宮城県古川女子高等学校演劇部 作 |
BANKA A |
6 六〇年代 | |
ひなた | のわー。 |
中央に安田講堂がある。 | |
ひなた | 何これ。 |
隣全 | 六〇年代へーよーこそー。(シュプレヒコール) |
剛田 | 六〇年代−若者はーみな燃えていたー。 |
袋小路 | 六〇年代−私たちもー若かったーざますー。 |
小池 | わ、私、く、暗い部屋で、さ、催涙弾とか、び、 ビラとか作ってました。 |
隣全 | 懐かしいー。(学生になる) |
姉、ひなたをひっぱる。 | |
姉 | あんたはこっち。(盾とヘルメットを渡す) |
ひなた | 何? |
サオリ | あたしたちは機動隊。安田講堂に立てこもる学生たちをめちゃめちゃやっちゃうの。 |
華恋 | お前たちは完全に包囲されている! |
サオリ | 無駄な抵抗はやめろ! |
剛田 | 何お一国家体制に負けるかー。 |
袋小路 | 安保反対−。アメリカの奴隷になってはいけない ざますー。 |
小池 | 消費税反対。 |
剛・袋 | 違うって: |
姉 | 残りはあの三人なんだけど、しぶといのよこれが。はい。(ひなたに拡声器) |
ひなた | え?は…はやく出てこーい。(弱気) |
学生 | 嫌。 |
ひなた | …だめだ。 |
タエ | 貸しなさい。(拡声器を奪う。顔を隠しながら。)花子、昭子、和子−。おっかさんだよ。人様にご迷惑かけちゃいけないよ。ほら、味噌汁飲みに出ておいで。 |
学生 | かあちゃん。ごめんよー。降伏します。 |
剛田 | そのかわり、条件がある。 |
機動隊 | 条件? |
剛田 | 一九六四年、東京オリンピックが |
学生 | 見たーい。 |
歓声。ピー!!とホイッスル。バレーボールの試合が始まる。 | |
ソ連 | (姉たち) ヘイ!ヘイ! |
日本 | (パート達・円陣) いくぞーおー。 |
ばあちゃんはボール、ひなたは実況。 | |
ひなた | さあ、緊張の一瞬です。ソ連サーブ。おおっと、ナイスレシーブ、…スパイク!入った ! |
ソ連 | ピロシキピロシキ (ロシア語) |
ひなた | 続いて日本サーブ。アンドロポフ、ゴルバチョフ、最後はエリツィンだ、決まった! |
ソ連 | コサックコサック。 |
ひなた | しかし、日本女子強い。あっという間にマッチポイント。あと一点で金メダルです。(みんなの動きスローに) ワン!日本女子、本当に強い。ツー!日本女子はその強さゆえ東洋の魔女と呼ばれ… |
姉 | あ、鼻取れた。(拾おうとする。) |
姉友 | あ。 |
ひなた | タッチネット。日本、優勝です! |
日本 | ばんざーい。ばんざーい。 |
学生 | (泣きながら)素晴らしかった…。これは私達か らの気持ちです。 |
日本 | ありがとうございます。(トロフィーのように受け取る。)ん?これは。 |
タエ | 火炎瓶? |
全 | ぎやー。 |
火炎瓶の押しつけあい。そして…ちゅどーん。 | |
時代は五〇年代へ。 |
7 五〇年代 | |
ひなたたち走り込んでくる。 | |
ひなた | あー、恐かった。ん?この空間、びりびりくる。 |
タエ | この臭いは…。 |
ヌエばあちゃんフラフープを回しながら登場。 | |
キヌエ | ばー!! |
タエ | きえー!! (二人、しつかり抱き合う。) |
ひなた | すごい友達関係。 |
キヌエ | ー九五〇ねーん。人々は貧しいながらも夢を追っていた。エデンの東、ローマの休日、そしてお熱いのがお好き。よく三人で映画を見に行ったもんだよ。 |
ひなた | 三人? |
キヌエ | レディースエンドジェントルメーン、バスト一〇〇ヒップ一〇〇ウエストも一〇〇、ダーラちゃーんー! |
モンローのBGMとともにあやしい照明。 モンローに扮したダーラ登場。 |
