Aqua  Sky A

     照明変わる。
女2 先生大丈夫ですか。?
男1 えっ、ここは?
男2 居眠りししないで下さいよ。
女3 まったく、どうしようもないんだから。
男1 い、いや、ちょっと疲れてるようだ。
男3 禄に仕事もしてない癖に。
女3 本当本当
男1 なんだよ、その言い方。
女2 少し練習見てて下さい。
男1 練習?
女2 この脚本でやれるかどうか。ちょっと実験してみたいんです。
男1 この脚本?
女2 なんだか難しくて。
男1 (男2の脚本を奪って)ここは何処だろう。
男2 なんだよ急に!
男1 水底に沈むような感覚が長く長く続き、ふと唐突に目覚めた後・・・・。
男3 何言ってるんですが。?
男1 この脚本のタイトルは?
女3 タイトルですか?
男3 タイトル?
男2 そういえばまだ聞いてなかったなあ。
女2 「夜明け前という名のオヴジェ。」
男1 「夜明け前という名のオヴジェ」もしかして・・・・。
男2 もしかして?
男1 僕はそこを目指した。
女3 そこ?
男1 脚本に書いてあるだろ?
男2 脚本に?
女2 あなた方が作ろうとしているオヴジェ、それが完成するまでここから出ることはできない。
男1 僕らはこの芝居を完成しなくちゃここから出られないんだ。
女3 ここ?
男2 悪魔!
男3 悪魔って、あの悪魔?
男1 違う!
女2 「水」という意味ですよね。
女3 水?
女2 さう、水。
男1 「aqua」に覆われた真夜中という名のオヴジエ。
女3 確かに脚本には書いてあるけど・・・・。
男1 僕らは拉致されたんだ。
男3 拉致?
男2 乳・・・(蹴られる)
女3 拉致って今話題の?
女2 拉致監禁された。確かに脚本にはそう書いてあります。
男3 ここは北朝鮮か?
男2 ピョンヤン?
男1 そうじゃなくて、僕らは本当にここから脱出できないんだよ。
男2 それじゃあ行って来ます。
男2 ただいま。
女3 何やってるの。
男2 いやね、簡単に出られるよ。これが向かいのサンクスで買ってきた肉まんです。
男1 そういうことじゃなくて!
女2 先生疲れているんですよ。
女3 仕事は全然してないのにね。
男1 その脚本をとこで?
女2 脚本?
男1 その脚本を書いたのは誰だ?
女3 だからこれは先輩がインターネットで。
男1 だから、どこから発信されたものなんだ?
女2 ・・その著作権の問題もあるので調べたのですけど・・・。
男1 で?
女2 わからなかったんです。
男1 分からない。
女2 でも、これは自由に使っていいそうですから・・・。
女3 先生、少し休んでいて下さい。
男2 寝ぼけてんじゃないよ。
男3 そうだ、そうだ。
女2 それじゃあ、堀籠君の登場シーンから行くね。
男3 O K ! 
   S  E  。
男3 秋ですね。秋といえば食欲の秋。
男2 秋といえば食欲の秋でんねん。
男3 マツタケの秋。
男2 マツタケは土瓶蒸しでんねん。
男3 秋といえば、芸術の秋。
男2 芸術の秋おまっせ。
男3 芸術と言えば、絵。
男2 芸術といえば絵・・・・ではないでしょ。
男3 失礼しました。芸術といえば・・・。
男2 芸術と言えば・・・・。
男3 はて?
男2 馬鹿もん!
男3 殴ることんいじゃあないですか。
男2 芸術と言えばね、皆さん。
男3 皆さん何やってるんですか?こんなに大勢集まって・・・・えっ演劇を見ている。ほおそりゃ暇人ですね。
男2 馬鹿!演劇こそ真の芸術じゃあないか!
男3 はあ。そうですか?
男2 そうですがじゃあない!
男3 はあ、すみません。
男2 というわけで今日は演劇を使って僕がどうやってここに来たかを教えてあげましょう。
男3 ここに来るにはですね、地下鉄に乗って旭ケ丘駅で降りて
男2 信号渡って一分、違う!
男3 違うんですか。
男2 比喩的な意味で言ってるの!
