宮城県古川女子高等学校演劇部 作 |
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BANKA @ |
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登場人物 | |
栗原ひなた | |
栗原タエ | ひなたの祖母 |
栗原さつき | ひなたの姉 |
栗原和枝 | ひなたの母 |
サオリ | 姉の友人・ギャル |
華恋 | 姉の友人・ロリータ |
早内 | 母のパート仲間・レジ |
小田辺 | 母のパート仲間・試食 |
緒方 | 母のパート仲間・生鮮 |
剛田 | 隣人・オバタリアン |
袋小路 | 隣人・ザマス |
小池 | 隣人・オドオド |
安本ダーラ | 祖母の友人 |
源キヌエ | 祖母の友人 |
サヨ |
プロローグ | |
七夕の夜――盆につながるたましいの祭りの夜―― 時は満ち たったひとつの願いはともされた けれどそれは束の間のこと |
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ワタシタチ コナゴナニ ナルノ? ハイイロニ ナッテ トンデ ユクノ? |
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遠くで――花火の音ならばよかったのに | |
さあ 逃げなさい | |
火の川がやってくる |
1 日常 | |
ひなた、学校から帰ってくる。暑い。 | |
ひなた | ただいまあ。あーあ、暑かった。扇風機、扇風機。 うー、涼しい。(涼む)…あれ、ばあちやん、いないのか な? |
返事なし。ばあちゃん、ごく近くにいた. 何かをもぐも ぐしている。 |
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ひなた | (気付き) わっ、あーびっくりした。何食べてんの。 |
タエ | (もごもご) |
ひなた | あー? |
タエ | |
ひなた | |
ばあちやん、ジェスチャーをはじめる。 | |
ひなた | 尾?蚊?襟…(おかえりか。) ただいま。で、何食 べてんの? |
タエ | (もごもごもごもご) |
ひなた | なんだって? |
また、ジェスチャー。 | |
ひなた | よしっ!象!ラブラブ。水…やかん、水…やかん、水ようかん!あー、よし蔵さんからもらった、愛の水ようかん! |
あたり。二人で大喜び。 |
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ひなた | で、あたしにもちょうだい。 |
タエ | いいや。…これは、わしへの愛。よし蔵さん、あーん。(酔う) |
ひなた | この頃すっかりよし蔵さんモードなんだから。天国の じいちゃんかわいそ。 |
ひなた、ばあちゃんをあとに冷蔵庫に。 | |
ひなた | あれ、たしかこの辺に取っておいたはずなんだけど・・ |
ばあちゃん、どこからともなくスイカを取り出し、 スピーディに食い始める。 |
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ひなた | しかも、速! |
タエ | ごちそうさん。 |
ひなた | あーっ。 |
タエ | おまえも、何かあったときは、まず食べなさい。人間、体が資本だからね。 |
ひなた | まーね。そうじゃなくて、 スイカ 、返してよー。 |
タエ | |
ひなた | 速っ!あー、あたしのスイカ…夏の夢が祖母の体体内でゆっくりと分解され、エネルギーとして化学変化してゆく |
タエ | |
姉、帰ってくる。 | |
姉 | |
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姉 | ひなた!ないじゃないのよーあたしのスイカ。 |
ひなた | |
姉 | |
ひなた | え?あ?そうだっけ? |
姉 | もう。今度から、スイカにも名前書いておかなくちゃ。 |
姉、投げ出されたひなたのバックにつまずきかける。 | |
姉 | ちょっと、こんなとこに置かないでよね。 |