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ダーラ | ブーブービドゥ! (キメ) |
タエ | モンロー! |
キヌエ | 最高! |
ひなた | おえ。 |
タエ | 今でもモンローいけるのー。 |
キヌエ | モンローそのものじゃ。 |
ダーラ | 照れるダーラ (スカートちらり) |
タエ | モンロー! |
キヌエ | 最高! |
ひなた | おえ。(キヌエに)…あのー、ここは何をする時代なんですか。 |
キヌエ | 何だったかのー。 |
ひなた | は? |
タエとダーラ楽しげに話。 | |
キヌエ | こらー、ずるい。わしも入れてー |
よける。ダーラとキヌエ組み合う。 | |
タエ | こ、これは! |
ひなた | 何? |
タエ | 力道山じゃ。モンローと力道山、夢の異種格闘技戦じゃ。(感無量) |
ひなた | (とても明るく) よーし、次いこー。 |
タエ | おいおい、ひなた待ってー。(追う) |
キヌエ | タエちゃん、待ってー。 (追う) |
ダーラ | キヌエちゃん、待ってダーラ。(追う) |
三人、同じ走り方で四〇年代へ |
7 四〇年代 | |
ひなたとばあちゃんのみ走ってくる。ぜいぜい言う。 | |
タエ | アワヤ?モンローと力道山がいないー。 |
ひなた | 一九五〇年代はもう終わったの。ここは次の時代だよ。 |
タエ | だとしたら、四〇年代だな。 |
ひなた | ばあちゃんの青春時代? |
タエ | 青春か…そういうたぐいじゃなかったよ。(重くなく) |
四〇年代の人々現れる。きびきびと。 | |
教官 | 宮城にむかい、天皇陛下に対し最敬礼。戦地に赴いている兵隊さんのためにも、残された私たちがしっかりしなければなりません。本土決戦に備え銃後の守りは固くです。 |
全 | はい。 |
ひなた | なんか今度はまじめだね。 |
タエ | これは… |
教官 | (2人に)疎開されてきた方ですね。お並び下さい。 |
ひなた | は、はい。 |
教官 | では、はじめ。 |
バケツリレーがはじまる。 | |
ひなた | これって、早く渡した方が勝ちってことなのかな。 |
タエ | うん… |
教官 | もっと、早くです。もっと。 |
ひなた、疲れてくる。 | |
教官 | そこ! |
ひなた | すいません。 |
教官 | そこまで。つづいて、なぎなたの訓練です・。 |
ひなた | なぎなたー? |
教官 | 女といえども敵の一人や二人倒せなくてはいけません。いっしんに構え。一、二、三… |
ひなた | なんでこんなことしなくちゃいけないの…ばあちゃん、上手だね。 |
タエ | よく、やらされたもんだ。 |
ひなた | もしかして、今度はこれで相手を倒せっていうの?危ないじゃん。 |
教官 | そこ! |
ひなた | すいません。 |
教官 | 整列。これより五分の休憩と致します。解散。 |
ひなた | あー、疲れた。なんかお腹もすいたな…でも、すごいですね。本物っぽくて緊張しちゃつた |
学徒1 | はい、ここしばらくは敵機の来襲もありませんが、いつ来るかはわかりません。常に心を引き締めておくことが大切です。 |
ひなた | はあ。…すいません、ばあちゃんのために手伝ってもらっちゃって。 |
学徒2 | ばあちゃん?いいえとんでもない。まずはお国のため、天皇陛下の為です。 |
学徒3 | 私たちは天皇陛下の赤子ですもの。 |
ひなた | え?いや… |
学徒4 | どちらから疎開していらしたのですか? |
ひなた | 疎開? |
学徒5 | お父上はどちらの方に? |
ひなた | お父さん?あ、単身赴任なんですよ。もう、三年目。 |