男3 というわけで第二部「堀籠はこうしてここにやって来た、は始まるのだった。
     明かりが変わる。
    男2、歌を歌い終わる。
男2 ありがとうございました。ありがとうございました。未来のビッグアーティスト、「ホリゴメコウ」君の無名時代の歌を生で聞くことのできたあなた。あなたは本当に幸福です。さあ、あなたが今僕の歌を2003年11月15日、午後3・・09分に聴いたのだという証拠を差し上げましょう。そうです。あなたは僕のこのデビューシングルをたった千二百円で手に入れることができる。もちろんこの僕が直筆でサインしてあげましょう。五年後、あなたは周囲からうらやましがられることでしょう。このCDも何でも鑑定団に出すと一億円の値をつけること間違いありません。・・・あれ、皆さんどうしたんですか?これは投資ですよ。勇気をもって投資する。バブルがはじけてすでに十年以上。こんな不景気な時代だからこそ、自分でいいものを発見し投資するのです。
 ちょっと皆さん、大切なチャンスをみすみす棒に振っちゃいけませんよ。「よーく考えよ。お金は大事だよ〜。」って柳葉さんも歌っているじゃないですか。ちょっと皆さん!
女2 あれ。堀籠君。
男2 あっ、加奈子ちゃん。
女2 こんなところでどうしたの。
男2 加奈子ちゃん。・・・僕は芸能界入りする決心をしたんだ。
女2 芸能界?
男2 僕は君のために大学へ進学し、平凡な公務員になることを決意した。一度はね。でもね、僕の生まれながらの美貌と才能がそれを許さないんだ。
女2 はあ?何のこと?
男2 父親があの日、ホテルニューオータニで一本25万円のワインを飲んで帰って来なかったら、こんなイケ面の子供が生まれることはなかっただろう。罪な父親だ。そして僕は平凡な庶民としての生活が許されない運命を背負うことになったんだ。
女2 ようするに、芸能界に入りたいということね。
男2 入りたいんじゃない。世間が、芸能界が、許さないんだ。
女2 無理よ。止めたら。
男2 はあ?
女2 だって、あなた顔だってまあ少しは見れるけど、歌は飛び切り下手だしね。
男2 何?
女2 第一、この間までは小説家になりたいって言ってたじゃない。
男2 そ、そうだっけな。
女2 でも、漢字検定の10級も落ちるようじゃあねえ。
男2 加奈子ちゃん。言っちゃ悪いけどね。漢字がけるがどうかは別に関係ないんじゃないかな。ようは想像力だよ、想像力。
女に で、処女作だって持って来たのが、
男2 「3匹の子牛。」
   唐突に明かりが変わり、
男3 働くなんてモオいやだああ。こんな家手抜きしちゃええ。
男1 風だああ。
男3 ひえええ。僕の家があ。
男1 立て替えるにはお金が必要でしょ。いつでもどこでも担保不要。90金融へようこそ。
男3 助かったあ。とりあえずこれで、もおお安心。暫くは働くのもいやだから、寝て暮らすんだあ。
男1 金返せええ。
男3 ええ。いつでもいいって言ったじゃないですか。
男1 元金はいいよ。牛太郎君。でも世の中には利息というものがあるんだよ。長男牛太郎君。
男3 ええ。一日20万円。高すぎるじゃあないかあ。
男1 うるせえ。コンクリート詰めにされて海に沈みたいか。それとも、マグロ漁船に乗るか。どっちを選ぶ。
男3 自衛隊に入ります。
男1 よし、さっそく明日からイラク行きだ。
女2 そして、牛太郎は、フセインの残した地雷に乗っかり。
男3 ふぎゃああ。
男2 僕は牛太郎、僕は牛太郎。おにいちゃんよりは怠け者じゃないけど、夢ぱかり見ては挫折する。とりあえず、まあ住めればよし。この時代、に安全管理に金をかけてる余裕のある会社なんかないんだから、僕も自分の家にそんな金はかけられない。まあ、地震や災害なんかめったにこないわけだし・・・。
男1 宮城県沖地震だああ。
男2 ひえええ。
男1 何?地震保険に入ってなかった。それは可愛そうに。
男2 だって地震保険は掛け金が高いんだもの。
男1 そうだよね。それじゃあ、僕が屋根を修理してあげよう。
男2 本当、ありがとう。
男1 なあに、こんなものたいしたことないよ。
男2 いやあ、悪いねえ。僕ぜったいメジャーデビューしてお礼するからね。
男1 はい、できました。
男2 ありがとう。じやあね。
男1 ちょっと待て!じゃあねえじゃねえだろ。
男2 何か?
男1 はい、修理代。
男2 修理代?そんな!
男2 誰が無料で直すって言ったんだよ。
男2 そんな。聞いてないよ。
男1 お前な。世間の常識というのがわからんのか。
男2 分かりましたよ。分かりました。で、いくら・・・。
男1 はい。
男2 いっつせんまんえええん。
男1 今の日本には善意など存在しないのだ。食うか食われるか。分かったかあ。
男2 僕、牛だから、食われる方だね。
男1 レアがいいですか?それともミディアム?