ばあちゃんとひなたはふざけている。 姉、バックからはみ出ているものをひっぱる。浴衣。 |
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姉 | 浴衣?どうしたの、これ。 |
ひなた | (奪い取る。) やだー。見ないで。どうせ、下手って言うんでしょ。 |
姉 | まだ、言ってないでしょ。 |
ひなた | …家庭科の授業で作らされてんの。締切もう少しなんだけどぐちゃぐちゃで。お姉ちゃんはプロだし、見てもらえないかなあ、なんて… |
姉 | 着てみな。 |
ひなた | ほんと!ありがとf。ばあちゃん、着せてくれる? |
ばあちゃん、浴衣が現れてから、ぼーっとしている。 | |
ひなた | ばあちゃん、聞いてる? |
タエ | あ、ああ。 |
浴衣を着始める、ひなた。 | |
ひなた | ばあちゃんもよく浴衣着た? |
タエ | あ、ああ。 |
姉 | ほら、ここがつれてるの。もっとのばさないと。なんか、おくみの付け方、間違ってない?裾も…ええ?袖も? |
ひなた | わかったわかった、直すよー。っていうか、お願い。 |
姉 | もう。大切に作って大切に着てあげなきゃ駄目だよ。 |
ひなた | でも…お姉ちゃんみたいな才能ないし。 |
姉 | 才能以前の話です。でも、浴衣もいいね。あんた が浴衣なんて子供の時以来だよね。ねえ、ばあちゃんの若い頃ってどんな柄がはやってたの?今度、そっちの勉強もやるんだ。 |
タエ | …朝顔 |
ひなた | そう、この柄渋いけどかわいいでしょ。 |
姉 | あたし、針持ってくる。(去る) |
タエ | (着せながら)…あんたにいちばんよく似合うよ。この浴衣、本当に好きだったよねえ… |
ひなた | ん?何言ってるの? |
ばあちやん、帯を締める。手がふるえている。 | |
ひなた | 苦しいよ。どうしたの、締めすぎだよ。 |
タエ | サヨごめんね、ごめんね。 |
ひなた | えっ?何?どうしたの、ばあちゃん? |
タエ | あの等、あの時私が…サヨごめんよ |
ばあちやん、肩がふるえている。ひなた、困る。 | |
ひなた | ばあちゃん、ばあちゃん、どうしたの? |
タエ | 苦しかったろう…サヨ、サヨ… |
ひなた | 何?あたしはサヨじゃないよ。ひなた、だよ。もう、やだよ、どうしたの? |
うなされるように、サヨ、というおばあさん。 | |
ひなた | ばあちゃんってば!…おかしいよ…やだ…もう、やめて! (突き飛ばす) |
姉、来る。 | |
姉 | どうしたの、大声出して…!。何やってんの。 |
ひなた | ばあちゃんが、何か変なの。 |
姉 | 大丈夫?ばあちゃん。どうしたの? |
タエ | あ、いや、なーんか、突然寝ちまったよー。やんだねえ、この前まで女学生だったのに、こんなに年とっちまって。 |
ひなた | 今寝てたの?…あー、もう、びっくりしたよ。すごい寝言だったよ。 |
タエ | そうだったが?なんてったって今度の七日がくれば七十七だからな。 |
ひなた | そっか、ばあちゃんの誕生日って、七夕だもんね、って、すごくない?七月七日七十七歳! |
姉 | スリーセブンじゃなくてフォーセブン!もう、確変、でまくりだよ。 |
ひなた | 何の話? |
姉 | ラッキーセブンが四回も。 |
ひなた | 超幸福。願い事なんでもかなうね。 七夕だし。 |
タエ | 願い事… |
ひなた | ねえ、プレゼント何がいい?ここで聞くのも何だけど、本人のリクエストが一番確実だし。(姉に)ねっ。 |
姉 | う ん。いいよ。バイト代もあるし。 |
ひなた | ね、言ってみて。さっき…ごめんね。痛かった? |
タエ | いや…なんでもいいのかい。 |
ひなた | なーんだっていいよ。さあ、ばあちゃん。 |
タエ | じゃあ…よし蔵! |
ひなた | だめ。よそん家のものでしょ! |
タエ | やっぱり。(さめざめ) |
姉 | いいんじゃないの? |
ひなた | だめ! |
姉 | 女子高生、意外に潔癖ね。 |
タエ | 冗談だよ。このボデーで落とす! |
ひなた | もっと、たち悪い。で、真面目に、ばあちゃんのいちばんの願いは何? |