学徒6 | 三年…そうですか。私の父も南方で戦っております。 |
ひなた | 戦い?あー、企業戦士っていうからな。 |
学徒6 | ご無事を心からお祈りいたします。 |
ひなた | はあ。ありがとうございます。 |
学徒6 | あの… |
学徒6、ひなたを端の方へ連れていく | |
学徒6 | これ、少しですが‥・ |
ひなた | さつまいも? |
学徒6 | しいー。お腹、すいていらっしゃるんでしょ。 |
ひなた | …はい。 |
学徒6 | お父上のこと、お淋しいでしょうけれど、お互い、頑張りましょう。 |
ひなた | う ん。ありがとう。(二人笑顔) |
空襲警報。一同空を仰ぐ。 | |
ひなた | とびうおの群だ…。 |
人 | B29だー。逃げろー。 |
一同逃げる。めちゃめちゃに。 | |
教官 | 早く!防空壕に避難して。 |
ひなた | なんなの、なんなの。 |
タエ | ひなた、ひなた。 |
爆音。とばされる。 | |
ひなた | いたーい。ちょっと、やりすぎだよ。止めていいよ。お姉ちゃん!お母さん! |
爆音。学徒6らも倒れる。 | |
ひなた | 大丈夫?なに…これ…止まらない…もしかして本当のことなの?…助けて!誰か助けて! |
タエ | ひなた!だめじゃ、離れたらだめじゃ。 |
ひなた | ばあちゃん。 |
爆音。火の手あがる。 | |
ひなた | あついよ、あついよ、だあちゃん。 |
タエ | もう少しの辛抱じゃ。さあ。 |
人 | 防空壕に避難して。早く。 |
ひなた | こっちだよ。 |
タエ | だめじゃ。防空壕はだめじゃ。 |
ひなた | どうして? |
タエ | とにかく、だめなんじゃ。 |
ひなた | でも、死んじゃうよ。行こう。 |
タエ | だめなんじゃ。 |
ひなた | どうして?ばあちゃん。 |
タエ | お願いじゃ。行かないでくれ。ここにいてくれ。 |
ひなた | ばあちゃん。 |
タエ | 一緒にいなくちゃだめなんじゃ。離れちゃだめなんじゃ。 |
よみがえる記憶。 幸せな光景。七夕の願いを一心に書く子。 書き終え、歌いながら短冊を飾る。 そこに若い頃のタエがくる。 |
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妹 | あ、姉さん。…どうしたの?嬉しそうね。 |
タエ | (にこにこしている。後ろ手に何かを持っている。) |
妹 | なあに。あ、何か隠してるでしょう。(見ようとする) なあに、見せて。 |
タエ | はい。やっとできたの。 |
妹 | …浴衣だ! |
タエ | ちょっと寸法をあわせるから、着てごらん。 |
妹 | 朝顔! |
ひなた | 朝顔?あたしのと同じだ… |
妹 | でも、どうしたの、これ。 |
タエ | 母さんのを仕立て直したの。 |
妹 | 母さんの? |
タエ | 一枚だけ、今まで手放さなかった浴衣なの。…それ着て、七夕のお祭り行きなさい。 |
妹 | 姉さん… |
タエ | 本当は新しく作ってあげたかったのだけど。 |
妹 | ううん。これがいい。ありがとう。絶対大切にします。 |
タエ | うん。…さあ、着てごらん、サヨ。 |
ひなた | サヨ ! |
タエ | (着せながら) この浴衣、覚えてる? |
妹 | ううん。 |
タエ | そうよね、母さんが亡くなったとき、おまえまだ三つだったもの。いつもここのところをつかんで、離さなかったのよ。 |
妹 | そうなの? |
タエ | ちょっとでも母さんの姿が見えないと、泣いてね。大変だった。 |
妹 | 覚えてないなあ。 |
タエ | その泣き虫が、母さん、亡くなってからはちっとも泣かなくなった。不思議よね。 |
妹 | ・・・ |
タエ | ずいぶん我慢したんでしょう。 |
