何も知らないくせに!私にどうしろっていうのよ?自由にしたらいいの?お金の事で両親に迷惑かけて、その挙句、デザイナーになれなかったら?私に演劇をことしている時間なんてないの! |
岩上 | でも……! (間) もし、私が亜希さんの立場だったら……辛いです。 |
雅 | …… |
岩上 | やっぱり自分の所為だって思っちゃいます。好きな事してもらいたいです。 |
史 | 雅、進路のことはともかく……演劇部辞めて、亜希ちゃん喜ぶの? |
雅 | ……うるさいのよ……(小声) |
史 | え? |
雅 | うるさい!どうしてみんな放っておいてくれないの!?私が決めることでしょ!?口出ししないで! |
野田 | 矢口! |
雅走ってはける。 岩上が追いかけようとするが史に止められる。 |
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史 | 私達、余計に雅を混乱させちゃったみたいだね。……雅の事は…諦めよう…… |
岩上 | ……先輩どうしましょう!私…言い過ぎちゃって… |
史 | 大丈夫。ほら、そんな顔しないで。次にあったときに謝ればいいわ。まずは優子を説得してみよう。 |
急にガタガタっという音がして、棚の中から優子が 登場。 |
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岩上 | 優子先輩!? |
野田 | 福野!なんか変質者っぽいぞお前! |
優子 | 先生だけは言われたくありません! |
野田 | (しょんぼり) |
岩上 | 優子先輩はどうしてそんなところに隠れてたんですか? |
優子 | 久しぶりに部活来てみたんだけどまだ誰もいなくて、そしたら「福野ぉぉぉぉぉ!」っていう声が聞こえたから条件反射で隠れちゃって……。 |
岩上 | 優子先輩、今日はバイトはないんですか? |
優子 | あー……辞めて来ちゃった! |
岩上 | どうしてですか!? |
優子 | いやぁ…部活が気になって……あの……私、変に意地張っちゃって…。それに、雅先輩の事情も良く考えないで勝手なことばかり言って。私も一緒に劇作りたいです!頼りないかもしれないけど、雅先輩の分まで頑張りますから! |
史 | うん。一緒に頑張ろう。 |
野田 | 先生も全力を出して手伝うからな! |
史 | 邪魔にならない程度にお願いしますね? |
野田 | はーい……(しょんぼり) |
岩上 | あはははっ |
暗 転 C | |
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