女2 そして、牛次郎はミルキーウェイへ売られたのだった。
女3 僕はお兄ちゃんたちみたいにならないぞ。一生懸命勉強して、東北大学法学部へ進学し、公務員になるんだ。
男1 君は家をたてないのかい。
女3 僕、頭金がたまるまで必死に貯金して、小さな家を建てるから・・・。
男1 つまらない。なんてつまらない人生なんだあ。
女2 だって僕のお父さんとお母さんが小さい時から僕にそう教育してくれたんだ。人間、地道に生きるのが一番。
男1 ほおおお。
女3 人より勉強して、大学へ行って、堅実な生活をして、そして真面目に働き、嫁さんもらって孫ができて、小さな家でも貧しく美しく生きる、これが一番さ。
男1 泣けるねえ。泣ける。そうだよね。演劇やって人生棒に振ってるあの人たちに聞かせてあげたいよね。でもね、牛三郎君、君とお兄さん達は随分考え方が違うねえ。
女3 うん。僕、腹違いの弟なんだ。
男1 そうか、母親が違うのか。でも、お父さんは?
女3 うん。お父さんも違うんだ。
男1 へっ?
女3 だから、お父さんが別で腹違いの弟なんだ。
男1 ところでねえ、牛三郎君。この話は「三匹の子豚」のパロディなもんで、設定上家を建ててくれないと困るんだよ。ほら、今なら金利も安いから。
女3 だから、僕は頭金をコツコツためて。
男1 馬鹿もん。今がお買い得だって言ってるじゃあないか。これからどんどん金利が上がるかもしれないだろ。
女3 まあ、そうかもしれないけど。
男1 だから、家を作りなさい。松たか子も歌ってるじゃあないか。
女3 でも僕はいい。
女2 こうして彼女はつまらないながらも堅実に一生を終えたのでした。
   明かりが変わる。
男2 やっぱり才能がないのかな。
女2 はい。その通りです。
男2 ひどい。僕はどうしたらいいの?勉強もだめ。文才もなく、芸能界もだめ。僕は何を夢みて生きればいいの?
女2 無理に夢を求めちやいけないの。
男2 そんな。
女2 所詮、先が見えちゃってるでしょ、私達。大人は一生懸命夢を持てだの、将来の目標を持てだのいうけど、先が見えすぎちゃって何もする気になんかなれない。勉強だって、不安を先延ばしにするためにやっているだけのような気がするしね。
男2 そうだね。無理に夢を持つ必要なんてないのかもしれないね。
女2 でもね。
男2 えっ?
女2 この場所では、何を夢みてもいいのよ。どうせお互い知らないんだから。邪魔されることもない。この場所で夢を語って心地よくなるのは自由なんだよ。
男2 僕が馬鹿みたいな夢を語り続けたければね。
女2 そう。語り続けたければここに居た方がいいかもね。
男2 そうだね。
女2 そうよ。
男2 そして僕はここにやって来た。
女2 はい。カット。堀籠君。何言ってるか相変わらず分からないよ。
男2 バイト先のマクドナルドでも言われました。
女2 先生はちょっと調子に乗りすぎです。
男1 何言ってるんだよ。俺はやる気ないっちゅうの。
女1 こんばんは。
女2 さあ、次は祥子ちゃんの登場シーンに行きます。
女1 こんばんは。
男1 えっ?ここは?
女2 先生はまた代役お願いしますね。
男1 えっ?ああ・・・。
女1 どうしたの皆。
男1 何か聞こえないか?
女1 聞こえないの?
男1 何?
女1 伊辺先生?
男1 平塚先生ですか?
女1 ええ。
男1 どこに居るんですか?皆探してたんですよ。
女1 何言ってるんですか?私は毎日・・・。
男1 毎日?
女1 私はいつもここに居ますよ。
女3 こんばんは。MIUです。システムを変えようなんて、やっぱり無理な努力なのかもしれませんね。無駄な努力だと分かった時、私はここの存在を知りました。
男2 祥子またやったのか?
女3 そうなのよ。
男1 そうなのよって、どうしてそんなに明るく話ができる?
女3 どうしてって言われてもねえ、どうしてだろう?
男3 僕も昨日薬飲んだよ。壜一本飲んでも死ねなかった。
男2 慣れてきたんじゃないの?薬に?
男3 そうかもしれない。
女2 というわけで、私はこの場所を作ったんです。
女3 そして、私はここにやってきた。
男1 ここはどこ?
女2 皆一緒なら必ず。
女1 一緒なら必ず何だっていうの?