妹 | ‥・でも、姉さんがいてくれた。姉さんは、私より淋しかったと思うから。 |
タエ | (手をとめる) |
妹 | (笑って) この朝顔、本当に素敵ね。 |
タエ | 朝顔はね、七夕の花なのよ。 |
妹 | え? |
タエ | 彦星の花という意味の、古い名前を持っているの。七夕の頃に咲くしね。 |
妹 | そうなの?じゃあ、毎年七夕の日は朝顔の浴衣を着て、お願い事をします。 |
タエ | そうね。…ほんとうによく似合うよ。朝顔はサヨのための花みたいだね。 |
妹 | 姉さん‥・さあ、姉さんも書いて。姉さんの願い事は何? |
タエ | 私の?あはは。サヨは? |
ひなた | 願い事・・・ばあちゃんの願い事・・・昔に戻る・・・ |
タエ | その前に、サヨは何を書いたの?(見る)「父様がご無事でありますように。」…そうね、二人でたくさん、お願いしましょう。 |
妹 | はい。 |
タエ | そっちは? |
妹 | 見てはだめ。 |
タエ | 見せて。(見る)「姉さんが・・・」 |
妹 | 「幸せになりますように」…姉さん、私のことを一番に考えてくれなくていいのよ。姉さんはもっと、ご自分のことを大切にして。幸せになって。私がこんなだから姉さんは…。 |
タエ、ふいに、短冊を書き始める。 | |
タエ | (サヨに渡す)「サヨとずうっと一緒にいられますように。」私が、サヨと一緒にいたいのよ。おまえのためじゃないの。それは私の願いなの。 |
妹 | ・・・ |
タエ | 私は絶対に幸せになるわ。サヨと一緒に。 |
妹 | 姉さん…ごめんなさい。 |
タエ | うん。さあ、飾ろう。 |
二人、歌いながら飾る。 | |
妹 | 姉さん。私もいつか浴衣をつくります。姉さんのために、ひまわりの浴衣。 |
タエ | (笑う)そう?楽しみに待っているわ。 |
友人が来たようだ。二人去る。 | |
ひなた | ばあちゃんに妹がいたんだ。サヨ…妹の名前だったんだ。 |
空襲警報。逃げまどう人々。その中にばあちゃんと妹もいる。 爆音。火の手あがる。 |
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タエ | サヨ、ほら、早く。火がまわっているから、口をふさいで、さあ、こっち。 |
妹 | うん。 |
ひなた | (おろおろ)火の海だよ。熱いよ。早く逃げて、早く。爆弾にやられちゃうよ。逃げて!! |
妹 | 怖い、怖いよ姉さん。 |
タエ | もう少しの辛抱だ。さあ。あそこに防空壕があるよ。 |
妹 | いけない、私母さんの浴衣、広げてきたままだ。取ってこなくちや。 |
タエ | そんなのいいよ。 |
妹 | だめだよ。あれは、母さんのかたみだもの。それに、姉さんが作ってくれたのに。 |
タエ | そんなのいいから逃げよう!さあ、壕に入って。 |
妹 | でも、あれは置いていけないよ。私、取ってきます。 |
タエ | サヨ! |
妹 | 大丈夫。お願い、行かせて。 |
タエ | サヨ。…わかった。姉さんが取って来るから。サヨは防空壕に入ってなさい。 |
妹 | 私も行く。 |
タエ | だめ!お前の足では無理よ。 |
妹 | でも… |
タエ | 大丈夫。必ず戻ってくるから。約束する。 |
妹 | …姉さん。 |
タエ | (防空壕の人に)奥につめて下さい。この子をお願いします。 |
壕の人 | ちょつと!危ないよ! |
妹 | 姉さん! 姉さん! |
サヨ、追うのをあきらめ、代わりに、願う、ひたすらに。 タエ、火と煙の中、浴衣を取りに行く。 幸いにして家はまだ無事。笹飾りが弱く立っている。 浴衣を手にし安堵する。 その時、人々の怒号、叫び声が一瞬とぎれた。 静寂。そして閃光。 |
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妹 | 姉さん。 |