ばあちやん、もじもじしている | |
ひなた | なんかあるんでしょ。…ねえ、ほんとにさ、なんでもできるだけ叶えてあげる。叶えてあげたいの! |
ひなた興奮、動く。姉の持っていた針、誤ってひなたに刺さる。 | |
ひなた | いっでー。 |
姉 | ちょっと、動かないでよ。 |
ひなた | 痛点の、ど真ん中だ…。 |
タエ | 昔に戻りたい。 |
ひなた | え、何? |
姉 | 昔? |
タエ | 昔に戻りたい。 |
ひなた | …昔…いや、それは。 |
タエ | 昔に戻りたい…(とても淋しげ) |
ひなた | いや、あ、あの…それが、一番の願い? |
タエ | (こっくり) |
姉 | でも、それってどう考えても物理的に無理なんじゃない? |
タエ | …。(とても淋しげ) |
ひなた | わかった! |
姉 | え? |
ひなた | あたしに任せておいて。必ず昔に戻して見せましょう。 |
タエ | (うれしそう) |
姉 | ちょっと… |
姉の携帯が鳴る | |
姉 | はい、もしもし、あ、母さん、うん、うん、いるよ、うん、分かった。じゃあね。(切る) |
ひなた | 母さん、なんだって? |
姉 | ちょっと、遅くなるって。でさ、夕飯作っててほしいって言われたんだけど・・・ |
タエ | よし蔵さんが呼んでいる…(すかさず去る) |
ひなた | あ…よし蔵さん。(姉に脅され)…ごめんなさい。 |
姉 | よろしくね。ねえ、それよりさっきのあんた、どうするつもり? |
ひなた | さっきのって? |
姉 | あんたさ、大見得きったじゃない。ばあちゃんを昔に連れていくって。 |
ひなた | うん。 |
姉 | どうすんの。 |
ひなた | どうしよう。 |
姉 | は? |
ひなた | どうしよう。 |
姉 | どういうつもりで約束してんの?信じらんない。 |
ひなた | だってさ…ばあちゃんのあんな淋しそうな顔初めて見た。昔に戻りたいなんて、今の生活嫌なのかな、それとも、なんかやり直したいことでもあるのかな。 |
姉 | そりゃあ、あたしたちの何倍も生きてるんだもん、ああいう人でもあるでしょ、トーゼン。 |
ひなた | うん…なんか、ばあちゃんが、ふっと遠くに行くような気がして、すごい嫌だったの。…さっきも寝言って言ってたけど、嘘だよ、あれ。なんかおかしいよ、ばあちゃん。…お姉ちゃん。サヨって誰か、知ってる?ばあちゃんと関係ある人で。 |
姉 | さあ、知らないけど。 |
ひなた | ばあちゃん、あたしのこと、サヨって呼んでた。その時…とてもいやだった。どんどん歳をとって、あたしのこと、わかんなくなって、他のこともわかんなくなって…そしたら、ばあちゃんはどうなるの?そんなの怖いよ、可哀想だよ。だから、ばあちゃんが喜ぶこと、絶対してあげたいって思ったの。 |
姉 | ふーん。で、どうすんの? |
ひなた | どうしよう。 |
姉 | できないこと約束してがっかりさせる方がひどい時もあるんじゃない。 |
ひなた | うん… |
姉 | (嘆息) 昔ねえ。懐かしいおもちゃでも、買ってあげたら。 |
ひなた | うーん。 |
姉 | 駄菓子屋巡りとか。 |
ひなた | うーん。 |
姉 | あ、SL列車に乗せてあげる! |
ひなた | うーん。 |
姉 | 日光江戸村の入場券とか? |
ひなた | うーん。 |
姉 | なによ、自分も考えなさいよ。せっかく珍しくあんたがいいこと言うから、手伝ってやろうとか思ったのに。 |
ひなた | うーん…!お姉ちゃん、ノーベル賞取るくらい、すごい博士親戚にいない? |
姉 | なんで。 |
ひなた | タイムマシン作ってもらうの。 |
姉 | あんたいくつ? |
ひなた | アインシュタインの相対性理論習ったもん!秒速三〇万キロの光より速く進めば、多分過去に行ける。 |
姉 | どうやって進むの? |
ひなた | アメリカNASAなら、できないかなあ。 |
姉 | 無理無理。 |
ひなた | ロシアや北朝鮮は? |
姉 | 無理。 |
ひなた | 人間じゃだめか・・・あーあ、ドラえもんでもいたらなあ。 |
姉 | 顔似てんのにね。 |
ひなた | え・・・ |