女2 「aquq  sky」へ。そうですよね。平塚先生?
女1 「aquq  sky」?
男2 皆で「aquq  sky」へ。
男1 ちょっと待って。どういうことだ。
女2 ようこそ龍宮城へ。
男1 ここは演劇部の部室じゃなかったのか?
女3 いいえ、ここは龍宮城です。
男2 龍宮城へようこそ。
男1 どうしてあなたたちは・・・?
男2 僕達は自分の意志でここにやって来たのです。
男1 そうなんだ、やっぱり・・・でも・・・。
女1 もしかしたら私達は。
男2 そうです。ここへ脱出できたのです。
男3 退屈な日常という深い深い海の底から。
女1 退屈な日常のどこがいけないというの?
女3 どこがって?
女2 あなただって息が苦しいでしょ。あそこにいると。
男1 そういえば・・・。ここは
女1 でもだからと言ってあそこから抜け出すことはできないの。
男1 息が苦しかったんだ。
女1 退屈な日常から目をそらすためにこんなことをしちゃいけないのよ。
女2 先生、大丈夫ですか?
男1 ごめん、息か苦しかったんだ?えっ?
女2 その苦しさから脱出したいでしょ。
男1 い、いや俺は・・・。
男2 ねえ、先生。僕らだって楽になりたかったんだよ。
男1 先生って・・・。これは芝居じゃないのか?
女2 ええ。これはこの台本通りにやってるの。
男1 なんだって。
男2 芝居の脚本通りだよ。
男3 そう。脚本通り。
男1 だしすると、この先はどうなるんだい。
女3 私達は・・・。
男1 俺達は?
女3 私達は死ぬの。
男1 なんだって。
女2 そうです。この脚本の結末で私達は死ぬの。
女1 やめるのよ。ここから早く出なさい。
男1 平塚先生いったいこれはどういうことなんだ。
女3 まず最初に私が薬を飲みます。
女1 止めなさい!
女2 はい、カット。
男2 先生。
男3 先生。
女3 先生大丈夫ですか?
男1 ・・・えっ。いったいどうしたんだ。
男2 どうしたもこうしたも、また勝手に寝ちゃったりしたでしょ。
男3 まったく無気力なんだから。
女2 先生、時間がないんだから、少しは真面目にやって下さい。
男1 平塚先生は?
男2 またですか?
女3 ちょっと待って。その名前聞いたことあると思ったら・・・。
女2 何?
女3 保健室の先生じゃなかった?
男3 保健室?
男2 ああ、いたいた。
女2 そう、保健室のせんせい。
女3 そういえば最近見てないな。
男3 そうだよな。
女2 さあ、次のシーンに行くよ。先生、お願いします。
男1 ちょっと待て。ここは?
女2 松本君は亀の役ね。
男3 えええ。
女2 文句言わないの。
男3 でも。
女3 じゃあ、私が乙姫様の役ね。
女2 残念。あなたは平目。
女3 平目?
女2 平目にしてはちょっと太めだけど、・・・まあいいか。
女3 やだああ。乙姫様がいい。
女2 乙姫様は、部で一番可愛い私がやるにきまってるじゃない。
女3 なんか納得できない。
男2 僕は?
女2 あんたは鯛。
男2 やったああ。
男3 喜ぶか普通。
女2 さあ、先生が浦島太郎です。
男1 えっ。
女2 はい、スタート!
男3 僕はドジでのろまな亀です。
男1 そうだ。お前はドジでのろまな亀だ!
男3 教官!
男1 松本!りっぱなスチュワーデスになるんだぞ!
女2 カット・・・番組が違います。
男3 すみません。
女2 亀、亀、亀野郎!
女3 亀野郎!
男2 亀の癖に人間社会へやって来るな!
     袋だたき。
男3 母さん、どうして僕は亀なの。どうして亀に生まれたの?
女2 それは母さんも亀だからよ。
男1 おい、お前ら、弱いもの苛めをしちゃいかん。
男2 誰だお前。
男1 姓は浦島、名は太郎。人呼んで浦島太郎とは俺のことだあ。
男3 おい、お前知ってるか?
女3 全然知らない。
男1 ひとおおつ。人の世の生き血をすすり・・・。
男2 やろうってのか?
男1 ふたああつ。不埒な悪行三昧。
女3 何よ。文句あるの?
男1 みいいっつ。醜い浮世り鬼よ。
男2 俺たち、ただの子供だぜ。
女3 鬼じゃないっつうの。
男1 退治てくれよう。桃太郎じゃあない、浦島太郎!
男2 ふんぎゃあ。         
       男2、女2、女3去る

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