タエ | ・・・ |
防空壕に爆弾が落とされた。 浴衣を持ったタエ、壕のあった場所に戻る。 立ち尽くす。 |
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タエ | サヨ…サヨ…。サヨ、浴衣もって来たよ。母さんの浴衣…サヨ! |
壕を掘り始める。 | |
タエ | サヨ・・・サヨ・・・ |
他人 | 何してるの!火がまわってるよ。逃げましょう!もう助からないよ。 |
タエ | サヨ…サヨ…。 |
他人 | いいかげんに (タエを押さえつけるがタエ振り払う) |
タエ | サヨ、いやだ、サヨ! |
ひなた | ばあちゃん… |
タエ | サヨ!!! (泣き崩れる) |
現実へ。ばあちゃん、ひなたを必死に掴んで泣いている。 | |
タエ | 離れちゃだめじや。今度は離れちゃだめじや。ごめんよ。−ごめんよ。 |
ひなた | …ばあちゃん、大丈夫、どこにもいかないよ。…ばあちゃん。ばあちゃんは悪くないよ。全然悪くないよ。 |
タエ | (泣いている) |
ひなた | ばあちゃん。もういいよ。もう、いいよ。 |
パンパンパンと小爆発音。姉登場 | |
姉 | まちがって先に鳴らしちゃった。みんな、準備はいいかな?せーの。 |
みんな出てくる。クラッカーが鳴り響く。 | |
全 | ばあちゃん、七七歳の誕生日おめでとう。 |
姉 | これが最後のプレゼント。私が作らせていただきました。はい。 |
それは大きなひまわりの柄の浴衣。 そのうちに大きな竹飾りがでてくる。 |
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ひなた | わー、大きい。 |
姉 | 今日はばあちゃんの誕生日、そして七夕です。一年に一度、会いたい人に会える日です。みんなで自分の願い事やばあちゃんのための願い事をかいてねー。 |
みな、願い事を書き始める。わいわいと。 隅の方にひなたと、キヌエ |
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キヌエ | 古い暦の時は、七夕の後がすぐお盆じゃったなあ。 |
ひなた | そうなんですか? |
キヌエ | ああ、それが終わるともう夏も終わりなんじゃ。 |
ひなた | ・・・ねえ、キヌエおばあさん。 |
キヌエ | はいよ。 |
ひなた | 聞きたいことがあるんだけど。…ばあちゃんの妹って、知ってる? |
キヌエ | ああ、サヨちゃんな。 |
ひなた | どういう人だった? |
キヌエ | どういう…そうだな、すっきりした…朝顔みたいな子じゃったな。 |
ひなた | 朝顔? |
キヌエ | わしがツバキで、サヨちゃんが朝顔で、おたくのばあさんはひまわり。そんなふうに花にたとえたりしてあそんだものだ。 |
ひなた | そうだったんだ。 |
キヌエ | …戦争で死んじまったよ。 |
ひなた | うん、知ってる。 |
キヌエ | …おたくのばあさんな、自分が朝顔なんて言ったから、はかなく死んだんだ、なんて、こぼしてたよ。 |
ひなた | そんな。関係ないじゃん。 |
キヌエ | 関係ないけれど、関係あったと思いこんでしまうもんだ。 |
ひなた | ばあちゃんにつらいこと思い出させちゃった。悪かったな。 |
キヌエ | いや、逆にずーっとつかえてたものがおりたんじゃないか。 |
ひなた | そう?ばあちゃんはもう苦しまなくていいと思う。楽になっていいと思う。 |
ばあちゃん現れる。 | |
タエ | 何やってんだい!(なんかおもしろいことやる) |
ひなた | 苦しんでないか。 |
タエ | さあさあはやくしないとこの笹竹、わしの願い事だらけにするぞ。 |