姉 | もっと現実的に、ひなたができること考えなって。 |
ひなた | あたしができること、あたしが・・・うーんうーんうーん(しばし悩んで)・・・そうか! |
姉 | 何? |
ひなた | あたしが、ドラえもんになる。 |
姉 | え? |
ひなた | タイムマシン、自分で作ればいいんだ。 |
姉 | はあ? |
ひなた | でもなあ、やっぱ、スネ夫もジャイアンもしずかちゃんも欲しいよな。 |
姉 | なんですと? |
ひなた | 人がたくさん必要だよな…。でもあたしの友達、いま浴衣づくりでいっぱいいっぱいだし…。ねえ、お姉ちゃん、協力して。お姉ちゃんは…ジャイ子、じゃなくて出来杉くん。 |
姉 | ○×★□ |
ひなた | よーし、ばあちゃん、待っててよ。願い叶えてあげる。晋に戻してあげるよ。それも、うんと楽しい昔。 |
2 みんなお願い | |
姉 | (携帯で) っていう訳なの、え、わけわかんないって?ま、来てみてよ。かなり面白いかも。 |
サオリ | (マスカラつけつつ)おっけー、行ってあげるよ。その代わり、男紹介して。 |
華恋 | (ぬいぐるみに)七夕の日も、一緒にいこうね。きゃ。 |
ひなた | 母さん、よろしくね、人集めて。 |
母 | はい。あんたにしては上出来よ。という訳なの。早内さん。 |
早内 | いいよ、遅番だし。(レジの前)レジをつとめて十数年。あたしの早打ちが役に立つのなら。 |
母 | んー、どうかなー。小田辺さまは? |
小田切 | いいよ、その日休みだし。三丁目の缶詰工場跡に行けばいいのね。あ、ちょっと待って。はーい、そこのお嬢さま、このウインナーちょっと食べてみて。二袋で三百九十八円。まいどどうもー。…で、なんだつけ?あ、いいよ、その日休みだし。 あ、お嬢さま、ウインナー… |
母 | 緒方さんは。 |
緒方 | (肉を切る。) はあっ。その日仕事だけど、はあっ、全然OK。で、そっちの時給いくら? |
ひなた | ねえ、隣のおばさんたちどうする? |
姉 | いらないいらない。 |
剛田 | (どやどやと) ちょっとー聞いたわよ。楽,しいことするんだって。 |
姉 | 鍵掛けてたのにどこから… |
袋小路 | おばあちゃまのお祝いを内緒にしとくなんて水くさいざます。あ、トイレットペーパーきれてたざますよ。 |
姉 | あんたが昨日はずして持っていったんでしょ。 |
小池 | ふ、ふとん、干してね。寝心地よくなかった。 |
姉 | うちで寝てたんかい。 |
隣全 | ご近所づきあいって、大事よねー。 |
ひなた | あの…ばあちゃんの大親友のお二人にぜひお願いしたいことが… |
安本 | (スープをかき回しつつ) まかせんしゃい…行くダーラ。 |
ひなた | いや・・・まだ何も言ってない・・・ |
キヌエ | タエさんをはめる作戦じゃろ。まかしぇろ。 |
姉 | この人達、あなどれない。 |
3 昔へ行こう | |
ばあちやん、ぼーつとしている、この頃特に。 ひなたと姉合図をかわす。 |
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ひなた | ばあちやん。 |
タエ | ・・・・ |
ひなた | ばあちゃん |
タエ | ? |
ひなた | お待たせしました。今日は七夕祭りの日だよ。 |
タエ | ああ、なんだか威勢のいい声が聞こえるね。今年は御輿も出てるのかい? |
ひなた | そう、ばあちやんを迎えに来るためのね。 |
タエ | あーわしの…つてええ?お迎えはまだ早いよ。 |
ひなた | 違うよ。さ、一緒に行こう。前に約束してたよね、ばあちやんの願い事叶えるつて… |
タエ | 嫌だよー、死にたくないよー。 |
ひなた | あのね、違うの。ばあちやん、昔に戻りたいって言ったじゃん、だからいろいろ考えて… |
タエ | なんまいだーなんまいだー。 |
ひなた | あー、もう。…あのね、よし蔵さんも来るかも…。 |
タエ | そりやあ、話は別だわ。もう、どこへでも行くよ。 |
ひなた | ほら、来た来た。 |
タエ | |
わっしょいわっしょいと御輿が来る。 御輿は、ばあちゃんとばあちゃんの願いを乗せて、 威勢良く進んでいく。 |
4 九〇・八〇年代 | |
御輿、またやってくる。ばあちゃんを下ろし、さあっとみんな消える。 リング出てくる。 |
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タエ | ここはどこじや。よし蔵さんは? もしやわしは死んだのかえ? |
ひなた | 違うよ、ばあちゃん。 |
猪木の音楽。姉、レフリーとして登場。 | |
姉 | ばあちゃん、ようこそ。さあこれから「昔に戻るツァー」が始まるよ。歴史を遡る度、いろいろな問題が出されるからクリアして進んでいってね。 |
タエ | なんじや、なんじや。 |
姉 | まずは、一九九〇年、そして八〇年代にはやったダンスをダンシングしてもらいます。素敵に踊った方の勝ち。挑戦者を紹介しまーす。赤コーナー、一三八パウンド、七十七歳タエさんとその孫ー。 |
ばあちゃん、のりのり。 | |
姉 | 迎え撃つチャンピオンは、青コーナー個性きついぜ二〇歳コンビ。 |
サオリ | サオリでーす。生足でがんばりまーす。 |
華恋 | 華恋でーす。得意技はまつげビーム。ぴぴぴ… |
姉の友アピール。 | |
姉 | いよいよ、対決。まず一回戦…ファイ! |
ゴング。音楽。姉友チーム扇子を出し踊る。結構華麗。 | |
姉 | そう、九四年に閉鎖されるまで一世を風摩した「ジュリアナ東京ダーンス」。ボディコンの姉ちやんたちがお立ち台の上で夜な夜な踊りまくったー。 |
ばあちやん、姉友チームをじっと見ているが、踊り始める。 | |
タエ | ほれほれほれ (踊る。なかなか腰使いが上手。) |
ひなた | ば、ばあちや…えーい。(踊る) |
姉 | おおっとこれは、挑戦者チーム、意外な健闘。 |
友チームあせる。激化する対決。ばあちゃんの踊り、二倍速になっ ていく。ゴング。 | |
姉 | 勝負あり。早い、ヤバい、キモい。挑戦者! |
姉友、悔しがる。 | |
姉 | (ごめんねと手をあわせ。) 続いては第二ラウンド…おーこの音楽は、ブレイクダンス! |
姉友、気を取り直して踊る。 | |
姉 | 日本では八四年のマイケルジャクソン「スリラー」、八九年のMCハマーで、文字どおり大ブレイクしたー。 |
ひなた | えー、ブレイクダンスわかんないよ。 |
タエ | 回ればいいんじゃ。 |
ばあちゃん、回る。でも、止まる。 | |
タエ | 回らん。 |
ひなた | いくよ。 |
ひなた、ばあちゃんを回す。 | |
姉 | お一つと、回っております。時速八〇キロで回っております。(ばあちゃん倒れる。カウント) |
ゴング。 | |
姉 | チャンピオンの勝ち。そして、ファイナルステージだ。最後はこれだー。(姉、飛び出す。) |
音 楽 | |
華恋 | 八〇年代はじめに惜しまれながら解散した、スーパースターピンクレディ。 |
姉とサオリ「UFO」踊る。 しかし、ばあちゃんと孫はもっと素晴らしく踊る。 曲、終わる。わき起こる拍手。 |
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姉・サオリ | 解散します。 |
華恋 | チャンピオン、マットの海に完壁に沈みました。 |
姉 | …ということで、九〇年代八〇年代クリアです。負けチームには罰ゲーム。 |
姉友 | えつ、聞いてない。 |
姉 | 罰ゲームは・・・(紙ひらく)メイク完璧に落とせ。(一斉にサオリを指差す。) |
サオリ | …あたし?まじで? |
華恋 | そういえばー、サオリちゃんのほんとの顔見たこと無−い。 |
姉 | あたしも。見たい。 |
人現れ、サオリを連れていく。姉と華恋もわくわくしながら行く。 袖で悲鳴。 |
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姉 | いやーばけものー。 |
ひなた | お姉ちゃん、友達なくさないかな。…次、いこ… |
5 七〇年代 | |
ひなた | 次は七〇年代だね。楽しい? |
タエ | ああ。今度は何をするのかねえ。 |
ひなた | (うれしそう。) |
がらがらと台車を押してくる母。 | |
母 | ようこそ、一九七〇年代へ。 |