ひなた | やだー。今年もいっばい願い事あるんだから。 |
タエ | (走るひなたに)ありがとうよ、ひなた。 |
ひなた | え、何? |
タエ | いやいや。(ひなた、去る。ぼそりと)わしの二〇世紀はおまえたちがいるだけで最高だったよ。 |
ひなた | ちょっとー、ばーちゃん。なにこの願い事。 |
いつまでも話し声。 |
9 日常再び | |
暑さの残る夕方。 | |
ひなた | ただいまー。あーあ、疲れた。もう、こんな時間だし、あれ?ばあちゃんは? |
ばあちゃん、ぬっと現われる。 またなんか食ってる。 |
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ひなた | わっ、あーびっくりした。またなんか食べてんの? |
タエ | (もごもご。ジェスチャーの 「尾」をする) |
ひなた | それより見て!浴衣やっと完成したの。お姉ちゃんが手伝ってくれたおかげでAもらったよ。今日の花火大会に間に合ったー。後で着せてね。 |
タエ | 似合うじゃろうな、サヨ。 |
ひなた | サヨ?!…どうしよう…う、うん。ありがとう、姉さん。 |
タエ | 何言ってんじゃ。冗談じゃよ、ひなた。上手にできたな。 |
ひなた | あ、ありがと。そうだ。これ。(ばあちゃんに渡す) |
タエ | これは…朝顔の種かい? |
ひなた | 生物の発生にもらった。早咲きの品種だからもう、種取れたんだって。今年はもう無理だから、来年蒔こう。 |
タエ | …そうじゃな。 |
ひなた | ばあちゃん、スイカでも食う? |
タエ | それって昨日姉ちゃんが買ってきた… |
ひなた | いいってことよ。食っちゃお。 |
冷蔵庫開ける。スイカを死守する姉がいる。 | |
姉 | スイカは誰にも渡さない… |
二人 | ぎやー!!! |
ひなた | お姉ちやん…もう二〇歳でしょ。ほらー |
姉 | 寒いよー |
ひなた | だから、独り占めはだめなの。 |
姉 | さよならあたしのスイカちゃん。(しかたなく切る) |
母 | ただいまー。 |
ひなた | あ、おかあさん帰ってきた。 |
母 | 買ってきたわよ、あんた達の大好きなスイカ。安かったのよー。 |
姉 | やったー、じやあ、これはあたしの。 |
ひなた | だめだよ、分けてよ。あ、ばあちゃん、もう食ってるし。 |
タエ | 夏の味覚はわしのもんじゃ!。 |
イカ争奪戦。花火の音がする。 | |
母 | あら、花火、始まったようね。 |
ひなた | えー、浴衣着なきゃ。 |
姉 | きれー。 |
母 | ほんと(。 スイカ、もうすこし切りましょうね。(姉と去る) |
ひなた | (浴衣を慌てて着ている)ねえ、ばあちゃんも浴衣着なよ。お姉ちゃんが作ったやつ。夏なんだし。 |
タエ | そうじゃな。…ひなたは夏が好きか? |
ひなた | うん。…でも、いろんな夏があったんだね。なんかね、今年はもう、夏をひとつ終わらせたような気分だよ。まだ、始まったばっかりなのに。 |
タエ | そうか。…ひなた、さっきの朝顔の種の許なんじゃが。 |
ひなた | うん。 |
タエ | いろいろ考えたんじゃが。 |
ひなた | うん。 |
タエ | スイカの種も一緒に蒔くっていうのはどうだろう。 |
ひなた | え? |
タエ | そしたら、もっと楽しいぞ。 |
ひなた | わかった。そうしよう。嬉しいね。夏の初めなのに、もう次の夏のこと考えられるなんて。 |
母、姉。スイカを持って戻ってくる。 | |
母 | 何の話? |
ひなた タエ |
内緒。 |
姉 | なによー。 |
タエ | 夏はこれから、って話。 |
花火。四人を照らして。 | |
みんな | たまやー。 |
・・・・・・・・・・・・・・・・ 幕 |