ひなた | お母さん。(手を振る。母も振り返す。) |
母 | 先ほどのご褒美です。じゃじゃーん。 |
ひなた | やった…つて何これ。ただのトイレットペーパーじゃん。 |
母 | ただの?いいえ、七〇年代といえばオイルショック。七三年の第四次中東戦争の勃発で、石油の値段が上がり、トイレットペーパーが手に入らなくなる、っていうデマが流れてね。買い占める人で、ほんとパニックだったわ。 |
タエ | 懐かしいねえ。ほんと貴重だったよ。紙様、いただきます。(もっていこうとする) |
母 | 待って。ところが、一個足りないの。一〇〇個あるはずが、九九個しかないのよ。 |
タエ | なんだって。 |
母 | その一個は、これから出てくる三人のパートさんのだれかが持っています。事情聴取をして、犯人を見つけてね。あたったら、全部差し上げます。 |
タエ | よっしやー。 |
ひなた | なんか、気がのらない。 |
母 | いいから、はい。(タエとひなたに「山さん」と「ジーパン」 のグッズを渡す) 私は婦人警官。取り調べは七曲署で行います。 |
ひなた | 何、これ。 |
タエ | お、ひなたは 「ジーパン」デカじゃな。 |
ひなた | ばあちやんは? |
タエ | 「山さん」 じゃ。 |
母 | 捜査開始。 |
パート、登場。 | |
早内 | 早内です。三十八歳。レジ担当。特技暗算。 |
タエ | 早内さん、あんた、昨日何してた? |
早内 | 昨日は大阪万博へ行きました。 |
タエ | 証拠は? |
早内 | 太陽の塔の下で万博へ来た人の人数を数えてました。昨日はのべ八十三万二百四十三人、うち外国人は二万二千四百十六人でした。つまり、全体の二.七パーセントが外国人です。 |
タエ | 確認! |
母 | (電話で)はい。事実です。 |
ひなた | はや。 |
タエ | 白か。…次 ! 。 |
小田辺 | 小田辺です。四十一歳。試食担当です。 |
タエ | 昨日のアリバイは? |
小田辺 | 銀座にマクドナルドつて店ができたから行ったのよ。そしたら、パンにハンバーグ挟んだだけじやない。ミミズの肉よ、あれ。それより、店員のスマイルが悪い。「いらつしやいませ」心を込めなくちや。 |
タエ | それを証言する人は? |
小田辺 | 店員に聞いてよ。 |
ひなた | 覚えてるわけないよ。 |
母 | 確認済みです。 |
ひなた | なんで? |
母 | 小田辺さんは接客態度が悪いと言って、全員をスパルタで指導したそうです。感謝状が届いてます。 |
タエ | こいつも白か…次 !。 |
詰方 | 話方、四十四歳。特技力仕事。 |
ひなた | 昨日は… |
詰方 | 原宿のホコ天行ったのよ。知ってた?ホコ天って、天ぶらじやないのよ。ガハハ。そこに、タケノコ族がいたんだけど、タケノコじやないのよ。ガハハ。楽しそうだったから一緒に踊っちやつたわ。 |
母 | 被害届が出ています。 |
詰方 | しゃべったらのどが渇いたわね。お茶もでないの? |
母 | あら、ごめんなさい。 |
タエ | その後は? |
詰方 | 上野動物園にランランカンカンを見に行ったよ。おいしそうだったねえ。 |
ひなた | (母の置いていった紙をみて) パンダと戯れるジャイアントパンダとして騒ぎになつてます。 |
タエ | ジーパン、犯人はだれだ? |
ひなた | 山さん、わかりません。 |
母、お茶を持ってくる | |
母 | はいはい、今はやりの紅茶キノコですよ。 |
パート達、勢いよく飲む。腹が痛くなる。 | |
タエ | ひっかかつたな。下剤「スグクダール」 を入れたのさ。トイレはあつち。でも、トイレットペーパーはないよ。どうする? |
全 | 犯人は? |
詰方 | ごめんなさーい (去る) |
母 | おめでとう。はい。(小声で) これうちのなんだから、戻しておいてよ。 |
ひなた | ばあちゃん、よかったねー。 |
タエ | いやいや、それほどでも・・・へ、へ、へっくしょん! |
ペーパーの山につっこむ。ペーパー転がる転がる。 | |
ひなた | なんじゃこりゃー。 |
母 | うちのトイレットペーパーなのよー。 |
みんな転がって、次へ。 | |
BANKA A へ続く |